第22話 無罪放免
んんっ……。寝てたのか? 俺は。
確か新メンバーと共に中級ダンジョンに……。
「あっ……シャグランさん」
「……フレネーゾさん?」
目を開けると、視界いっぱいにフレネーゾさんの顔が飛び込んで来た。
…………これは……いわゆる……膝枕?
……不思議だなぁ……あれだけパワーあるのに、柔らかいや。普通なら筋肉でゴツゴツしてるだろうに。
……正気に戻ったんだな、フレネーゾさん。
「えっと、痛みはないですか?」
「痛み……?」
「その……」
気まずそうに俺の下半身を指差す。一体何が……っ!?
血、血まみれやん……局部が……。
「ポーションを飲ませたので治ってるはずですが……一応ご確認を……」
言われるまでもない。即座に体を起こして、局部を触診する。
うん……なんともなさそう……。よかったぁ……。
しかし一体何が……。
「申し訳ございません!」
フレネーゾさんが勢い良く、地面に頭を打ちつける。い、痛そう……。
……何があったのか、なんとなく察したよ。
おそらくフレネーゾさんにポーションを飲ませた時、一発貰ったんだろ。速すぎて見えなかったけど、強烈な膝蹴りか何かを。
不幸中の幸いとでも言うべきだろうか。威力が高すぎて痛みを感じる前に気絶したらしい。いや、痛みがあったと言えばあったんだろうけど、理解する前に意識が飛んだというか……。
……大量出血してるってことは、潰れたんだろうなぁ。前に潰された時は気絶しなかったんだけど、相当手加減されてたんだな。
「雇っていただいた身でありながら、雇用主に対して殺人未遂など……到底許されることではありません!」
いや、上下関係に関係なく許されざる行為かと……。罪人相手でもアウトだろ。
「頭を上げてくださいよ。俺がどれくらい寝てたか知りませんが、そろそろ帰還したほうがいいかと」
しばらくは初心者ダンジョンに潜ったほうがいいだろうな。フレネーゾさん以外、全然役に立たないなんてさすがに予想外だったし。
「あ、あの? 私への罰は……」
「……? なんの話です? それより先頭に立ってもらえませんか? 俺らじゃこの辺のモンスターと戦えないですし」
自分で言ってて情けねぇな。そりゃ今はダンジョンの奥深くだから戦えなくても仕方ないんだけど、入口付近のモンスターでさえ倒せないんだぜ?
ハードスライム一匹ぐらいなら全員で囲めばいつかは倒せるだろうけど、下手すれば一時間ぐらいかかるんじゃね?
「そ、そうですよね。帰還してからですよね。制裁を加えるのは」
やたらと罰を欲しているが、まさかドMなのだろうか? 俺の記憶が確かならば、例のドSパーティは女性でもいけるらしいし、売り飛ばすか? 派遣をよそに派遣するのって、なんらかの法に反しそうだけど。
「加えませんって。とりあえず先頭に立ってください」
「……なぜです? 私は急所を……」
「一撃で気絶したから痛みなんてなかったですよ。とりあえず話は帰ってからにしましょう」
結構気にしいなのかな? また不意打ちで冷静さ失っても嫌だし、今は集中してほしいんだけど。
……なんだったんだろうな? あの変貌は一体……。
その辺のチンピラよりよっぽど恐ろしかったよ。もしかしてアレが素なのか? それとも二重人格ってヤツなのか?
もしかして、実力者なのに派遣やってる理由って……。
特にトラブルなく街まで帰還することが出来た。後から知ったことだが、チェロットさんがポジティブになるバフをフレネーゾさんにかけてくれてたらしい。
気休め程度だとは思うが、それがなかったら事故ってた可能性もあるんだよな。そう考えると、今回のMVPはチェロットさんかもしれない。
「シャグランさん……。なんなりと処罰を……」
「与えませんって……」
ギルド内で揉めるわけにもいかないので宿屋まで来たわけだが、さっきからずっとこの様子だ。一向に頭を上げる気配がない。
さすがに生真面目すぎんか? それとも俺がおかしいのか?
「ポーションで完全に治ったわけですし、もう気にしないでください」
「しかし……仲間に攻撃……それも大事なところを……」
違うんだよ、問題はそこじゃないんだよ。
なんて言えばいいんだろう。裏人格? 本性? いや、呼び方なんざなんでもいいんだけど、バーサーカーだってのを隠して契約したってのが大問題なんだよ。
本来なら派遣側にクレーム入れるべきなんだろうけど……。
「さっきも言いましたけど、痛みを感じる前に気絶しました。ですから急所も何もないんですって」
「でも……大事なところですし……」
ダメだ、まるで話が通じない。生真面目すぎて融通が利かないってのはよくある話なんだろうけど、あまりにも極端すぎる。せっかく許されたんだから、素直に喜べばいいじゃん。
「だから完全に治ったんですって。試してませんが、機能に問題はありません」
「機能? おしっこ用のただの棒でしょ?」
……もしかしてシュリムさんって、そういう知識ゼロなのか? いや、俺もそこまで詳しいわけじゃないんだけど。
「で、では! 私が機能を確かめさせていただきます!」
「何を言って……ちょっ、やめっ……」
この人何してんの!? 急に俺のズボンに手をかけだしたんだけど!?
まさか、確かめるって……。
「初めてですが、命に代えてもお相手を!」
「代えなくていいです! 落ち着いてください!」
ち、力強っ! ダメだ、このままじゃズボンが壊れる。
誰かっ!
「ねえ、ウィーク。こいつら何してんの?」
「さ、さあ?」
ボケッと見てないで止めてくれよ! 何が悲しくて皆の前で性行為を……。
「ごめんなさい!」
「はうっ!?」
え? 今、何が起きた? 急にフレネーゾさんが悶絶しだしたけど、一体何をしたんだ? チェロットさんは。
なんかシュリムさんが爆笑してるけど、俺視点じゃ何も見えなかった。
「チェロ……チェロット……きたっ……きっ、汚いから……洗ってきなさ……」
何があったか知らんけど、ツボに入りすぎだろ。全然喋れてないじゃん。
「いえ……別に汚くは……」
「きっ、汚いわよ……だ、だめっ、笑いすぎて、ほっぺたが……痛いっ……」
……ああ、なんとなくわかった。
尻を押さえて悶絶してるフレネーゾさんと、嫌そうな顔で杖を見てるチェロットさん。もう答えは一つしかないだろ。
「フレネーゾさんクラスでも効くんですねぇ」
「んふふふ…………」
ウィークさん、シュリムさんが笑い死ぬから余計なことを言わないでくれ。誰クラスでも効くんだよ。効かない人は、多分特殊な性癖と経歴を持ってる。
いや、ちょっと待て……そんなことしたら、またバーサーカーになるんじゃ……。
「フレネーゾさん? 大丈夫ですか?」
殴られない程度に距離を置いて、安否を確認する。こんなところで暴れられたら、全員街を追い出されるからどうか堪えてくれよ。
っていうかこの状況、俺は目を逸らした方がいいのか? 年頃の女性が肛門を押さえながらピクピクしてるわけだし。
「リュゼさん、チェロットさん。回復魔法を……」
「不要です!」
うおっ!? びっくりしたなぁ、もう。
「……フレネーゾさん?」
ええっと、普通に喋れたってことはバーサーカーじゃないんだよな? 正気なんだよな? 地面に顔を突っ伏してるから表情がわからないけど、キレてないよな?
それはさておき、なんて言った? 回復が不要って言ったのか?
「これは私への罰……慈悲は不要です……」
いや、別にチェロットさんに罰する意図はなかったと思うんだけど……。
「さあ……シャグランさんも……痛みと屈辱をお与えください……」
追い打ちをかけろと? 人として大事な物を失いそうなんだけど。
「さあ、貴方にやったことと同じことを……私にも金的を……」
よろよろと立ち上がり足を開く。いや、そんな覚悟決めた顔されても……。
「いや、金的ないでしょ、貴女」
「でしたら尚更お願いします! さあ! 気が済むまで!」
済ませるような気がないよ。元から収まってるって何度言えばいいんだろう。
ラチが明かないし、一発だけ膝蹴りするか? でもなぁ、仲間にそんなことできるわけがないよな。
「罰とかどうでもいいんで、明日からも頑張ってくださいよ。弱小冒険者の俺が言うのもなんですけど、責任って仕事で取るもんでしょう?」
「しかし……」
ええい、面倒だな! まだ食い下がるか!
「明日から初心者ダンジョンにこもりますんで、貴女はその……体質? 性格? よくわからないですけど、我を失わないように特訓してください」
特訓で治せるようなものかどうかはわからないけど、この場ではこう言うしかないよな。さっさと話を打ち切らんと、制裁を加えさせられる。
制裁されることに怯えるんじゃなくて、制裁させられることに怯えるなんてな。ない話じゃないと思うけど、なんとも不思議な状況よな。
「私をクビにしないのですか? 契約料はお返しします。むしろ迷惑料を……」
「やっと火力が手に入ったのに、クビにするわけないじゃないですか。明日も頑張ってください。期待していますよ」
これ以上食い下がられても嫌なので、足早に退室した。呼び止める声が聞こえたような気がするけど、無視だ無視。
……今日の稼ぎ、ポーションに換えとくか。また膝蹴りされるかもしれんし。
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