第29話 第8部 発覚編 5



ここまでのあらすじ


ついでに警察官の所持する拳銃がいままでよりもずっと威力がある357マグナム弾を発射できるリボルバーを支給する事になったニュースを見て、彩斗達は眉をひそめた。


真実を知る上層部が人間よりもずっとタフで再生能力を持つ悪鬼への対策として支給したのであろう。


そして、富士樹海やその他の現場にも沢山の警察官が日本全国から呼び集められて配備されたのだ。


配備されて『見てしまった』警察官達に厳重な箝口令が敷かれたとしても、はたして…。


今の状況では四郎達が悪鬼と判れば人類の味方をしているとか敵対してるとか関係なく悪鬼だと言うだけで警官達がパニックに駆られて撃ってくるかも知れない。

勿論行動を共にしている彩斗達も銃撃の対象になる。


その時屋根裏から圭子の悲鳴が聞こえて来た。



以下本文


「まぁ、少々厄介な問題になるだろうな…これから俺達はもっと行動に注意して…。」

「きゃぁああああ~!」


屋根裏から圭子さんの凄い悲鳴が聞こえて来て喜朗おじの言葉を遮った。

俺達は外出の際の最小限の武器、今は警察の身分証を持っているので俺と明石と四郎とジンコは脇に40口径のSIGピストルも下げているが、武器を抜いて構えながら屋根裏に駆け上った。


「なんだ!残党が潜んでいたのか!」

「圭子大丈夫か!」

「踏み込んだら左右に展開だぞ!

 お互いにカバーしろ!」

「はなちゃん!

 見えない壁の用意を!」

「任せとけじゃの!」


武器を構えて屋根裏に踏み込んだ俺達。


「圭子さん!大丈夫?

 敵は見えないわよ!」


ジンコがピストルの銃口を上下左右に巡らせて叫び、屋根裏をチェックし、真鈴と加奈もナイフを抜いて不意の襲撃に備えて周囲を警戒し、死霊が見える俺達は苦笑いを浮かべて武器を降ろした。

屋根裏の隅で、死霊達が目を見開いて怯えながら両手を上げて固まっていた。


「わ、私達は、圭子さんが助かって良かったねと…その、お祝いを言おうと…。」


上品な老婆が死霊を代表して怯えた口調で弁解した。


死霊が見える者達はくすくす笑い出し、明石が俺達を代表して死霊達に言った。


「みんな心配してくれてありがとう。

 ただ圭子は見えるようになったばかりだから驚いたんだと思うよ。

 済まなかったね。

 謝るよ。

 どうか手を降ろしてくれ。」


俺はジンコが構えるピストルにそっと手を乗せて下におろし、死霊達も上げていた両手を降ろしてほっとしていた。

明石と死霊の会話を聞いた圭子さんが気まずそうな顔をした。


「ああ、そうだったの、そうなのね。

 ごめんなさい、あなた達が心配してくれていたなんて気が付かずに…忘れ物をとろうとドアを開けたらいきなりあなた達が近寄って来たから悲鳴を上げちゃった。

 ごめんなさい、心配してくれてありがとう。

 これからはよろしくお願いします。」


圭子さんが頭を下げて謝り、死霊達もこちらこそ、どうぞよろしくと言って頭を下げた。

ふと俺は気が付いたが、やはり死霊の数は最初見た時の10体程度から20体程度に数が増えていた。

まぁ、妙な姿の者もいるが全員善良そうなので安心した。

多少の騒ぎもあったが、やはりここは死霊達の高級保養所のようだった。


俺と四郎、明石と喜朗おじがしきりに頭を下げている圭子さんの陰でそっと目配せをした。

やはり『ひだまり』大繁盛の鍵を握るスケベ死霊軍団の事は性急に圭子さんに納得させないといけないと俺達は強く思った。

屋根裏の上品で善良でおとなしい死霊相手でもこんなに騒いでしまうのだ。

説明無しで『ひだまり』のスケベ死霊の群れを見たらどんな騒ぎになるか想像もつかない。

俺達ワイバーンの男性メンバーの心のオアシス『ひだまり』は何としても存続させなければ、今後の俺達の悪鬼討伐にも重大な支障が出るだろう。

『ひだまり』が無くなれば俺達のモチベーションも絶対に下がってしまう。


「あとでガレージに集合。」


俺が小声で言うと四郎、明石、喜朗おじが無言で頷いた。


え?


浮気なんかじゃないよ。

戦士には休息が必要なんだよ。

男の魂は、たとえスケベな事でも決して縛られないんだよ!

シティハンターのあいつだって超スケベじゃんか!

ヒーローは皆!スケベなんだよ!

スケベじゃなきゃこんな危ない事やってられねえんだよ!


俺達は行動に注意してランドクルーザーとレガシーとボルボに分乗し、『ひだまり』開店予定の隣の中華料理屋に向かった。


中略(本編を読んでね!(≧▽≦))


中華料理屋のテレビでは日曜日の夜には似つかわしくない事件の特別番組を延々と流していた。

警察の殉職者がまた増えた。

重傷者の何人かが亡くなったようだ。

テレビではコメンテイターたちが狂った毒ガス事件を起こした宗教団体や元首相暗殺の引き金になった金に汚い宗教団体などとの関連性を言及して大論争になっていた。

的外れな意見を延々と聞かされて嫌気がさした時、天体に関するニュースになった。

月が、いつも地球に同じ面しか見せないはずの月が原因不明だが少し自転周期がずれて普段地球から観測出来ない部分が見えるとの事で、日本以外の世界中で大きなニュースになっていると言う事だった。

ジンコがテレビを見て興奮した声を上げた。


「ちょっとなんなの!

 こんな事が起きるなんて信じられない!」


加奈が不思議そうにジンコを見た。


「ジンコ、そんなに凄い事なのですか~?」

「加奈、これは物凄い事よ!

 今回の事件が無ければ日本でもすごいニュースになる筈の事よ!

 そもそも月って解明されてない不思議な事が多いんだけど、月の自転周期と公転周期が全く同じ事も不思議の一つなのよ!」

「自転周期?」

「私理科で習ったよ。

 星がくるくる回転する速さの事だよね。

 星が一回りする時間の事だったよね。」


司が運ばれてきたエビチャーハンを食べながら言った。


「そうよ司、良く勉強してるね。

 月は地球の周りを廻りながら自分でも回転しているのよ。

 その間も月も地球自体も回転してるけど、月の公転周期、地球の周りを廻る時間と自転周期、月自体が回転する周期が27・3日で同じなのよ。

 だから月はずっと地球には同じ面しか見せない星なの。」

「ふ~ん…周期が変わるって…それって大変な事なんですか~?」


「加奈、凄い大変な事なのよ!

 東日本大震災クラスの大地震で地球の自転周期がコンマ何秒か変わった事でも大ニュースだったのよ!

 今まで何億年も変わらずにいた月の動きが変わってるんだから!

 大体月は不思議だらけの星なのよ、あのクレーターだらけの表面だけどクレーターの直径の割には深さが全然足りないの、まるで装甲版が表面下に張ってあるみたいにね。

 中の物を衝撃から守るように固い装甲版でおおわれているような…不思議な星よ。

 そもそも月ってどうやってできたかが未だに論争をしている不思議な星なのよね。

 地球よりも古い岩が月の表面を覆ってるしね。」

「え?月って地球の後からできた物だと思っていたけど…違うの?」

「そうよ真鈴!

 月は地球よりも先に出来たと言う説が未だに有力なのよ、と言うか地球に一番近い星なのに月は判らないことだらけなのよね~!

 月が…何かの存在がはるか昔に作った人工物で未だに機能していると考えれば納得がゆく事の方が多いくらいなのよ。

 これはオカルトや都市伝説でもなく、世界中に名が通った有名な科学者たちさえも否定しきれないと言っている事なのよ!

 その月がなんのタイミングか判らないけど自転周期が変わって普段見せない面を地球に向けていると言う事は…大大大事件よ!」

「うむ…それは確かに大事かも知れん…そう言えばジンコは初めてここに来た時にリリーと月に関して熱く語っていたな。」


四郎がもう天津丼を平らげてマーボー丼にとりかかりながら言った。


「そうね四郎、リリーから聞いたけど、岩井テレサも月には並々ならぬ興味を持っていて月探査に大金を投資していると言ってたわ。

 人間と…。」


そこまで言ってジンコは周りを見回して小声で続けた。


「人間と…悪鬼の起源を探るカギは月にあるかも知れないと考えているようよ。

 早く岩井テレサとお話したいな~!

 岩井テレサもきっとこのニュースに驚いている筈だと思うわ。」

「なるほど…ジンコが言う通りそれは大事かも知れんな…。」


ジンコの熱弁を聞いた明石が言い、俺達は食べながら月に思いをはせた。

何か…俺達が想像もしない大きな事が起こりつつあるのか?

スケールが大きすぎて実感が湧かなかったが何か…『予感』を感じた。

恐らく俺達全員が何かを感じたのだろう。


俺は餃子を頬張りながら店の窓から空を見上げた。

雲が遮り月は見えなかったが、何かとても神秘的な物を感じた。


食事が終わり、たらふく食べた俺達はご機嫌な笑顔の大将達に見送られながら死霊屋敷に戻った。



中略(本編を読んでね!(≧▽≦))


俺達はガレージに車を入れ、風呂に入ってから暖炉の間でコーヒーを楽しんだ。


「さて、そろそろ行くか。」


四郎がそう言って立ち上がり、俺と明石と喜朗おじも立ち上がった。

真鈴達が不思議そうに俺達を見た。


「皆でどこ行くの?」


真鈴が尋ねた。


「いや、ネオアームストロングヲタ地雷の改良について話し合おうと思ってな。」

「喜朗父、じゃあ、加奈達も行こうか~?」

「い、いや、加奈、俺達である程度決めてある事だからお前達はいなくて大丈夫だぞ。」

「うむ、男の魂の…ゴホゴホッ、いやオアシスの件で話し合わなければならん事もあってな…。」

「四郎。

 じゃ、ガレージに行って来るよ。」


明石が四郎の脇腹をつついて飲みかけのコーヒーカップを手に取り、不思議そうに俺達を見る真鈴達を残して俺達男性陣はガレージの地下に向かった。

ガレージに向かう途中、俺はつい曇り空を見上げて月を探した。

少しだけ涼しい風が吹き抜けた。



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