第23話父上との対話、祭りへGO

 ユーリス兄の突然の乱入によりなおざりになっていた俺の詩は、ミュッチャのノートを改めて読み直してからメンバーに意外と好評で、結果歌詞はあれで完成ということになった。

 そして、振り付けに関しても良い情報を得ることができた。


「なぁ、おいらの幼馴染で舞踊団のリーナ副団長の息子のジリオンってのがいるんすが、アイツも舞踊団の踊りはゆったりすぎてタルいっていって自己流の踊りをやって叱られてたっす。アイツにも声かけたら面白いモンが出来っかもなっす」


 リューリーから紹介を受け、小城にやってきたジリオンはまずはあいさつ代わりにハードなブレイクダンス風のダンスをした後、舞踊団ののんびりしたBGMのハミングをしながらヒップホップ調のビートの利いたダンスを華麗に踊ってくれた。


「イェーイ! おもろいことがあるって聞いてさ、早速来たぜ! どうやらエルもオリジナルダンスができるようだな。どうだ、バトルしねぇか」


 ひとしきり踊った後も息切れひとつせず軽快に話しかけてくるジリオンの前でヲタ芸やんのかな……と気おくれはしつつも、オリジナル曲の振り付けにはコイツは絶対必要だとの思いが勝り、俺はコクリとうなずきまずは完コピしているパップンの振り付け、そしてその合間合間にヲタ芸を組み込んだ。それを受けるようにして、ジリオンもかっこいいダンス。繰り返しているうちに、最初あった気恥ずかしさはすっかり消えてしまい、俺たちは汗まみれの手でがっちりと握手を交わし、検討をたたえ合った。


「はぁはぁ、ジリアンすごいねー、ぜひとも俺らのオリジナル曲の振り付けをお願いするよ」

「おぉ、エルもなかなか風変わりでおもしれぇの踊るんだな。あっちもオレ流にちょっくらいじってみてもいいか?」

「あ、うん。でも途中の技は抜きでいいかも」

「そうだな、独創的でおもろいけどな。歌いながら踊るには向かねぇかもな、考えてみるわ」

「ぜひぜひ!」


 こうしてまたも力強い味方、振付師のジリオンも加わり、練習に日々励んだ俺らエアミュレン5は着々と実力をつけつつあった。低音ボイスで甘く高い他の四人の歌声にぴりりと渋みを加えてくれ歌唱力も抜群のレオ、ダンスの方には不安があったのだが手足が長すぎるせいか止めのときにカクカクとぎこちなくなる欠点を、ジリオンはロボットダンス風にアレンジしたヲタ芸技で止めに入らせることで独創性あふれる振り付けに昇華させてしまった。

 センターのアラニーもヲタ芸で鍛えられた大幹の強さで激しいステップをしながらも軽やかに歌もこなし、ウェンは舞うように風のように実際ちょっとだけ浮きながら妖艶な魅力を振りまき、心配の種だったユーリス兄も他のみんなより振り付けを軽くしてもらっているとはいえ息を切らしながらもきっちりついて来ている。もちろんこの俺、エアミュレン5のリーダーも自分の役割をサイドでかっちりこなしている。

 こうなると、仲間以外の人々にも早く見てもらいたい。大勢の喝さいを浴びる喜びを、メンバーみんなと分かち合いたいとう気持ちがどんどん湧き上がってくる。


 エアミュレン5のお披露目の場、俺にはこのグループを結成した時から目をつけていたものがあった。それは、毎年秋に屋敷の庭園で開催される豊作祭りだ。週末に帰宅予定の父上に参加を直訴しようと、小城で寝食を共にするようになったユーリス兄とも何度も相談を繰り広げた。


「ねぇユーリス兄、父上が帰ってきたら馬車を出迎えて、そのまま頼んでしまおうか」

「うーんどうかな、いつも帰宅の時は疲れているからねぇ、一息ついて夕食時がいいかもね」「それもそうだね、他のみんなは連れて行く? 父上は家族の食卓が好きだけど、顔を見ないで頼むというのも気が引けるしなぁ」

「そうだね、連れて行こう」


 そして、いよいよ父上との久しぶりの対面の日。いつも通りの普段着のアラニーとウェン、ちょっとだけおしゃれしたレオとミュッチャを伴って俺ら兄弟は父上との夕食に臨んだ。


「ふむ、今日はゲストがいるようだな」


 ひげをいじりながらみんなを見回す父上の眼差しは、険のある感じではなく思ったよりずっとやわらかで暖かい。


「初めまして、風の精霊のウェントスです。こちらはダンピールのレオとハーフエルフのミュッチャ、アラニーはご存じでしょうね。みなエルファルトとユーリスの友人です」


 優雅にしなやかなふるまいで年長者のウェンが代表してあいさつすると、父上はくいっと食前のワインを飲み欲し、ハハハと楽しそうに笑った。


「そうか、家族の食卓に多種族のゲストが来るとはヘロース一世の時代以来かもしれんな! わっはっは、うちのせがれどももやるもんだわい」


 少しだけピリピリしていた空気は払しょくされ一気に和んだ食卓を囲みつつ、俺とユーリス兄はいつ祭りについて切り出すか、何度も何度も目くばせしあった。


「今かな?」

「いや、父上ワイン飲んでるからむせそう」


 そんな感じで口に出さないまでも目と目で意思疎通を図り、チャンスをうかがっている間にとうとう食後のデザートを残すばかりとなってしまった。

 今日のデザートは父上の好物のファイアーフラワーアイスクリーム、準備に時間がかかるためメイン料理から時間が空く、ここが一番のチャンスだ。


「あ、あのちちふへっ」

「何だ、エル」


 言葉尻を噛んでしまい、ぎろりとこちらに向けられた大きなぎらぎらした褐色の瞳に身がすくんでしまう。

 けれど、これを逃したら父上はまた出張に行ってしまうのだ。


「俺はここにいる仲間たち、そしてユーリス兄さまとグループを組みました。それはアイドルというものでダンスをしながら歌い人々を楽しませます! なので、秋の収穫祭に俺たちを出してほしいのです! どうかお願いします」

「父上、ボクからもお願いします」


 俺とユーリス兄が席を立ち深々と頭を下げると、他の四人もあとに続き一緒に頭を下げてくれた。父上は少し考え込んだ後、ゆっくりと口を開いた。


「ほらほら子供らよ、もう頭を上げなさい! 給仕の者たちが驚いておるぞ、でお前たちの頼みについてだが、祭りに出たいものは大勢おるのだ。やすやすとここで返事はできん」


 ダメだったか、みんなあんなに練習がんばったのに……父上の返事を聞きながらじわりと目の端に涙がこみ上げてきた。すると、横にいたユーリス兄がぎゅっと俺の手を握り、父上をキッと見据えた。


「でも父上! エルも他の子たちもすごくがんばっているんです! レオやウェンはこのグループのために森を越えて来たし、楽団の子供や舞踊団の子供も協力してくれているんです。頭ごなしに断らないでください」


 こんな風に父上に食って掛かるユーリス兄を初めて見た。でも、俺の手を握る拳も足も小刻みにカタカタふるえている。

 俺のために、勇気を振り絞ってくれたんだ。ここで俺がめそめそしている場合じゃない! 俺もまたそらしていた目線を父上に向け、再度願いをこうために口を開いた。


「あ、あのち」

「困ったものだな、人の話は最後まで聞きなさい! わしは今返事が出来んと言っておるだけだぞ、まずはどんなもんか見ないことにはいいか悪いかもわからんだろうが。しかし、あのおとなしいユーリスがわしにここまで意見するとはなぁ」


 父上はふふふーと満足げに笑い、隣でずっと見守っていた母上にこそっと耳打ちした後、ファイアーフラワーアイスが到着するのをまたずにバンケットルームを去ってしまった。


「あ、あの母上、父上はご立腹なのですか」


 不安げなユーリス兄に、母上はうふふと楽し気な含み笑いで応える。


「いいえ、ファイアーフラワーアイスはお部屋で食べる。子供たちには明日屋敷のダンスルームで歌と踊りを披露するように言っておきなさい。ですって、ご自分で言えばいいのにね、うふふ、父上もあなたたちの成長がうれしいのよ! 言葉がほころんでいたわ」

「そ、そうですか」


 ほっと胸をなでおろした様子のユーリス兄は、アイスを包んだ銀色の大きな花がが青い炎をごうごうとあげゆっくりと開くのを見てミュッチャたちが歓声を上げる中じっとテーブルクロスを眺め続け、ほおっとため息を漏らした。


「ねぇユーリス兄、さっきはめちゃくちゃカッコ良かったよ。頼りになるなぁって思った」


 俺はそんな兄の手を今度は自分から握り返し、耳元でこそっとお礼の言葉をささやいた。気恥ずかしかったが、本心だった。頼りないぬいぐるみ好きの兄は、僻地で成長し頼りがいのある男に変わったのだ。


「えー、そうかなぁ。まーねー、ボクお兄ちゃんだし、弟よ、じゃんじゃんたよりなさい」


 まぁ得意げに鼻を上に向けてえへんと胸を叩かれると若干イラっとし、アイスではなくまだ熱い花びらを口に含み「あっつつつー水水」と慌てふためく様子には、あきれつつ笑いが止まんなかったんだけどな。


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