第10話 暗殺部隊
俺は小さく、貧乏な家に生まれた。
いつもお母さんは泣いていてお父さんは苦しそうだった。
5歳のとき、親に売られた。
お金が欲しかったらしい。
別にそのときは何も感じなかった。
いつだって親に愛情がないことがわかっていたから。悲しくも、憎くもなかった。
だけど、もう二人の顔は覚えていない。
売られた先は王都の城だった。
しばらくなにかの検査がされたあと焼印を押された。とても痛かった。
でも、痛いのはこれからで、毎日毎日地下でムチを打たれた。
知らない女の人がずっと。
日に日にその人が怖くなった。
8歳になった。
毎日打たれていたムチはもう何も感じない。
そうなると女の人はついに僕を地下から出してくれた。
きれいな真っ白な空間。天井には羽が生えているきれいな人の絵。
床には初めて見るほどの沢山の人。
僕と同じくらいの人もいれば、少し大きい人もいた。全員ムチの跡があった。
それからはナイフが一本渡されて、言われたとおりにひたすら一人ずつ、ムチの跡をなぞる。
首のあたりを刺すと動かなくなった。
10歳になった。
初めて地下から出たときのあの場所にはもう僕含め10人ほどしかいない。
またあの女は移動をさせる。
また地下に戻ってきた。独房というらしい。
一人ずつ入れられ、渡されるのは一日二回のご飯と一本のナイフ。何度か隣の独房が開く音がする。閉まる音は少し少なかった。
それから10日後。
独房の開く音がする。自分のものだ。
ナイフをもって女についていく。
少し歩くと同じように集められた4人の人。前に残った9人とは違う顔。
前には広い森。夜だったのでよく先が見えない。
女が話し始める。簡単にいえば鬼ごっこをするということだ。鬼は女。追いつかれたら殺される。
たくさん走った。そして森を抜けた。
戻ると女には血がついていた。
12歳になった。
俺は女に初の任務を言い渡された。
貴族の暗殺。
言われた場所についたが護衛が邪魔で届きそうにない。だから火事を起こした。
ちょうど貴族が中にはいった瞬間に。
慌てて出てきたので護衛と少し距離がある。
そこで、殺す。
少し無理やりだったので負傷をする。
女のもとに報告しに行く。
褒められたが傷口をえぐられた。
俺が傷を負ったことに怒ったようだ。
それから任務をこなしながら何年か経つ。
今度は五人での任務。難易度が高かった。
他の四人は俺より弱かった。
任務には成功したものの3人は死んだ。
胸が少し痛む。
それから何度かそんなことが続いた。
何人か死んだことも、俺以外全員死んだこともあった。死んだ仲間の目が俺を見ていた気がして…
ここで初めて孤独を覚えた。
任務に行くたび仲間の目が気になり、心はえぐられていつもすぐに過ぎていく時間は考えれば考えるほど長くなっていった。
このころゴルドさんに出会う。ゴルドさんは俺の唯一の理解者になってくれた。
話ができる人なだけでも恩人だ。
それだけでなく、今かけてほしい言葉まで。本当に感謝している。より一層感情の言うものに触れた。
ある任務。
俺と他四人。屋敷に侵入し、貴族を殺す任務。
ターゲットを殺すことは成功したが一人が死亡。
もう一人が負傷して動けなくなった。
足手まといになる人間はおいていくのが女の命令だったが、そのときはほか二人を逃がし、負傷した一人を背負った。
もう死んでほしくなかったから。
後ろに背負った仲間から「ありがとう」といわれた。なんだか、心が休まった。
逃げるのが遅れたせいか、人が集まってきた。
外に出ると貴族の子供らしき少女が泣き叫んでいるのが視界の端で見えた。
また胸が痛む。
報告に女のもとまで帰る。
女は負傷した仲間を奥の部屋につれていく。
俺はそのとき女の様子がいつもと違うことに気づき、ついて行ってしまった。
仲間はそこで死んでいた。
剣で腹を滅多刺しにされて。
胸が苦しい。
まぶたから罪悪感と恐怖と憎しみで熱いものがこぼれる。
その時仲間の顔が俺を睨んでいるような気がして頭から離れなくなった。
それからは女に隠れて仲間を助けた。
でも、救っただけ、更に殺す。
ターゲットになっているのはこの国にとってマイナスになる人物だったから。
助けて。殺す。
俺の考えはチグハグになっていったが、これがこの国の民のためになっているという事実を言い訳にして続けてきた。
空が暗くなるほどの雨が降っていたその日。
俺は小隊長として暗殺部隊をまとめることになる。
民から恐れられる小隊長のバッチ。
『お前は逃げられないぞ。』と脅迫されているようだった。
小隊長になってしまった俺は何をしているかだんだんわからなくなっていた。
隊の仲間は俺をかばって死んだ。小隊長だから。
より危険な任務を言い渡された。俺が優れていたから。
多くの任務を言い渡された。俺がたくさん人を殺せるから。
暗殺に必要なのは人を殺す覚悟。
気配を消して心を殺すこと。
幸福の裏には不幸がぎっしり詰まってる。
終わりにしたかった。
死にたかった。どうやって死ねば仲間は報われるか。これから死ぬ仲間を減らせるか。
俺の中で。死はもう眼前にあった。
…なのに目の前に助けなきゃ死んでしまうようなやつが現れた。そいつはこの国のことを不思議なことに全くとして知らなかった。
それなのに仕事を見つけることができて。出会いに恵まれて。
それに本の空想を現実に本気で持ってこようとするお人好し。バカで極端で。考えなしで。羨ましかった。
俺の仕事を知ろうとついてきたとき、殺気にいち早く気づいた。ゴルドさんの場所につれていけば、筋が良いと言われたと自慢げに言った。才能にも恵まれている。
そんなお前を見ているうちに心が浄化されていくようだった。
いいな。楽しそう。嬉しそう。
でも俺はお前のそばにいちゃいけない。
きれいなお前を見てるとこのまま生き続け、これまで死んできた仲間に申し訳が立たなくなってしまいそうだから。
ここで。終わりにしよう。
ちょうどよかった。
レオが…この国に仇なす犯罪組織の連中とつるんでいたから。
一緒に殺して俺らしく、これまで通りの生活に戻ろう。
さようなら。
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