第17話 死ぬことだ

「ハッハァ!よぉ元気にしてたかよクソ雑魚悪魔ぁ!

我らが王の命令でてめぇを抹殺する!」


俺の頭上から降ってきたのは長い髪を一つに結んだ少年。手には地面を砕いたらしき鎖を持って鋭い目でこちらを見ている。


「あいつが追手…!」

「始めまして。この俺は暗殺部隊所属。小隊長の

ヒスイだ。この名が世界に響けばいいと思っているから噂を広めてくれると助かる」


そう言って鎖を鳴らす。


「まぁ…殺すから意味ないか」

「っ…!?」


殺気とともに足を蹴り、鎖を構えながら真っすぐこちらへ向かっていくる。

レオは避けきれないことを悟り、反射的に目をつむる。ルイは向かってきたヒスイを止めに前へ出て、武器を取り出す。


がキンッ

金属同士がぶつかり合う。


ルイが攻撃を防ぐために出した短剣に鎖が巻きつけられ、動かなくなっているのが見える。

それを見て笑ったヒスイが鎖を振り上げ、短剣を取り上げた。


「おいおい、早く済ませたいんだ大人しくしとけ」

「無理なお願いだな。というか無理だとわかっているのに何故聞いてくるんだ。頭が足りていないんじゃないか?成長しないというのは考えものだな。」


———————ルイが饒舌だ。


ヒスイが顔を曇らせる。

対してルイは無顔に見えるが少し笑っているように見えた。


「おい!なんだ!」


周りがざわつく。

どうやら近くの住民が騒ぎに気づき、近づいてきているらしい。

すでにヒスイが街を容赦なく壊しているため、言い逃れはできないだろう。

ヒスイとルイはさらに顔を曇らせる。


「っち、外野が集まってきたな」


すると、後ろから沢山の足音が聞こえてきた。

ガシャガシャと金属の音が混じって…


「隊長!」

「はぁ…くんなよ」


住民をかき分けて見えてきたのは50人程度の兵士たち。鎧をもれなく装備をし、武器は剣、槍、弓など様々だ。

先頭を走ってきた女性は周りと異なり隊服を着ており、部分部分に鎧を装備している。

腰には剣を携えており、他の兵士とは違う気迫があった。


「くんなよじゃないんですよ!…はぁ…隊長が突っ走って…困るのはっ…私たちなんですからね!?」


女性と兵士たちは走ってきたからか息が切れ、疲れていた。


「知ったこっちゃねぇな。勝手についてきたければついてくれば良い」


興味がないように手をひらひらと動かす。


「ぐぬぬ…この人が上官じゃなかったら容赦なく殴ってたのに…」


「ヒスイ。また朧さんを困らせているのかそろそろ親離れしたらどうだ」


「そうですよ!もっと言ってください!」


「はぁっ!?うるせぇよ!てめぇに言われる筋合いねぇしーー!!」


三人は今何をしているかなど忘れ、くだらない…小学生のような会話をしていた。


「ヒスイ隊長!朧さん!今そこじゃないでしょう!」


後ろに控えていた兵士の言葉で二人ははっとなる。


「アブねぇ…ルイ。オメェ…催眠術覚えやがったな…」


「覚えてない。」


「じょ…冗談は良いですから!…それより、今回の任務を続行しましょう。」


恥ずかしがっていた朧も任務のことを思い出すと真剣な顔立ちになる。

それはルイも同様だ。


「抜刀!」


兵士と朧が同時に武器を抜き、こちらに向ける。


「レオ。逃げろ」

「何いってんだ。俺も戦う。初めからそのつもりだっただろ?」

「今回は相手が悪い。このままだとお前は確実に死ぬ」

「それも覚悟の上だ!俺も…」

「邪魔だ」


淡白に伝えられた言葉は必要事項だけを捉えていた。

ルイの目はすでに俺を捕らえていなかった。

その間違いがない事実は心に突き刺さる。

自分が弱いために、役に立たないために、

怒りと、悔しさで胸がいっぱいになった。

言い返せないというのは無力さをより一層引き立てていた。


「っ………わかったっ…」


レオはその言葉を残し、敵がいない方向へ走り出した。


「んだよ、逃げちまうのか?」

「では…まずはルイさんからですね。あとから追いましょう」

「来い」


ルイが殺気を飛ばす。

—————————————————————

「はっ…はっはっ…」


レオはルイに言われたとおりに走って敵から逃げていた。


クソクソクソ!

何が俺についてきてよかったって思わせるだ!

それどころか足手まといにはなるし、こんな情けない姿を見せるなんて!


英雄なんて夢のまた夢だ…


レオはその場に立ち止まる。

自然と目から涙があふれ出た。


「おい、店の前で何してんのや」


レオは顔を上げる。

涙で見えづらいが人が自分の前に立っていた。


「何に泣いてるんかは知らんが、ここで泣かれると迷惑なんやけど」


横には周りと比べると少し辺鄙な店があった。

だが、そんなことは考える暇がなく、構わず話した。


「俺の…仲間に…俺何もできなくて…弱くて…逃げることしかできない…」


「…なんやそれ。人間なら何をすることだってできるやろ」


「へっ…?」


「逃げることしかできないなんてお前の思い込みや。言い訳するな。お前にできることは本当にないのか?考えたか?考えて、何もなかったとしてもその命尽きるまで考えろ。自分が後悔することまこれからたくさんある。それをなくすことが今できることなんちゃうか?」


——自分が今できること…

最悪の後悔は…


「………ズズッありがとう。行ってくる」


「おう。気張れよ」


俺は走り始めた。

謎の人は後ろを振り向いたときにはいなくなっていた。

——————————————

「ッチ」


その頃ルイは兵士約50人、朧、ヒスイと戦っていた。


「おいおい動き鈍ってきたんじゃねぇか!?」

「黙れ、単細胞が」


暗殺部隊所属 ヒスイの隊の強さは

『連携力』である。

隊長ヒスイの得意とするフィールドは障害物が多くある街である。

主にヒスイが相手を追い詰め、周りの兵士がそれを逃さないように包囲網を作る。

朧は包囲網を抜けないようにするために近くで探る役割だ。

もちろん個々としての能力も高い。

強敵向きの部隊である。


「オラオラオラァ!」

「グッ…」


屋根の上で攻防しているルイは常に二対一の状態で包囲網を抜けられず、押されていた。


ヒスイと朧に気を取られていたルイは周りの注意力がなくなっていた。


「!?」


屋根から足を踏み外す。

その隙を逃さず、ヒスイと朧が攻撃を仕掛ける。

朧の攻撃は防げたものの、ヒスイの攻撃はくらい、

兵士が構えている付近に叩きつけられる。


「…チェックメイトだな」


レオは未だ到着していなかった。















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る