第19話 背負う物
随分と金持ちになったなぁ、俺らも。全員と契約しても金が余るじゃん。
余るといっても、装備の新調とか宴会をしたら五万を切る程度の金額だけど。
「じゃっ、また機会があったらよろしく」
「こちらこそ! お元気で!」
今回はコメルスさんのお目当ての物が手に入らなかったみたいだけど、俺としては都合が良い。何を探してるのか、何個必要なのか、その辺はわからんが手に入らないほうがチャンス巡ってくるし。
「じゃあさっそく本契約に……」
「イヤよ」
……シュリムさん? リボンあげた時あんなに嬉しそうにしてたのに、なんで急に態度が変わった?
よく見ると他のメンバーも嫌そうに……。
「悪いけど、アンタとアイツ……えっと、コメルスの会話を聞いてたのよ」
今コメルスさんの名前忘れてた? いや、それはいいんだけど……え、会話ってまさか……。
「で、その依頼を出したパーティに話を聞いたけど……聞いてて吐き気がしたわ」
行動力の化身……!
まずいな、プレイのことを知られてしまったぞ。軽蔑されちまったか……? だから本契約を拒んで……。
「これ以上、迷惑をかけられないわ。金も溜まったんだし、もっと良いメンバーを揃えるべきよ」
あ、そういう……よかった、嫌われたわけじゃなかったんだ。むしろ俺の努力を認めてくれてる感じか。
「このくだり今後もあるでしょうから、今のうちに断言しておきます。俺が貴女達を見捨てることはありません。命をかけてもいいです」
半年も一緒に冒険してるし、今更切れんよ。そもそも既にウィークさんと契約済ませちゃってるし、他の子切るとかありえんでしょ。
大体、冒険者の間で悪評ついてんだぜ? まともな人は組んでくれんて。
「あのねぇ、まともな僧侶が一人いればこの二人以上の回復ができるのよ? 魔法を使える戦士だっているし、回復が使える武道家もいる。道具や薬を精製する技術を持ちながら、戦闘でも役立てる人だっている。アタシ達と組んだっていいことなんか一つもないわよ?」
……今日のシュリムさんはお喋りだな。
でも知ってるよ、俺。こういう時のシュリムさんって……素直になれないだけなんだよな。本当は『仲間にして! 本契約結んで!』って言いたいんだろ? さすがにわかるよ。
「天才魔法少女をみすみす逃すわけないでしょう」
「……フン。一つ予言してやるわ」
「なんでしょう?」
「アンタは一生損し続けるわ」
……俺もそう思う。
全員と本契約を結んでおよそ一ヶ月。
例の一件を知られたからなのか、それとも全員と本契約を結んだからなのか、はたまた両方か。理由はさておいて、皆が優しくなった気がする。いや、元々優しいんだけど、なんていうか……。
「はい、あーん」
「いや、チェロットさん……自分で食べられますし……ダンジョンですから周りを警戒しないと……」
「大丈夫ですよ。あらかた倒したじゃないですか」
距離感が妙に近いんだよな。わざわざゴマなんかすらんでも、今更捨てたりしないんだけど……そういうことじゃないんだろうな。
「ほら、疲れたでしょう? 膝枕してあげるから、少し休みなさい」
「いや、ロトリーさんも前衛なんですから休んでくださいよ」
「いいからいいから」
なんていうか過保護?
ほっといたら無茶をするヤツだって認識されてんのかな? 金もたんまりあるし、もう頼まれても無茶なんかしないってば。
早い話、初心者用ダンジョンの浅いところで粘ってるじゃん。効率考えるならガンガン進むべきなのに、エンカウント率を考慮して狩りの範囲狭めてるじゃん。
「シャグランさん、私そろそろ鉄の兜に挑戦してみようかと……」
「木製の鎧で動き鈍ってる貴女がですか?」
「うう……」
そりゃまあ、戦士がいつまでもバンダナで頭を守るのは危険だけど、それ言い出したら俺とフェーブルさんなんて素頭だぜ? 素頭っていうか知らんけど。
「戦士の私が防御固めないと……」
「理想で言えばまあ……でもヘタに装備重量増やしたら、悲劇再びですよ」
いやぁ、懐かしいな。ちょっと装備変えただけで、全滅しかけたんだよな。こんな初心者ダンジョンで。
今は挟み撃ちでもされない限り余裕で勝てる程度には……いや、余裕ってのは言いすぎかもしれん。
未だに一撃で倒せるのはスライムとバットだけだし。
さらに言えば、それができるのは前衛組だけだぜ? 普通なら後衛でも余裕で倒せるんだよな。特に魔法使い。
「何よ? アタシが可愛いからって、ジロジロ見すぎよ」
「いえ、別に……」
「はぁ? 可愛くないっていうの?」
この人いつになったら、まともな攻撃ができるようになるんだろ。敵に一瞬の隙を作るのが限度って、魔法使いじゃなくてもよくない? 石でも投げりゃいいじゃん。
まっ、時間はいくらでもあるからのんびり育成するか。本当にわずかずつだが、成長しているのは間違いないんだから。
「本当にいいんですか? 昨日も一昨日も外食でしたよ?」
「黒字だからいいんですよ」
毎日が楽しくて仕方がない。毎日外食をしても黒字って冒険者にとっては当然のことなんだが、未だに慣れないよ。慣れないほうが幸福度が高そうだから、慣れなくていいんだけどね。
「もうギルドの賄い生活には戻れないですよ」
「あっ、チェロットさんも不満だったんですね」
「当たり前じゃないですか。あんなのまともな冒険者は食べませんよ」
俺らって半年も、まともじゃなかったんだな。
「後は部屋だけですね。さすがにプライベートが無さ過ぎて辛いです」
一部屋に三十人って、絵面的には奴隷船のそれだよ。常に窓開けてないと空気の淀みに耐えられないんだぜ?
「アタシらの部屋に来たらいいじゃない。ベッド余ってるわよ?」
「はは、ご冗談を」
シュリムさんはお子様だから気にしないだろうけど、他の人らが嫌がるよ。
ほら、ウィークさんも急に様子がおかしくなったし。そんなに焦らんでも、移住なんかしないって。
「もっと上のダンジョンに行くか、今のダンジョンでさらに深く潜るか。どっちか頑張れば、安い家ぐらい借りられる」
簡単に言ってくれるなぁ、リュゼさんは。ダンジョンのランクを上げるのは論外として、初心者ダンジョンの深層に行くのは厳しすぎるよ。ろくな回復手段がないんだからさ。
「はは、贅沢しだしたらキリないですって」
「私達が力を合わせればいける……」
それを言われると弱いんだよな。強く否定したら、士気が下がっちゃうからさ。
それにリュゼさんがこういうことを言うのって相当珍しいし、なるべく尊重してあげたいな。
「じゃっ、一旦それを目標にしましょうか。しばらくは現状維持ですが」
「んっ……。早く強くなろうね」
俺は飲み込んだ。『早くまともな回復を身につけろ』という言葉を。
いつも言葉を飲み込んでる気がするけど、これってリーダーとして正解なのかな?
時には厳しい言葉をぶつけなきゃいけない気もするし、常に優しくしなきゃいけない気もする。未だにこの辺の塩梅がわからんのよな。
まっ、のんびりいこうぜ。時間と金に余裕があるんだから、急に変わる必要なんてないのさ。少しずつ装備を良くして、少しずつレベル上げて、少しずつ金を貯めて、そうだよ、何事も少しずつ進めていけばいいんだよ。スケベ心を出さない限りは、事態が急変することなんてないんだから。
「なんか良いクエストありますか? できれば初心者ダン……」
「あっ、ちょうど良いところに」
おっ、受付嬢さんも俺に用があったのか。なんだろ? そろそろ中級ダンジョンに潜れとか、小言を言われんのかな? それともまた変なヤツを押し付けようと……。
「今おいくらお持ちですか?」
「え? ええっと、六万ちょいですが」
待ってくださいよ。なんで急に金の話を? もう払うものはないはずなんだが、一体何を請求する気だ?
「あー、全然足りないですねぇ」
……六万クレだぞ? 一人暮らしの庶民なら、贅沢さえしなきゃ問題なく一年過ごせるほどの大金だぞ? 家でも買わせる気か?
「アウニーからシャグランさん宛てに請求が来てましてですね」
「俺の故郷から……?」
そういやこの半年、一クレも仕送りしてないのか。手数料の兼ね合いもあるし、大金を得るまでは放置する予定だったんだが、ついに向こうから請求してきたか。無理矢理送り込んどいて、図々しいな。
「農具やら家の修繕やらで、結構お金に困ってるらしくてですね」
「まあ……裕福って言葉が無縁のド田舎ですし」
俺を送り出すにあたって十万クレも使ったもんな。そりゃ苦しかろう。
「二十万クレ請求されたので、一旦こちらで立て替えておきましたが」
「は? 二十万?」
え、あの年寄り共、ひょっとしなくても頭わいてんの? なんで半年かそこらで、軍資金の倍も請求してんの?
「手数料込みで二十二万お支払いいただきたいのですが……」
「えっと……さすがに……」
「ええ、勿論分割払いで大丈夫です。十二回払いでしたら、手数料で二十パーセントほどいただきます」
アコギにも程がないか? 最初に手数料で十パーセントも取っておいて、さらに二十パーセント? どこまで弱者をイジメれば……。
「まあ、シャグランさんなら余裕ですよね。半年で六人も本契約に持ち込んだのですから」
……キャンプというボーナスクエスト二回、地獄のようなプレイ四回、それだけこなしてようやくって感じだぜ? 本来の俺にはそんな大金を用意する力なんて……。
「遅れれば遅れるほど手数料も高くなりますし、場合によっては……フフフ」
いつになったら訪れるんだろう。金に余裕ができる日が。
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