第24話祭りだわっしょい! エアミュレン5初ツアー(祭り巡業)スタート!

「センセーションを巻き起こせ!」


 父上の前でド緊張(主に俺ら兄弟)のまま始まったエアミュレン5オンステージは、オリジナル曲を歌いあげ天を指しビシッと止まった五人のポーズで終焉を迎えた。父上はずっと黙ったままあごひげをいじっていて気持ちは推し量れなかったけど、横の母上はポーズと同時にスタンディングオベーションをしてくれた。


「まぁまぁまぁ、あのおとなしかったユーリスが、食っちゃ寝ばっかりだったエルがこんなにはきはき動いて大きな声で歌って、母様猛烈に感激していてよ! ねぇあなた」


 涙ながらに俺らを褒めたたえ……パフォーマンスのことはちっともだけど……母上はどっしり座って未だあごひげをいじっている父上の肩にそっと手を置き微笑みかけた。


「うむ、若人の歌や踊りはわしにはようわからんが、こういう新しいものは同じ若者には受けるかもしれんな。試してみるのもよかろう、よし、秋の収穫祭の前にわしの出張についてこい! まずは地方の小さな祭りから披露してみるのがよかろう」


 父上の鶴の一声で、俺らのデビューステージが決定した。来週の晩夏の祝日に催される領地の右端、丘の上にあるコーリス町の小さな夏祭りだ。二か月後の収穫祭に照準を定めていた俺らは少し戸惑ったが、これを逃したら収穫祭にも出してもらえないかもしれない。とにかくアピールをしなくては。それに、まずは小さな祭りで徐々に慣れていくこともかえって良かったかもしれない。


「はい、父上よろしくお願いいたします!」


 それからの数日間はリューリーやジリオンにも小城に泊まり込んでもらい、午前中は授業。昼食後は俺らの授業中にステージプランを練ってくれていたジリオンの監修の元リハーサルを行うという日々が続いて、あっという間に出発当日を迎えてしまった。

 今回の遠征はコーリス町だけだが、その翌週からは隣接した海辺の村の祭りの三連続も決まっている。

 メンバーのやる気を一層引き出し弾みをつけるためにも、まずは最初が肝心だ。一週間授業を休むということで、ミハイル先生から出された大量の宿題も十八歳でもう学校を卒業している年長者のジリオンや学のあるウェンに助けてもらってどうにかこうにか終わらせた。後はパフォーマンスを成功させてまずはコーリス町のみなさんにアイドルのすばらしさをお伝えせねば! 使命感に燃え立つ俺は、苦手な高所を飛ぶ父上専用の出張用飛行遊覧船に乗っていても、空酔いも恐怖によるふるえも回避することができたのだった。


「わー、コーリス町ってずいぶん見晴らしがいいねぇ。空も近いし丘の下の家々がミニチュアみたいで面白いやー、ねぇねぇエルも見てごらん」

「いや、俺はいいよ」


 見晴らし台から景色を見回すアラニーの誘いを受けたときは、すっかり高所恐怖症が舞い戻って来てしまったのだが……コーリス町は小さな丘の上にあるこぢんまりとした人口数百人の小さな町で、リハーサルができるようなホールはない。祭り用の広場は夜の催し物の準備の人たちでわちゃわちゃしている。そのため、俺らのデビューステージはぶっつけ本番、日が沈んでから祭りのはじまりを伝える花火が上がるまでの数時間はそれぞれの自由時間ということになった。


「わしは町長や祭りの実行委員たちと視察に回るでな。お前たちは街中の出店でも回って歩きなさい」と、父上からそれぞれが数枚貰った銀貨でぶらりと祭りの雰囲気を見て歩くことになったが、ウェンは丘にいるまたいとこの風の精霊に会うため不参加、レオはミュッチャと一緒にコーリス町名物の硝子小物の工房に行き、リューリーとジリオンは広場でステージの設置を見るということで別行動、結局俺とユーリス兄の兄弟とアラニーの三人だけで回ることになった。


「わー、綿あめだー。エルエル銀貨で買おう!」

「あー、りんご飴も、バナナチョコもある!」


 アラニーは食い物にしか目がいかない。かくいう俺も一緒に食ってたが……まぁ今日はステージで発散するし、これくらいのカロリーは消費できるだろう。できるよな、多分……


「あぁかわいい……」

「これも、あれも、どうやって作るんだろう」


 一方のユーリス兄はぬいぐるみ職人の夢破れた後もかわいいもの好きは相変わらずで、毛糸で作られた指人形や屋台の射的の特賞の特大ぬいぐるみに目を輝かせている。


「ねー、エル射的得意?」


 上目づかいでねだられるも、転生前ですらやったことのない俺には答えようがない。しかし、ユーリス兄さんって父上との会見の時には頼りになると思ったけど、普段はかなりの弟キャラだよな。僻地での修行で元気になってやんちゃな部分も出てきて、すっかりやんちゃで甘えん坊の弟キャラに……あれっ、俺とキャラ設定被ってね? リアル末っ子は俺なのに、ユーリス兄の方が若干小柄で弟っぽい……顔のつくりは幼いころは双子と間違われることもあったくらいで、可愛いことは可愛いけどちょっと惜しい感じのギリギリ上で特上レベルの他三人とは違う。どっこいどっこいだ。けど、ユーリス兄は華奢で肌もきめ細かく化粧映えしそうで下手したら男の娘キャラでもイケそうだ。何つーか、庇護欲を掻き立てられる魅力ってのがあるんだよな。これは、俺には全くないものだ。俺って痩せても骨太だし、髪も母上譲りのサラサラなユーリス兄と違い、父上譲りの剛毛だし、狙ってやってた上目遣いがときどき白目剥いてることを最近アラニーの指摘で気づかされてしまったんだよなぁ。

 ユーリス兄が俺の上位互換というより、俺がユーリス兄の劣化コピーなのか? どうすっかなぁ、やんちゃ可愛いは封印してリーダーキャラで行くしかねぇかなぁ。小城に帰ったらまた考えてみるべ。

 ぐたぐたぐたぐた考えていると、ちっとも反応のない俺に業を煮やしたユーリス兄はちびちびミントアイスボールを頬張っていたアラニーを射的台の前まで引きずり出してきた。


「アラニー、ボクぶきっちょだから射的に自信がないんだ。特賞のぬいぐるみを取ってくれたらボクの分の残りの銀貨でなんでも君の好きなものをおごってあげるよ!」

「わぁ、それホントー! ぼくの銀貨もう終わっちゃったんだー。まだ食べ足りないのにさぁ、ぼく父さまに射撃場に連れて行ってもらってたから得意だよ」


 大はりきりのアラニーはいつもの天真爛漫なへらへら天使顔をかなぐり捨て、きりっとした表情で肘を置き特賞の的を見据えて、ぱんっとプラスチックボールを見事的に命中させた。しかし、的はピクリとも動かず、全弾すべて命中しても同様だった。


「ねー、この的接着剤で貼り付けてるんでしょう!」


 食べ物がかかった勝負でカッとなったアラニーは、屈強な屋台のお兄さんの制止を振り切り、べりりと的を剥がしてからくりを証明してしまった。


「す、すみません……」


 その鬼のような形相の壮絶な美少年の様子に恐れをなしたムキムキのお兄さんは、特大ぬいぐるみをさっと差し出すと、早々と店じまいを始めてしまった。


「わー、ありがとう。アラニー」

「うんうん、銀貨銀貨」


 差し出した手のひらに残りの銀貨一枚をもらうと、アラニーは風のようにぽんぽんカステラの屋台にばびゅーんっと飛び去って行く。


「あー、ユーリス兄、良かったね。それ」

「うん、こんな大きなリスちゃんのぬいぐるみ。うれしいよー」


 どっちが抱えられているかわからない特大ぬいぐるみを抱きしめて、ユーリス兄は本当にうれしそうだ。

 キャラが被るだとか関係ないな、弟っぽい兄でも、兄っぽい弟でもどっちでもいいじゃないか。これが俺らアウモダゴル兄弟の個性なんだ。それも含めて好きになってもらおう。今晩出会うであろう俺らの初めてのファンの人たちに!

 そう思うと、口角が自然と上がって顔がほころぶのが自分でもわかった。


「あーエル、にっこりしてきたね。さっきまで顔が固かったけど」


 そっちは気づいてなかった。俺、かなりナーバスになってたんだな。この世界にアイドルという概念がないと気づきそれなら自分で作ろうと決意してから十年の月日が流れた。当初思い描いていたものとは違い、自分が参加することとなったがようやくアイドルという存在をこの世界の人々に認知してもらう第一歩が踏み出せるのだ。

 二歳のあの日、決意の時に感じたワクワクが胸にまた戻ってきた。


「よし、やるぞ!」


 小さく掲げた拳に、ユーリス兄とアラニーのてのひらが被さる。アイドルを知っているのはもう俺一人じゃない。この仲間たちと、俺はファーストかつパーフェクトアイドルになるんだ!

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