第20話 本格支援
大陸暦1568年9月9日 ヴェスタニア王国北西部 フリードリヒスハフェン
「いやはや、壮観な光景だわい」
フリードリヒスハフェンの港湾部で、王国海軍司令官のティルピッツ提督はそう呟きながら、港湾部に展開する艦艇群を見つめる。
現在、ブラウアドラー帝国海軍は不自然に思える程に沈黙しており、いつ襲撃を仕掛けてくるのか分からない状態にある。よって今後の非常事態を考慮し、海軍の護衛艦隊を付けて陸軍・空軍両部隊の戦力を輸送していた。
セヴェリア海軍黎明期の巡洋艦「ウラブ」を旗艦とした護衛艦隊は、砲火力に長けた巡洋艦3隻、駆逐艦6隻の9隻で構成されており、しかしそのどれもがヴェスタニアの帆船よりもずっと巨大だった。
軍属含め20000人超の兵員と行動に必要な物資を運んでくるのだ。そのためにセヴェリアは20隻の民間の船舶をチャーターし、バルト海方面の揚陸艦6隻も動員してここフリードリヒスハフェンに運ぶ船団を守るべく、十分な戦力が用意されたのである。
「しかし提督、これでは我が軍の立場が無くなってしまいますな…戦争の主役は彼らになってしまうのでは?」
「いや、その可能性は低いだろう。兵力はたったの2万なのだ。王立工房とクラップ、そしてエルバメタルではすでに銃火器や自動車用部品のライセンス生産準備が進められているそうだが、恐らくは軍にも本格的な強化を求めるつもりだろう。兵器や弾薬、そして装備を直接輸送する事は出来ないからな」
傍に付き従う幕僚の懸念を、ティルピッツは否定する。セヴェリアの援軍には投じる事の出来る手数の少なさ以上に、補給能力の脆弱性が最大の懸念となってのしかかるのだ。であれば数的主力のヴェスタニア軍が奮戦するのが望ましい流れであり、セヴェリアはあくまでもその戦闘の手助けとして振舞うのが最適であった。
「ともかく、我々にはブラウアドラーに一泡吹かせる手段が欲しいところだった。上手く利用してやるとしようではないかね、諸君?」
・・・
首都ボーンシュタット 王宮
「此度は、第10戦車師団のみならず、第2狙撃兵師団の総戦力も展開し、貴国を全面的に支援する事としております。また軍事支援の一環として、王国軍に対して装備の供与と訓練指導も行う予定となっております」
王宮内の会議室にて、セルゲイ・マスコワ・ザハロフはヴェスタニア側閣僚達に説明する。何せ当初は義勇軍でサポートする方針が、本格的な軍事介入を行わないといけないレベルにまで状況が悪化したからである。
「さらに第2航空師団所属の2個飛行連隊も展開中であり、近々航空戦力の訓練指導も開始される予定です。何せ敵は鳥の魔物を開発した様ですので、こちらに備える必要性は十分高いでしょう」
「フム…あくまでも我々の手助けをするという点が強いな。それでも十分に助かるが」
軍の政治面でのトップに立つカイテルはそう呟く。ヴェスタニアの騎士と魔導師のプライドと戦技に対する誇りは、すでにブラウアドラーの魔物軍団と信じがたい戦力の前にへし折られており、断る理由は皆無だった。しかもあのホーエンハイムが生き延びているのだ。恐らく国内の国民達を魔人に変えている可能性は高かった。
「しかしだ、今は相手方は全く動きを見せて来ていない。そう神経を尖らせ続けるのはどうなのかね?」
「そうして水面下の動きを侮り続けた結果、ブラウアドラーはどうなりましたか?我らは是が非でも同じ轍を踏む訳にはいかないのです」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます