第19話 事情なんてたくさんある
俺とルイは包囲網を突破し、身を潜めていた。
「ありがとなルイー!助かった!」
「いや。謝るのは俺の方だ。邪魔なんて偉そうに言ったくせに、結局助けられ、危険な目に合わせた。すまなかった」
そう言ってルイは頭を深々と下げた。
「まぁっ!さっきあんなにカッコつけちまったら嫌でも恥ずかしい真似できねぇよ」
『俺についてきてよかった』
いつかルイにそう思わせるために、英雄になる第一歩。まずは、仲間と肩を並べて困難を乗り越える
「だが、今かなり困った状況だ」
状況は完全に悪い方向へ向いていた。
その理由は包囲網を抜けられていないからだ。
現在、街を取り囲むようにして兵士が新たな包囲ができていた。どうやら街の中に入ってきたのはごく一部の兵士のみだったらしい。
さらにまちなかには俺達を捜索しているヒスイや朧。
もし街の外へ出れそうになったとしても、街中よりも多い兵士がいれば意味をなさない。
ここにいても見つかるのは時間の問題。
これは積んでいる。
「…どーする?」
「どうするか」
俺達に打つ手立てはなかった。
————————————————
「…あー…まだ見つからねぇのか」
ランドルの中心部に兵士からの報告を待っている朧とヒスイがいた。
「…そもそも殺せるタイミングで殺しておくべきだったでしょう」
朧にしては『チェックメイトだ』なんて言っている間に殺せていた。と思っていた。
「うっせぇなぁ…あいつとはまだ話すことがあったんだよ」
ヒスイは部下にルイとの戦闘で消耗した体力を回復させていてください。と言われ、断ったが朧の追い討ちを受け、渋々休んでいる。
本当なら今すぐにでも追いかけたい気持ちを必死に抑えていた。もちろん殺す気で。
武器を付近に置き、あぐらをかいて、膝に肘を置いてつまらなそうに話し始める。
「あいつ弱くなったんだよ」
「弱く…ですか?ずっと見てきてあまり感じませんでしたが…」
朧は隊を作る際、一番最初に選抜されたメンバーで、それからと言うもののヒスイがやりたがらない仕事や、隊の育成、他の隊への交流など仕事をよく引き受けていた。必然的に、同じ暗殺部隊のルイとも交流が多かった。
「というか腑抜けた。多分さっきブラフ言ってた野郎にたぶらかされて、強さの一部がなくなったんだよ。俺等暗殺者は人を殺す覚悟が大きいほど強くなると言っても過言じゃない」
「過言でしょう」
「っ………とりあえず!それが中途半端になっちまったらどうしても弱くなるもんなんだよ」
「そういうものなんですかね?」
「くそ!あのクソ雑魚悪魔見つかったら今度こそしばいて手加減無しでめちゃくちゃに負かせて優越感に浸りながら殺してやる!」
「性格悪いですね」
とはいってもヒスイにとってルイは特別な存在なのだと薄々感じていた。
今まで私達部隊以外に深く話したりすることはなく、壁を作って距離を守っていた。
だと言うのに、ルイさんとだけは喧嘩になったり、模擬戦をしていたり。何かと関わり、初めて心を開いた人物なのだと思った。
どちらも早く名を挙げ、上から目をつけられ、同等の役職につき、何かと恨まれやすい位置にいた二人は感じるものがあったのだろう。
「はぁ、しかもあいつ能力持ってるんだぜ?使ってんのみたことねぇけど」
「そうなんですか!?…石…持ってたんですか?」
「あいつのピアス。それが石だ」
そんな事を話していると街にいた兵士の一人が報告をしに戻ってきていた。
「報告です!」
「おっ見つかったかー!?」
嬉しそうに武器を手に取り、ジャンプして立ち上がった。朧も報告をしに来た兵士に体を向ける。
「いえ…その別件でして…」
「…別件ですか?何か問題でも?」
申し訳無さそうに言う兵士に少し嫌な予感を覚えた。嫌な予感はだいたい当たる。
「反乱軍がこの街に進軍しているとのことです!」
「はぁぁぁぁ!!??」
「ええええ!?」
「どこだ!どこの反乱軍だ!」
ヒスイが兵士に近づき、肩を掴んで前後に動かす。
朧も動揺している様子で、いつもならやめさせる行動を黙ってみていた。
見捨てられた兵士というものの、抵抗なくされるがままだ。脱力しているかのように頭がしなやかに動いている。
「そ…そっの!『アーイラ』です!」
「アー…イラ?んだそれ?」
肩においていた手をやっと離し、呆ける。
開放された兵士はなんとか座っているものの、天を仰いでいる。兜で目は見えないが、きっと目が回り、気持ち悪くなって…死んだ魚のような…
「隊長。資料見てないでしょう。『アーイラ』はかなり大物の反乱軍の一つです。まぁ、基本的には表立って行動しないため、優先度は低いですが…」
「それ…っとその…ウプッアーイラの…代…表がっヒスイ隊長と…話したいと言っているらしく…」
かなりかすれた声で報告をしている。もう限界のようだ。
「俺と?別にいいが」
「今進軍しているんですよね?どうやって聞いたのですか?」
「実は…アーイラの代表がもうすでにこの街の中にいたのです」
衝撃の事実に朧は一気に頭が冴えた。
脳裏にはこの作戦に関わる全ての情報が復唱され、敵を身近に潜ませていた自分の落ち度に絶望を
掻き立てられた。
————いつから…?もしかしたら隊長を危険にさらしていた。
朧は人よりも責任感が強く、失敗すれば自分をこれでもかというほど追い詰めた。
それを一切として気にしていないヒスイは朧の背中をポンポンと叩き、落ち着かせてから話し始める。
「会おうじゃねぇか。俺を殺せる可能性があったにも関わらず殺さなかった意図を聞きてぇしな」
笑みを浮かべ、兵士に言われた場所まで歩いた。
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