第2話 大規模駆け出しパーティ
派遣冒険者のリストを見せてもらっているが、よりどりみどりだ。普通の冒険者としてやっていけそうな人もチラホラといるが、なぜ派遣に留まっているのだろう?
そんなに美味しいのか? 派遣冒険者ってのは。
まあどうでもいいけど……それより、どういうパーティを組めばいいんだ? 誰を雇用すればいいんだ?
「やっぱり屈強な戦士は必要ですよね?」
「そうですねぇ、生存率に大きく関わるかと」
だよなぁ、やっぱ。物理重視だろうが、搦め手重視だろうが、戦士は必要だよ。素人でもわかるわ。
「じゃあ……ベテランの男戦士を……」
屈強なオジさんと打ち解けられる自信はないけど、こういう人は精神的な支柱になるはずだ。
「うーん……高難易度のダンジョンに潜るならアリでしょうけど……」
あれ? 難色を示されたんだが?
ダメなの? 駆け出しがベテランオジさんと組んじゃダメなの?
「仮に強い人と組んだとしても、今のシャグランさんでは高難易度のダンジョンに潜ることはできません」
あー……冒険者ランクやら受注できるクエストの兼ね合いか。そもそも、潜りたくないなぁ。だって今の俺が一撃でももらったら、確実に死ぬだろ?
「短期契約で、安全に少しずつレベルを上げるならアリでしょうけど……」
「更新料を払い続けることができないと?」
「そうですね。本契約なんて持ってのほかでしょうし」
うーむ……安全を買うって意味じゃアリなんだろうけど、そこまで日和ってたら冒険者なんてやっていけんよな。
「シャグランさんの予算は十万クレでしたよね?」
「ええ……一万クレは常に持っておきたいので、実質九万クレですが」
「……後々のことを考えて、大勢雇ってみませんか?」
は? この人、何言ってんの? 絶対に資金繰り追いつかなくなるじゃん。
「中堅どころと組んで上手くいっても、本契約を拒まれる可能性が高いです」
「それはまあ……自分より弱いヤツをリーダーにしたくないでしょうし」
間違いなく、派遣を続けたほうが儲かるだろう。
でもそうなると、駆け出しの派遣冒険者を使うしかないんじゃ……。
「駆け出しの冒険者でも大勢なら、早い段階で中級のクエストも受けられるかと」
そりゃまあ、派遣も成長するだろうし……でも金が……。
「一年契約ですと十パーセントオフになりますし、雇った時点のレベルを基にして、契約金が決まります」
おっ……それめっちゃよくない?
極論だが、ベテラン冒険者のレベルになったとしても、初期レベルの契約金で使えるってことだろ?
「でも一番安い人でも、一年契約だと四万三千二百クレですよね? 二人しか雇えないのはちょっと……」
「ご心配なく、特別措置として三ヶ月払いにさせていただきます」
「えっと? 一年契約だけど三ヶ月毎の支払いってことですか? それって更新料が高くなるんじゃ……」
「いいえ、あくまでもただの分割です。勿論、手数料もいただきません」
それってめちゃくちゃ美味しくない?
仮に五人雇うとしたら、二十一万六千クレ。一回の支払いは五万四千クレってことだよな? えっと、最初の支払いをしたら残金は四万六千クレ。三ヶ月あれば八千クレぐらい確実に稼げるだろう。
その頃にはレベルも上がってるから、三ヶ月以内に五万四千クレ稼ぐぐらいわけないだろう。全員と本契約を結ぶのは無理でも、二人ぐらいはできるんじゃないか?
で、三人パーティである程度頑張って……金と実績ができたら、次は自分より少し下ぐらいの人達と契約して……。
「じゃあその方針で一旦……」
「ありがとうございます! では、こちらの〝ウィーク〟さんはどうですか?」
ええっと……女戦士? しかも十五歳って若くない? 俺も十六だから人のことは言えんけど、十五歳の女戦士はちょっと……。
重装備が魅力的な職業だし、できれば男のほうがよくない?
「戦士の魅力といえば装備の幅広さですが、このかたは他のベテランでも使いこなせない装備を使いこなすことができます」
え、駆け出しだよな? 凄くない? 天才じゃんか。
「彼女は登録したばかりで実戦経験がないため、今なら三千六百クレで契約できます。ですが、後々は……」
「この人でお願いします!」
ダイヤの原石ならば、確保しておかねばなるまい。一年後の本契約では、絶対に戦士を選ぶと決めているんだから、才能ある子を選ばないと。
「前衛は戦士とシャグランさんだけでも問題ないといえばないのですが、私としては武道家をオススメします」
武道家か……戦士がいれば事足りる気もするのだが……。
「スピードに長けている職業ですし、戦士じゃ倒せない相手を倒すことも可能です。逆もしかりですが」
な、なるほど……? 確かに必要かもしれん……。だけどそれは魔法使いでいいのでは? バランス的にも、俺が前衛で頑張ったほうが……。
「こちらの〝フェーブル〟さんなんてどうですか?」
「女性ですか……いや、差別とかではなくて……」
「武道大会で対戦相手を一撃KOしたという経歴があります」
それは……魅力的では?
本契約するかどうかは別として、三千六百クレなら雇う価値アリか?
「武器や魔法を使わずに戦えるというのは、人と揉めた時に心強いですし……それ抜きにしても、一撃必殺持ちのスピードアタッカーは魅力的かと」
「うーん……まあ、一旦保留で……とりあえず魔法使いの人を……」
「わかりました。では〝シュリム〟さんはいかがでしょうか?」
えーっと、女性魔法使いか。えっ、この人凄くね? 待って、値段設定間違ってないか?
「ほ、本当に三千六百クレでいいんですか? 七種類の属性魔法が使えると書いてますが……」
俺も一応魔法を使えるけど、弱っちい炎魔法が限界だ。七種類なんて、生涯をかけても会得できる気せん。っていうか、本職でも無理だろ? 駆け出しとはいえ、こんな天才が三千六百だって?
「ええ、現時点では魔法の威力も低いですし……あまり大きな声では言えませんが、派遣というのは才能よりも現時点での能力を見るものでして……」
マジかよ、こんなん契約するしかないだろ。一年もあれば、絶対にこの子は化けるだろう。しかも十四歳だぜ? その若さで多属性なんて、伸びしろしかないじゃん。
本契約を視野に入れて契約しよう。一ヶ月後には倍以上の契約料になっててもおかしくないし。
「じゃあその人も確保で……あと、やっぱりさっきの武道家さんも確保で」
「ありがとうございます!」
前衛を三人で固めれば、安心してシュリムさんを育てることができる。
えっと、現時点でバランスの良い三人を雇えたし……後はヒーラーか?
「回復系のかた……いますかね?」
「ええっと……僧侶でしたら〝チェロット〟さんは、いかがでしょう? 回復とバフ魔法に長けています」
バフって強化だよな? データを見るに、ありとあらゆるバフが使えるらしいが、掘り出し物じゃね? そんな優秀な子が三千六百クレか。
派遣っていいな。俺みたいに運が良ければ、駆け出しの天才をかき集めることができるんだからさ。
「〝リュゼ〟さんもオススメですね。デバフと回復に長けていますから」
……。両方雇うのアリじゃないか? 回復役が二人もいれば、よほどの事故が起きない限り全滅することもない。
これ、五人と言わずに六人雇ってもいいんじゃね? 最初の三ヶ月で中級クエスト余裕だろうし。
「両方お願いします。できればあと一人雇いたいんですが……どういう人を雇ったらいいですかね?」
「そうですねぇ、現時点で良いバランスですから無理に雇う必要もありませんが……将来的なことを考えると、道化師のかたなんてどうでしょう?」
道化師……? いや、知らない職業だが……なんとなく役に立たなそうな気が。
「いわゆるトリックスターですね。少々クセは強いですが大器晩成ですし、使い方次第では、どんな強敵でも倒すことができるでしょう」
うーん? 面白そうではあるが、戦士をもう一人雇ったほうが無難では?
大器晩成といっても、本契約を結ばないなら意味なくない? 俺は戦士のウィークさんと、魔法使いのシュリムさんを選ぶつもりだし。
「成長性が凄いって書いてますけど……そんなに凄いんですか?」
「あくまでも予測ですが……一般人では到達できない領域に達するかと」
うーむ……ダイヤの原石多すぎ問題だな。他の人に渡したくはないが、こんな初期から不安定な子を使うのも……。
しかも二十四歳だろ? 年上のお姉さんは好きだけど、二十四歳って大器晩成とか言える歳なのか?
「パーティの士気を上げる才能がありますし、コミュニケーションにも長けていますので、情報集めや交渉の際にも役立つかと」
……そこまで言うなら雇ってみるか。七人パーティなら、変わり種がいたほうが面白いだろうし。
「じゃあ、その〝ロトリー〟さん含めて、全員と一年契約でお願いします」
「ありがとうございます! ではさっそく手続きを進めさせていただきます!」
……気のせいだよな?
計算上なんの問題もないっていうか、むしろ正しい選択をしたはずなんだが……とんでもないミスをやらかしたような気がしてならないんだ。
まあいいか。占い師じゃあるまいし、虫の知らせなんて気にするだけ損だよ。最強パーティ誕生の予感で、気分がおかしくなってるだけさ。そうに違いない。
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