第22話気持ちを切り替え練習スタート! まさかの追加メンバーも!?

 散々の授業初日を終え、朝食の残りのスープとパン、それにみんなで味付けのスパイスふりを手伝ったもろもろチキンのいぶし焼きの昼食を終えた後、ミハイル先生は若いメイドたちと使用人の子供たちの授業があるため屋敷にいったん戻り、ミュッチャは部屋で趣味かつミズブリギナ経由でお土産屋から請け負ったアルバイトの毛糸で編む羽ばたく天馬のマスコットづくりと古着のドレス生地のパッチワーク、俺たちはエアミュレン5の小城での初練習をすることになった。

 俺らが退屈な(俺目線で)授業を受けている間、防音室で俺の歌って聞かせたパップンの曲のアレンジをしていたリューリーと合流した。アラニーと同じ十三歳のリューリーも授業を受けるようにミハイル先生から誘いを受けたんだけど、学校嫌いのリューリーは「もう義務教育は終わったっす」と断固拒否したんだ。


「さー、聞いてくれっす」

「うわー、もうできたんだ。さすがリューリー」


 アレンジ後の楽曲を、早速聞かせてもらう。


「ふんふん、ゆめー見るちからはぁー♪ ふんふふーん♪」


 意外にもちょっと調子っぱずれな歌と共に披露されたその曲たちは、俺の歌を聞いただけで作成されたとは思えないほどしっかり原曲をとらえつつ、かっこよくアレンジもされていた。


「すごい! すごいよ。リューリー」


 感動して駆け寄り握手を求めようとすると、リューリーは続けて違う曲も弾き始めた。

 ん? これは、パップンの曲じゃない。全く新しく、でもこの地の曲たちにはないボーイズアイドルグループの曲にピッタリのダンサブルなポップロックだ。コイツはかなりカッコいい。おそらく転生前の世界でも通用する楽曲だろう。


「おいら頼まれたやつ終わってあんたらに差し入れられた弁当食っちまってからめっぽう暇だったもんだからよー。エルの歌聞いてからぽんぽーんって頭ん中で跳ねてぴょこぴょこしてた音を拾ってがちゃがちゃ遊んでたらこれができたんす」


 そんな短時間で! やはりリューリーは天才だ。


「それすごい、めちゃくちゃカッコいいよ。もしよかったら、エアミュレン5の曲として使わせてもらってもいいだろうか?」


 思わず口から飛び出していた。もしこの曲でパフォーマンス出来たなら、きっと観客がワーッと湧きたつに違いない。


「おー、こんな遊びでぺっぺと作った簡単なのでいいのかい。エルはやっぱちいとばかし変わってんなっす」

「簡単なんてそんなことないよ! 君はすごいよ。作曲の才能があるんだ! この曲で歌い踊るエアミュレン5はきっとすごくカッコよくなる」

「うんうん、エルから教えてもらった異国の歌も好きだけど、リューリーのさっきの曲もすーごくカッコいい。僕もこれでやってみたい」

「あー、俺もわりとシビれたな。この曲でやんのにまぁ興味はあんな」

「うん、森の歌は牧歌的だから、こういう斬新でビンビンくるのは聞いたことないねー。歌ってみたいかもー」


 俺の主張に、他のメンバー三人も同意してくれ、みんなに称賛されたリューリーはまた照れて鼻をこすりながら、「自由に使いなっす」と使用を許可してくれエアミュレン5には初のオリジナル曲が誕生したのだった。

 その後は予定されていた練習を中断して、初めてのオリジナル楽曲の作詞に挑戦することになりバイトの手芸が終わったミュッチャも協力するために駆けつけてくれた。


「うーん、俺も歌詞を書くのは初めてなんだよなぁ。リューリーは曲を作るときに歌詞考えたりしてた?」

「あー、おいらは文章を書くのも歌を歌うのもは苦手なもんでなぁ。音を拾うだけなっす」


 アイドルを作りたいという気持ちで今まで突っ走り、メンバーがやっと決まりオリジナル曲まで完成したというのに、俺には作詞のスキルすらなかった。頼みの綱のリューリーも作詞においてはどうにもならなそうだ。


「どうしよう……あっ、レオは歌が好きだしウェンも森で歌ったりしてたんだよね! 二人はどんな歌を歌ってたの? 参考になりそうな歌詞はあるかな」

「えっ、俺が歌ってたのは……」

「小学校に来ていた人形時代劇劇団のぽかすかりんじょんじゃんけんが得意なんだよ。レオはね」


 口よどむレオの代わりに、ふんすと鼻息交じりにミュッチャが答える。


「ちょ、ミュッチャ……だからそれはガキのころの」

「ぽっかぽっかりー、もっりのなかー子リスとうっさぎがじょんじゃんけーん♪ りっすさんちょきをだっしましたーうっさぎはちょきがでっきまっせーん、だっけっどぐーで勝っちましたー。レオも歌おう!」

「い、いや、もう忘れちまったから」


 うーん、童謡だ。そして、レオも動揺してるね……


「あっ、ありがとうミュッチャ、参考にするよ。じゃあウェンは」

「うーん歌ってみるね。ららりゅりゅりゅりゅーぴゅるりゅりゅーふぃらららー♪」 

 あぁ素敵なビブラート、声と共にいい香りも香ってくる。って歌詞がねぇ! 精霊語かな……


「はーいはーい! ぼくにも訊いて!」


 はっ、アラニー訊くの忘れてた。でも意外とまたいいのが出てくるかも。


「ぼくらー、元気元気! エアミュレン5ッ。ゆくぞゆくぞ世界をめぐるー」


 そ、そうですか。


「みんな、思ったことを一行ずつ言ったらいい」


 どよーんとした空気になる中、ミュッチャがまたしてもいいアイディアを出してくれた。


「おう、じゃあ俺からいくわ」


 レオが真っ先にその提案に乗ってくれ、俺らは一人ひとり思い浮かんだことを口に出し、それをミュッチャが大事にとっておいた母上からもらったノートに書き留めてくれることになった。


「小さく閉じた俺らの世界、縮こまってた俺の手を仲間が掴んで飛び立った。森の向こうの未知の場所へ大きな翼が連れてった」


 おぉ、なんかシブいし、詩的だ。


「じゃあ次はぼくねー。ふわふわきゅるきゅるふくらんでぎっちり重たくなってたら、くるくるびゅんびゅんステップ踏んでキラキラ目の前開けていって、一人が二人にぎゅんぎゅん広がって大きな輪っかが出来たんだ」


 アラニーもいい!


「のんびりおだやかゆったりと止まった時間が動き出す。小さな風かもしれないがそれぞれの力が集まれば大きなセンセーション巻き起こす」

 ウェン、すてきじゃん。


「まわる、まわるよ、セカイが回る。ぐるぐるぐるぐる猛スピードで、体をまかせて、流れにまかせて、ぐるぐるひらひらひらりまわってゆくよ」


 あら、ミュッチャ雰囲気あるぅ、他のやつらの詩とも統一感がある。みんなすっげーなぁって感心してる場合じゃねぇよ! 気付いたら俺がオーラスになっちまった。

 あぁ、俺がどんな詩を刻むかみんながキラッキラの目で見守ってるぅ。うぅ、その輝きが目に痛い。どうしよ、どうしよ、どうしよ。

 ぐるぐるぐる自分の脳内に転がってそうな言霊を探すうち、ふとこの世界でアイドルを目指すと心に決めたころ、日記に書いて恥ずかしすぎて破り捨てポエム調の言葉が頭でぱーんっと花火みたいに飛び散った。


「空を見上げて、大きく口を開いたら、勇気の声が飛び出した。小さな口に閉じ込められてた夢の色は七色、入道雲の向こうまで大きな大きな虹がかかった、日が暮れるまではまだ長い、さぁはじまりの歌を歌おう」


 あぁあああ……うっかり口から漏れちまった。俺、ポエマーすぎだろ。恥ずか死むぅ。頬から耳までかぁっと熱くなって、みんなの反応が怖くて思わずうつむいた俺の耳には……パチパチパチパチ……と小雨のようなまばらな拍手の音が飛び込んできた。

 えっ、何これミュッチャの気遣い? と思わず顔を上げると、拍手の主はエアミュレン5の仲間たち……ではなく、久しぶりに見る家族の顔だった。


「あっ、ユーリスにぃ」


 僻地でぬいぐるみ職人の修行中の兄が、何故かこの小城のドアのすき間からこちらに向かって拍手している。詩の披露が退屈だったのか、リューリーはいつの間にか部屋の隅で山高帽を枕にしてぐーぐー寝込んでしまっていたが、他の四人はコイツいったい誰だというようなはてなマークが浮かんだ顔で、その様子をうかがっているようだ。


「ねーねー、エルったらボクが留守の間にこんなにお友達を作って、ラブリーなポエムまで披露して楽しそうだねー」


 ユーリス兄は出発の時と同じお気に入りのうさぎのぬいぐるみ型リュックをしょったままずかずかと防音室に踏み込むと、アラニーと俺の間の小さな隙間にお尻をねじ込んでえいっと無理やり座った。


「あー、えっとユーリス兄、ぬいぐるみの修行はもう終わったの?」


 俺の問いかけにユーリス兄は無言のまま、絆創膏だらけの両手をえいっと目の前に差し出した。


「あっ、怪我したのかな?」

「そう、ボクって思ってたより不器用だったみたいで、職人になるのは断念したんだ。それで可愛弟の顔でも見て癒されようと思ったら屋敷にいないし、一人でここに来るの大変だったんだよー」

「そ、そうなんだ。あっ、紹介が遅れたね。ここにいるのは俺が作ったグループのメンバーアラニー、ウェン、レオ、あとマネージャーのミュッチャだよ」

「へー、そうなんだー。うふっ、ボクはエルの兄のユーリスです。みんなよろしくね」

「よろしくー!」

「どうも、ウェンです」


 アラニーとウェンだけはすぐに反応し、パチンパチンと陽気にユーリス兄さまとハイタッチしているが、レオとミュッチャはぽかーんとしたままだ。しかし、ユーリス兄って以前はすごくおとなしかったのにずいぶん変わったなぁ。ぬいぐるみ修行は失敗したけど、対人スキルがめっちゃ上がってる。


「で、グループって何の?」


「えっと、アイドルっていってダンスと歌をやるんだ」


 簡単だけど、これでいいだろう。もう説明にも慣れたもんだ。


「へー、面白そうだね! ボクちょうど暇だし仲間に入れてよー!」


 えっ、やっとメンバーが固まったばっかなのに! 俺は返答に困り果てた。他のメンバーも俺の兄じゃ何も言えないだろうし、どうしようか。


「うん! いいよー!」


 あっ、アラニーが勝手に受け入れちゃったよ。うへぇ、どうしよう。


「わー、ありがとう。ボクがんばるよー」


 アラニーとがっちり握手を交わしたユーリス兄はすっかりその気になってしまい、これにてアラニーの一存によりエアミュレン5には予想だにしない追加メンバーが加わってしまうことになったのだった。



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