第17話 臨時御前会議

大陸暦1568年8月23日 セヴェリア首都リニスク 統帥本部


 この日、俺は電報で届いた緊急電を基に、臨時の御前会議を開いていた。


「ブラウアドラーを、魔人が占領したとは…なんという事だ…」


 義勇軍の指揮官を務めるクラーヴィチ大佐からの報告によると、新たに現れた敵軍は魔人と魔物で構成された軍団で、しかもこれまで確認されてこなかった鳥タイプの魔物を使役していたり、古臭いもの好きなブラウアドラーが運用している筈のない装甲車両も投じてきたという。これには俺も驚くしかなかった。


「…ヴェスタニア軍の損害は?」


「はっ…2日の開戦から10日の撤退完了までの間に、20000名余りが戦死。10000名以上が戦列復帰が困難な負傷を負ったとの事です。対する義勇軍の損害ですが、戦死者7名、負傷者100名超、自動車7台損傷が内訳です」


 ノルファティが淡々と、しかし沈痛な表情を隠しきれずに報告を読み上げる。こればかりは仕方のない事だ。だが、ブラウアドラー帝国が内部からこうも容易く崩れ去るとは…。


「…ブラウアドラー側からの声明は?」


「はっ…今のところは確認されておりません。が、ヴェスタニアへ命からがら逃げてきた者の何人かは、保護してくれた者達にこう伝えたそうです。『マクシミリアン・ホーエンハイムの名の下に伝える。悪夢はこれから始まる』と」


 やはり、生き残っていたか。となると、此度の戦争は奴の仕組んだものである可能性が高い。それもホーエンハイム一人ではなく、組織レベルでの策略なのだろう。これには俺も本腰を入れて臨まねばなるまい。


「本部長、第10戦車師団の総戦力と第2狙撃兵師団をヴェスタニアへ派遣する。空軍も第2航空師団の第2戦闘飛行連隊を派遣し、敵航空戦力へ十分に対応できる様にしよう。民間から出来る限り多く船舶を徴発し、2個師団を十二分に現地で運用できる様に取り計らうのだ」


「御意に、陛下」


・・・


大陸暦1568年9月1日 ヴェスタニア王国首都ボーンシュタット 宮殿


「魔人が、国を乗っ取るとはな…しかもホーエンハイムが生きていたとは…」


 王前会議の場で、フリードリヒ2世国王はそう呟きながら、ザイドリッツから提出された報告書をテーブルに置く。


「魔人がブラウアドラーを手中に収めた以上は此度の戦争、そう簡単には終わってくれないだろうな。して、他の国々の反応は?」


「まずコサキアの方では、西部地域が政府に対して武装蜂起を開始。国土の半分が親ブラウアドラーの支配領域となりました。これを受けて中央政府はセヴェリアに対して救援を要請。南の方でもマジャリアとダルマチアに対してブラウアドラーの魔人勢力が軍事侵攻を開始しており、戦闘が勃発しているとの事です」


 ブラウアドラー帝国の南には、商業を国家の柱と位置付ける共和制国家トスカニア連邦に、それと隣接するダルマチア王国、ダキア王国との間に位置するマジャリア王国が存在している。中でもダルマチアとマジャリアは潤沢な鉄鉱石が埋蔵されている鉱山地帯を有しており、大陸西部の征服を目論むブラウアドラーと度々戦争を起こしていた。


「フラリアのヒエラノス教会はこの事態に対して『聖戦』の布告を発令。我が国及びマジャリアに対して救援を送る様に、周辺国に呼びかけております。トスカニアとサルジニアはすでにこの要請に応じており、我が国の当事者会談を設ける準備を整えているとの事です」


 大陸西部のうち南に面する地域には、サルジニア半島と呼ばれる地域がある。そこには大きく分けて二つの国家が存在している。一つは半島北部の共和制国家トスカニア連邦。もう一つは大陸南部の王政国家サルジニア王国。この2か国は10年前よりダキアと海上貿易を行っており、セヴェリア由来の科学技術を大々的に導入していた。


「此度の戦争、そう簡単には終わらんだろうな…国境地帯の監視は厳重にせよ。それにセヴェリアも本格的に派兵を行うと通知してきている。これが吉に転ずると良いのだがな…」


 フリードリヒ国王はそう呟きながら、過去最大規模の困難に頭を悩ませるのだった。

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