第25話
いきなり全面的に意見を求められて、エレノアは正直かなり意外だった。だって中身はどうであれ、現在の自分は十一歳のお子様だ。妙に落ち着いていて気持ち悪い、とよく伯父達から苦言を呈されては反省しているが、年齢と身分相応の言動というやつがどうにも掴みづらい。つまりは相当に変な子だ。いくら多少知識があるとはいえ、こんなふうに真剣に聞き取りをされるとは……
(……いや、そうじゃないか。たぶんこれ、データが少なすぎるから総当たりで行こうってやつだわ)
前世でいちおう研究職というものに就いていた頃、調べたいことに限ってなかなか信頼できる一次資料が見つけられず、周りのみんなと共に頭を抱えたものだ。それが煎じ詰まった挙げ句『ないなら作れば良いじゃない!!』となって、総員一丸となったフィールドワークへと繰り出したのは一度や二度ではない。ネタは現場に落ちている、民俗学は脚でやるものだ!! という、偉大なる先人の教えに則った結果である。
つまりこれは彼らにとって、未知のクリーチャー・和モノ妖怪の一次資料を集める作業の一環。ならば一応先達として、全力で協力する意外の選択肢はあり得ない。よっしゃ任せろ、わたしのデータが火を噴くぜ!!
「そうですね……まず確認なんですけど、ここの学院っていわゆるシールド? 結界? みたいなものって、敷地に張ってありますか」
「無論だ。結界は敷地の外郭にひとつ、内門をくぐったところでもうひとつ。そして教員寮、生徒寮と、各校舎にひとつずつ。召喚術などを学ぶ際は、その周辺を覆う形で臨時のものをさらに増やすことになる」
「ばっちりですね。定期的な見回りとかもされてますか?」
「ああ、週に一度は必ず。術の魔方陣は建物の基礎に組み込まれているから、風化などで綻びが出来ることもほぼない。――はずだ」
「はず? ってことは、どこかしら緩むこともあるんですか?」
俄然やる気になって質問していったところ、てきぱき応答していたジャスティンがふいに言いよどんだ。首を傾げるエレノアに、代わって答えたのはケイの方だった。副会長と同じく二年生だという彼は、黄褐色の瞳を軽く細めて、少し考え込むそぶりをしながら、
「うーん。何年かに一度、ってレベルらしいし、実際オレたちが入学してからは聞いてないんだけどね。なんでだか、いつも同じ場所で綻びが出来るって話だよ? 特にいわくのある土地でもないのに」
「――それ、北東と南西の方角じゃありませんか? 学校の中心から見て」
「「えっ」」
思い当たったのですぐ訊いてみると、生徒会二人が面白いように固まった。あ、やっぱりそうか。
「鬼門といって、北東の方角は陰気が溜まりやすいんです。性質の良くない妖精とか魔物が集まってきて道を作ったりしますし、だから結界も傷みやすいんじゃないでしょうか。この場合、反対側の南西は出口になるので、同じ理由で壊れるんだと思います」
日本ではおなじみの言葉で、いわゆる風水などに由来する考え方である。新しく家を建てる際には、この方角に水回りを集めるとよろしくないともされているが、それはちょっと置いといて。
「もしそっちの方角に池とか井戸とかがあるなら、移動するのは難しいので……北東にヒイラギ、南西にナンテンを植えてみてください。元気でいる限りは魔除けとしてとっても優秀で、門番みたいな役割をしてくれますから」
「あ、ああ。確かに敷地内には少ないな、すぐ手配しよう」
「はい、ぜひ。……あ、あとですね、どうやって入ってきたかってやつなんですが」
「えっ、まだパターンがあるの??」
「ありますよー。多分掘り下げて行けば行くほど出てきますよ?
ホントはお憑かれ様状態だったお姉様達をたたき起こしてお聞きした方が早いけど、さすがにさっきの今じゃキツいと思いますし」
「……あ゛~、そーだな、うん。配慮してくれてありがとうな」
「お憑かれ様……」
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