第13話 風俗狂いのツケ
街で一番のポンコツパーティと名高い我々だが、先日の一件がよほどこたえたらしく、一心不乱に修行を始めた。
いやぁ、良く生き残れたな。まさかポーションを回し飲みするハメになるとは、思わなんだ。
「小さいから腰に来るわね……」
「はは、まだまだ若いから大丈夫ですよ」
「……独身の二十四よ?」
「リアクションに困るんで、迫真の表情やめてもらっていいですか?」
俺とロトリーさん、シュリムさんは例のごとくスライム狩りだが、素材集めはあくまでもついで。真の目的は修行だ。
俺は新調したナイフを使いこなせなかったが、どういうわけかロトリーさんは問題なく使えている。あくまでも推測だが、初めてのナイフだから変な癖がついていないのではないだろうか。スライム相手とはいえ、長くやっていればそれなりに上達するだろう。……まあ、バットぐらいなら戦えるようにはなるんじゃない?
俺とシュリムさんはひたすら魔法だ。倒れる寸前まで魔法を使って、魔力が危うくなったら街の近くで瞑想。周りから奇異の目で見られているが、今更なので気にせず繰り返している。
ウィークさんとフェーブルさんはひたすら組手。僧侶コンビは回復と瞑想の繰り返し。多分だけど、あの四人が一番辛い修行だと思う。
「ふぇ、フェーブルさん……そこは反則……」
「モンスター相手でも同じこと言えるの? さっさと立ちなさいよ」
「わ、私も狙いますからね!?」
「やればいいじゃない。誰がダメって言ったのよ」
……スパルタだなぁ。
まあ、この短期間で二度も全滅しかけたわけだし……必要な修行だよな。
「シャグランは杖使わないの?」
「ナイフがありますし、それに杖と相性が悪いんですよ」
「相性? 杖なんて使い得じゃないの?」
「魔力を使いすぎちゃうんで、命取りになるんです」
その分威力は上がるけど、コスパ悪いんだよね。俺にとって魔法なんて変化球、補助にすぎないわけだし、質より量だよね。
「不器用なヤツね。この天才魔法少女が杖の使い方を教えてあげるわ」
「……またの機会に」
「何よ! こんなチャンス中々ないのよ! アタシに教えを乞えることの誉れ高さというものを……」
あー……始まったよ。俺が魔法の練習を始めてから事あるごとに講釈垂れてくるんだけど、正直良くわかんないんだよね。
前衛組だけでゴブリンを狩ってた時期があるから、その間に取れなかったコミュニケーションの埋め合わせと思えば、そんなに悪くないのかもしれんけど……。
いかんせん意味がわからないんだよね。天才ゆえの説明下手っていうか。
「魔法をギュギュッとして、ググッってするのよ」
……ロトリーさん、その恰好でスライム斬るの危なくない? 目のやり場に困るというか、たまにブラが見えるっていうか……。
「アタシぐらいになると、魔法をチャージしたまま杖術を……」
あー、またウィークさんが急所攻撃もらってる……ウチの僧侶コンビじゃ大した回復魔法使えないんだし、あんまり致命傷は……。
「呼吸が大事ね。呼吸の乱れは魔力の乱れってヤツよ。今考えたわ」
そういやリュゼさんって同い年なんだよな……大人っぽいし、背が高いから年上感あるけど、アレでも十六歳なんだよね。さすがにロトリーさんほどのスタイルはないけど、人によってはアレぐらいがちょうど……。
「シャグラン? 聞いてた?」
「え? あ、ああ、聞いてましたよ」
「じゃあアタシが言った内容を繰り返しなさい。間違えたらアタシの杖術が、急所をエグるわよ」
「す、すんませんした!」
魔法を極めるより、土下座を極めるほうが早いかもしれん。
修行を始めてから半月、無茶さえしなければダンジョンに再挑戦できるレベルには達したはずだ。
いや、そもそも装備を無理に変えなければあんなことにはならなかった。
ウィークさんは結局、鉄の棒が使えないとのことで木の棒を装備することに。初期装備と違う点を挙げるなら、鍋蓋と木の盾を変更。
俺とフェーブルさんは、前回と同じく籠手を装備。特訓の甲斐あって、問題なく動くことができる。
ロトリーさんは、俺が使いこなせなかったナイフを物にした。後から聞いた話なのだが、道化師とナイフは相性がいいらしい。そのわりには大した使い手じゃないが、まあロトリーさんだし……。
魔法も前回よりはまともに使えるし、奥まで入らなければなんの問題もない。
そう、問題はないのだが……。
「あの、そろそろダンジョンに……」
「ま、まだ修行しませんか? ほら、木の棒だから火力出ませんし……」
じゃあ鉄の棒使ってくれよ。使いこなせないんだろ? じゃあ火力出る日なんて来ないじゃん。
「アタシは魔力に不安があるわ。気絶する前提で戦うなんてイヤよ」
……んなこと言われてもな。現時点じゃ改善の見込みないわけだし……。
「前衛の人達には悪いけど……盾になるの怖い……」
それを言われると弱い……アレに関しては本当に申し訳なく思ってる。
「リュ、リュゼさん……もうあんなことには……」
「絶対ならないなんて保証ある?」
「冒険者に絶対はありませんが……なるべく前衛組で……」
「……ごめん、怖い」
ダメだ、皆完全にトラウマになってる。
そりゃ、あのクソ冒険者共が通りかからなかったら全滅してたわけだし、気持ちはわかるんだけど……。
「もう一ヶ月半しかないんですよ?」
「何をそんなに焦ってるのよ? アタシの計算じゃ五万近くあるはずよね?」
うっ……。そっか……この人らの認識では、そういうことになってるのか。
とてもじゃねえが、言えねぇな。風俗にハマったせいで、三万七千クレしか残ってませんなんて。
「まだ一ヶ月半あるんだから、半月修行してからでも間に合うじゃないの」
それはまあ……そうなんだよな。五万クレあるなら、その計算で合ってるが……。
くそっ、シュリムさんってワガママなだけで、頭は良いんだよな……ウィークさんだったら、すんなりと誘導できるのに。
「じゃ、じゃあ……入口で粘りましょうよ。それで今の実力を測って……」
「ダメよ、ママが言ってたもの」
「……なんとおっしゃったのでしょう」
「男の『先っちょだけだから!』は信用するなって。意味は分からないけど」
シュリムさんの母上殿は、教育の仕方を間違ってますね。
「とにかくお願いしますよ」
「イーヤー!」
本当に頑固だな、この人。冒険者向いてないんじゃないの?
「頼みますよ。俺、シュリムさんと契約続けたいです……」
「……違約金があるから?」
「いいえ、契約期間が終わったら本契約をする予定です」
「……フン。入口だけよ」
良かった……納得してくれたよ。
よし、入り口で安全に狩りをして、自信がついたら奥に行く。自信がつくのに何日かかるかわからんけど、多分間に合うはずだ。
完全に誤算だった……。
ダンジョンの入り口って、雑魚しか出ないんだな。五時間ぐらい粘ってるけど、スライムとバットがたまに出てくるぐらいで、ゴブリンさえ出てこないんだけど。
さすがに効率が悪すぎるな。これならゴブリンの生息地に行ったほうが、まだマシだろう。
こんな雑魚を相手にしたところで自信がつくはずもなく、しばらくは入口付近から進めないだろう。
「明日からは、もう少し進んでも」
「……泥人形と戦うの怖いです……こんな棒切れで戦える自信が……」
ダメだ、完全にトラウマになってる。確かにウィークさんって、ラマネット相手に酷い目に遭わされてたけど……今のレベルならいけるはずなんだ。
後は自信さえつけば……。ん? 自信?
「チェロットさん、自信がつく魔法ってどれくらい持ちます?」
「込める魔法力によりますけど、一時間持てば良いほうかと」
実用性ないなぁ、本当に。
多分回復魔法一回分の魔力を消費するだろうし、割に合わんぞ。どっちかといえば生活魔法に分類されるのでは?
「私の記憶が正しければ、ラマネットはデバフに耐性がある。力になれなくて申し訳ない」
あっ、あの人形野郎ってそんな能力があるんだ。動きが気持ち悪いだけのモンスターだと思ってたけど、レベルの高い個体だったら厄介そうだな。
……ウチのパーティには関係ないと思うけどな。
「……ちなみにですけど、何か戦闘で使えそうなデバフ魔法あるんですか?」
「使えるデバフしかない。オススメは、一時的に右と左がわからなくなる魔法」
「えっと? 方向感覚が狂うってことですか?」
「ほら、右を指差しながら左って言う人いるでしょ? ああなる」
どういう了見でオススメしたの? 二度とその単語を使わないほうがいいよ。
この人が赤の他人だったら、この自信満々な顔も愛おしく思えるんだけど、今はただ憎らしい。
「リュゼさんは多才ですね」
「ふふっ……リュゼ姉さんって呼んでくれてもいいよ」
「リュゼ姉さん、明日からダンジョンの奥に……」
「半月待って」
完全に呼び損じゃん。半月もモタモタしてたら間に合わないんだってば。
くそっ、所持金に対する認識に差がありすぎる。なんで風俗なんかに、一万クレ以上も使ったんだ。
俺は悪くねぇ。あの店の嬢達は、生娘の演技が上手すぎるんだよ。そりゃあ、ハマるよ。ハマりつつハメるよ。
「シャグラン君、皆の覚悟が決まるまで待ちましょうよ。急いでも良いことなんてないわよ?」
急がないと悪いことがあるんだよ。頼むから早く覚悟決めてくれよ。
どうするよ? 素直に謝るか? 正直に話せばきっと……。
「そんなに心配しなくても、半月あれば皆自信がつくわ。アタシ達はアンタを信じてるんだから、アンタもアタシ達を信じなさい」
「……信じてますとも」
言えねぇよ。全幅の信頼を寄せてくれてる人達に、風俗にハマって金を溶かしたなんて言えるわけねぇ。
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