第14話 街

「計画を立てるぞ」


意識を取り戻したレオはもう一度俺と話すことになる。先程、俺に今の現状を無情なまでに突きつけられ、英雄という地位から犯罪者という地位まで下げられ、心身ともに疲れ切っていた様子だった。

そんなレオを横目に俺は容赦なく話し始める。


「まず、何をするかを決める」

「何をするかって何だよ」

「…なんでそんな不機嫌なんだ」

「ほっとけ」

「……俺等は犯罪者になってこの国に追われてる。ここまでは良いか?」

「ちょっと俺が常識を知らないからってここまでわからないバカじゃないぞ」


確証がないものの、いつもの必要なことしか確認しない俺からかなり譲歩された気がしたのか反論してくる。


「国の関係者から逃げることは確定しているとして、その逃げている間に何をするかって話だ。」

「つまり、目標的なものを作ると!」

「そうだ」


十数秒前から一転、すっかり上機嫌になったのが見るだけでわかる。精神年齢がおかしい。

お菓子を与えられた子供のような目をしている


「俺は!英雄になりたい」

「却下だ。」

「ぐぉぉぉ!なんでだよ!」

「いいか。さっき確認したよな今俺達は犯罪者でこの国に追われてる。って」

「聞いていたよっ!なんでそんなバカ扱いしてんだよ!」


どうやら全くとして気づいていないようだった。

犯罪者になってからもそんな台詞が言えるなんてバカを通り越して天才だ。


「とりあえず却下だ。別のものを考えろ」

「じゃあお前も何か考えろ!」

「俺はお前に助けられた。お前についていくだけだ」

「それって意外とひとまかせっていいませんかぁ!?」


レオの叫び声はかなりうるさい。耳に響き、頭が痛くなる。訓練されているルイの体にもダメージ(?)があるなんてもはや兵器だ。

今更だがこいつについていくのに不安が募る。


「くどい。良いから別のを考えろ」

「んー………………………」


レオは腕を組み、考え込む。

場に沈黙が流れた。レオは数分考え、真剣な顔で訴える。

その瞬間。場の空気は全く別のものへと変わった。


「この国を変えたい」

「…!」


本当に感情の上下が激しい。

その言葉はどこまでもまっすぐだった。

俺が助けられたときのような言葉の芯と何故かできると感じさせてしまう堂々とした声。

おちゃらけたさっきの姿からは想像できないこいつの一番の才能と呼べる姿。

俺はきっとこの言葉についてきたんだろう。

この国を変えたい。その言葉だけでこいつを疑った自分が間違っているとわかる。

それがどんなに難しいとわかっていてもこいつはやり遂げるのだろう。


「お前にしてはいい目標を考えたな」


俺はこいつの背中についていく。

部隊を抜けた日からそう決めていた。


————————————


そのままここにいても始まらないのでマントで身を隠し、諸々の買い物に行くことになった。

犯罪者というのはこの国でかなり腫れ物らしく、何でも神を信仰する集団からは見るだけで呪われるとかなんとか言われているらしい。

その影響もあってかいつもより街の雰囲気はピリピリしていた。


「とりあえず、俺は買い物をしてくる。お前は街を見回って情報収集をしてこい。わかっているとは思うが、顔を見せたり、変な行動はするんじゃないぞ。」

「ああ。わかった。」


俺とルイはしばらく別行動でやるべきことをすることになった。

いつもと変わっていたのは見かける人が少し殺気立っていることぐらいだった。自分が犯罪者というのがしみじみ感じる。また、城の兵士と思わしき集団がたまに見かけるようになった。

マントを深く被り直し、またあるきだす。

それからしばらく街を回ると人だかりができていた。

それを周りが見てさらに新しい人が中にはいっていく。人だかりに近づいている人は楽しそうな表情をしていた。


「新しい一級犯罪者だとよ!見に行こうぜ!」

「まじか!これは城から隊長レベルがでてくるかもな!」


周りの人が話しているのをみて、ついに公表されたんだな。とおもった。それと同時に犯罪者が生まれたことに喜んでいるこの異様な状況に少し戸惑いを感じた。


「あれが一級犯罪者かー」

「意外とかわいい顔しているのね」


そこにはルイの顔と共犯者である仲間と書かれている全く似ていない俺の似顔絵があった。

共犯者ということがわかっていても顔や名前はバレていなかったらしい。

それぞれルイは一級、俺は三級だった。

ルイには捕縛と処分の懸賞金がかけられていた。

それを見た人々は目の色を変えたように笑っている人もいれば、親の敵とでも言うようににらみつけている人もいた。

周りの兵士がまえに出てくる。


「今回!一級犯罪者が新たに増えた!それにあたって城からも兵を出す!隊長もだ!」


隊長という言葉に民は喜びの顔を上げた。

ルイから聞いた話では隊長というのはかなり人気が高いらしい。


「この犯罪者共は国に仇なす者!どんな事情があろうとも助けるような真似をすればそいつも犯罪者の一員だ!

発見次第、殺すまたは捕縛だ!

情報を持っているものは名乗り出るように!以上だ!」


周りから声が上がる。

賛同しているような声。俺はこのままここにいるのが辛くなってきた。


「あなた顔色が悪いわよ?大丈夫?」

「あっ…」


横にいたおばあさんから話しかけられる。

唐突にルイと兵士の言葉を思い出した。

『顔を見られないように』『発見次第殺すまたは捕縛だ!』『俺達は————


犯罪者なんだぞ?


わかっていたはずなのにいざ目の前にあると気分が悪くなる。動揺しておばあさんに返事ができていない。返事をしないと…


「…大丈夫です。気にしないでください。」

「えっ…?でも…」


俺はおばあさんの言葉を聞く前にその場から離れた。しかし不自然に逃げてきたことに一人で葛藤していた。

それに、覚悟をきめたはずなのにまだ自覚が足りていないという事実に怒りを覚えた。

だんだんと早足になり、あの人だかりから遠ざかっていく。力いっぱい拳を握りしめて…

人通りが少し少ないところまできた。

そこで気持ちを和らげるために深呼吸をする。

脳に酸素が入っていき、思考がクリアになる。


「はぁ…このままじゃすぐバレちゃいそうだ。」


顔を上げ、天を仰いだ。





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