第5話 金欠地獄
死に物狂いでスライム狩りに勤しみ、なんとかポーションを八本入手した。これを転売したら生計を立てられそうだけど、それを実行する勇気はない。
信用問題に関わるからな。そもそも俺らは目立ってるから、絶対にバレるだろ。
「シャグラン、まだなの?」
敵陣の真っ只中だというのに、シュリムさんが退屈そうにあくびを漏らす。命がかかった状況で呑気なもんだな。
まあ、気持ちはわかるよ? かれこれ一時間以上チャンスを伺ってるもん。あまりにも効率が悪すぎる。
「しょうがないでしょう。ソロのゴブリンが中々見つからないんですから」
「さっきいたわよ」
「いや、仲間が近くにいました。俺らの実力じゃ、倒しきる前に仲間が来ます」
我々は測らないといけないのだ。ゴブリン一匹を倒すのに要する時間、消費する魔力やポーションの数を。
それらのデータと、ドロップする素材や魔石の価値、経験値などを照らし合わせ、今後の計画を立てるんだ。そうしないと話にならない。
「ビビリすぎよ。二匹ぐらいなら同時にいけるでしょ?」
……例のバフ使った? それとも記憶喪失になった? 俺らは三匹相手に手も足も出ず、全滅しかけたんだぞ? 二匹同時なんて勝ち目ないだろ。
「アタシの魔法、結構成長したのよ? 杖なしでも、一メートルぐらいなら問題なく炎を飛ばせるはずよ」
「……短くないですか? 素人の俺でも十メートル以上は軽く飛びますよ」
一メートルって、もはや前線じゃん。アンタ魔法使いだろ? っていうかその距離なら杖で殴ったほうがマシじゃん。
「甘いわね、杖があれば二メートルぐらいいくわ」
いや、俺は杖なしで十メートル以上飛ばせるんだって。そして、アンタより火力高いと思う。
「私達の回復魔法も成長してますよ? 二人で力を合わせれば、擦り傷ぐらいなら治せます」
……なんで自信満々なん? 一般人ならまだしも、本職でそれって終わってるぞ?
三週間以上冒険してるのに、まだこのレベルかぁ……初期が酷すぎたから、飛躍的成長に見えなくもないけど。
「……どれくらいの規模の傷ですか? 何秒くらいかかります? 何回ぐらい魔法を使えます?」
「……」
黙っちゃったよ!
なんでこの程度の実力で、ゴブリン複数体と戦おうとしてるんだ? 一歩間違えただけで死ぬんだぞ?
この人ら、弱さもそうなんだけど……全体的にこう……。
「あっ! あのゴブリン孤立してますよ」
「ナイスです、ウィークさん」
一時間半ぐらい粘って、ようやくチャンス到来か。ゴブリンが大金になると思えないし、割に合わんな。
まあ、とにかくやるしかない。死にかけたトラウマがあるけど、なけなしの勇気を振り絞らねば……。
「手筈通りにお願いしますよ、皆さん」
全員の準備、覚悟が整っていることを確認したので、早速作戦に入る。
……作戦なんて呼べるほどの代物かどうかは、甚だ疑問だが。
「撃ちます!」
俺の唯一使える炎魔法で奇襲をしかける。いや、本来なら魔法使いの役目なんだけどね?
「んぎゃっ!?」
不意打ちというのもあり、見事に直撃する。真正面から撃ってたら、絶対避けられてたんだろうなぁ……。
「せいやっ!」
さすが武道家、スピードだけならあるな。俺より幾分かマシってレベルだけど。
……うわっ、なんてヘタクソな蹴りだ。そうか、今までスライムが相手だったから蹴り技全く上達してないのか。納得だけど、それにしたってヘタだなぁ。
「がぁ!」
うん、ドン引きするぐらい効いてないな。俺の魔法含めて。
おそらく今のコンボを三十セットぐらいで、ようやく追い詰められるって感じか。
言うまでもないが、気付かれた状態で魔法を当てられるほどの技術はない。前衛だから魔法撃ってる余裕がないってのもあるし、そもそも魔力が絶対にもたん。
「え、えいっ!」
おっそ……戦士とはいえ、動き遅くない? その軽装でその速度って、鈍足な一般人でしかないじゃん。
想像以上にキツいな……不意打ち当ててから三人がかりで戦ってるのに、ほとんどダメージを与えられない。っていうかスピードに差があるせいで、まともに攻撃が当たらない。言うまでもないが、俺らの連携も取れてないし。
「あだっ!?」
「あっ、ごめん」
近接系が密集してるとはいえ、味方に蹴りを当てるかね普通。クリーンヒットするウィークさんも大概だけどさ。
「くっ……私のデバフ……鍵をかけ忘れたと思い込むデバフがあんまり効いてない」
あんまりなのはアンタだよ。なんで野生の生き物に効くと思ったんだよ。回復用に魔力とっといてくれよ。
「手筈通り押さえ込みなさいよ! ゼロ距離で魔法ぶっぱなしてやるから!」
わかってるよ……さっきから押さえ込もうとしてるんだよ。でも実力に差がありすぎて、それどころじゃねえんだって。
前衛組が全員負傷してでも押さえ込む予定だったのに、このゴブリンが絶妙な間合いをとってくるんだよ。もっと知能低いと思ってたのに……。もしかして俺らってゴブリンに頭で負けてる?
そもそもリーチで負けてんだよな。向こうがこん棒なのに対して、こっちは徒手空拳と短い棒きれ、チャチなナイフだぜ? なんでゴブリンのほうが立派な武器を装備してんだよ。
「そ、僧侶コンビ……回復を……」
「さっきからかけてます」
役に立たなすぎる。もう魔法なんかかけなくていいから、その杖で戦闘に参加してくれよ。そうしたら俺らの攻撃も当たりやすくなるから。
「ファイトー!」
……これが道化師の士気上げか? 高みの見物してるヤツがヤジを飛ばしてきたみたいで、腹が立つんだが?
なんとか勝ったけど、完全に満身創痍だ。
最終的には後衛組にも前衛に出てもらい、ポーション飲みながら羽交い絞めにしてぶん殴りまくったよ。僧侶のリュゼさんが杖で喉を突いたのが決め手ってのが、このパーティの泥臭さを物語っている。
「まさかポーション五本も使うハメになるとは……」
現金にして一万クレだぜ? 大赤字もいいところだろ。入手ルートを持ってるとはいえ、五本集めようと思ったら五日近くかかるし……。
「早く引き上げるわよ。今襲われたら間違いなく全滅なんだから」
そうだな、少なくともアンタは確実に死ぬよ。また魔力切れになってるもん。
「はいはい、今おぶってあげますから」
「はぁ? お姫様抱っこしなさいよ! 私がアイツの顔面に魔法を直当てしたから、倒せたのよ?」
うん、活躍と言えば活躍だよ。アイアンクローかましたかと思えば、そのまま魔力放出したから驚いたよ。そんな使い方があるなんて、素直に脱帽だね。
でもお姫様抱っこはしない。足腰ガクガクだから、そんな余裕ないし。
「一時間以上も粘った甲斐がありましたね! 普通なら増援が来て全滅でしたよ!」
うん、それだけお膳立てしてようやくこれなんだよ。リスクと労力を考えたら、もう二度とできないな。
「ゴブリンの爪が二十クレ、魔石が四十クレ。六十クレですね」
……割に合わないなんてレベルじゃねえぞ?
ポーション五本ってことは、スライム百五十匹分の体液だろ? 普通にその体液を売り払えば三百クレ。経験値を加味しても損だな。
「魔石ってそんなに安いんですか?」
「いやぁ、ゴブリンにしては高いほうですよ? 安いヤツなら三十クレがいいところですし」
上振れしてこれかよ。爪も確実にドロップするとは限らんし、やるだけ損だな。
「爪の納品クエストとかって……」
「貴方達が前に失敗したのが最後ですね。駆け出しの冒険者さん達がやりつくしたクエストですので、滅多にこないかと……」
……どうしよう。スライムを一日二百体ぐらい狩ればギリギリ間に合うと思うが、現実的じゃないよな。こうなったら、体液を薬師の人に現金で買い取ってもらうか?
俺の記憶が確かならば、ポーション一つにつき三百クレで、ギルドに納品してると言ってたよな? 実績とかの兼ね合いもあるから三百クレで買い取ってくれはしないだろうけど、半額ぐらいなら……。
仮に百五十クレで買い取ってくれるとしたら、普通に体液を売った時の二・五倍の値段になるわけで……一日に狩るスライムの数は八十体で済む? 途中で納品クエストが転がってくる可能性も考えたら、普通にいけるのでは?
ただ、その先が……。
「シャグランさん? 後ろがつかえてますので……」
「あっ……すみません」
俺の計算って半額で買い取ってくれるのが前提だし、元々の手持ちがあるからこそ成り立つんだよな。次回の更新からは素寒貧になるわけだから……一日辺り百四十四体か? 生活費とかあいつらのモチベの兼ね合いもあるし、うん。絶対無理だな!
今日も今日とて、スライムを狩る生活。あまりの情けなさに涙が出そうだよ。
結局買い取りも拒否されたし。冷てぇな、薬師さん。
「ねえ? 一ヶ月以上もこんなことやってて辛くないの?」
「シュリムさん、そのセリフ三回目ですよ」
「何回でも言うわよ! 朝から晩までスライムばっかり狩って!」
「だから交代制にしてるじゃないですか」
俺が一番、狩ってる時間長いんだからな? よくもまあ、そんな俺に向かってそんなことが言えたもんだ。
「言っとくけどね、アタシ以外も不満抱いてるわよ?」
「……でしょうね」
「あのねぇ、アンタのために言ってんのよ? そろそろ労ってくれないと、さすがにボイコットされるわよ?」
労いねぇ。こんな簡単な仕事で報酬貰ってるんだから、むしろ感謝してほしいよ。
言っとくけど一番不満を抱いてるの俺だからな? 高い契約金払ったのに、冒険できないんだから。
「ギルドの賄いなんて酷いもんよ。レパートリーも少ないし、味も質素。そろそろ外食に連れて行ってくれないと困るわ」
「……お金あるんですか?」
「あんまりないわ。宿代やら食事代で、ギルドから天引きされてるし」
クソだな、国営ギルド。貧する者から搾り取りすぎだろ。
ハッキリ言って、外食に連れていく金なんかないんだが、ボイコットは困るな。俺一人でゴブリン倒そうと思ったら、ポーション十個以上はいるだろうし。
「じゃあ今夜、酒場でも行きます? 安いところ限定ですけど」
「そうそう、それでいいのよ。女の子は大事にしないとね」
凄いな、この人。一日一回は、張り倒したくなるよ。そんなスパンで人の神経を逆撫でするヤツ、そうそういないだろ。
頭が痛い……色んな意味で……。
酒場でドンチャン騒ぎして、それは楽しかったんだけどさ……あのバカ共が暴れやがったのよね。
皿やジョッキを割ったり、吐しゃ物撒き散らしたり、一般人に絡んだり。
二日酔いと請求書、悪評が俺の頭にダメージを与えてくる。うん、二度寝しよ。もうしばらく外に出たくない……。
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