第20話 反乱軍

ヒスイと朧はアーイラと話すため、街の入口まで足を運んでいた。

そこに兵士と見覚えのない一つの人影が歩いてきた。その人影はヒスイの前でピタリと止まった。


「てめぇが俺と話したい野郎か?」


ヒスイが男に話しかける。

だが男はヒスイの小さい体型で胸を張り、自分を大きく見せようと奮闘している様子な鼻で笑った。

それを見逃さなかったのか今度は下から睨みつける。男は当然ながらヒスイよりも大柄だったので今睨んでいるこの状況でも朧からは親子に見えんでもなかった。


「ふふっ…結構名の通った強者やと聞いてたのに意外と小柄やなぁ」


———ピキッ

初対面だと言うのに失礼な態度を取ってくる男に

ヒスイは怒りの感情を早くも覚えた。

密かに(?)コンプレックスにしていた小柄という事実と、それを隠そうとする精一杯の努力を鼻で笑られたことで、眉間を寄らせる。


「うるせぇよ。人の見た目にとやかく言ってんじゃねぇ!それに!世の中俺よりちっせぇやつはいくらでもいるからな!!……それより要件を言え。早くしないとその無駄に装飾品がたくさんついてもはやそっちが本体かと思わせるようなその面ボコボコにして塩で炒めてから食わずにゴミ箱へポイするぞ!」


男の頭には様々な装飾品がついていた。

ピアスを何本も開けていたり、ピンを何本かつけていたり。歩くたびにぶつかり、音を鳴らすそれは

不愉快に見えたのだろう。

後ろで聞いていた朧は変わった言い方だな…と

遠い目をして見守っていた。

ちなみに朧に隊長が侮辱されただとか不敬だとかそんな感情は一切湧いてこなかった。

もちろん信頼をおいている上、その強さ、立場も部下からしたら周知の事実。しかし、それ以外の日常生活と来たら全くとして威厳がないガキである。

つまりはしょうがないと思っている。

男はヒスイの露骨に怒った反応に困惑した。


「すまんすまん。本当に驚いたから言ってしまっただけなんや。悪気はない」


先程のことを謝罪し、男は胸の前で手を合わせた。

その様子を見てもまだ不服なのかヒスイはふんっと顔をそらす。

ヒスイは話をさっさと終わらせたかったのだろう。

それで?と本題を聞いた。


「じゃあ本題なんやけど、今おたくら一級犯罪者

『無情の悪魔』、それともう一人の三級犯罪者と戦ってたやろ?その二人、俺の顔に免じて見逃してほしいんや」


「は?」


突如周りに殺気が漂う。

殺気は相手に殺す意思がある場合、ほとんどの場合は殺すときに出る気だ。

暗殺部隊は気が排出されると周囲の人間にバレる、失敗の可能性が出る等のデメリットがあるため、

修行時代に気配とともにでないよう教育される。

今出ている殺気はわざと相手に向け、恐怖を感じさせるための物である。

とてつもない殺気に味方である朧や兵士たちも身震いをする。対して、それを一番感じているはずの男は涼しい顔をしてヒスイと目を合わせていた。


「やっぱり戦力的にも欲しいし…何より国の情報持っとるやつを引き入れたくてなぁ。どうや?

できそか?」


男は悪びれなく肩をすくめた。

その表情に特別な感情はなく、ただお願いをして笑っているとしか思えなかった。

その光景はまさに異常。一般市民が受けたら失神するほどのものを受けていながら飄々としている姿はレベルが違うことを思い知らされる。


「てめぇの名前。まだ聞いていなかったな」

「あー!そうやったな!俺の名前はロイド!よろしくな!」


ロイドはヒスイにさらに近づき、手を差し出した。


「そうかぁ…特別に俺をムカつかせた肝が座った人間だと覚えといてやるよぉ」


ヒスイは鎖を持ち直し、体勢を低くする。

殺気は全くと言って良いほど消え失せ、完全に暗殺モードである。

それを見た朧は咄嗟に飛び出していた。


「待ってください!ここで戦闘するとは得策ではありません!」


飛び出した朧は二人の間に立ち、手を広げた。

両者の視界に映った姿の主はひどく焦っており、

大量の冷や汗と恐怖を押し殺して下唇を噛んでいるのがみえた。

その場で動いているのは朧のみで、目だけを動かし、いつ飛びかかってきても対応ができるように警戒していた。

意図に気づいた少数の兵士たちもハッとし、戦闘を止めようと走ってきた。

状況を把握したヒスイはおい!と声を上げた。

ロイドは特に表情に変化はなく、朧と周りの兵士を見つけていた。

その様子を確認した朧ははぁぁぁぁあとため息を付いて次面にへたり込んだ。


「勘弁…してください…」


その声はひどく弱々しく、自分の殺気と行動がそうさせたのだと気づいた。

兵士たちも気が抜けたように地面に座った。

状況を把握したヒスイはやりすぎた…

と独り言を漏らし、武器を収める。


「…ロイドさん。今回はあなたの要求を飲み、

2人を見逃します」

朧はロイドに向き直る。

「次は、ありませんからね?」

「…わかっとるよ…次は敵同士やな」


「ッチ。帰るぞ全員集めろ」

「はい」


話が終わるとヒスイは部隊員を集めて街から撤収していった。

街に残ったのはロイドとレオとルイである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る