第5話 真実
「まさかここまで何も知らなかったなんて。」
そうため息を付いた。
いつものルイも無表情だが今はさらに目に光を帯びていない。
とてもつかれた表情だ。
「ここは…本に書いてあったような平和で強い奴らが集まるようないい街じゃなかったのかよ。」
メルガピアのことは本でしか知らなかった。
それでも奴隷が街中にいるなんて思いもしなかった。
そして、ここに来てから一緒にいたルイがそれを当然に語っていることも。
今まで俺が憧れてきたものが崩れ去ったような気がして。寂しくなったみたいだ。
「そんなのは本の世界だけの夢物語だ。神はそんな素晴らしい物語は許してくれない。」
俺は神なんて言う言葉は嫌いだ。
これも本でしか見たことがないが神に祈れば願いが叶う。神を信じれば幸せになるなんて。
結局ただのないものねだりだ。
そんな事するよりも行動を起こしたほうがよっぽどいい。
神は存在しない。故郷のみんなは…きっとわかってくれないだろうな。
「お前は…どう思っているんだよ。この街がこのままでいいと思ってんのか。」
ルイは顔を歪めた。
故郷から出て初めて会い、助けてもらった恩人。
俺はずっとルイがいい奴だって思ってた。
見ず知らずのこんな俺を助けてくれて、世話までしてくれて…仕事が見つかったら恩返しをしようと思ってた。
なのに、こんなのはいやだ。
だから。否定してほしい。いいわけないって。
どう思っているのか聞きたい。
「……。」
ルイは黙り込んだ。
顔は背けず、こちらを向いて。歪んだ顔で。
何かを思っていることがあるんだろうか。
「俺は。わからない。」
返ってきたのははっきりとしない言葉だった。
「王都には沢山の人がいる。優れた人も。強いやつも。きっと協力すればいろいろなことができる。
でも、全員を幸せにすることは無理なんだ。
俺は知ってる。誰かの幸せは誰かの不幸で成り立ってる。俺は知っていても…
どっちが正しいかわからない。」
ルイは悔しそうな声で訴えた。
手を強く握って何かを思い出しているようだった。
「だが諦めなければ助けられる人はいるはずだ!」
「お前に…なにがわかるんだ。」
ルイはそう言うとそのまま振り向いて帰ってしまった。
最後の俺の発言に怒っていたようだった。
さっきの男に見せたものも、
ルイがどう思っていたのかも、
ルイがなんでここに来れたのかも、わからずじまいに終わってしまった。
俺の中にはモヤモヤした感情が浮き上がった。
一度ルイを探しに宿に戻ったが留守にしていた。
どうやら仕事に行ったらしい。置き手紙には『仕事の後始末をしています。』と書いてあった。
俺はモヤモヤしながら仕事探しを再開することにした。
まだ日が浅かったがいつものように活気立った街を見ていても心は踊らなかった。
『貴族の屋敷に賊が侵入』『魔族活発化』『奴隷の反乱』よく見ていけばチラシには物騒なことが書いてあったり、路地裏に続く道があったり…
ルイの話を思い出す。本当に王都には秘密があるのか、?
その後もブラブラしていると周りが開けた空間があった。除いてみると、広場で喧嘩している夫婦が真ん中に立っていた。
「あんたがあそこで失敗したからこんな事になっているんでしょう!?私のせいじゃない!全部あんたが悪い!責任は取るべきでしょ!」
「元はといえばお前が予定立てたよな!?俺はお前の言う通りに動いただけだ!なのに少し予定が狂っただけでテンパったのはお前だろ!?」
仕事でも失敗したのか?あんな仲良さそうな夫婦なのに…よっぽど大きい失敗をしたんだろうか。
だからといってこんなところでやるなよ…
「私はうまくやってた!だってあんなとこで奴らが来るとは思わないじゃない!ここまでこれたことも奇跡よ!」
「おいそこの…」
すると後ろから肩を掴まれる。
「まて」
振り返ると周りよりひときわでかい大男が立っていた。体には多数の装飾品。
人目で見るだけでこいつだとわかるようにしているみたいだ。
「なんだよ。」
「お前今喧嘩している野郎どもに声かけようとしただろ。とんだバカか?」
「んだよ。俺はちょっぴり知識がないだけだ!馬鹿じゃねぇ!
それにこんなとこで喧嘩してたら周りにも迷惑だろ。止めようとしただけだ。」
手を振りほどき男に怒鳴りつける。
ていうかルイもそうだったが目つきが怖いんだよ。
「それがバカだって言ってんだろ。…わかったお前ついてこい。話してやるから。」
「いやだ。どーせろくでもないことだろ?」
こんな怪しいやつについていきたくないね。
「…見たところここに来てから間もないようだな。いい仕事を知っているんだが。」
「よし連れて行け。」
我ながらちょろいと思った。
怪しくても仕事を紹介してくれるなら話は別だ。
俺は大男についていく。
後ろを振り向くと夫婦は姿を消していた。
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