第18話 初本契約
治癒魔法にも限界というか、適用範囲? 管轄? なんと表現すればいいかわからないが、とにかく……。
「なんだかやつれましたね……」
「わかります?」
搾り取られた精力までは回復しないらしい。向こう一週間ぐらいは、性欲がわかないかもしれんな。っていうか店じゃ満足できない体になった気がする。
「でも、こう……男として一皮むけたっていうか、たくましくなりましたね!」
ウィークさんはどこまで知ってるんだろうか。いや、何も知らないはずだ。
言葉選びの問題だな、うん。言っても仕方ないことなんだけど、もうちょっとタイミングをだな……。
「じゃあ、臨時収入も入ったので……ウィークさんだけでも先に本契約しましょう」
例の依頼のおかげで、六人中五人と契約できる金を手に入れることができた。コメルスさんとのキャンプが終われば、無事に六人と契約できるだろう。
できれば六人まとめて契約したいところだが、大金を持ち歩くのも気持ち悪い。国営の銀行に預けたら手数料取られるし、なるべく使えるだけ使っておきたい。
……面倒だよな、本人がいないと本契約結べないって。まあ、当たり前っちゃ当たり前の話なんだが。
「え、ええ! そんな……抜け駆けみたいなこと……」
絶対そう言うと思ったよ。疲れてるから面倒な問答は勘弁してほしいんだが。
「ちゃんと他の人も契約を結ぶから大丈夫ですよ」
「で、でも……私なんかと本契約しちゃっていいんですか? もっと強い人と……」
……それを考えなかったと言えば嘘になる。他の派遣冒険者を見た感じ、ウチの子達って断トツで弱いみたいだし。
どんな攻撃にも耐える屈強なオッさん戦士に、スピードと破壊力に長けた武道の達人的なジイさん、どんな傷や状態異常も一瞬で治す美人の僧侶、最低でもその三人を入れた最強パーティを組みたいところだが……。
「冒険者ってのは命を預けるわけですし、信頼できる人と契約したいんですよ」
結局これなんだよ。能力なんて後からついてくるけど、人間性ってある程度の年齢超えたらもうダメじゃん?
「それが私なんですか? 私なんて田舎者ですし、子供だし、それに……」
どこ出身か知らんけど、俺の前で田舎を語るか。
俺のところはアレだぜ? いい歳こいた少年少女がスッポンポンで川遊びするぐらいのド田舎だぜ? 家に鍵をかけないとか、知らないうちに野菜が玄関に置かれてるとか、それが日常風景のド田舎だぜ?
「一歳しか変わらないじゃないですか。それに俺だって田舎者です」
「本当の本当にいいんですか? きっと後悔しますよ?」
後悔なんて飽きるほどしたよ。ゴブリン相手に全滅しかけた時は、世の中の全てを恨んだものさ。
俺を都会に送った故郷の連中や、俺を騙した派遣のお姉さん、弱さを隠したまま冒険に臨んだ皆、考えの甘い自分。全てを恨んだもんだよ。
「貴女を手放すつもりはありません。強引にでもギルドに連れて行きます」
「はわわ……シャグランさん大胆だべぇ」
……前々から思ってたけど、この子は何か勘違いしてるよな。女の子特有の事情があるだろうから、詮索はしないけどさ。
無事に契約の手続きを終えたが、まだキャンプに戻るつもりはない。
搾り取られたせいで、気力がわかないんだよ。二日か三日は街で過ごすことになるだろうな。
「あのシャグランさん? 二人っきりで街を散策って……これ……」
「……? ええ、そうですね」
ただのショッピングなのだが、あまり経験がないのだろうか? まあ、貧乏だから無理もないか。
かくいう俺も装備品ぐらいしか買ったことないんだけど。
「その、手を……」
「……? ええ」
はぐれるほど人がいるようには見えないけど、まあ心配なら繋いであげるか。
ちょっと頼りないところあるし、過保護なぐらいがちょうどいいよね。
「えへへ、シュリムさんが見たら怒っちゃいますねぇ」
「そうですね、内緒ですよ」
まあ、怒るだろうな。買い物なんて連れて行ってあげたことないし。
まっ、これからよ、これから。キャンプ終了する頃には、全員と本契約結んでも金余るだろうし、これからは良い生活ができる。
うん、新規メンバーだの新装備だの、焦る必要ないよね。皮算用のツケがいかに恐ろしいか、この一年足らずで良くわかったし。
「あの、ところでどんな依頼を……」
「……あっ、見てください。この髪留め、貴女に似合いそうですね」
絶対に話したくないので、逸らしておこう。
「……」
しまった、露骨すぎたか? それとも食べ物のほうがよかったか? そうだよな、髪留めは食えないもんな。
えっと、屋台か何か……。
「シャグランさん……これ、欲しいです」
「えっ、ああ、はい。すみません、これ買いたいんですけど……」
よかったぁ……なんか知らんけどお気に召したらしい。適当に目についたヤツを選んだだけなんだけど、俺って意外とセンスいい?
「あいあい、二百四十クレね」
ぼ、ぼったくりじゃん。最近金銭感覚狂いかけてるけど、髪留め一つで二百四十がぼったくりなことぐらいわかるぞ。
キャンセルしたいが……。
「可愛い……」
めっちゃキラキラした目で髪留め眺めてるし、今更別の物にしようなんて言えないよな……。まっ、俺も風俗で無駄遣いしちゃったし、これぐらい……。
「はい、毎度アリー!」
良い笑顔だな、このオッさん。多分内心では『世間知らずのカッペカップルを騙してやったぜ。ニッシッシッ』とか考えてるに違いない。許せねぇ。
「ありがとうございます! さっそくですが……」
「……? えっと?」
何? なんなの? なんか俺のほうに顔を向けながら目をつぶってんだけど、キス待ちかい? キスしていいのかい?
……え、本当になんなの? 誰か解説を……。
「兄ちゃん、何ボケッとしてんだ。つけてあげなよ」
「えっ、あっ……そういう……」
オッちゃん? 本当にいいのか? 信じるぞ? これで『女の子の髪に触るなんて最低です! セクハラとして晒し首の刑です!』とか言われたら、アンタも道連れだからな? 一蓮托生でダブル晒し首だからな?
……えっと、こうかな?
「んっ、ありがとうございます」
「どういたしまして……?」
なんで赤面しながらモジモジしてんだろ。トイレでも我慢してんの?
大丈夫、俺はデリカシーがあるから余計なことは言わんよ。
「じゃあ俺は他の人達へのお土産でも見てきますんで、貴女も自由に買い物してきていいですよ。お金ありますよね?」
どうよ? 俺って紳士じゃない?
その辺のノンデリ野郎だったら『トイレはあっちだよ』みたいなこと言って、女の子に恥をかかせるところだぜ?
自由時間を作って、こっそりとトイレに行く時間を設けるなんて、できる男だなぁ俺ってば。ん? そうか、人徳があるってそういうことか。こういう細かい気遣いができることを……。
「……ええ。では……」
……? なんか元気なかったな? よっぽど限界だったのかな?
ん? なんだよ、オッさん。その苦虫を嚙み潰したような顔は。
「シュリムさんの帽子につける用のリボン。どうですか? 良いセンスでしょう?」
「そーですね」
「ロトリーさんは肌気になるって言ってたんで、このなんかよくわからない美容液とかいうヤツを……」
「いーですね」
「フェーブルさんは武道家にしては髪が長いですから……」
「そーですね」
え、何この人?
女性の意見を聞きたいので、お土産のチェックをしてもらってるんだが……なんか知らんけど、めっちゃ拗ねてんだよ。
もしかしてトイレに間に合わなかった?
「じゃっ、私は一足先に戻りますんで……」
「えっ、もう遅いですし……今日は……」
「行きます。止めないでください」
「あっ……」
どうしたんだろ……。やっぱ漏らしたのか? 着替えたら俺に怪しまれるから、無理矢理離脱したのか? まっ、いいか。
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