第16話 追手

買い物などやるとこを終わらせたルイとレオは一刻も早くメルガピアを出た。

今はメルガピアから少し離れた森にいた。


「やっとついたあの街ともお別れかぁー…」


森を歩きながら不満そうに声を上げたのはレオだった。


「何回も説明したが、あそこにいれば早くて今日追手が来ていたかもしれないんだぞ」


その不満に答えたのはルイだ。

だが、この答えは何度も言われたもので、そろそろ飽き始めてきていた。


メルガピアから出る前、宿の中で顔を隠すこと

変な行動をしないこと、ルイの言うことは聞くことなどなど…とてつもない量のルールを作られた。


もちろんそういうことはレオは疎いうえ、ルイを半分自分のせいで犯罪者にさせてしまったという責任感からそれを断ることはできない。

かといって、すべて受け入れて全く不満がないというわけでもない。


嫌なことだが、責任感から断れない。このどうしようもない気持ちは歩きながら不満を撒き散らすことでなんとか消化していた。


「俺英雄になりたいんだけど…てかこの国救いたいって言ったのになんで首都から離れるわけ?首都に王様いるんだろ!?」


だんだんと声が大きくなり、怒りが芽生えてくる。

その様子に呆れ、もう何も言わなくなったルイは黙ってこちらを見なくなった。


「とりあえず、目的地は決まっていない。首都から離れたところで俺たちの拠点を作るのが第一目標だ」

「なんで!?ねぇなんで!?」


ルイの話に全く耳を傾けず、未だにレオは不満を撒き散らしていた。


「拠点はできるだけ見つかりにくいところだったら何でも良い。広さは少しあったほうが良いが、洞窟などだな」

「帰ろうぜ!今なら行ける!」

「………………見つけたら近くの町に偵察に行く。バレないよう友好関係を築き、いつでも利用できるようにする」

「ねぇなんで!?なn…」

「うるさい」

「ぐふぅ!?」


ついに我慢の限界を迎えた

ルイは振り向き、レオの顔に蹴りを食らわせた。

修行場の時よりも、より強くなっている蹴りを受け、レオは後ろによろけた。


「いってぇ…、な、何すんだ!」


顔を押さえてルイを睨む。

それを全く気にしていないルイ無顔でまた歩き始めた。さっきよりも足早に…

ルイについていくしかないレオは文句を押し留めてその後をついていく。


冗談に終わる思っていたその行動はレオの胸を貫くように、思っていたよりも心に響く言葉で返ってきた。


「…あの蹴りすら避けられないのならすぐに命を落とすぞ。」

「…!」


驚き、思わず足を止めた。

歩き続けているルイの顔は見えなかった。

だが、自分の顔が今どんな顔をしているかは想像がついて悔しくなる。


「俺はお前についていくと決めたが、それはお前がなにか成し遂げると思ったからだ。期待はしている。だがな、このままお前が何か行動を起こさなければついていく理由などないに等しい。」

「…」


心に響く。が、


「自分の存在は自分で示せ。………何度も言うようだが、期待している」


不器用だが、怒っているわけではなく、レオに期待を止めているのだと伝えた。

先程の行動も早く自分で管理をしろというメッセージなのかと思考をこらす。

それを受けて、先程の顔はレオの前から消えていた。

レオは引き立てるのが上手いなと思った。


「おぅ。任せとけ。お前が俺についてきてよかったって言わせてやるよ」

「あぁ。少しだけ…期待しておく」

———————————————————

「ここは良いな」


そう言って近く洞穴に指を差す。

入口は狭いが、中は生活には困らない程度に広がっている。まさに隠れ家のような場所だ。


「結構歩いたな。ここどこだ?」


それを聞き、ルイが地図を開く。


「そうだな、ここはランドルの街道に近い場所だな。」

「ランドルってなんだ?」

「ランドルはメルガピアには及ばぬものの、かなり発展した重要度が高い街だ。」


ランドルは発展故に有力な能力を持ったものや、技術を持っているものも集まる。

品揃えも良く、欲しいものはほぼ手に入る。


「ここを拠点にして活動範囲を広げていこう。それから反乱軍とも面識を持たなくては…あとは能力のこうじょうをして…仲間も、」

「じゃあとりあえず街の様子から見に行こうぜ!」

「!ああ。行くか」


考え過ぎは良くないと頭を振り、珍しく先に歩き始めたレオの後をついていく。


————————

「おーここがランドルかー!」


少し歩き、ランドルについた二人は王都でもないものの、かなり大きい街に興奮していた。


「王都よりは小さいが…なんだか活気のある街だな…」

「あれ、ルイは知ってるような口調だったよな?」

「…いや情報は知っていたが、この街には来たことがなかったんだ。」


なんだか申し訳無さそうに説明をする。

申し訳無さそうにするなんて初めてだなと思いながら大丈夫だって!と声をかけて町中に入っていった。


周りには大きな建物がたくさん並び、人が多く歩いている。

レオとルイはフードを深く被って顔がバレないように歩いていく。

特に何事もなく街の様子を確認し街を回り、住民の話を聞いたり…物の再調達も終わった。


「……特に問題なさそうだったなー」


誰もが思っていた言葉を言った。

つまらなそうに頭の後ろに手を組み、気の抜けた声を出す。


「そうだな。これからもここに出入りするのは問題なさそうだ。」


「なー…犯罪者って意外と生きていけるものだな。追っても来ていないみたいだし、」


「気を抜くな。メルガピアの情報収集なら追手は必ず迫っている。案外、もう来ている可能性も…」


ルイの言葉が途中で途絶え、後ろを向く。

ルイは険しい顔をして俺を見ていた。

それは、こちらを見ているようで…こちらを見ていないような。

どこを向いて—————


………後ろ?


恐る恐る後ろを振り向く。


「ぐぅえっっ」


ドゴォォォん


俺はルイに首を掴まれて後ろに引っ張られた。

それとほぼ同時。

レオが元いた場所には大きな破壊音とともに砂埃が舞った。地面は粉々に砕け、周りに亀裂が広がっている。まるで隕石でも落ちてきたようだった。


「はっ!?んだこれ!」

「…ついに来た。追手だ。」


「ハッハァ!よぉ元気にしてたかよクソ雑魚悪魔!」


そこに立っていたのは紛れもない。


「我ら王の命令でてめぇを抹殺する」


人間だ。



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