第25話 第8部 発覚編 1


ここまでのあらすじ


冨士樹海地下のアレクニドとの激戦から全員が生還した第5騎兵ワイバーンだったが、死霊屋敷が襲撃を受け、圭子が死んでしまった…。


暖炉の間で悲嘆にくれる彩斗達。

明石は2階で圭子の最期を看取っていた。


遅ればせながら警官隊がやって来たが、悪鬼に対して全く無力な警官隊が屋敷にはいって来て状況がロクに判らず彩斗達に非力なピストルを向けた事に彩斗の怒りが爆発して警官達を屋敷から追い出した。


やがて、ヘリコプターはやって来て、リリーが暖炉の間に飛び込んで来た。

圭子の死を聞かされ、数時間前に勇猛果敢な戦闘と指揮を見せたリリーは悲嘆にくれ、23歳の若い女性の姿に戻り、四郎の手に縋り付いて泣いた。


リリーは連れて来た部下に警官隊を敷地から追い出し、襲撃してきたアレクニドの生き残りを捜索させた。


そして瀕死の重傷を負っている生き残りを拘束して岩井テレサの施設に連行するように命じた。

どんな拷問をしてでもアレクニドの情報を聞き出せと命じた。



以下本文



「くそ、どんな拷問をしてでも情報を聞き出してやる…。」


泣きはらしたリリーの赤い目に殺気が宿った。


「しかし…どうしてここが判ったのか…。」


喜朗おじが頭を抱えて呟いた。

俺たち全員の疑問だった。


「ちきしょう…あいつ…糸を付けた者がいるとかほざいてたね…。

 だけどどうやって…。」


真鈴が小声で言ったが、誰もそれに答える事が出来なかった。

やがて夜が明け始めた。


明石はまだ2階から降りてこないが、誰も呼びに行くのは遠慮した。

喜朗おじがのそのそと立ち上がり、窓のシャッターを開け、キッチンに行きコーヒーを淹れ始めた。

やがてトレイにコーヒーカップなどを乗せて喜朗おじが戻って来て皆の前にコーヒーカップを並べてコーヒーを注ぎ始めた。


「あ、くそ!」


喜朗おじが小声で罵り顔を押さえた。


明石のカップと共に置かれた圭子さん愛用のコーヒーカップにもコーヒーを注いでいたのだ。


俺たちの目から新たに涙が湧いて出て来た。

雲の間から朝日が差し込み、鳥のさえずりが聞こえた。

何もなければのどかな朝の風景だった。

こんな事が起きなければのどかで平和な朝の景色が大きな窓の外に広がっていた。

圭子さんが作った畑が見えた。

この前芽を出したばかりの、まだ何の作物さえわからない新芽が朝露を纏ってキラキラ輝いていた。


「ひどいよ…こんなの…。」


加奈が絞り出すようなしかし小さな声をあげた。


その時、静まり返った屋敷に階段を下りてくる足音が聞こえた。


俺達は足音が近づいて来るのを待った。


「ん?何だ?」

「おお!これは!」

「え?どうして?」


四郎と喜朗おじとリリーが不審そうに顔を上げた。

明石が暖炉の間の入り口に立っていた。

悲しみに暮れた顔をしていると思った俺達も明石の顔を見て違和感を感じた。

どう声を掛けようかと思っていた明石は…確かに泣いて目は赤いが…何と言うか少し気まずそうな顔をしていた。

そして…明石の後ろから圭子さんがニコニコキラキラした笑顔で姿を現すと、俺達に片手を振った。


「は~い!

 皆、心配しちゃった?

 ほほほ、ごめんなさいね~!」

「…圭子さん…。」

「…圭子さん…。」

「…圭子さん…。」

「…圭子さん…。」

「…圭子さん…。」

「…圭子さん…。」

「…圭子さん…。」


俺達は異口同音に声を出してじっと圭子さんを見つめた。


「いや…圭子がな…いきなり死ぬの中止と言ってな…。」


明石が少し言いにくそうに言うと圭子さんが明石の体を押してソファに座らせて隣に腰を下ろした。


「あら!喜朗おじ、気が利くわね~!

 う~ん!

 このコーヒー美味しい!凄く美味しいわ!

 悪鬼になると味覚が鋭くなると景行が言ってたけど、あんたたちこんな美味しい物を飲んでいたのね!

 なんか悔しいわぁ~!

 あらリリー!また会えたわね!

 戦争は無事に終わった?

 皆、無事だった?」


ソファにどっかりと座り、コーヒーを美味しそうに飲みながら笑顔でリリーに声を掛ける圭子さん。


「ええ、なんとかね…少し被害があったけど、ワイバーンの全員は生きて戻って来たわよ。」


リリーが複雑な笑顔で圭子さんに答えた。


「そう…亡くなった人もいたのね。

 残念だわ。

 こっちは護衛の人も死んでしまったのは残念だったわ…司も忍も懐いていたのにね。」


少ししんみりした感じで圭子さんは言った。

…いやいや俺達は圭子さんの死をここで悲しんでいたのだが…。

暖炉の間は上手く口に出せない微妙な空気が漂っていた。

俺達は今の感情をどう表現したらよいのか…。


「いや…圭子がな…じっと俺の顔を見つめていたらいきなり、『死ぬの中止』とか言って今わの際とは思えない素早さと力強さで俺の手に噛みついてな…『ほっほっほっ!あんた、早く悪鬼にしてよ』と言ったので…。」


そこまで言うと明石はコーヒーを一口飲んだ。


「ほっほっほっ!

 なんか景行の顔を見ていたらね~!

 こんなハンサムな男がこれからの人生を女ッ気無しで生きて行くなんて信じられなくなったのよね~!

 若い妻を亡くした男なんて、こぶつきでもモテるのよ~!

 お前が俺の最後の女なんてさ、ちょっとね~!

 だから私は最後の女じゃなくて『景行の永久の女』になる事を決めたのよ。

 それに司や忍だってこれから小学校卒業中学入学卒業、高校入学卒業、大学入学卒業、成人式とかイベントが沢山あるじゃないのよ!

 ひょっとしたら髪の毛染めてヤンキーになったりしてもそれはそれで面白いしね~!

 早めに孫の顔を見れるかも知れないしさ!

 これを見逃さない手は無いわよね~!

 と言う訳でこれからもみんな宜しくね~!」


満面の笑顔で俺達に言う圭子さんだった。

俺達は何とか笑顔を浮かべて口々によろしくお願いしますと答えた。


「なによ~!皆、反応が薄くない?

 喜朗おじ、コーヒーのお代りくれる?

 後、私お腹すいちゃったの。

 キッチンにみんなが帰って来てお腹が空いてたらと思ってサンドウィッチ作って置いたのよ。

 それも持って来てくれる?

 あ!司!忍!目を覚ましたね!

 こっちおいで~!」

「あ!ママ!あいつらぶっ殺したの?」

「そうよ!もう大丈夫だからね~!

 2人ともぶん殴ってごめんね~!」

「痛かったよママ!」

「私もすごく痛かったよ~!」

「お~ごめんね!

 よしよし!」

「ま、まぁ、色々あったが一応めでたしめでたしと言う事で、コーヒーのお代りとサンドウィッチをとって来よう。」


喜朗おじがぎこちない笑顔を浮かべて立ち上がった。


「俺も手伝うよ。」


そう言って俺も立ち上がると圭子さんは司と忍を抱いたまま俺に言った。


「そうね、二人の方が早いからね、彩斗君、サンドウィッチ先に持って来てね!

 お腹ペコペコなのよ!」


俺と喜朗はキッチンに向かった。

反応が薄い?

当たり前の事だと思う。

とても親しい人が大怪我を負うか病気で死にそうになり、さんざん悲しい思いをして涙をこらえながら枕もとにいた挙句に医者がご臨終ですとか言って涙爆発!の直後に『やっぱり死ぬのやめた!』とか言いながら体をむっくりと起こして晴れやかな笑顔でお腹が空いた!とか言われたら、君たちはどうするんだね!

そりゃあ嬉しいよ!

嬉しいに決まっているけれどね!

でも、反応に困るよね!

何か情緒的にさ!嬉しいんだけどね!


「う~ん、こんな時に不謹慎な事を言うようなんだが、少しだけ困った事態になったな。」


喜朗おじがコーヒーを淹れながら呟いた。






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