第15話やっぱり欲しいな、もう一人


「で、これからどうするの? メンバーは見つかったしさもうやることないよね。まだ五日あるけど、帰っちゃう?」


 ミュッチャの子供部屋でメンバー+ミュッチャの四人で勢ぞろいし今後の対策を練ろうとしていた時、アラニーがふと口を開いた。


「俺の母さんにはおばさんが説明してくれてエルんちで世話になるってことで話がついてるけど、出発は五日後だってもう言っちまったぜ。早まんのか、まぁどっちでもいいけど、ふぁぁねみーな」


 退屈そうに欠伸をしたレオは、だるそうに長椅子に横たわっている。


「ミュッチャ、まだおうちにいたい」


 ミュッチャはぶんぶん頭を振って、反対する。

 俺はといえば、胸に秘めた思いを吐露しようか少しばかり悩んでいた。花のような可憐な美少年のアラニー、クール系ツンデレイケメンのレオ、そしてやんちゃ可愛い弟系の俺。この三人でも十分にアイドル要素はあると思う。キラキラしたボーイズアイドルグループとして、なかなかいい線いくんじゃないだろうか。しかーし! 一つ足りないものがある。大人の色気だ。大人といってもアイドルな以上、本物の大人では行き過ぎなのであるが、大人の色気を兼ね備えた俺らより少し年上、リーダー的なメンバーがもう一人欲しいのだ。けれど、レオをスカウトする際にこの三人なら頂点とれる的な大口を叩いてしまった以上、それを口に出すのはどうにもはばかられた。うんうん一人でうなっていると、ミュッチャがちょこんと隣に座り俺の肩をとんとんと叩いた。


「エル、言いたいこと言った方がいい。うんうんしてお腹痛くなる」


 さすが年長者、そうだよな。腹に一物抱えたまま活動するなんて、みんなにも不義理ってもんだよ。

 俺ははーいっと手を上げて、思いのたけをぶちまけることにした。


「みんなー、俺に考えがありまーす。もう一人この特区でメンバーをスカウトしたいです」

「あぁ、それもいいかもな。ちょっと面倒くせぇけど」

「うんうん、仲間が増えてパワーアップするのうれしいよ! またレオみたいないい子を見つけたいなぁ」

「はっ」


 怖かったみんなの反応は、意外なものだった。アラニーの陽気な反応にレオは鼻で笑ったけど、前のように完全拒否って感じじゃなくていいチームワークもできつつある。こうして、どんどん仲間としての絆が深まってゆくんだろう。

 あぁ、こんないい仲間たちがいるというのに、俺はいつも一人で悩み過ぎてものごとを深刻に考えすぎてしまう。もっとみんなを信頼して、自分から心を開いて行かないとな。元コミュ障の悪い癖なんかセーブしとく必要なんかないんだ。そんなん全部リセットしちまおう。よし、ではでは折角こっちの仲間もできたことですし、協力を仰いでみましょうかね。


「なぁレオ、お前同じ年頃の友達とかいないか?」

「あ、いるけどよ」


 よしよし! 早速紹介してもらおう。


「是非ともその子に会わせてもらえないかな?」

「は、ここにいるだろうがよ」


 えっ、またいつの間にか背後にいるの? レオと同じダンピールだろうか。ふっと後ろを振り返ってみるが、苺柄の壁紙が目に入るばかりで誰も見当たらない。


「あ、あの、誰もいないんだけど……」


 まごまごする俺を見てレオは不機嫌そうにふんっと鼻息を出して、くいっと顎で俺たちを指した。


「だから! いるだろうここに!」


 そ、そっか……同じ年ぐらいの友達って俺らのことか。いや、そういう意味じゃなかったんだけど、このデレはちょいうれしいかも。何か俺も気の利いた返事を。


「あ、あの」

「うわーそうだよね! ぼくらは仲間♪ おっともだっちー♪」


 あっ、アラニーに先を越されちまった。


「ちっ、いちいち確認してんじゃねーよ」


 レオもまんざらでもないなぁ。不機嫌そうな深紅の目の奥でちらっと照れたような光が見える。

 うーん、だんだんレオのデレ時の特徴が分かってきたぞってそれもいいんだけど、紹介のことはどうしようか、ミュッチャはこっちに友達いないしなぁ。わかりやすいように、ちょっと言い方を変えてみよう。


「えっとさ、この特区でレオみたいに歌とかダンスが好きでイケメンの子って思い当たらない?」


 これならイケるだろう。


「イケメンって何だよ急に、お前って結構恥ずかしいヤツだよな。急に褒め出してよ」


 あ、そこ、そこですか。


「えっと、いないかなぁ」

「あー、俺、ミュッチャ以外のヤツって全然顔がわかんねぇんだよなぁ」


 そうですか……二人の世界だったんですね。うーん、これはどうしようか。


 腕を組んでうんうんうなっていると、ミュッチャが三角座りをしたままスススと近づいてきてこそっと耳打ちしてきた。


「森、行ったらいい……湖のそばで子供いっぱい遊んでる。夏、水遊びする」


 ナイスアドバイス! ミュッチャってめっちゃ頼りになるよな。恥ずかしがり屋過ぎて人前に出るのは向いてないかもだけど、こういうショウビズのあれこれに向いてんじゃねぇかなぁ。一緒になんかできねぇかなぁ、あっ、そうだ!


「なぁミュッチャ、俺らのマネージャーになってくんねぇ」


 我ながらいい案だ。


「マネージャーってなぁに」ミュッチャがポカーンとすると。「支配人のことだよ! 王都のホテルとかにいるよ」アラニーがえへんとしたり顔で切り返す。

 あっ、そっか、そっちもあるよね。

「ミュッチャ、ホテル、行かない」

「何を言い出すんだエル! 王都なんて俺は許さんぞ」


 ミュッチャはふるふると首を振り、レオはプンスカして口をへの字に曲げている。

 あー、誤解が誤解を呼んでしまった。


「えー、違う違う! 俺らのグループのマネージャーってことだよ。歌ったり踊ったりはしないけど一緒にいろいろ考えてサポートしてくれる仲間になってほしいんだ!」


 上手く説明できただろうか。


「いいよ、ミュッチャマネージャー」

「仲間って元々そうだろうが」

「ヤッフー! ミュッチャもアイドル活動参加だねっ!」


 ちゃんと通じているのか不安だが、何とかなったみたいだ。


「じゃ、じゃあさ、マネージャーのミュッチャの提案を採用して今からみんなで森に行かない? 新しい仲間を見つけに行くんだ」

「よーし、行こう、いっこう!」


 何でもノリノリのアラニー、自分の提案の採用と言われちょっと照れた様子でホクホク顔のミュッチャ、ふーっと面倒くさそうにため息をついてダルそうだけど真っ先に玄関先に出て行ったレオ、そして俺の四人組はミュッチャママの持たせてくれたおやつ入りの巨大なオレンジ色のバスケットを持って、森の中へと足を踏み入れることになったのだった。


「行きは天馬さんの馬車で一っ飛びだったからさ、そういえば森の中に入るの初めてだよな」


 うっそうとした森、その少し暗い緑の前で先頭を歩いていた俺の足はふと止まってしまった。パカっと開いたその木々のすき間、それが何やら口のように見えてしまって一歩でも足を踏み入れようものならごっくんと飲み込まれてしまいそうで足がすくんでしまったんだ。


「そうだねー、ワクワクしちゃうよ! ひゃっはー、ほっほほーい」


 アラニーはワーッと勢いよく走り出して、真っ先に森へ消えて行く。


「おいアラニー、そんなはしゃいで駆けていったら木の根っこにつまづいて転ぶぞ」


 ミュッチャ以外にも面倒見がよかったらしいレオが、すぐに後を追いかける。


「エル、汗びちゃびちゃ、森、涼しいよ。水遊び、楽しい楽しい」


 ミュッチャまでもがてこてこさっさと先へ進んでしまい、こっちを振り返りもしない。どうやら得体のしれない恐怖にうちふるえていたのは、俺一人だったようだ。


「お、お~い、みんな待ってくれよー」


 ぽつんと残された俺は暑くて噴き出しているのか恐怖による冷や汗なのかわからないしたたる汗をシャツの袖でグイッと拭いながら必死でその後を追いかけ、森の奥へと入っていったのだった。


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