第15話 ある城での一日
あんたなんて死んじゃえばいいのに————
耳の奥で残る声にもならない音。
それは小さくて聞こえづらかったなのか。
それとも自分自身が声として認識させなかったのか
今となってはどうでもいいが、この夢をみるたび思い出し、意味もないというのにいちいち考える。
初めて言われた時は本当に心がはち切れそうなほど苦しかった。大好きな人に自分の存在が否定された。いきなり、その人や周りの人もそんな声をあげるようになっていた。それからは苦しいなんてものじゃなかった。居場所がないなんて当たり前。いつも感じていたぬくもりはその瞬間、なくなってしまったのだ。一人は寂しいものだと。ぬくもりを感じたことのある人こそ本当の意味で知ることができる
一つずつなくなっていく。
なくなったら何が残るんだろう。
また今日も意味のないことを考える。
————————————————————
「最近、町中が騒がしいよな。」
城内で話す2つの影。
「いきなりなんだ。休憩だとはいえ、訓練中だぞ。お前は俺より未熟なのだからもっと集中して取り組むべきだな」
「グチグチうるさいんだよ!毎回俺がなんかしでかしたらその話しやがって!息抜きも大切だろ!打ち込みすぎて逆効果になったらどうすんだ!」
「そんなんだからいつまでたってもヒラ兵士なんだ。まぁ、俺も変わらんがな」
「わかってんなら言うのやめろや!…てか話が脱線してんぞ!」
「ん?あぁ……そうかすまんな。町中が騒がしいという話だったな。」
「そうだやっと戻ったぜ。マジでおかしいんだよ…最近街の見回りをしたんだが、前回見た時よりも、人の姿が多かったし、
噂話もあちこちから聞こえてきた。こころなしか街の張り紙や、一緒に見回ってる兵士の量も増えた気がする」
「なるほど。それなら少し心当たりがある」
「おっさすがちょーっと上層部から昇格の期待を寄せられてる堅物だっ!」
「それは褒めているのか?それとも煽っているのか。どちらでも良いが今日から夜道には気をつけろよ?」
「えっ怖い」
「はぁ…それについては多分犯罪者の数が急激に増えたからだ。何年か前、超級犯罪者がやっと殺せたってときに新しく一級犯罪者がでてきただろ?」
「あー…いたな。確か少数精鋭の反乱分子だったな。今でも捕まってない厄介な存在…とか?」
「そうだ。そいつ等が最近になってから反乱軍として再度名を挙げ始めた。今まで捕まらずに活動を続けていたから、裏では信頼は厚かっただろう。それが火種となって一部が犯罪者に成り下がった。もともと問題が多い国だったから不満を持っているものは多かった」
「それで犯罪者が増えたんだな」
「そうだが、大半は三級から五級になった。問題はそこじゃない…」
「なんだよーそれならすぐに片付くってことか?」
「人の話は最後まで聞け。実は問題はそこじゃない。反乱軍はチームで動き、周りも鼓舞し、巻き込むことができる一級犯罪者だが、ここ最近、世間を騒がしているのは単独一級犯罪者だ。
単独一級犯罪者は仲間を作らず、一人で行動する。誰かを利用することはあっても信頼したり、意味もなく肩入れすることはほぼない。
それ故に跡を残さず普通の一級犯罪者よりも足取りを追いにくく、なかなか捕まえることができていない」
「んだそれ反乱軍とは関係あんのか?」
「…これは俺の勝手な考えだが、あると思っている。奴らが出てきたのは反乱軍を名乗った奴らが表舞台まででてきた直後だ。一人ではなく、大勢で。
大きな影響を持つ反乱軍の裏に隠れ、何かをしようとしているのか…まぁ、真実はわからないがな」
それを聞き、手元のリストをパラパラとめくり始める。
「ふーん。たしかに前見たときよりも一級犯罪者が増えている気がするな。まっ最後に見たのは2ヶ月前だけど」
「お前な………」
「優先順位が反乱軍の他に高いのは………………『霞の情報屋』『裏取引の商人(二つ名なし)』
『狂気のランベル』『賞金首狩り』それと、
『無情の悪魔』って…あの?」
「暗殺部隊の小隊長だな」
「あいつ、いなくなったのか」
「ああ。なんでも全く無名のやつと抜けたらしい。
たぶらかされてって話だ」
「なんだって『無情の悪魔』が言葉に騙されるとな…」
「なんとも信じられないな」
「そりゃそうだよな…無情の悪魔については噂でしか知らねぇがめちゃくちゃ強くて言葉の通り感情がないんじゃないかってくらい冷徹って話だぞ?」
「俺は生で一度見たことがある。噂の通り冷徹な印象だった。年はかなり若い。20くらいか?」
「若すぎだろ…このままいけば暗殺部隊の中隊長…いや、もっと行くことだってできたのにな」
「強く冷徹。しかも若い。
幹部からしたら大損だろう。将来、自分の跡継ぎにもなれる候補だったはずだからな」
「あーもったいねぇ。そんな権利捨てるなら俺にくれってんだ」
「お前は権利のどうこうの前に強さを磨くことだ」
「うるせっ!俺でもあんなばかみたいな強さ手に入れられんならこの世界終わってる!」
「ハハ。そうだな。………強さといえば……………今度は一級犯罪者になったあの悪魔を早く処理すべく、隊長クラスが出陣すると指令があった」
「ほー?隊長クラスが!」
「知らなかったのか?司令は昨日の夜から出ていたぞ。選抜もだ。お前も入っている可能性があるからよく見ておけ」
「うっ…だがよ。あいつの強さは誰もがよく知ってんだろ?いくら隊長クラスだって相手にすんのはきついんじゃないか?」
「もちろん。あいつの相手をするんだったら隊長クラスが2人はいないと心もとないな。
だが…そろそろあの人が戻ってくるんだよ」
「あのひと…?」
「なんだもう忘れたのかここ最近超重要な長期任務にあたっていたあいつと同じ暗殺部隊の小隊長の」
「あー…あのひとな。おれあの日の苦手だ…」
「話したことはないが俺もだ。どうにも同じ人とは思えない」
「まてよそういえば選抜があるとか言ったよな!?俺あの人の下につきたくねぇぞ!」
「ちなみに俺は入っていなかったぞ。お前は…もしかしたらな」
「…とりあえず選抜に入っているか確認しないとな…」
「その前に訓練だ。ほら立て、次の休憩には今回のような言い訳は聞かんぞ」
「うぐぅ…」
影は遠ざかっていった。
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