第6話 この国の裏と表

横並びになって歩いている大男が話し始める。


「さっきの奴らはいわゆる裏の奴らだ。仕事で失敗して尻拭いをしなくちゃいけなくなり、責任の押し付け合いをしてたんだよ。」


裏…さっきのルイの話がまたちらつく。やっぱり王都には何かがあるのか?


「周りの奴らもよくわかってる。あー言う奴らに近づけばそいつも同じ裏のやつって思われる。

そんなの迷惑極まりないからな」

「これも王都の常識ってやつか?」

「そうだな。こういうのはみんな知ってる。」


市民も裏で王都が何かをしていることを知っているってかなりやばいだろ。それなのに誰も文句を言わないなんてどうかしてる。

考えれば考えるほど怒りがこみ上げてくる。


「どうしてみんなこの状況を納得しちまってんだよ?俺がもっと早くこの事実を知っていたらあの城に文句を叫んでやるのに。」

「それは有名な話だ。」


有名とかあるのか。


「前にお前みたいなやつはたくさんいたんだがな…

……全員消されちまったんだよ。」


消されるって…殺された、って意味か?


「城にいちゃもんつけた野郎は存在ごと抹消された。戸籍もその家族も友人もみんなみんな一夜のうちに消されちまった。事実上いないことにされてんだ。」

「そ…そんなこと可能なのかよ。」


それは本で書いてあったこと。

人間を殺すのはどの動物を殺すよりも難しい。

他の生物よりも圧倒的な知識を有し、人によっては神に与えられし能力を持った人間もいる。それは人間界が圧倒的に他の大陸より抜き出ている大きな要因である。

そんな人間を殺すのは並の覚悟ではできない。

情報と圧倒的な戦力。そして殺す覚悟を持ち合わせること。

これを最低条件とし、やっと殺せるのである。


「あのデケェ城にはな、王がいて、その王を守る兵士が存在する。なんて言ったってこのメルガピアは人間界の要だ。それをまとめる王を並大抵のやつには任せておけねぇ。

つまりあの城には人間離れした実力を持つ奴らがゴロゴロいるってこった。それこそ誰にも負けない圧倒的戦力ってやつだな。

もし王に反発する輩が現れたとしたら…さっきの話通り、綺麗さっぱり掃除されちまう。」


こいつの顔と相まってめちゃくちゃ怖い話だ。

本に書いてあった実力を持つ人間が集まるっていうのは本当だったみたいだ。


「この国は腐ってる。」


男はニヤリと笑う。

その顔で笑うな。


「ハハ。そうだな。さぁついたぞ。」


気づくとかなり歩いていて一本の路地裏へ続く道の前についていた。


「…本当にここで合ってるのか?」

「ああ。この先にある。」


路地裏にはいい思い出がないからな。なんだか抵抗があるというかなんというか。


「おら。行くぞ。」


そのまま俺はついていく。

薄暗いみち。たまに虫やネズミが見えたりした。だが、細い道が何本もあって迷路のようになっている。覚えようと頑張って思考を凝らしたが途中でわからなくなった。

これは多分一人では来れなくなる道だな。


少し歩くときれいな道になってきて、すぐに明かりが見えた。

少し開けたそこにはオシャレな店が建っていた。

隠れ家みたいで少し楽しい。

大男が「ここだ。」と言って扉を開けると外装のイメージ通りのおしゃれな店だ。

ドンッとドアが閉まる。音がデカかったぞ。中に鉄でも入ってんのか?

カウンターが真ん中にあり、カウンターの壁には酒が飾られ、後ろにはドアが2枚。周りには丸い椅子とテーブル。

どう見ても俺が来るような店じゃない気がする。

酒置いてあるし。


「よぉ。帰ったぜ。」

「おうおかえり。」


カウンターに座って肘をついている俺と歳が近そうな男がいた。


「まぁ座れよ。」


俺達はカウンターの前に座る。

近くで見るとおしゃれな店にいる人って感じ。

前髪はちょんまげ。細いフレームの丸メガネ。

首にはネックレス。服はカウンターでよく見えないがダボッとした服を着ている。


「名前はなんていうんだ?」


ニコニコした表情。俺がここに来てから初めて見たような顔だ。みんな怖い顔ばっかしてたからな。


「俺はレオっていうんだ。よろしく。」

「俺はカエデ。タメ口でいいぞ。お前を連れてきたこいつはツキ。あとは…」


ガチャ。

カウンターの後ろにあったドアの一つが開く。

黒髪ポニーテールの女性が出てきた。かなり細い体をしている。美人というやつか。


「こいつがアイシャ。みんなここで働いてる。よろしくな。」


カエデが指を指して紹介する。


「この人はだれ…?」

「こんにちは。レオって言います。」

「こいつはツキが連れてきたバイト志願者だ♪」


ニヤつきながらカエデが言った。

それにしてもカエデって名前まるで女性みたいだ。

アイシャさんは何も言わず店の端の席に座った。なんだか距離を感じる。無気力な見た目をしているし人見知りなのか?


「ここってカエデが店長的な人なの?俺と同じくらいの歳だよな?」

「あー…この店は…俺の父親がやってるんだけど今色々ごたついてて代わりにしばらく店番することになってんだよー。」


苦笑いをしながら答えてくれた。色々大変なんだな。


「とりあえず店の紹介するよ。基本的にはここは飲食ができるお店なんだよ。でも客の数は少ないし、仕事は少ないんだー」

「そりゃこんな入り組んだ場所にあったらな。」


もう俺はここまでの道を覚えていないほどだ。

もっといい場所あっただろ…なんでこんな場所に建てるんだ。


「だから仕事は2日に一回、4時間でいい!そんでもってお金は弾む。ただし、」

「ただし?」


俺はつばを飲む。

 

「仕事中は俺の話し相手になること!」

「なっ…そんな簡単でいいのか?」


俺がこれまで見つけてきた仕事は悪条件な店ばっかだったからな…

こんなうまい話があるのか?

いやもっと疑うべきだ。


「なんか裏とかあったりしないだろうな。」

「まあ疑うのはしょうがないと思うけどよ。こんないい話は他にないよぉー?いいのかー?」


確かに本当だったらめちゃくちゃいい。

それに話ができるということはこの国についての情報も得られるかもしれない。

いいんだけど…いんだけどなぁ…うーん。


「……じゃあ少し考える時間をあげよう。期限は4日。4日後までにまたここに来て答えを聞かせてくれ。…この国の話も少ししてあげよう。」


!この国の話!心が少し揺らぐ。


「それはありがてぇ!4日後だな。考えとくよ。」

「こっちが時間になったらツキが迎えに行くな。」


なんか少し怪しい雰囲気を出していたから心配していたがどうやら思い違いみたいだった。

ルイにも相談して答えを出そう。
























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