第18話 包囲網突破術!
コナゴナに砕けた街の残骸で埋め尽くされていた。
砕けた街の残骸を作ったのはこの目の前にいる
人間。ヒスイである。
機動力、破壊力ともに申し分ないヒスイ専用に作られた鎖。それは専用にふさわしい実力を必要としている。
ヒスイの身体能力は周囲より抜きん出ており、
それは俺をも寄せ付けなかった。
武器を一切なしにターゲットを殺すことなど容易にこなしてきた。首を折る、首を絞める、頭蓋骨を割る、目を潰す。方法は様々だが、どれも人間離れした力だと言われている。
下積み時代から上から目をかけられていたヒスイ。
初めて俺の同世代で名を挙げ始めたのはヒスイだったのだ。
瞬く間に城や街に広がり、周りからみる目は変わっていった。それは同時に自信にもつながる。
高いプライドからかヒスイが天狗になるのはきっとすぐだったはすだ。
それと裏腹にヒスイの姿を見るときは決まって城の中で打ち込みをしている。
はたから見ればさらなる強さを求めるて真面目に修行している一兵士。
さらに一部のものからみれば上にアピールをしているずる賢い人間。
だが俺はそうは思わなかった。
ヒスイはただの一兵士でもずる賢いやつでもない。
それからも見かけるたびに、あの目立つ訓練場で打ち込みをしていた。
ついにヒスイは専用の武器を与えられるにまで成長した。
嬉しくはなかったのだろう。きっと俺しか見ていなかったヒスイの顔はどこを見ているかわからない骸な目をしていた。
与えられた鎖は腰に常に携えており、周りからよく見えた。
ここらへんからヒスイを取り巻く周囲の人間が減っていった。
その理由は同年代で名を挙げ、上からも目をかけられ、隊長でもないはずなのに専用武器を受け取り、間もなく小隊長になると言われていたからだろう。
本人も周りと関わることはなく、ずっと稽古に打ち込んでいた。
予想は的中しヒスイは間もなく小隊長へと昇格した。位が上になっても周りからの嫉妬の目は変わらなかった。
それどころかさらにエスカレートし、直接何かしてくることはなかったとしても悪口が絶えない日々だった。
この頃、俺も名を挙げ、すぐに小隊長へと昇格した。
前からなかなか任務でともにしてこなかった俺とヒスイは初めて言葉をかわした。…だと言うのに。
ヒスイは一度話すと俺を俺を親の敵のように睨んできた。
見ているだけだがこれでもヒスイのことを気にかけていたというのに。俺のヒスイに対する気持ちはこの時間だけでプラスからマイナスにまで落ちた。生まれてこの方このような純粋な気持ちで人の心配をしたことがなかった俺はかなりの傷を心につけ
られたんだ。
………傷ついた。とは別にヒスイの観察は絶やさなかった。小隊長になって変わったことが少しあった。
一つはヒスイの部隊ができたこと。
部隊は隊長であるものが自分が欲しいと思っている人を選別し、自分の隊に入れる。
すでに他の隊に入っている場合は部隊の隊長同士で話し合い、様々な方法で引き取り合う。
はじめはこの方法であってもなくてもヒスイの隊はまとまらないだろう。と思っていた。
今になってはそんなことは一切なく、チームワークで勝負をする強力な部隊となっている。
なぜか。それはどんなに観察していたとしてもチームの内情まではわからなかったので闇に包まれている。
もう一つはヒスイとの仲が超絶に悪くなったこと。
言わずもがな理由はわからなかった。
—————————
「なんで部隊から消えたんだ。あいつに何言われた」
「何も…?」
周りは兵士に囲まれ、すぐに止めを刺せるよう朧とヒスイが目の前で武器を構えているこの状況で、
ルイはヒスイをおちょくるような笑顔で答えた。
「今の状況わかってんのか?今すぐにでもてめぇの首は落ちるかもしれねぇんだぜ?」
「それはないな。お前は殺さず城まで連行するだろう」
「…命乞いはもっとうまくするんだな」
「お前は優しいからな」
命乞いに思えるその言葉はただ静かになった街に響くだけだった。
届いたのは、ヒスイだけ。
「俺はオメェのことが嫌いだぜ」
「俺もだ」
ヒュッ
っと鎖がルイめがけて空を裂く。
きれいな直線で向かってくるのをみながらルイは覚悟を決めていた。
だがそれは、ルイの体に届くことなく、目の前から消える。
「うおっ?」
鎖だけでなく、ヒスイまで上に引っ張られ、宙にぶら下がっている状態になる。
吊るしているのは糸だ。
その糸はどこかでの記憶に残っていた。
キラキラと光を反射する糸を伝って見るとそこにはレオがいた。
「ルイ!今のうちに逃げろ!」
「「「!」」」
屋根の上で叫ぶレオを見て、放心状態になる。
————なんでいる?どうやってヒスイを…?
逃げろと言った?ここがどうしてわかった?
今どういう状況だ?なんで戻ってこれたんだ。
レオの意思はわかっていたし、気合があることは知っていたが、死んでしまっては意味がない。と
レオに一番効くであろう言葉をかけ、逃がした。
結果的にレオの心は傷ついただろうし、残された俺は死ぬかもしれない。
その覚悟でいたのにここにいては全くの無意味。
このままだと、レオも死ぬ!
そんな事を考えている間に、ヒスイが糸を引きちぎった。
「てめぇさっき逃げたやつだろ。殺されに来たのか?」
「ルイ!立て!走って逃げるんだ!」
レオはヒスイの言うことをガン無視して話を進める。その言動に苛立ち、ヒスイはピキッと眉間にシワを寄せる。
ルイはレオに言われ、立ち上がり、包囲網から抜ける。
「逃がすと思ってんのかぁ!」
「おっと動くなよ!ここには俺の能力でいたるところに即死トラップが張られている!」
「んだとぉ!?」
ヒスイと朧が周りを見渡す。
なにもないことを確認しているようだ。
もちろん俺には能力なんてないし、さらに言ってしまえば、トラップなんて一つ2つくらいしか張っていない。
ルイが逃げるまでのブラフだ。
いつかはバレるが、時間稼ぎをできればそれでいい。
「でまかせを!そんな能力があるのなら最初から逃げる必要なんてなかったじゃない!」
痛いところを突かれる。どうやらバレるのは時間の問題のようだ。朧は半分気づいているのかもしれない。
「……っふ。そ…それはー…トラップを取り付けるには時間が必要だったのだ!だがそれ故に!受けたものは必ず死ぬ!最強のフィールドだ!」
あまり嘘を口にしていなかったからか、動揺が誰にでもわかるくらいに漏れ出る。
それに口調も変わり、ラスボスの雰囲気を出してしまった。
逆にコイツラにとっては怪しむ行動だろう。
「はーん…本当にそんな能力あったらうちに欲しいところだがねぇ…しっかり暗殺向きの能力だ」
先ほどとは雰囲気が違うヒスイにヒヤヒヤするが、呑気に勧誘を始めたことからまだ確信はもたれていないことに安堵の息を漏らす。
ただ、ヒスイはこちらを見て笑みを浮かべている。
「隊長!?」
ヒスイはレオの忠告など耳を貸さずに動き始めた。朧は動揺しているが、その目には一切のゆらぎがなかった。
「…何も作動しねぇなァ…」
…!
なんてやつだ!やっぱり確証なく動いたのか!
確証がなかったはずなのに…迷いなく動きやがった!死ぬかもしれねぇんだぞ!それに、隊長という立場からもそんな無茶だめだろ!
考えがまとまらないうちに、目の前に鎖が飛んでくる。
よけようとしたところに、包囲網を抜けたルイが走ってきた。
「ルイ!?」
「逃げるぞ」
勢いそのままに俺を担いでルイは走り始めた。
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