第23話 渡鴉の初陣

大陸暦1568年9月18日 ヴェスタニア王国首都ボーンシュタット


「陛下、マジャリアにて魔人が大規模侵攻を開始しました!すでに北部の城塞地帯は陥落し、相当数の魔人が現地に侵入。占領を進めているとの事です!」


 ボーンシュタットの王宮にある会議室で、兵士の一人が報告を上げ、国王フリードリヒ2世は表情を険しくする。セヴェリアが国交を有する国々に優先的に敷設した通信網は、速報であれば僅か一日で届くとされる。


「早速動き出したか…規模は?」


「詳細は不明ですが、歩兵5000で防衛していた地域を一日で攻略されたとの事です!すでにダルマチアが援軍を派遣しているそうですが、到着までにはかなり時間がかかると…」


 マジャリアは10年近くに渡ってセヴェリアと友好的な関係を築き上げており、軍も予算の許す限りの範囲内で近代化に勤めていた。また生産物を効率よく輸出するための道路・鉄道の敷設にも力を入れており、それを用いれば援軍を戦場へ迅速に遅れるだろう。


 だが戦場は国境北部全域に拡大しており、手数が足りていなかった。魔人の数はマジャリア近郊で確認できているだけでも数万に達しており、魔物にも対応しなければならない。苦戦は避けられぬ事実であった。


「陛下、此度は世界の危機であります。ポーター氏とティムジン陛下からも許可は下りておりますし、『派遣』にはハードルがありません。東部の戦線構築に兵力を傾けている以上、ここで『手札』を切るべきでしょう」


 カイテルが語り、フリードリヒ2世は小さく頷く。


「うむ…直ちに『渡鴉』を派遣しよう。此度は一国のみの問題ではない、これ以上ブラウアドラーの魔人に好き勝手させるな」


・・・


「という訳で、王国政府はマジャリアに対して援軍を派遣する事を決定した。特に『双頭の鷲』に編入されている君達は、1年生ながらプロの魔導師に比肩する実力を有している。そこで援軍としてここにいる面子を送る事とした」


 高等魔法学院の講堂内で、国王フリードリヒ2世陛下はその場に集められた一同に語り掛ける。


「魔人はすでに多くの罪を重ねている。決して躊躇する事無く敵を排除してほしい。なお指揮官としては適性からヴィルヘルムが担う事となる」

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セヴェリア帝国記~大陸戦争~ 瀬名晴敏 @hm80

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