第21話 銀髪の狂戦士
初級ダンジョンから中級ダンジョンの難易度、上り幅でかくない? スライム的なモンスターにさえダメージが通らないんだけど。
コイツ、本当にスライムなのか? どうみても岩の怪物なんだけど……。
「シャグランさん、腕が痺れ……」
「そりゃまあ、ハードスライムを木の棒で殴ったら……」
コイツ、本当に戦士か? いや、他のメンバーもダメージ与えられないから、偉そうなことは言えないんだけど。
「こういうモンスターは、こう倒すんです!」
俺らが手も足も出せないハードスライムを、バターのようにアッサリと切り裂くフレネーゾさん。
えっと、こうって言われても……全然参考にならないと言いますか……。
「揃いも揃って足手まといで申し訳ないです……」
「いえいえ! 仲間がたくさんいるだけで心強いです!」
聖人すぎんか? 俺ら、この場にいるだけなのに。ドロップ品を収集するだけの存在なのに。
「あっ、このモンスターなら私でも……ぎゃあ!?」
「ウィークさん……もう少し己の鈍足さを自覚したほうが……」
猿のモンスターなんて素早いに決まってるじゃん。あーあ、まともに反撃くらっちまったな。
フェーブルさんがすかさずウィークさんのフォローに入る。
「フレネーゾ! あのサルの弱点は……」
「そうですね……エテファンは、目と股間が弱点ですね」
それはほとんどの生き物に言えることでは……。
「まあ、弱点なんて気にする必要ないですけどね」
そう言って一瞬で間合いを詰めて、一撃でぶった斬る。戦士なのに速すぎるな、本当に。本来なら武道家と道化師のほうが遥かに速いはずなのに……本当に情けない。
「さっ、私が雑魚処理を致しますので、ウィークさんの回復をお願いします」
心強すぎる……。前衛五人、後衛三人のはずなんだが、前衛一人、中衛四人、後衛三人になってるよ。
「やるわね、アイツ」
「え、ええ……。複数体相手でもダメージを受けずに……」
「いや、そっちじゃなくて……圧倒的な強さを持ってるのに、ポーションを無駄遣いしない姿勢のことよ」
ああ、そっちね。言われてみればそうだよな、あの人にとっては入門者向けダンジョンなのに……。
俺だったらさっさと回復して、ガンガン進むな。ポーション代ぐらい簡単に稼げるわけだし。
「あの、私達の魔法じゃ回復まで時間が……」
「大丈夫です! 絶対に敵を近づけさせません!」
あまりにも人間が出来すぎている。なんで派遣冒険者なんてやってんだ? この強さでこの性格、容姿なら、普通に考えて引く手数多だろ。
結局、俺らに一切活躍の場が訪れないままダンジョンの奥深くまで来てしまった。
モンスターの出現頻度が著しく上がっているので、ここらが限界だろう。フレネーゾさん一人なら、まだまだ先に進めるだろうけど。
「フレネーゾさん、少し引き返しませんか? さすがに貴女の負担が……」
「いえいえ! まだまだ余裕です!」
うーむ……。事実なんだろうけど、それでも不安なんだよな。
フレネーゾさんが戦ってる時に俺らが襲われないなんて保証はないわけだし。
「まあ、フレネーゾさんがそう仰るなら」
「ええ! 私にお任せ……うぶっ!」
ふぇ?
急になんか飛んできたぞ? あの猿が投げたのか?
「フレネーゾさん? 大丈夫で……うっ……くさっ……」
何この臭い? まさか……。
「ヤダぁ、フンじゃないの? それぇ」
「シュリムさん、そんな露骨に距離取らなくても……」
「だって、ばっちぃもん」
それはそうだけど、フレネーゾさんが傷つくだろ。顔面に直撃したんだぞ? もう少し気を遣ってあげようよ。
「……ぇな」
「フレネーゾさん?」
なんか今、やたらと低い声が……。
「きったねぇな! このエテ公!」
フレネーゾさん? フレネーゾさん……ですよね? 貴女。
「あの世で詫び続けろぉ!」
過剰な謝罪要求をしながら、斧を全力でぶん投げる。速すぎて弾道が良く見えなかったが、気付いた時には斧がエテファンの脳天にぶっ刺さっていた。
すんげぇコントロールだな。とても真似できん。
「返せっ!」
乱暴に斧を引き抜かれたことにより完全に息絶えたらしく、エテファンが魔石を残して消滅した。
「てめぇら誰の許可得て生まれてきてんだ!」
八つ当たりするかのように、次から次へとモンスターをぶった斬っていく。一撃で倒しているので分かりづらいが、心なしか先ほどより火力が上がっている気がする。
いや、それより、なんかキャラが違うくない? 誰? どなた?
「いけない……」
「リュゼさん? 何か言いました?」
「あの子……動きが滅茶苦茶になってる」
まあ、それはなんとなく……。
乱暴に斧を振り回してるっていうか、テクニックを全部捨ててるっていうか。
「今まで一撃も食らってなかったのに、今は少しずつ被弾してる」
「……リアクションがないので分かりづらいですけど、言われてみれば……」
回避とか防御が選択肢から消えてるな。っていうか知らん間に盾を捨ててるし。
これ、さすがにまずいんじゃ? いくらフレネーゾさんでも、食らい続ければいつかは死ぬんじゃないか?
「あのスピードじゃ、回復魔法も当たらない」
でしょうね。当たったところで仕方ない気もするけど。
「だ、大丈夫ですよ! 私がポーションを持たせておきましたから!」
さすがウィークさんって言いたいところだけど……。
「芋引いてんじゃねえぞ! 首置いてけや!」
「飲みますかね? 完全に頭に血が上ってますけど」
アイテムを使うという判断ができるのだろうか? 少なくとも綺麗な言葉を使うという判断はできなくなってるが。
クリーンヒットこそしないものの、徐々にダメージが蓄積していってる。動きが全く衰えないのでわかりづらいが、長くは持たない気がする。
「無理矢理にでもポーションを飲ませないと、死んじゃいますよ!」
ウィークさんがアタフタしながら、分かり切ったことを口にする。
誰がどうやって飲ませるっていうんだよ。一歩間違えれば俺らが真っ二つにされちまうぞ。
「弱るまで待つ?」
「……いや、リュゼさん。彼女が弱ったら、俺ら死にますよ? 誰もモンスター倒せないんですから」
モンスターが全滅するのが先か、彼女がくたばるのが先か。俺らにできることと言えば、フレネーゾさんが囲まれないように援護することぐらいだが……。
「じたばたすんじゃねぇ!」
下手をすれば、俺らも斬られるんじゃないか? モンスターの近くに行きたくないんだけど。
「あの、シャグラン? ちょっと思ったんだけど……」
フェーブルさんが真っ青な顔で俺に話しかける。
なんだろうか? フレネーゾさんを回復させる方法を考えてるから、後にしてほしいんだけど。
「私達が新手のモンスターに襲われたとして……あの子は助けてくれるの?」
「あっ……」
今まではモンスターが前から来ようが、後ろから来ようが、迅速に処理してくれていた。だが今のフレネーゾさんは、目につくモンスターを片っ端からぶった斬っている。俺らが交戦中になっても、気付きもしないのでは?
「目についたモンスター全てに突撃してる。もはや囲まれにいってる」
「……貴女のデバフで止められないですか?」
「実力が違いすぎて無理。そもそもあんなスピードで動かれたら、私の腕じゃ魔法を当てられない」
そういやウチの僧侶組、魔法の範囲狭いんだよな。近距離じゃないと魔法かけられないって、致命的すぎん?
っていうかレベル差があるとデバフ効かないのか? 初耳なんだが。
「バフなら効きますよね?」
ダメ元でチェロットさんに問いかける。
「効くでしょうけど……どうやって当てるんです? 下手に近づいたら……私もこれですよね?」
切り裂かれて瀕死のエテ公を指差しながら、俺の指示を拒否する。
前にメンタルケアしてもらった手前言いづらいんだが、本当に役に立たないな。
「暴れたんねぇぞ!」
すげぇな、俺らが話し込んでいる間にモンスターを全滅させたぞ。今のうちに回復させたいところだが、近づいて大丈夫なのだろうか? まだ正気に戻ってないみたいだけど……。
「アタシだったらとっくに死んでるダメージ量ね。早く回復させないと……」
「虚空に向かって斧を振り回してますが……どうやって回復させるんです?」
一度も俺らを攻撃しなかったことから、敵と味方の区別はついていると思われる。だからといって近づく勇気はないぞ。善人の顔じゃないもの。
「フ、フレネーゾさん」
おそるおそるウィークさんが近寄るのを見て、緊張感が走る。常にポーカーフェイスのリュゼさんでさえ、表情が強張ってるぞ。
頼むからぶった斬られないでくれよ? そんな貧弱な防具じゃ確実に死ぬぞ。
「フレネーゾさん?」
「……」
なぜ無言なんだ? ウィークさんのほうを見てはいるが、目の焦点があってないというか、心ここにあらずというか……。
「ポーション……持ってますよね? 飲んだほうが……」
「……」
まさか聞こえてないのか? いや、どっちかといえば言葉の意味を理解できていないって感じ?
えっと、とりあえず襲ってはこない感じ? じゃあ、モンスターが来る前に……。
「フレネーゾさん。ポーション飲ませてあげますよ」
ウィークさんを危険な目に遭わせるわけにもいかないので、俺自らゆっくりと近づく。後三歩ぐらいで間合いに入ってしまうが、大丈夫なんだろうな? くそっ、なんとか言ってくれよ。無言でガンギマリの目を向けないでくれ。
「フレネーゾさん? 返事を……」
「……」
こ、怖いよぉ……。美少女がしていい表情じゃないよぉ……。
ダメだ、足がすくんでこれ以上近づけない……。早くしないとモンスターが来るってのに。
斧を下ろしてるから、斬る意思はないと見ていいよな? 見ていいんだよな?
この人の実力ならこの体勢からでも一瞬で俺を斬れると思うんだが、本当に近づいてもいいんだよな?
「ポ、ポーションどうぞ……」
怖い……腕ごとぶった斬られないよな?
「……」
「血が出てますし……止めないと死んじゃいますよ」
「……」
「飲ませますね?」
意を決して間合いに入る。もしフレネーゾさんがその気になったら、俺は確実に死ぬだろう。俺のスピードじゃ絶対に避けきれないし。
……よしよし、大丈夫そうだ。
おそるおそるポーションを口元に押し付けてみたが、抵抗する気配はない。よし、後は無理矢理飲ませれば……。
「早くしないとモンスターが来ま……」
「モンスター……?」
ん? 何か言ったか?
「だあっ!」
何が気に障ったのか知らないが、フレネーゾさんが突然ブチギレる。
うぐっ……? 何が……。
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