第33話
「ちょっと待って!? にえって生贄のことですよね、何お供えしたんですか!? 血を入れたインクって何に使ったの!?」
怖ろしすぎる情報に、とうとう遮って問いただしてしまった。エレノアの勢いに一瞬びくっとするも、レティシアは覚悟を決めた顔つきで話を続ける。
「自動筆記、のようなものなのです。贄は学院で、魔法薬のテスト用に飼育している絹ネズミを。そして用意したインクで、紙にアルファベットを一文字ずつ書いて、呼び出した精霊にお伺いを立てるのです……わたくし、先を知りたい一心で、友人を巻き込んで」
真っ先に訊ねた質問に、返ってきた答えはいたって簡潔だった。『お前がなればいい』と。
「その答えを読み取ったところから、記憶がなくて……皆さんにあさましい姿をさらしてしまって……申し訳ございません……!!」
あとは言葉にならないくらいの号泣だった。思わず背中をさすってやりながらも、薄ら寒いものを覚えて鳥肌が収まらない。
(それってまさか……いや、ここは西洋ファンタジーの王道を突っ走ってるような世界観だし。どこから仕入れてくるっていうの、そんなネタ)
でも、ものすごくよく似た占いを、エレノアは前世から知っている。その知識と、山ほど呼び出されていた野狐とを合わせると、もはや確定なのでは……
がしゃ、と廊下の窓ガラスが鳴った。風向きが変わったのか、と顔を上げて、
「……うげ」
ちょうど、自分の真正面。月が翳った暗闇に同化するみたいに、窓にべったり張り付いているものと目が合った。顔と思しきところに並んだ、真っ赤な瞳が三日月のように弧を描く。――そういえばドアの方、さっきからやけに静かな気がする。
(壊した方の窓から外に出て、屋根を伝って来たんだ!!)
「エレノア嬢!!」
飛び込んできたものに襲い掛かられる寸前、ロビンの声とともに目と鼻の先で魔法陣が展開した。派手に空気が圧縮される音がして、向かってきた巨大な影が弾き飛ばされる。おそらく、さっきとはまた別種の魔法だ。
「よしっ、でかしたロビン! あとはオレたちで何とかするからなっ」
「レティシア嬢、その子と一緒に逃げろ! 女子寮の結界はひときわ強固に作ってある!!」
「はっ、はい!!」
「あの、お気をつけて! ……ロビンさん、ありがとう!!」
風の壁で分断される形になったエレノアたちに、生徒会メンバーが実に頼もしい声をかけて集合する。去り際に必死で張り上げた声が届いたか、振り返った救い主がふわりと笑う。いつも通りの表情を見たおかげか、ほんの少しだけれど安心できた。
うんと向こう側で、吹っ飛んで起き上がりかけているさっきの影がいる。ロビンの持つランプに照らされて、その全容がようやくわかる。
暗闇を塗りこめて作ったような、巨大な四足の獣。それが、篝火のごとく燃える両眼をかっと見開いた。
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