第20話 新メンバー
安息の日々というのは長続きしないものなんだな。せっかく懐が安定してたのに、また借金生活だよ。
我故郷アウニーからの金の無心がこれっきりなら、地道に稼げばいい。だが、その保証はないし、むしろこれからも続く気がする。
俺らは一も二もなく、新メンバーを探すことになった。まあ、遅かれ早かれ探す予定ではいたのだが、まさか金欠状態で探すハメになるとは思わなんだ。
とにかく会議だ。全員と正式にパーティを組んだわけだし、仲間の意見も取り入れないと、トラブルに繋がる恐れがある。
「やはり魔法使い系ですかね。我々に足りていないものと言えば」
この先物理攻撃だけでやっていけるとは思えないし、そもそもその物理さえ火力不足だ。ウィークさんは未だに木の棒をメインウェポンにして戦ってるし、フェーブルさんもスピードを犠牲にした一撃じゃないと火力が出ない。俺とロトリーさんは、悲しいことに論外だ。
「はぁ? アタシをクビにするっていうの?」
やっぱ文句出るよな、この人から。別にクビにする気はないんだけど、不安になる気持ちはわかる。
「いや、貴女はこれから成長していくとして、即戦力を……」
「ダメよ! 戦士系にしなさい!」
それもアリっちゃアリなんだけど……。
「私……クビになるんですか?」
こうなるよなぁ。いや、アンタらさ、既に僧侶がポジション被りしてるじゃん。同じ役職の子が来ても、入れ替える気なんてないよ。同時に運用するに決まってるじゃんかよ。
「まあ聞いてくださいよ。雇えるのはせいぜい一人なんですが、攻撃系一択なんですよ。回復系の役職を一人増やしたところで、今より上のダンジョンには行けないわけですし」
今の俺達は、多少の無理をしなきゃいけない。チンタラレベル上げてる暇なんてないわけだし、格上の人を一人加入させて中級ダンジョンに行かないと先はない。
はぁ……なんでいつもこうなるんだろ。
「私は新規加入反対」
リュゼさんが珍しく反対意見を出す。彼女が意見を出すこと自体珍しいので、尊重したいところだが……。
「……なぜです?」
「ごめん、言葉足らずだった。今加入させるのは反対って意味」
ああ、タイミングの問題ね。わかるよ、俺もできることなら、金欠状態で新規メンバーは増やしたくない。
「決して安くないし、失敗は許されない」
……耳が痛いな。本人達を前に言うのもなんだが、六人分失敗してるわけだし。
「コツコツ返せる金額なんだから、返済がてらメンバーの成長具合を見て、本当に不足してる物を見極めるべき」
「うーむ……それはそうなんですが……」
言いたいことはわかる。例えばの話、魔法使いを雇った直後にシュリムさんが覚醒したら『戦士にしときゃ良かった!』ってなるもんな。逆もしかりだ。
でもそれって、俺の故郷が追加の金を要求してこない前提の理論なんだよね。誰も雇えないぐらいの借金背負ってからじゃ遅いんだよ。
「あの、短期契約するってのはどうですか? 一ヶ月分ぐらいなら、失敗しても払いきれますよね?」
チェロットさんの言い分もわかる。っていうか、それは俺も考えたことがある。
「……まあ、割引分とか、更新時にベースの金額が上がることを考えなければいいんじゃないですか?」
「すみません……」
「あ、いや、責めたわけじゃなくてですね……」
うーん……。割引に目がくらんで泥沼になっても嫌だし、かといって度外視して大損するってのも……。
「あ、あの! メンバーをお探しなんですか?」
「えっと、貴女は?」
初めて見る顔だが、俺らに声をかける時点でまともな冒険者ではない気がする。自分で言ってて情けないな……。
「あっ、私は〝フレネーゾ〟と申します。戦士をやらせていただいております」
……ウィークさんとキャラ被るなぁ。別にいいんだけど。
褐色肌で銀髪の長髪。見た目で言えばウィークさんと正反対だが、物腰の柔らかさとか、頼りなさそうな感じがそっくりだよ。
「シャグラン、派遣の売り込みよ。無視しなさい」
ア、アンタ、本人の前でなんてことを……。いや、元派遣の人が言うなら、素直に従ったほうがいいんだろうけど。
「そうおっしゃらず、一ヶ月だけでもお使いいただけませんか? 勿論、契約料は私持ちで構いません」
「……貴女持ち? 貴女になんのメリットがあるんです?」
タダ働きどころか、マイナスだろ? 派遣の実績作りって意味じゃアリなのかもしれんが、そんな身銭切った戦略取るほど追い詰められてる人なんて怖くて使えない。
「いわゆるお試し期間ですよ。契約を継続する場合のみ、お金を返していただくということで……いかがでしょう?」
いかがでしょうと言われても……。
あいにく派遣事情に詳しくないので、シュリムさんにアイコンタクトを送る。詐欺かどうか、この人の判断に委ねるのが一番だろう。
「アタシ的にはオッケーよ」
意外にも快諾……いや、戦士だからか? 魔法使いの加入を防げるなら、もうなんでもいいって感じか?
軽く見渡して全員の表情を伺ったところ、反対している人はいなさそうだ。
「じゃあ一ヶ月だけ……」
「ありがとうございます! 誠心誠意、尽力いたします!」
距離感が近いな、この人。いきなり手を掴んできたんだけど。
男を騙すにはボディタッチが効果的だってのをどこかで聞いた気がするけど、まさか……? まあいい、一応釘を刺しておくか。
「トラブルになっても嫌なので先に言っておきますけど、絶対に契約を更新するなんて約束は、できませんからね?」
「わかってますとも! 役立たずだと判断したら、遠慮なく捨ててください!」
なんかよくわからんけど、詐欺ではなさそうかな?
なんにせよ、そういうことを大きな声で言わないでほしいな。だってここ、ギルド内だし……ほら、皆見てるって。ヒソヒソ話されてるって。
「……イツ……レム……」
「……バーサ……ずに……」
良く聞こえないけど、どうせ悪口だろうし、無視無視。なんとでも言え。
押しかけ女房に近い感じの加入だったが、結論から言うと拾い物だった。
実力を測るべく初心者ダンジョンに潜ったのだが、俺らとは強さが段違いだ。
「ねぇシャグラン君? ラマネットって関節狙わないと斬れなくない?」
「おそらく……普通は……」
フレネーゾさんの武器は見たところ普通の斧だが、もしかして高名な鍛冶屋が打った一品なのか? いや、派遣ごときにそんな業物を支給するとは……。
「なんで片手で斧を振り回せるんですかね? 私なんて鉄の棒さえ両手持ちなのに」
片手斧だから片手で振り回すのは当たり前なのだが、それにしたって軽そうだ。筋骨隆々ってわけでもないのに、なんで軽々と振り回せるんだ?
あとウィークさんはもっと鍛えてくれ。戦士なんだから、鉄の棒ぐらい軽々と扱ってくれなきゃ困る。
「フレネーゾさん、そろそろ休憩したほうが……」
「え? なぜです?」
なぜって、ドロップ品の収拾が間に合わないくらいのペースで倒してるからだよ。
ダメージを受けてないとはいえ、そろそろ疲労が溜まってくる頃だろう。
「敵も随分と減ってきましたし、後は俺らが戦いますんで休憩を……」
「いえっ、お気になさらず!」
ははっ、余計な気遣いだったかな? 疲労を感じさせない勢いでモンスターに突っ込んでいったよ。
……もしかして、いや、もしかしなくても……彼女からしてみれば、スライム狩りさせられてる気分なのかもしれん。
失礼なことをしてしまっただろうか? 後で謝っておこう……。
おかしい。何時に潜ったかなんて覚えてないけど、半日も潜ってないはずだ。
なのになんで……。
「凄いですよフレネーゾさん! たった一日で契約金稼いじゃうなんて!」
「いえいえ! ウィークさんがサポートしてくれたおかげですよ!」
「えー!? 私なんて全然っ……」
俺らが過ごしてきた半年間ってなんだったんだろ。コメルスさん程じゃないけど、この人さすがに強すぎん?
この強さで契約金がたったの八千クレって、値段設定間違ってない?
「これでお借りしてた契約金はクリアですね。で、明日は中級ダンジョンに挑戦したいんですけど……」
おずおずと計画を話す。立場的に俺のほうが上なんだろうけど、レベル差がありすぎて遠慮しちゃうんだよな。この人からすれば『ええ? 初心者ダンジョンでさえ私ばっかり戦ってるのに、中級ダンジョンに行くの?』って感じだろうし。
「ええ! お任せください!」
うわっ、快諾してくれたよ。この人、不安とかないのかな? 俺らみたいな足手まといを連れて、中級ダンジョンに行くことに対する不安が。
まあいっか、本人が任せろと言ってるんだし、お言葉に甘えよう。
大丈夫、いくら俺らが弱いといっても即死することはないだろうし、無理な戦闘さえしなければ、フレネーゾさんがなんとかしてくれるはずだ。
よしよしよし、俺にも運が向いてきたぞ。なんでこの人がフリーなのかは謎だが、ともかく中級ダンジョンで稼いで本契約を結ぼう。そうすれば村の借金を簡単に返すことができる……はずだ。
「アンタなかなか見どころがあるわね。アタシも安心して後衛を務められるわ」
「ありがとうございます! シュリム先輩には何人たりとも近づけませんので、ご安心を!」
「先輩……えへへ」
うん、きっと大丈夫。強さもさることながら、性格も良いし、仲間とも打ち解けている。似非ハーレムだのなんだのよくわからん汚名を返上して、一躍有名パーティになる日が来るかもしれん。
……なんて気軽に考えてた自分が恨めしい。はぁ……強いのに派遣冒険者やってる時点で大型地雷だってことに、なんで気付かなかったんだろ……。
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