第8話 第一歩

「ぐぅうう………気になるぅ……!」


そう唸っている俺はルイの命令に近い言葉に負けて宿屋の前まで戻ってきていた。

とにかくルイの仕事が気になる。


「…今日暇になったな」


そう。暇になった。

何もすることがない。…………………っは

思い当たる事があった。

そういえはここに来た目的は強くなることだった!

強くなればこの国を救えるかもしれない。

民の助けになるかもしれない。

そうと決まれば特訓だ。

とりあえず特訓の場所を探してみるか。


そう思い、しばらく歩く。

ずっと歩く。

いつまでも。歩く。


「ない」


歩いているうちに周りは暗くなっている。

俺はしょうがなく宿屋に戻る。

収穫はゼロだった。


次の日。

明日にはツキが迎えに来てくれるので今日に特訓場所を見つけたい。ということで…


「頼む!いい特訓場所教えてくれ!」


今日はたまたま休みだったルイにお願いする。

くつろいで本を読んでいたのでくっそめんどくさそうな顔をした。

こいついつも無表情なのにめんどくさいときは豊かだよな。


「はぁ。いい場所を知ってるからついてこい」

「ありがと!恩に着る!」


ということでルイに連れて行ってもらい大きめの建物に来た。こりゃまた立派な場所だ。


「失礼します。ゴルドさんはいますか?」


おお。ルイの敬語初めて聞いた。

尊敬してる人でもいるのか?


「おお!ルイ!久しぶりだな!」


ちょうど入口を通りかかっていたおっちゃんが話しかけてくる。鍛冶場で働いていそうないいおっちゃんな見た目だ。


「はい。お久しぶりです。」

「おー!また強くなったのかー?後で見せてもらうとしよう!がはは!」


声が大きくて体もでかい。強そうだ。


「で、そっちの兄ちゃんは誰だ?」


ルイから視線を滑らせ俺の方を向いてきた。

ルイとかツキとかとは違う圧があるな。


「こんちは!俺ルイの友達のレオって言います!」

「…は」


おっちゃんの顔がひゅっと豹変する。

?なにか間違えたか?なんでそんな驚くんだ?

ルイに助け舟を出してもらおうと視線をやると目をそらす。

あっこれなにかやったな。


「ルイに…ルイに…友達が…」


おっちゃんがいきなり崩れ落ちたと思ったら滝のように涙が流れた。

隣でルイはため息をしている。

…なるほど。


「ルイ!良かったなぁ!友だちができて!」

「…はい」

「アハハハハハ!!ルイ!声が小さいぞ!」


俺はルイを煽る。

面白すぎた。まさか一人も友達いなかったなんて。

でも。失言だったと2秒後気づく。

俺の前にルイの足が飛んできた。



「気を取り直してこの人はゴルドさん。ドワーフだ。前に助けてもらったことがある俺の恩人だ」


ドワーフ…本に出てきた5つの種族のうちの一つか。確か生まれつき体格と才能に恵まれていて、大体の人は武器を作る鍛冶職人になるんだよな。

それと人間より寿命がちょっと長いという噂も聞いたことがあるぞ。


それにしてもルイも助けてもらうってことがあったんだな。

恩人の恩人か。これは頭が上がらない。


「そしてこっちがレオ。この国のことを全然知っていないのでついでに教育してもらえると嬉しいです」

「なるほど。これからよろしくな」


ゴルドさんは手を出して言った。

俺は手を握り返して答える。


「はいっ!よろしくっす!」


やっぱり俺も敬語を使うことにした。


「じゃあまず武器から選ぼう」


ルイは俺をゴルドさんに任せて帰ってしまった。

薄情な奴め。めんどくさかったんだな。

武器庫に入り、あたりを見渡すと剣から槍、短剣、弓、盾、鎧などなど沢山の武器があった。

きれいに管理されているな…


「お前はどれを使いたい?」


ゴルドさんが話しかけてきてはっとなる

そうか。選ばないといけないのか。

といっても武器なんて一回も触れたことすらないし、よくわからない。まぁここは無難に…


「じゃあ普通の剣で」

「わかった。よし、じゃあ早速使ってみるか」


隣のドアを開けると何も無い広めな部屋に出た。

ここで腕試しをするんだな。


「ほらよ。握り方はわかるか?」


ゴルドさんが俺に向かって剣を投げてくる。


「えーとこうっすか?」


直感で剣を握る。

ついでに前あった男がこんな持ち方だった気がする。


「おお!そうだ。その持ち方がいいんだ。さてはお前剣を振ったことがあんだろ!」

「いや、剣を握ったのもこれが初っす」

「お?そうか?まぁいいか。じゃあ模擬戦を始めるぞ。ルールは簡単。1分以内に俺に一撃与えること」


それは簡単なのか、難しいのかよくわからない。

だがゴルドさんは体がでかい。

当てることは簡単に思える。


「うっす!よろしくお願いします」

「じゃあ、スタートだ」


一分がスタートした。

相手の武器は木刀一本。ずっしり構えて俺が向かってくるのを待っている。

とりあえず当てに行ってみるか。

俺は一直線に走り出し、ゴルドさんの頭を狙った。


「ふっ!」


縦に剣を振り下ろす。

カァン!

ゴルドさんの木刀と俺の木刀がぶつかり合う。

力では勝てる気がしないので後ろに引いて横にステップ。今度は横薙ぎで攻撃する。

これも木刀を縦にして防がれた。


「ガハハ!やるじゃないか!だがこの程度じゃ当てられんぞ!」


…初心者なりに頑張ってるんだが、足りないらしい。

普通に攻めても防がれる。力では勝てない。

だとしたら、なにか工夫が必要だ。


なら…

俺は一度距離を取り、助走ができるよう準備する。

残りはちょうど30秒。これにかける。

俺は勢いをつけ、走り出す。

剣の間合いに入る前にゴルドさんの目に向かって剣をぶん投げる。


「ぬぅっ!血迷ったか!」


動揺はしていたが、剣を弾かれ、回転して地面に刺さる。流石だな。

…だが視線が俺から一瞬離れただけでも十分だ。

剣に気を取られているうちに俺はゴルドさんの足元まで来ていた。


「下かッ!」


ゴルドさんの木刀が垂直に振り下ろされ、それを間一髪。スライディングで避ける。

そのままの勢いで足の間を通り、死角に回る。

ゴルドさんもすかさず振り向く。

そこで…目をめがけて蹴る!


「オラァ!」

「ぐぉぉ!」


体制が少し崩れ、隙はつくれた。

あとは弾かれた俺の木刀を拾って、ゴルドさんに一撃を!

俺は勢いよく木刀を振り下ろした。

渾身の一撃。

砂埃が舞う。そして、うっすら晴れる。

見えてきたのは俺の木刀が、ゴルドさんの木刀に止められている様子だった。


「これで…一分だ」


ゴルドさんが終わりの報告をする。

さっきルイに顔面を蹴られたとき、しばらく目が見えなかったのを参考にした。思いっきり蹴ったらしばらく目が見えないかなって。だが、やってみたら俺の蹴りは威力が足りないことがわかった。

完敗だ。手加減をしてもらったにも関わらず、負けてしまった。

当然っちゃ当然だがまだまだゴルドさんにはかなわない。


「いやぁ!お前!レオ!初めてとは思えない身のこなしだったなぁ!筋があるよ!」

「えっ、本当っすか?」


負けたのに褒められた。

素直に嬉しいな。


「お前は修行を積めばみるみる強くなるだろう!

期待してるぞ!ガハハ!」

「うっす!ありがとうございます!」


これはルイに報告だな。

今度蹴りのコツでも聞いてみよう。


こうして俺は英雄になる第一歩を踏み出した。
































  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る