第27話 第8部 発覚編 3

ここまでのあらすじ


リリーに来た連絡の内容。

それは、創始者と自称する者から糸を付けられていたのは蔵前だったと言う事だった。


富士樹海潜入後、ただ一人逃げ延びた蔵前が追手を警戒して転々と移動した岩井テレサのセーフハウス、そして一時期身を寄せたリリーの家、そして、死霊屋敷が創始者が放った刺客の襲撃にあったと言う事だった。


そして、その事を知ってしまった蔵前は自責の念から自殺未遂をして現在意識不明の重体だとの事だった。


リリーは急ぎ、岩井テレサの元へ帰っていった。


はなちゃんがもう少し蔵前に感じた違和感を探ればと後悔したがそれももう過ぎた事であった。

彩斗達ワイバーンは決して蔵前のせいでは無いのにと自殺未遂をした蔵前を気の毒に思うのだった。


残って現場を捜索していた処理班から死霊屋敷の監視カメラの映像データがあったらコピーを頂きたいとの事で彩斗達は監視カメラに映った死霊屋敷襲撃の状況を見る。



以下本文


俺達と処理班の男はキッチン奥の監視カメラの画像を見れる小部屋に行った。


「子供に見せるものじゃ無いな…そんな気がするぞ。」


喜朗おじがそう言うと司と忍の手を取った。


「司、忍、おいで。

 うまいケーキを俺達で作るとしよう。」


場の空気を察したのか司と忍は大人しく喜朗おじに付いていった。


「今の所奴らが侵入したのは入り口のゲートのみのようでした。」

「なるほど、戦術も戦略もなし、斥候も無しで突っ込んできたのだろうな。

 要するに負けてしまうけれど仕返しに、復讐に、殺してやりたいと言う感情だけだ。

 創始者とか抜かす奴の考えがと言うか感情で行動を決めている事が判るぞ。」


入り口ゲートの画像が現れた

入り口両側、道の端に寄せて2台のパトカーが停まっていて、4人の警官がサブマシンガンを構えてぶらぶらと歩いている。

何かに気が付いた警官が画面の外に銃を向けて何かを叫んでいる。


「誰だ!止まれ!

 近づくと撃つぞ!」


そして撃ち始めた。

狙いが定まっていないような印象だった。

警官達は怒号とも悲鳴とも取れる声を上げながら撃ちまくっていた。

見た事もない化け物に恐れを抱いてパニックになったのかそれとも多数の敵が一斉に湧いてきたのか、恐らくその両方だろう。

警官は互いの肩を寄せ合うように固まり撃ちまくっていた。

俺たちの様に交互援護射撃を習っていない警官は全員がほぼ同時にマガジンの弾を撃ち尽くし、俺達からしたらもたもたした手付きで予備のマガジンを引っ張り出して装填しようとした瞬間に1人の警官の上半身が斬り飛ばされた。


「なんだ、互いに援護もへったくれも無いな。

 特殊部隊とか言っていたが、そう言う訓練は受けていないのか…訓練がパニックで頭から消し飛んでしまったのか…。

 まぁ、見た事もないような化け物が目の前に現れたらな…。

 責める事は出来ん…。」


明石が食いしばった口から唸り声を漏らした。

映像は続いた。

他の警官はサブマシンガンを捨てて入り口ゲートに走ろうとして、やはり切り殺されたりいきなり画面に出現した巨大な昆虫の足のような物で踏みつぶされた。

そしてトラックほどの大きさの巨大な昆虫の足は1台のパトカーを無造作にひっくり返し、もう1台のパトカーをペシャンコに踏みつぶして入り口ゲートに体当たりをした。

一撃、二撃、三撃まで持ちこたえたゲートの入り口は四撃めで破られた。

破れたゲートに巨大昆虫の後に続いていたであろう数十匹の槍や刀、狩猟用ライフルなどで武装した悪鬼がなだれ込んだ。

人間も何人かが混じっていた。


続いて俺達はゲートの内側、ガレージの屋根から入り口ゲートに向けたカメラの画像を見た。


破られたゲートからなだれ込んでくる悪鬼の群れに悪鬼である護衛の男女が40口径のサブマシンガンを撃ちながら応戦して数人の悪鬼がバタバタ倒れた。

護衛が悪鬼の群れに突撃しながらマシンガンと別の手に持ったマチェットで倒れた悪鬼の首を撥ねて回った。

画面外からの銃弾で頭を吹き飛ばされた悪鬼もいた。


「私が2階から撃ったのよ何匹かを倒したと思うけど、司と忍を隠さないといけないと思ってね、射撃を中断してあの子達を殴って気絶させて、2階の武器庫に隠したの。」

「圭子、辛かったら見ない方が良いぞ。」


明石が圭子さんの肩に手を掛けた。

圭子さんが手を伸ばして明石の手を握った。


「ううん、辛くても見るわ。

 あの護衛の人達の為にも私は見なきゃいけないと思うわ。」


悪鬼の群れ相手に奮戦している護衛、十匹ほどの悪鬼や人間を倒しただろうか、急にゲートの割れ目からあの昆虫の足が伸びて来て先端が細く鋭く変化して女の護衛の腹を貫いた。

悪鬼の顔を苦悶の表情で歪めながら女の護衛は自分を貫いた足の元の方に向けてサブマシンガンを連射したが、周りの敵の悪鬼達が寄ってたかって槍や刀で斬り付けた。

地に倒れながら何匹かの悪鬼を撃ち倒した護衛の女悪鬼は事切れて灰になった。


残った男の護衛の悪鬼が屋敷の方に叫んでいる。


「お前達はそこを死守しろ!

 絶対に一匹も中に入れるな!」


男の護衛の悪鬼はそう叫びながら素早い操作でマガジンを交換してまた撃ちまくりながら悪鬼の群れに飛び込み、悪鬼を撃ち倒しマチェットで止めを刺して回っていた。

かなりの悪鬼を倒して残った悪鬼は数人と言う所まで減らした。

だが、ゲートの割れ目から体を押し込みながら侵入してくるアリの化け物を見てカメラの方に走って来た。

サブマシンガンを捨てた男は止めてあった覆面パトカーのトランクを開けてべネリーのオートショットガンと予備の弾が入ったバッグを取り出すとバッグを肩にかけてアリの化け物に対して進みながら射撃を始めた。

べネリーの連射を続け素早い速さでバッグから弾を取り出して給弾をしている。

スラッグ弾と思われる弾が何発もアリの化け物に当たり、化け物の体の部品が飛び散るが化け物のスピードは衰えなかった。


「こいつよ、こいつが最後まで残っていて2階の階段を上って来たわ。

 私は階段の踊り場でドアを破って入って来たこいつと大柄な槍を持った奴に撃ったわ…撃ちまくったんだけど…。」


圭子さんが呟いて唇を噛んだ。


アリの化け物と共に進んできている悪鬼の数人が画面外からの射撃で倒れた。

恐らく屋敷を守る人間の護衛が援護射撃をしているのだろう。

倒れた悪鬼の体には執拗に弾丸が撃ち込まれている。

こうして頭か心臓を完全に破壊しないと又再生して襲ってくるのが悪鬼の厄介な所だ。

弾がいくらあっても足りない。

弾が当たり、倒れて動かなくなっても銃撃を続けて頭か心臓を完全に粉砕するまで射撃を続けなければならない。

動いて襲ってくる敵はアリの化け物と大柄でバカでかい槍を持った悪鬼だけになったが襲撃を諦める気配は無かった。

アリの化け物は両前足でショットガンを撃ちまくる護衛の男の体を貫き口に持って行き、男の頭を噛み潰した。

頭を失った悪鬼の護衛の身体をゴミの様に投げ捨てた化け物は屋敷に頭を向けた。

 玄関ドアの前のカメラ映像に俺達は切り替えた。


人間の男女の護衛がいた。

男の護衛が女の護衛をドアの中に押し込み、ドアの前に立ち、襲撃する悪鬼に射撃を続けた。

画面外から足が伸びて来て護衛の男の体を上半身と下半身真っ二つに切り裂いた。

そして、大口径スラッグ弾の集中射撃でかなり頭部を破損してまだ再生が追いつかないアリの化け物がドアを突き破り、槍を持った大柄な悪鬼が飛び込みそのすぐ後を化け物がドアに体を捻じ込みながら玄関から中に侵入して行った。

中からはピストルとライフルの銃声が轟いていた。

そして人間の護衛の女の断末魔の悲鳴が…。

ライフルの射撃音は続いていた。

死ね!と叫ぶ圭子さんの声と共に…。

俺達は沈黙した。


映像が終了した。

そして体を張って、命を懸けて一歩も下がらずに圭子さんと司と忍を守る為に戦ってくれた護衛の4人に、俺達は改めて感謝した。


俺達はカメラ映像のコピーを処理班に渡した。

あらかたの調査と掃除を済ませた処理班はヘリで帰って行き、俺達は玄関ゲートと屋敷の玄関ドアの壊され具合を検分して修理の手配をした。

玄関ゲートの外側にはまだ警官が沢山いて鑑識作業を行っていた。

ひっくり返ったパトカーとペシャンコに潰されたパトカーの回収作業が続いている。

テレビで情報収集をしてから玄関ゲートとドアが壊れているので用心の為に交代で仮眠をとる事にした俺達。


リリーから連絡が来て、どうやらクラは命を取り留めたとの事だった。

俺達はホッと胸を撫で下ろした。

誰もクラを恨む者などいなかった

憎むべきはあの地下帝国を作った狂ったバカ野郎だ。


俺達は暖炉の間に集まり、テレビをつけた。

予想通り、テレビでは特別番組のオンパレードでこの事件の報道を続けていた。

かなり情報が錯綜しているが、ガスの為にかなり警官で死者が出たとテレビは伝えていた。

そして、未確認だが封鎖線から逃げ出たテロ集団と警察の機動隊が衝突して警察側に多数の死者が出たとの情報が出ていた。


「ヤバい事になるかもな彩斗。」

 

明石が呟いた。


「え?どうして?」

「目撃者がいたのだろうな。

 今のご時世だ、誰かが何かしら映像を撮った可能性もあるぞ。

 誰でも何かあるとスマホを向ける時代じゃないか。

 明らかに人間じゃない物がわらわら湧いてきて武装した警官隊が簡単に殺されて蹴散らされた映像が出たら世間はどう反応する?」

「…。」

「…。」

「…。」

「…。」

「…。」

「…。」

「…。」

「…日本国政府も岩井テレサも対立する組織も一番恐れている事態じゃの。

 どうやってもみ消すか、何とか悪鬼の存在を知らせずに誤魔化すかその手段を考えるのに頭を抱えているじゃろうの。」


はなちゃんが言う通りだ。

何の為に大掛かりなフェイクを作り出して世間を欺いて俺達が何人も死者を出して戦ったのかこれだと判らない。


「もしもどこかからほんの少しでも真実が漏れたらマスコミなどは執拗に探るだろうな。

 真実を知る権利と言う奴か…だがな、これは芸能人の裏の顔とか、腐った政治家の汚職とか、企業の不正とか、どこかの狂った国の大規模な人殺しとは訳が違う大事なんだ。

 全く次元が全く違う事だ。

 これを知って人間はどう対応するのか…今も同族同士の殺し合いや個人レベルの差別や偏見からも抜け出せない、魂が未熟な人類なんだぞ。

 信仰も何もかもがひっくり変える事態だ…或いは今の人類文明が本当に滅びるかも知れないな。

 希望抜きのパンドラの箱を開けるような物だぞ。

 そんな事を言ってもマスコミの奴らは取材を止めたりしないだろうな。

 特ダネの為なら魂さえ売りかねない奴らだ。」


そこまで行って明石が黙り込んだ。


今日の夜明けから俺達は悲しく思ったり喜んだりと精神的にくたくたに疲れている所にまた暗い知らせを、新しい重い石を積まれた気分だった。



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