第26話 第8部 発覚編 2

ここまでのあらすじ


アレクニドの襲撃によって命を落とすところだった圭子は悪鬼となって蘇った。

戸惑いながらも喜ぶ彩斗達だが、圭子が悪鬼になり死霊を見る事が出来るようになった事で新たな問題が…。



以下本文


喜朗おじがコーヒーを淹れながら呟いた。


「喜朗おじ、何?」

「彩斗、圭子さんが悪鬼になったんだぞ、つまりだな…見える事になったと言う事だ…。」

「うんそうだね…死霊が見え…あ!ああ!

 ヤバい!喜朗おじ!それはヤバいよ!」


俺は声を上げてしまった。

屋敷の死霊などは慣れてもらうしか無いが、問題は『ひだまり』を大繁盛させているスケベ死霊の群れの事だ。

今、屋敷から近い新しい場所に『ひだまり』開店準備を進めていて俺達はスケベ死霊達の誘致準備も進めている所なのだ。

既にスケベ死霊のボス格の奴らと移転について話し合っている。

まぁ、その時に過度な接触や加奈達のスカートの中に顔を入れて匂いを嗅ぐなどの度を過ぎた行為は禁止と言う事や派閥の違いからの乱闘を押さえる事、多くの客を連れてきた死霊は加奈達とチェキを撮って壁に飾るなどの特典を用意したりと交渉は順調に進んでいるのだが、そこに死霊が見えるスケベな物に潔癖症なきらいがある圭子さんが来たら…。


あのね君達…俺達だって悪鬼の討伐と訓練をしているだけじゃ無いんだよ!

色々と日常でこまごまとやらなきゃならない事がてんこ盛りなんだよ!

俺たちだって凄く色々と忙しいんだよ!

判ってくれよ!誰か手伝ってくれよ!


「うん、いきなり現状を見たら圭子さんはブチ切れるだろうからな、スケベ死霊達も圭子さんを恐れて逃げ出してしまうかも知れん。

 俺達もどんな目に遭わされるか…なんとか事前に上手く説明をせねば…殺されるかもしれん…。

 悪鬼の中には一種の視覚聴覚障害と言うか、死霊が見えなくて声も聞こえない者も少数だがいるんだが…。

 圭子さんはどうかな…。」


俺はトレイにサンドウィッチを乗せながら新たな嵐が来る予感がした。

『ひだまり』は収益物件の家賃収入と共に今は俺達の安定した収入源になりつつある。

何としても死守せねばならないのだ。

俺の心の安らぎの場所でもある。

ユキと言う恋人が出来ても、やはり加奈や真鈴やジンコ達のエロい制服姿とうまい料理は必要だ。

浮気じゃないよ。


…これは決して浮気なんかじゃないよ、ユキには内緒だけどね。

『ひだまり』の存続、その為にはあのスケベ死霊達は無くてはならない存在なのだ。

もしも圭子さんが喜朗おじが言う一種の視覚聴覚障害を持っていれば何の問題も無いのだがそれは期待薄だろう。

新たな難問に頭を抱えながら俺はトレイに乗せたサンドウィッチを暖炉の間に運んだ。

時間的にはいち早く解決しなければならない問題だ。

暖炉の間にトレイを運んでゆくと圭子さんは嬌声を上げてサンドウィッチを手にとって凄い速さで平らげていった。


「そうなのよね、別物、悪鬼になった直後はお腹が空くのよ~。」

 

リリーが物凄い速さでサンドウィッチを食べる圭子さんを見て呟くと、四郎達悪鬼がうんうんと頷いた。


「うむ、リリーもアポイエルの長老のテントでは食べ物をむしゃむしゃ食べていたな。

 長老達はその事を知っているようでつぎつぎと食べ物を運んできてくれたが。

 われもポール様に悪鬼にされた時に隣の部屋にごちそうが並んでいたしな。

 すべて平らげてしまった物だ。」

「うん、喜朗おじも悪鬼となって蘇った時は子供達に何でも良いから食い物を持って来てくれるように頼んだしな。」


圭子さんがサンドウィッチを食べる手を止めて立ち上がり暖炉の間の入り口を見た。

振り返ると榊が連れて来た司と忍の護衛の4人の死霊が申し訳なさそうに立っていた。


「この度は力及ばず…申し訳ありませんでした。」


一番年かさの男の護衛が4人を代表してそう言うと4人は深々と頭を下げた。


死霊が見えない真鈴、ジンコ、加奈、司、忍は何の事か判らない顔で圭子さんを見つめている。


圭子さんがサンドウィッチをテーブルに置いて護衛の4人にお辞儀をした。

死霊が見える俺と四郎と明石とリリーも立ち上がって4人を見た。


「とんでもないわ。

 あなた達が体を張って奴らと戦ってくれたから司も忍も命が助かったし、私が悪鬼として蘇る事も出来たわ。

 こちらこそ、命掛けで戦ってくれてありがとうございました。

 あなた達が頑張って奴らを減らしてくれたから…どうか安らかに過ごしてください。」


圭子さんが深々とお辞儀をした

俺達も護衛の死霊達に深々と頭を下げた。

リリーが死霊達に言った。


「お前たちの奮戦は岩井テレサに伝えて置くぞ。

 よく頑張ってくれた。

 命を懸けて彼女たちを救ってくれてありがとう。」

「こちらこそありがとうございます。

 あなた達を護衛出来て光栄でした。

 それでは、昔の仲間が迎えに来ていますので、失礼します。」


護衛の4人は敬礼をして昇って行った。

俺達も敬礼をして護衛達を見送った。

確かに彼ら彼女らが奮戦しなければ司も忍も助からなかったかも知れないし、俺達はまだ圭子さんの死を悲しんでいたかも知れない。


…しかし…これで圭子さんが死霊をはっきりと見て会話が出来る事が判った。


やれやれ…。


またソファに座り直してむしゃむしゃとサンドウィッチを食べ始めた圭子さんを見て俺達も実は腹が減っている事に気が付いた。


「あの~圭子さん、私達も少し食べて良いかな~?」


加奈が口火を切った。


「加奈!遠慮しないで食べなさいよ~!

 あなた達がいっぱい食べると思ってたくさん作って置いたんだから!

 それにしてもあなた達、可哀想ね~!

 人間の時とは比べ物にならないくらい美味しいわよ~!」


俺達は圭子さんのお言葉に甘えておずおずとサンドウィッチに手を伸ばした。

パンを何斤使ったの?と聞きたくなるほど大量のサンドウィッチだが、成る程凄く美味しい。

これなら圭子さんがたらふく食べて俺達が食べたらすぐに無くなるだろう。

しかし、悪鬼の味覚が鋭くなるとは聞いていたがもっと美味しく感じるのか…。

少しだけ羨ましくなった。


喜朗おじがコーヒーのお代りを持って来た。

俺達は喜朗おじに先ほど護衛の人達が挨拶をしていった事を説明して、喜朗おじが律儀な者達だな!と感心していた。

段々と圭子さんが生き返った事の実感が湧いて来て、真鈴達が新たに嬉し涙を流して圭子さんを慌てさせた。


リリーも交えて俺達は和やかな空気を取り戻した。

そう、誰も死ななかった。

怪我をした者や悪鬼となって蘇った者はいたが俺達は一人も欠けていないのだ。


はなちゃんが目を覚ました。


「ふぅ~幾分疲れが取れたじゃの…おお!なんじゃ!

 圭子が悪鬼になっておる!

 これはいったいどういう事じゃの!」


驚き白目を剥いたはなちゃんに俺達は今までの経緯を話した。

はなちゃんは驚きながらも誰も死ななかったことを喜んでいた。


「うむ、われはちょっとトイレに行って来るぞ。」


四郎が立ちあがり、俺もトイレといい、立ち上がった。

四郎がトイレを済ますと俺は四郎に話しかけた。


「なんだ彩斗?

 トイレは良いのか?」

「四郎、それどころじゃないんだよ。

 ちょっと不謹慎な事だけどね、問題が起こったんだ。」


そして俺は圭子さんが悪鬼となり死霊が見える事を説明すると事情を察した四郎の顔が見る見る青ざめた。


「…そ、そそそれは非常にまずい事態だな…。

 圭子さんの性格からしたらブチぎれて暴れ出すかも知れんぞ…そしてそれを容認してきたわれらも…無事では済まないかも知れん…血の雨が降るかも知れん…。」


四郎の顔が引きつりがくがくと震え出した。


「とにかく圭子さんがスケベ死霊の群れに気が付く前に何とか説明しておかないと『ひだまり』存続の危機だよ…。」

「そそそそうだな彩斗。

 何か手を打たねばならん。

 『ひだまり』はわれの心のオアシスだからな。」

「…え?

 四郎も加奈達の制服姿…。」

「リリーには内緒だぞ。

 われはつまらん妄想を楽しんでいるだけだ。

 われも男だからな、男の魂を縛る事など誰にもできん事だからな。

 戦士には休息も必要なのだ。」


俺達は暖炉の間に戻った。


「そうなのよ!私達、籍は入れたけど結婚式も写真さえ取っていないからね~!」


圭子さんがサンドウィッチを頬張りながら熱く語っている。


「いい機会だからさ~圭子さんと景行ちん、結婚式すれば良いじゃん!」


加奈が立ち上がって叫ぶと女性陣全てが、きゃ~!それ、良いね~!と激しく盛り上がった。


「家が完成してプールも出来たらここで結婚式しようよ!

 盛大にさ!

 そして新しい『ひだまり』でパーティーしてまたここに戻って来てプールサイドでまたパーティーするのよ!」


ジンコが叫び、またボルテージが上がりはしゃいだリリーが提案をした。


「それ最高ね!

 ねえ、ノリッピーはカトリックだけど司教の資格持ってるんだよ!

 彼に結婚式上げてもらおうか!」

 スコルピオも参列するわよ!

 皆で盛大に祝わせて!」


また女性陣が盛り上がり、明石と圭子さんが顔を赤らめながら互いの手を握って頷いた。


「ごほん…よろしく…おおお願いします。」


明石が答えるとまた女性陣が盛り上がった。


「きゃ~!

 素敵~!

 ねえねえ!リリーと四郎も結婚式上げてないんでしょ?

 一緒にあげようよ!」


真鈴が叫ぶとリリーがええ!と声を上げて顔を赤らめて四郎を見た。

四郎はコーヒーを置いてリリーを見た。

四郎の顔もゆでだこのように赤くなっている。


「…うむ…リリーさえ承知してくれたら…われは別に…」

「何よ四郎!

 男でしょ!

 こういう時はちゃんとプロポーズするんだよ!」


圭子さんが一喝して、四郎はおずおずと立ち上がりリリーの前に片膝をついた。


「え~ごほん…リリー…今は指輪など持ち合わせていないが…その…われと…ごほん…。」


リリーが両手で口を押さえて純真な若い乙女の顔で四郎の言葉を待っている。

その目からは早くも涙が零れていた。

暖炉の間はさっきと違う張りつめた空気になった。

皆が四郎とリリーをじっと見つめていた。


「その…われと…。

 われと結婚…してくれるか?」

「もちろんよ!マイケル!」


リリーが四郎に抱きつき俺達は歓声を上げて盛り上がった。

俺達はコーヒーで乾杯をした。


「ああ、こんな展開になるとは思わなかったな。

 俺もちょっとトイレに…。」

「景行、俺も行くよ。」


明石がトイレを済ますと俺は明石に話しかけた。


「なんだ彩斗?

 トイレは良いのか?」

「景行、それどころじゃないんだよ。

 ちょっとおめでたい所不謹慎な事だけどね、問題が起こったんだ。」


そして俺は圭子さんが悪鬼となり死霊が見える事を説明すると事情を察した明石の顔が見る見る青ざめた。


「…そ、そそそれは非常にまずい事態だな…。

 圭子の性格からしたらブチぎれて暴れ出すかも知れんぞ…そしてそれを容認してきた俺達も…無事では済まないかも知れん…血の雨が降るかも知れん…きっと圭子は俺の体を半分に引き裂いてぴくぴく痙攣している俺に離婚すると言い出すかも知れないな…。」


明石の顔が引きつりがくがくと震え出した。


「とにかく圭子さんがスケベ死霊の群れに気が付く前に何とか説明しておかないと『ひだまり』存続の危機だよ…。」

「そそそそうだな彩斗。

 何か手を打たねばならんぞ。

 『ひだまり』は俺の心のオアシスだからな。」

「…え?

 景行も加奈達の制服姿…。」

「圭子には絶対内緒だぞ。

 俺はただつまらん妄想を楽しんでいるだけだ。

 俺だって男だからな、男の魂を縛る事など誰にもできん事だからな。

 戦士には休息も必要なのだ。」


ワイバーンの男全員が実はかなりスケベだと言う事を思い知りながら俺達は暖炉の間に戻った。

喜朗おじがシャンパンを持ち出して皆のグラスに注いでいた。

今日は特別と言う事で司と忍のグラスにもほんの少しだけ注ぎ、コーラで薄めていた。


リリーのスマホが鳴った。


「あらあらこんな時に…みんなちょっとごめんね。」


リリーが席を外した。

その間も俺達は結婚式の段取りやウエディングドレスの事やウェディングケーキの事などで話が盛り上がっていた。

暫くしてリリーが戻って来た。


「皆ごめんね…私すぐに帰らないと…。」


リリーの青ざめた顔に俺達は違和感を感じた。


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