第21話 接触

「おいルイ!兵士が引いてくぞ!」


追ってから身を隠していたレオとルイは薄暗い

路地裏に座り込んでいた。

兵士の数が多く、手詰まりになっていた二人にとって兵士が引いていくのは一番の好機だった。


「おかしいな。あいつらがただ帰るのは流石におかしすぎる。何かあったはずだ」

「たしかに!さっき一瞬だけど慌ただしいというか…ざわざわしてたよな!」


先程ロイドたちが街に到着した際、情報が兵士にも回り、全員が内心不安になっていた。

もし犯罪者が手を取り合ったら…なんてことだ。


「よく見とるなー流石一級犯罪者を作っただけのことはあるってわけか」


「うをぉぉぉ!お?」


ルイの方向を見ていた直後、路地裏の入口に現れた

俺達よりも一回り大きい影。

予期せぬ後から急に声をかけられたことであまりの驚きにレオは声を上げる。

ルイは特に表情を変えず、男の方をじっと見つめていた。


「そんな驚かんでもー笑

安心していいで俺は味方や。さっき兵士たち引いていったやろ?俺が隊長と交渉してお前らを見逃してもらったんや。こっちに…ひきいれるためにな?」


「反乱軍のものだな?待っていた」


しばしの沈黙の後ルイが立ち上がり、男の前に立つ。

待っていたという言葉は男にとって予想外の出来事のようで少し驚いた表情をしていた。


「ハハ。知らんかったなぁ『無情の悪魔』。情報でしか聞いたことなかったが、知的なタイプか?」

「御託はいい。用件は?」


ルイが即答するとロイドはつまらなそうに顔を曇らせた。そしてまっいいかと改めて顔を上げた。


「もちろん!わかってるやろうが勧誘や。お前の脳みそン中の情報が欲しい」


ロイドはルイの頭に指をさし、喜々とした声でそう宣言した。


「ならば先に反乱軍の情報をよこせ。その勧誘を受けるかどうかを考えるにしても信用ならないからな」


ルイは物怖じせず条件を出した。

ルイは職業柄、利益、不利益を被る交渉は幾度として行い、手慣れていた。初対面、つまりは信用を置けないものには先に利益をもらわない限り応じるほうが愚策だったのだ。そして、それを全くわかっていないのは二人の間に立っているレオである。

当然ながら決定権はレオに任されているものの、

その過程にある話術は持ち合わせていなかった。


「ふーん…まぁええよ?じゃあこんなボッコボコな場所で話すのもなんやし俺等の基地にいかんか?」


話はルイのおかげですんなりと進み、レオは何もわからないままロイドについていくことになったのである。

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「おいルイー…今これどういう状況?」


ロイドが越し離れた先頭を歩き、基地に案内されている道中、情けない声でレオはルイに質問した。

ルイは知っていましたというような顔をして説明を始めた。


「追手がつく今俺たちが協力すべきなのは境遇が

同じ反乱軍だ。二人だけで生きていってもただの隠居と同じだからな。だが情報を持っているからといってもちろん最初から信用されているわけでもないし、なんなら情報だけ奪って殺されるなんてこともある。信用は時間とともに勝ち取っていくものだ。そしてそのためにも一つひとつの行動を慎重にそれでいて従順する気はないことを示すために強気でいくのが大切だ」


「な、ナルホド。俺には思いつかない領域だな」


「まずは何事にも情報だ。どこかのチームに入れてもらうにしても、チームをつくるにせよまだわからないことだらけだ。情報屋なんてのもいる。本当はそっちに聞くのがベストだが、そう簡単には会えそうにもない。こいつのチームもなかなかでかいほうだから問題ないはずだ。戦闘面も重要だが、情報はそれ以上に必須だと覚えておけ」


「わかったぜ!流石ルイ!俺が最初の仲間にしたのも頷けるぅ!ってうぉぁ!」


いつの間にか近くまで下がってきていたロイドに

レオはまたしても大げさに驚く。

その様子をルイは呆れたように見つめていた。


「いやーキミは本当に感謝したほうがいいと思うでー?実力、経験、性格、情報、どの面からとっても優秀な人材や。逆に言えば君なんかについて行っているのが不思議なくらいやで?」


レオはうぐっと呻きを上げ、ごもっともすぎて何も言い返せなかった。そんなことは自分でもわかっていたし、今まさに釣り合うようになろうと必死だったのだ。それに何か言おうものならいつでも言い返すとばかりの目をロイドから感じていた。

これは何か探られているのだろうか…?


「おい」


声の主は隣にいたルイだった。

殺気こそ出していないものの、眼力だけで

人を殺してしまえそうな恐ろしい顔をしてロイドを見つめていた。


「…おおっ怖っ。んなあからさまにかばうようなことしてー…本当はこいつなんかについていきたくないのについて行ってる…とかじゃないん?」


「黙れ。お前に俺たちの関係を話す必要はないはずだ。それに事実だとしても相手の機嫌を損ねるような真似は褒められることじゃないぞ」


話は終わりだ、と言わんばかりにルイは顔を背け、また歩き出す。

それを見たロイドはルイを静止した。


「おいおい。ちょっと待てや。少しくらい弱み。見せてもええんちゃう?そんくらいしてもらわんとー基地に連れてくの怖いわー」


少し強くなった言葉遣いにルイは立ち止まった。

そんなことはつゆ知らず。レオは白々しい棒読みにツッコミを入れた。


「何だそれ。俺に交渉ってもんは知らないけど条件にそんなのなかったはずだろ?」


俺は横に並んでいたロイドに言った。


「…」


ルイは少し離れたところで振り向き、眉間にシワを寄せている。またしてもの沈黙は俺には何かを読み合っているように見えた。


「……はぁ、わかったからそれ降ろせ」


突然の意図がわからないルイの返答に俺は首を傾げた。今の言葉はどちらにかけたものだったのか。何を降ろすというのか。俺の疑問はすぐに理解することとなった。


「あはwやっぱこいつはお前にとって大きいらしいな?」


「!?」


横に目を向けると腹黒い笑みで両手を挙げているロイドの姿があった。だが片手には装飾品がついたジャガーナイフが握られている。

それを意味することは、あれが自分の身体に突きつけられていたのだろうと予想がついた。


「それ俺に刺そうとしたのか」


「んー?あーそうやでーごめんな?やっぱり隠し事って良くないやん?」


言葉だけの謝罪はこんなにもムカつくものだったか。そう思わせるほどに悪びれなく微笑んできた。


「もういいだろ。弱みなら今握った。さっさと君に案内しろ」


「…はーい」


もう何度目だろうか。自分の無力感を感じるのは。

前を歩いている二人を見据え、おいていかれている現実を深々と心に刻まれたような気がした。

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英雄日記 @2Zhiroaka

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