派遣冒険者でパーティを組んだらある意味有名パーティになりました

シゲノゴローZZ

第1話 派遣制度

 とうとう来ちまったよ、都会ってヤツに。ここは本当に俺の故郷と同じ国なのか?

 見るもの全てが地元とはレベルが違いすぎて、ついつい目で追ってしまいそうになるよ。うわぁ、男も女もシャレた服着てんなぁ。子供やお年寄りでさえ、俺より良い服着てやがる。

 周りが気になるし、周りからの視線も気になる。だって絶対浮いてるもん、俺。本当に地に足着いてるか?

 いかんいかん、ここでキョロキョロすると田舎者丸出しだ。服装の時点でバレバレかもしれんけど、堂々としろ。俺が思っているほど、周りの人間は俺に興味を持っていないはずだ。

 とりあえず当初の目的通り、まっすぐギルドに向かおう。寄り道したいところではあるが、俺みたいな田舎者はカモにされかねん。金があるうちにやることやらんと。




 ここか……この建物がギルドとやらか。

 正直怖いっていうか不安だけど、入口の前でウロウロしてたら不審者と間違えられかねないし……覚悟を決めるか。

 おおっ……。当然だけど冒険者がいっぱいだ。一目見ただけで冒険者ってわかるほど、立派な出で立ちをしてらっしゃる。ダメだ、自分の服装が妙に恥ずかしくなってきた。これでも地元じゃオシャレなほうだったが、一瞬で自信無くしたわ。

 いかんいかん、さっさと受付にいかんと怪しまれる。くそっ、なんで一つも悪いことしてないのに、こんなにいたたまれない気持ちになるんだ?

 ああ、並ぶの嫌だなぁ。女性用トイレの待ち列に男性が紛れてるぐらいの違和感があるよ。同じ時代の人間のはずなのに、俺だけ文明レベル二世代くらい前だわ。早く受付終わらねえかなぁ。誰にも見られてないはずなのに、視線を感じるよ。イマジナリー視線で吐きそうだわ。


「はい、次の方どうぞ」


 きたっ! 俺の番っ!


「はいっ! ぼ、冒険者登録……はこちらで……よろしかったでしょうか?」


 死にてぇ……ドモりすぎてて、じわじわと恥ずかしくなってきた。


「あー……登録でしたら、あっちの受付ですねぇ」


 マジ死にてぇ! 後ろの人! その立派な斧で俺をぶった切ってくれ!




 しょうもない失敗と、受付のお姉さんの綺麗さで赤面してるよ俺。鏡を見ずとも確信を持てる。顔がやけに熱いもん。


「なるほど。シャグランさんは、この街に来たばかりなんですね」


 わかってるくせに……一目見た時点で看破したくせに、改めて言わないでくれ。

 そうだよ、田舎者だよ! カッペが冒険者を目指して悪いか!


「ええ、故郷を豊かにするために……冒険者に……」

「それはそれは、崇高な目標をお持ちで」


 皮肉と取れなくもない相槌だが、俺には純粋な称賛のように思えた。

 これがルッキズムというヤツだろうか?


「シャグランさんの故郷出身の冒険者は、私が知る限りいませんね」

「でしょうね。初の冒険者ってことで送り出されましたから」


 送り出されたというか、押し付けられたというか。

 心境としては、ルーレットの一点掛けに張られたチップのそれだ。無機物に心境もクソもないと思うけど。

 いや、わりとマジでルーレットで一点掛けしたほうがよかったんじゃない? まだ可能性あるよ、そっちのほうが。今からでもカジノに……。


「なるほどなるほど、あまり現実的ではありませんが……冒険者として偉業を成し遂げれば、故郷も発展することでしょう」

「やはり……その、厳しいですか?」

「前例がないってわけじゃないんですが……大体そういう人って、生まれ育った環境とか、才能に恵まれていらっしゃいますね」


 わかりきっていたことだが、夢も希望もないな。変に希望持たされるよりは、良いかもしれないけどさ。もうちょっとオブラートっていうか、配慮をだな?


「無理でもやれるだけのことはやりたいです。俺を信じて送り出してくれた皆のためにも……」


 こうして口にすると、プレッシャーが半端ないな。

 若者が年々減っていく焦りはわかるんだが、だからって平凡極まりない俺を冒険者デビューさせるか普通?

 当面の生活費を支給された程度なら早々に帰郷できるんだが、十万クレだぜ? 村中の金をかき集めて送り出すって、投資を通り越して博打だよ。いや、投資自体が博打みたいなもんかもしれんが……。


「なるほど、村民から想いを託されたと」


 聞こえの良い表現をすれば、そうなるだろう。先人達の怠慢主義の尻ぬぐいって表現が、一番適切だと思うけど。


「ええ……重すぎる想いと、物理的に重い大金を……」


 あまり出すべきじゃないかもしれないが、所持金を机の上に置いた。

 なぜって? なんか舐められてる気がしたんだよ。俗物っぽい考え方かもしれないけど、何をするにしたって金は力たりうるんだよ。

 素寒貧のカッペが冒険者目指してても適当にあしらわれるのが関の山だが、金持ちなら話は違うだろ? それなりの冒険者になる可能性が出てきた以上、丁重に扱うしかあるまい。


「……シャグランさんは将来、大手のパーティリーダーになるおつもりですよね?」


 え、そんなこと言ったっけ……。

 ああ、でもそうか。限界集落一つ抱えてるわけだし、小規模のパーティじゃやっていけないよな。


「そうですね。リーダーじゃなくてもいいですけど……」


 リーダーなんて気苦労多そうだし、そもそも実力やカリスマ性が伴ってないから、とてもじゃないが無理だろ。


「いやいや、リーダーを目指すべきですよ。ええ、是非」


 ……金の力か? なんか急に態度というか、温度感が変わったんだが。

 まさかカタにハメようと……いや、優しそうだし……美人だし……悪い人じゃないとは思うんだけど……。

 でもタイミングがなぁ……大金を見てから目の色が変わったというか……。


「それはまあ、目指せるなら目指したいですが……俺は生まれも育ちも普通で、特に秀でた物がないですし……」


 皮肉というか意趣返しみたいで、我ながら気分が悪い。だが、探りを入れるのは大事だ。千クレぐらいならまだしも、十万クレだぜ? 贅沢しなけりゃ、二年は生きていけるぐらいの大金だぜ?

 騙されました、失いましたじゃ許されない額だ。いくら国営のギルドだからって、全幅の信頼を寄せちゃいけない。むしろ国営だからこそ、信じちゃいけない。弱者を食い物にして、富める者をとことん富ませるのが……。


「私の態度が気に障ったなら謝罪いたします。申し訳ございませんでした」


 深々と頭を下げてきたが、これはいわゆるポーズだろうか? この程度で流される俺では……。前かがみになったことで、目のやり場に困る状態になっているが、そんなことで気を許す俺では……。


「私は心配なんです。一攫千金を狙って命を落とす冒険者は多いですから」


 ……もう少し人を信じてもいいのではないだろうか? そうだよ、俺は少しばかりナーバスになっていたんだ。この人が俺を騙す理由なんてないじゃないか。このお姉さんは、あくまでも一職員にすぎない。

 俺がこの人の立場ならどうする? 冒険者の行く末なんかどうでもいいから、実力不足だの過大目標だの気にせず、適当に承認するんじゃないか? 俺に限った話じゃなく、大体の人間はそうするんじゃないか?

 うん、良い人だよ。わざわざ気にかけてくれてんだぜ?

 谷間が見えたとか、手を握ってもらえたとかそんなことどうでもいい。この人の誠実さに心を打たれたんだ、単純に。


「わかってます。詳しいお話をお聞かせ願えますか?」


 信じよう、この人を。

 大丈夫、俺は人を見る目があると自負している。もし、話を聞いていくうちに、不穏な空気を感じたら、その時に再度疑えばいいじゃないか。

 こんな数分のやりとりだけで善悪を判断しちゃいかんよな、うん。


「ありがとうございます! では、大規模なパーティを組むことの難しさからご説明させていただきます」


 ほら、誠実じゃないか。悪い部分をちゃんと話してくれるんだぜ? 契約結ばせたもん勝ちの世界で、都合の悪いところを隠さないんだぜ?


「一般的には同レベル……駆け出しの冒険者同士でパーティを組むと思います」

「ええ、熟練者の人達は、駆け出しと組むメリットが薄いでしょうし」


 組むとしたら……荷物持ち? 駆け出しなら安く使えるだろうし、ありうる話だよな? いや、守らなきゃいけないってことを考えるとダメか?


「成長していけばメンバーも増えていくかと思いますが、途中加入したメンバーと既存のメンバーが、絶対に上手くやっていけるなんて保証はありません」

「それはまあ……」


 おそらく一般的な職業でも一緒だろう。実力や経験に差がある上に、一緒に過ごした時間が著しく少ないメンバーが入ればこじれる。よくある話だろう。


「そもそも自分がリーダーになるというのが、難しい話です。他のメンバー達より頭一つ抜けている必要がありますから」


 確かに……カリスマ性、リーダーシップも問われるだろうが、フィジカルでトップじゃないと話にならないか。


「方向性で揉めることも珍しくありませんし、途中で引き抜かれる恐れもあります」


 なるほど……手塩にかけて育てたメンバーを横取りされることもあるのか。


「ある日突然仲間が覚醒して、リーダーの座が危うくなることもあるでしょう」


 ……あまり深く考えてなかったが、難しいな。要するに俺の下に着いたほうが得だという状況を、キープしなきゃいけないわけか。

 ……いや、どうしようもなくない? 地元の友人達と組むぐらいしか解決策が思い浮かばないんだが、組める奴がいたらハナから連れてきてるんだよなぁ。

 そもそも友人だから裏切られないなんて保証もないし。


「まだまだ問題点はあります。メンバーを軽々に脱退させることはできません」

「ええっと……?」


 脱退って……クビにするってことだよな? リーダーなら解雇する権利はあるだろうけども……。ああ、そうか。


「メンバーを簡単に切り捨てるリーダーだったら誰も着いてこないし、スカウトも上手くいかないってことですか?」

「そのとおりです。さすがシャグランさん」


 露骨なおべっかだが、美人に褒められるというのは気分がいい。いや、決して俺がちょろいわけじゃなくて、当然の摂理といいますか……。


「メンバーの性格や能力は実際に使ってみないとわからない。でも実際に使えば、そのまま使い続けなければいけない。理想のチームを作り、その頂点に立つというのがどれだけ困難なことか……」


 ダメだ、頭が痛くなってきた。八方塞がりだが、一体どんな解決方法があるというんだ? 良い人と出会うまで、一時的に組むというのを繰り返すしかないのか?


「その全ての問題を解決する方法として、派遣制度というものがございます」

「派遣制度……ですか……?」


 初めて聞く制度だが、先ほど列挙された問題点を全部解決できるだって? そんな都合の良い制度があるのか?


「駆け出しの冒険者さんが使うような制度ではないのですが、大手を目指すなら使うべきかと」


 駆け出しの冒険者向きじゃない制度をわざわざ俺に勧めるのか? まだ駆け出してすらいないというのに。

 当然と言えば当然だが、デメリットがあるってことだよな?


「その制度がどういうものかわかりませんけど……基本的にはある程度経験を積んでからのほうがいいんですか?」


 デメリットがあることは問題じゃない。どっちのデメリットが大きいか、ただそれだけが問題なのだ。


「まあ、お金がかかりますし……。ですが早いに越したことはありませんし、お金があるなら是非……」


 なるほど、金を見てから目の色が変わったのはそういうことか。

 悪い見方をすれば己の業績のため、好意的な解釈をするなら俺の将来のため。

 よし、好意的な解釈をしよう。別に受付嬢さんが美人だとか好みだとか、そういう問題じゃない。いや、多少は関係してるけどさ。

 俺は藁にもすがらなきゃいけないんだ。先ほど出た問題点を解決する自信がない以上、派遣制度を利用するしかあるまい。無論、内容次第だが。


「本当に問題点をクリアしてるんですか?」


 一応言質を取っておこう。やりとりが記録されていないとはいえ、立場上嘘をつくことはできない。つまり、俺からの質問に対する答えは全て真実と見ていい。

 そうだよ、国営のサービスにおける詐欺事件ってのは結局『聞かれなかったから答えなかった』ってのが真相なんだよ。ガンガン質問していけば、ハメられることはないはず。


「ええ、勿論です。多少のお金はかかりますが、将来的なことを考えればプラスになるかと」


 なるほど……プラスになるかは俺次第だけど、問題点はクリアできていると。


「わかりました……では説明をお願いします」


 大丈夫……。制度に問題があると感じたら、その時は断ればいい。世間知らずの田舎者ではあるが、むざむざ金をだまし取られるほどバカじゃない。なあに、話を聞く分にはタダってヤツよ。


「派遣冒険者というのは、ギルド直属の冒険者です」

「……それは冒険者全員に言えることでは?」

「いえ、一般的な冒険者さん達とは違い、自分の意思でパーティを組んだり、クエストを受けたりすることができません」


 ……えっと?


「悪い言い方をすれば、レンタル冒険者ですね。メンバー募集中のパーティに一定期間加入させるための」

「……要するに相方を組むというよりは、俺が雇用するってことですか?」

「ええ、ええ。おっしゃるとおりです」


 なるほど、それなら確かに方向性で揉めることはないし、俺がリーダーってのは確定するのか。雇用者と労働者、どっちが偉いとかはないと思うが、どっちかといえば雇用者が有利だろうし。


「能力につきましても、ギルドのほうで厳正な審査をしております」

「えっと……そのデータを見たうえで選ぶことって……」

「勿論できますとも」


 え、めちゃくちゃ良いシステムじゃない?

 派遣って言葉に聞きなじみはないけどさ、なんとなく悪いイメージがあったんだよ。適当な人材を斡旋して、仲介手数料を吸い取るみたいな。

 パーティに欠けている要素を埋めるには好都合な制度じゃん。駆け出しが使う制度じゃないってのがよくわかったよ。俺が手を出すには、明らかに早すぎる制度だ。


「でもそれって、一時的な埋め合わせですよね? ソロの俺が使っても……」


 多分だけど、ダンジョン攻略とかで使うもんだろ? 前衛に不安があるとか、回復役が足りてないとか、そういう時の穴埋めをするための制度では?

 ソロの俺が使っても、最終的に困らんか? 派遣なんて金の切れ目が縁の切れ目なわけだし、場合によっては中堅のソロ冒険者になるのでは。

 その場合ってどうなんの? 俺も派遣される側になっちゃうの? 嫌だよ?


「いえいえいえ、派遣のかたを正式に雇用することもできるんですよ」

「ええっと? ギルド直属の冒険者を引き抜くというか、買い取る感じですか? 失礼な言い方かもしれませんが」

「その解釈で間違いございません。派遣期間をお試し期間だと考えれば、わかりやすいかもしれませんね」


 なるほど……契約中にウマが合わない、役に立たないと思ったら、契約を更新しなければいいわけか。解雇ではないから、悪評が立つこともないだろう。

 え、めっちゃ良くない? これなら駆け出しの俺でも、パーティを運営していける気がしてきたぞ。

 金額次第だが、さすがに十万クレなら足りるだろ。大金を持ってスタートした俺だからこそ使える、最強の特急券じゃん。悪いな皆、駆け出しの俺が飛躍を遂げるぞ。

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