第28話 第8部 発覚編 4

ここまでのあらすじ


彩斗達は交代で仮眠をとる事になり、彩斗と真鈴はネットでアレクニド事件の事実が世間に漏れていないか調べる事にした。


その間、岩井テレサから富士樹海の戦闘の労いと死霊屋敷が襲撃された事の謝罪の電話が来て彩斗と真鈴はかえって恐縮した。

そして壊れた入り口ゲートなどの修理の費用は岩井テレサの組織で持つことを提案されて感謝しつつ受け入れた。

そして、明石と圭子、四郎とリリーの結婚式を将来執り行う事を告げ、岩井テレサは是非出席したいと言われた。


その後岩井テレサは政府と事件の事実が世間に漏れない様にとの工作会議に出ると言う事だった。


確かにアレクニドの真実の姿が世間にばれてはどんなパニックが起きるか判らない。


彩斗と真鈴はネットを調べながら、色々自分勝手な事や無責任な憶測、陰謀論などが湧いて出ている事に辟易としながらネットを調べていた。


彩斗は同時に真鈴に内緒で悪鬼となった圭子に『ひだまり』大繁盛の鍵を握るスケベヲタク死霊軍団の事を納得させる材料を探していた。



以下本文


その後、俺達はまたテレビをちらちら見ながらパソコンで検索を始めた。

スケベ死霊に関して俺と…ワイバーン男性陣の考えを後押しするような有力な情報を手に入れて俺は満足した。


「よし!これは有力な情報だ!」

「なに?彩斗、ガッツポーズなんかしてさ、変なの…ああ!ああああ!やばいよこれ!

 ちょっと彩斗これを見てよ!」


真鈴が腰を浮かし、俺にパソコンのディスプレイを向けた。

動画だった。


ほんの数分前にあげられた映像で、どこかの建物の2階か3階の窓から見下ろした画像で、機動隊の盾が並んで道路を封鎖したところに怒号を上げて悪鬼と人間の集団が襲い掛かっている。

機動隊員がピストルを乱射のごとく撃ちまくっているが、人間はともかく悪鬼は撃たれて倒れてもまた起き上がって襲い掛かり、機動隊の盾の列を突き崩して防護服とヘルメット姿の機動隊員をめちゃくちゃに引き裂いていた。

機動隊員の悲鳴と悪鬼達の怒号が入り混じり、撮影者の悲鳴と呻き声、やがて画面がぶれて嘔吐する音が聞こえて来た。

窓枠に置かれて斜めになった画面には足を負傷して逃げ遅れた機動隊員が命乞いをするのを見て笑いながら数匹の悪鬼がその隊員の四肢を掴んで一斉に引っ張り、引き裂く映像が映っていた。

道路上には捨てられたジェラルミンの盾、夥しい機動隊員の千切れた頭や腕が、そしてはらわたを引きずり出された死体が、撃ち殺されたアレクニドの人間メンバーの死体とともに転がっていた。


「…これは…ヤバいね…。」

「奴らの悪鬼顔も撃たれても再生する所も、常人よりもずっと強い力や人間離れした敏捷性も…そして情け容赦ない残忍さも…全部撮られているわ…。」


俺と真鈴はパソコンのディスプレイを見て呻いた。

すっかり顔から血の気が失せていた。


俺と真鈴は直ぐに岩井テレサに電話を掛けた。

岩井テレサは外出中と言う事でコーディネーターが代わりに電話に出た。

俺は第5騎兵ワイバーンの符牒を手順通り名乗った。

コーディネーターが代わりに承ると言う事で、アレクニドが機動隊を襲撃している映像が漏れていると伝え、そのURLを伝えた。

コーディネーターはURLを復唱して岩井テレサに伝えて対策を練ると答えてお礼を言われた。


「やれやれだな~。」


俺はスマホを切ってソファに腰を下ろした。

念の為にテレビの各局のニュースを見て色々チェックしたが、今の所テレビには放映されていない様だった。

だが、やがてあの映像は放映されてしまうだろう。

それとも政府が速やかに手を打って封印するか…

もしもあの映像が大々的に放映されたら一般の人達はどう反応するのだろうか…人類よりもはるかに強靭な体と残忍な所業を犯す不老不死の悪鬼が多数、人間の社会に潜んでいると言う事実を知ったら…悪鬼全体が凶悪では無く、中には陰で人間を救っている悪鬼がいたとしても、どうやって見分けを付けるのか、大多数の人達は悪鬼全部の殲滅を願うのではないだろうか?


俺と真鈴はテレビをチェックしながら、そしてパソコンの再生回数とコメントがどんどん増えて行くのをぞっとしながら見守った。

やはり、これは良く出来たフェイクで今の時期に不謹慎だと怒るコメントや、いやいや、これは本物で自衛隊が出動して速やかに悪鬼をあぶりだして全部殺す事が大事だなどの過激なコメントが多かった。

中には隣に住んでいる奴はきっとこの仲間だからやられる前に殺さないといけないとか物騒極まりない物まで出て来た。

挙句の果てには、俺は実は鬼でばれてしまったから近くの奴を皆殺しにするなどと言う目立ちたがりで脳みそが粗末な惨めなバカ野郎のコメントまで入って来て俺と真鈴は嫌気がさしてパソコンから目を逸らしてテレビをチェックした。


十数分後、岩井テレサから電話が来て連絡をくれた事のお礼を言われ、岩井テレサの化学班や装備班が対策を練ると告げた。

電話での岩井テレサの口調は落ち着いた物で俺も真鈴も少しだけホッとした。


その2分後にあの動画は削除され、閲覧できなくなったが、その後にも似たような動画が出て来ては片端から削除されていた。俺と真鈴は皆を起こすかどうか悩んだが、やはり仮眠をとらせてやろうと言う事で四郎達が起きるのを待つ事にした。

お昼になり、冷蔵庫にある食材で質素な食事を作りもそもそとテレビを見ながら食べた。


昼食が終わる頃、手配した業者がやって来て壊れた玄関ドアの修理を始めた。

ドアの枠は鋼鉄製のものに変え、蝶番などより頑丈な物を付け直し、在庫で表面は木材だが鉄板の内張があるドアを取り付けた。

取付工事で多少音が出るが仕方が無いだろう。

これで玄関ドアは多少の銃撃を浴びても持ちこたえるだろう。

入り口ゲートもあのアリの怪物でも破る事が不可能な頑丈な物にして、万が一破られた時にはヲタ地雷などの罠で侵入者を吹き飛ばす物を置かないといけないだろう。



午後3時頃には四郎達が起きて来た。

俺と真鈴は起きて来た者達に現在の状況を話した。

皆深刻な顔をして聞いていたが、何も対策が思い浮かばなかった。

やがて四郎と明石、喜朗おじ、加奈は樹海で使った武器の手入れをするためにガレージに向かい、圭子さん達が遅い昼食を造りにキッチンに行き、ジンコと俺と真鈴は引き続きテレビやパソコンをチェックした。

ジンコから仮眠を取る様に言われたが、俺も真鈴も目が冴えて全然眠くなかった。

テレビでは午後6時から警察の緊急会見が行われると伝えていた。


「どうだろう?

 岩井テレサの方で何か対策を練るとか言っていたけどね。」


俺が尋ねるとジンコがテレビとパソコンを交互に身ながら答えた。


「これは何としても火消しをしなきゃいけないから、何かしらの対策が絶対に必要と思うわ。

 あの機動隊が襲撃された動画だって削除されたからと言って済まないわよね。

 あれを見てしまった人も納得させるような物を見せないと却って騒ぎは大きくなると思うわね…。

 これは一歩間違えると…私が怖いと思う事は一般の人達は人間と悪鬼の見分けがつかないし、ましてや人間の側にいる悪鬼と人間に敵対する悪鬼の区別もつかない事よ…。」

「ジンコ…それってさ…。」


真鈴がおずおずと尋ねるとジンコはため息をついた。


「一般の人達から見たら…私達も殺さなきゃいけない対象に含まれるかも知れないと言う事よ…。」

「…。」

「…。」

「警察官で何10人も、100人近くの死者が出たのよ。

 そして少なからずの悪鬼が逃げたわ。

 普通の人達は私達が逃げた悪鬼をかなり始末した事など知らないわ。

 恐怖でヒステリックになった人達が私達の存在を知ったら…ここの秘密を知ったら…暴徒となって襲ってくる事だって考えなきゃいけないわよ…殺すつもりで押しかけてくるわ…殺されるのが嫌なら…そんな人間達と…私達…戦う羽目になるかも知れないと言う事よ…。

 最悪の場合…はなちゃんのカタストロフィーに頼る事になるかも知れない…。

 暴徒の人間達を吹き飛ばす事になるかも…」

「そんな…。」


真鈴が口を押えて絶句した。

ジンコの冷徹な予想。

だが、もしもそう言う事態が起きて俺や俺の仲間が、そして司や忍までが暴徒に寄ってたかって殺されると考えたら…。


いつの間にかキッチンから暖炉の間に顔を出した圭子さんは黙って司と忍の手を引いてキッチンに戻って行った。


「真鈴、岩井テレサ達が何かしらの対策を練るとは思うわ。

 そんな状態なんてだれも望んでいないわよ。

 世界中がそんな状態になったら…狂った奴は…狂っていなくても恐怖に駆られた奴が核を使う可能性だってあるのよ。

 破壊力が大きい戦略核で怪しいと思った国を丸ごと消滅させようとするかも知れない。

 人類は手が付けられないパニックで見境無しの全面戦争を始めるわよ。

 …でも、いざとなった時の事を考えておかないといけないかもね。

 そこまで人類が愚かじゃなくとも…私達の立場は…実は本当に今、危険に直面していると思うわ。」


遥か昔に読んだ『デビルマン』と言うコミックを思い出した。


デーモンの侵攻に対抗するために人間がデーモンと合体して人間の理性を保ったままデーモンの体と能力を乗っ取りデビルマンとして人類のために戦う主人公の話だ。

だが、デーモンの策略でデビルマンもデーモン一味と誤解した人類が暴徒化して皮肉な事に主人公の面倒を見ていた人達が狂った人類によって虐殺される…。

人類はお互いに全面戦争を起こして滅亡し、最後にはデビルマン軍団とデーモン軍団の最終戦争が起こると言う、なんとも救いが無いコミックで、テレビアニメのデビルマンと全く違った内容で子供の俺は怖くて夜眠れなくなった記憶がある。


もしも、ここに恐怖で見境いが無くなった暴徒が大勢押し寄せて俺達を殺そうとしたら…罪無き人達を守る為に命懸けで戦ってきた俺達は…暴徒となった人間の彼ら彼女等に銃口を向ける羽目になるかも知れない…。


俺達はまんじりとせず、記者会見を待った。


午後5時55分。

俺達は司と忍を連れて2階に上がった圭子さん以外全員が暖炉の間のテレビの前に集まった。


やがて警察のお偉方が勢ぞろいして記者会見が始まった。

警察では今回のテロ集団は新興宗教の集団で他国の勢力と関係無い事を発表した。

あの狂った犯罪を巻き起こした新興宗教や元首相暗殺のきっかけとなった金に貪欲な狂信的な宗教団体との繋がりなどが質問されたが、現在調査中であるが今の所その証拠は見つかっていないと警察が答えた。


そして、驚いた事にあの、警察の機動隊がアレクニドに襲撃された映像が一部モザイク付きで警察の方から発表した。


俺達は驚いた。

一体どうやってこの映像を説明するのであろうか。

記者席も一様に驚きの声が漏れた。


そして、警察ではこの新興宗教団体はかなり科学的に進んだ技術を持っていたと説明して、押収した物だと言いながら、テーブルの上に非常に精巧に作られた悪鬼の顔のマスクと凶悪な爪が生えた肘まで届くような長手袋を置いた。

この団体は戦う時にこのマスクや手袋を作って被っていたと説明した。

このマスクは人間の皮膚に非常に密着して表情などが本物のように動く事を実際に警察幹部がかぶって見せて実演して見せた。

記者席から驚きの声が上がった。

確かに凄い、悪鬼を見慣れている俺達も本当の悪鬼顔に見えたし手袋も本物の悪鬼の手に見えた。

そして、銃弾を受けて血しぶきも出たのにまた起き上がり攻撃する事についての質問が出た。


確かに普通の防弾チョッキではあの映像にはならない。

どう見ても生身の体に着弾したように見えた。

厚手のTシャツのような物を着た警察の人間が現れたが、それは岩井テレサの側近の榊だった。

俺達は呆気にとられた。

警察幹部が榊の前に立って説明を始めた。

これは宗教団体が開発した高度な防弾チョッキで、薄いケブラー繊維の防弾部分とその上をゲル状のものが覆ってカバーしてあり、ゲル状の物質に高速な物体が当たった場合多少ゲル状のものが飛び散るが残りの部分がすぐさま硬化して弾着の衝撃を抑えると説明し、警察幹部が警察用のリボルバーを取り出すと、大きな音がするので驚かないでくださいと言った後、至近距離から榊が着た厚手のTシャツに向かって3発撃ちこんだ。

短銃身リボルバーならではの大きな発射音と、着弾した場所から血しぶきのようなものが飛び散り、記者席から悲鳴や驚きの叫びが上がった。 

だが、撃たれた榊は一瞬顔をしかめただけで平気な顔をしていた。

そして、笑顔でTシャツをめくるとほんの少し赤い痣が付いているだけだった。

襲撃してきたものは何人かがこれを着ていて弾が当たっても平気で攻撃してきたと警察幹部が言った。

なるほど、これなら防弾チョッキではなく直接弾が当たったと見える。

まぁ、撃たれたのが悪鬼の榊だから不完全な防弾チョッキでも日本警察用の威力が弱い銃弾で少し時間を置けば痣くらいしか残らないだろう。

見事なフェイクだった。

記者達は誰も疑わなかった。

そして、襲撃してきたものは特殊に調合した麻薬を摂取していてかなり痛みに無感動になり狂暴な心情になると説明した。

人間の腕を引き千切る事も可能だと説明し記者たちは納得した雰囲気だった。


「なるほど、これなら何とか納得できるかもしれんな。」


四郎が唸った。


「そうだね、隣の鈴木のおばちゃんや『みーちゃん』でもはなちゃんが特別仕様のロボットだって皆納得してたからね。

 真鈴のとんでもなく下手な説明でも納得してたからな~。」

「何よ彩斗、失礼しちゃうわね。」


真鈴がふくれ面になり、ジンコはテレビを見つめて感心した声を上げた。


「でも、これは非常に巧妙な説明よ。

 あの映像を隠すことなく敢えて公表して見せてからこの説明をしたのは大きいわよ。

 人間なんて自分の理解が及ぶ範囲内での説明なら納得するものだし、この説明に矛盾は無いわ。

 かなり頭が良い人間が頭を絞りぬいて考えたわね。」

「これはきっと岩井テレサ達の組織からの提案だと思うな。」

「そうね、こんな説明、頭が固い奴らじゃ思いつかないで何でも隠そうとするものね。

 そんなやり方は余計に疑惑が深くなるのよ。

 岩井テレサの組織じゃなきゃ考えつかない説明だと思うわ。」


俺達は岩井テレサの組織が考えたであろう巧妙な説明に感心して、ほっと胸を撫で下ろした。

どうやら手が付けられない、人類滅亡の引き金になりかねないパニックは止められたようだった。


「まぁ、一応危機は脱したと言う事だな。

 今日は皆で外食に行くか?

 入り口ゲートは壊されたがまだ警官達が見張ってくれているからな。

 大いに食ってお祝いしよう。」


明石が言い、俺達は喜んで外食に行く事になった。

外出の支度をしている時に俺はそっと四郎と明石、喜朗おじにスケベ死霊達の存在の必要性を圭子さんに納得させる事案について夜中にガレージに集合して話し合う手はずを整えた。

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