第24話 第7部 紛争編 11

ここまでのあらすじ


彩斗達は地下迷宮から解放されて外に出た。

出入口のそばのヘリポートにはスコルピオの戦死者の遺体袋が輸送されるのを待って並んでいた。

彩斗達は軽傷者は出たもののワイバーン全員が生き残った幸運を改めて嚙み締めた。


スコルピオ指揮官のノリッピーが地下から出てくる隊員達1人1人に感謝と激励の言葉をかけていたが、たった6人の指揮班でアレクニド別動隊の攻撃を引き受けたノリッピーの姿も戦闘服がズタボロになり、蜘蛛の化け物の酸を浴びたのか、髪の毛の半分が溶け落ちていた。


ノリッピーは悪鬼だが、血が通わない髪の毛などは即座に再生しないようだ。


ふと見ると並んだ遺体袋に小三郎が手を当てて泣いていた。

どうやら兄の小次郎は戦死したようだった。

他にナナツーも瀕死の重傷を負い、悪鬼として蘇生するようだった。


彩斗達は死霊となり天に昇る小次郎とお別れの挨拶をした。



以下本文


ノリッピーが俺達のところまでやって来て腰を下ろして煙草を取り出して火を点けた。

誰かが渡したのかカラフルなバンダナを頭に巻いている。

半分が消え失せた上着とカラフルなバンダナ、中々ファンキーな感じになった。

上半身裸でワイルドな姿の喜朗おじとノリッピーが並んで座ると中々凄い取り合わせだった。



「やれやれ、ワイバーンの皆ご苦労さん。

 今日は致命的な手違いが無くて何よりだったよ。

 しかし、相当部下を死なせてしまったけどね…。

 対立組織の方でも奴らの拠点の制圧に成功したようだよ。

 俺達よりずっと被害を出したようだけどね。」


ノリッピーは並んでいる遺体袋を見て呟いた。

朗らかで軽い顔つきのノリッピーの顔が曇って凄く老け込んだように見えた。


「俺は本当はうちの隊がもっと死んでしまうかも知れないと思って覚悟をしていたんだ。

 それでも3割が死ぬと言う事は俺には耐えられないけどね。

 でも…実際はもっともっと被害が出るかも知れないと覚悟していたんだよね。」

「…。」

「…。」

「…。」

「君達ワイバーンがいてくれて、思ったよりもずっと被害が少なくなったと思っているよ。

 本当にありがとう。

 はなちゃんがいてくれたと言うのも大きいかな?

 あの子は実は今日のMVPかも知れないね。

 あれ、はなちゃん…眠ってるのか。

 かなり思念を使っただろうからね。

 もうすぐ君達が乗るヘリコプターが来るよ。

 毎度の報酬は学校の方に用意してあるよ。

 あと、警察庁から…何か変な物が…いや、彼らなりのかっこつけ何だろうね。

 そう言う上から目線の物が贈られるみたいだよ、まぁ、受け取って置いてよ。

 そこいら辺りに捨てないようにね。

 じゃあ、落ち着いたらまたゆっくり話そう。

 こんどは酒を飲んでうまい物を食いたいな。

 今日はありがとう。

 ワイバーンに幸運を。」


ノリッピーが煙草を消して携帯灰皿に突っ込むと立ち去った。


「うん、確かにはなちゃんが今日のMVPだったかも知れんな。

 勿論俺たち全員も頑張ったが。」


明石がノリッピーの後ろ姿を見ながら言い、俺達は同意の印に頷いた。


俺達は迎えのヘリコプターに乗り込んで樹海を突っ切るように飛んで小学校の校庭に着陸した。

突入口に向かう時は長時間樹海の中を歩いて進んだが、帰りのヘリコプターは十数分の飛行時間で帰り着いた。

俺達は最初に案内された教室に行き、報酬を貰った。

単純計算で一人当たり100万円以上だった。

加奈が帯付き1万円の束を持ってはしゃいでみんなを笑わせた。


俺達は校庭の外れに設置された簡易シャワーを浴びた。

すっきりして教室に帰ると何かが置いてあった。

警察庁からの感謝状。

ワイバーン宛ての物が1枚。

そして何か建物が印刷された丸い文鎮と俺達それぞれに金一封の封筒があった。

開けてみるとそれぞれの封筒に5千円札が1枚入っていた。

金額の大小はあまり気にしないつもりだったが、やっぱり俺達は笑い転げてしまった。

こんなものをくれて偉そうにしたいのだろうか、滑稽に思ってしまった。


「まあまあ彩斗、5千円ならボトルが入っているから『みーちゃん』に2回はいけるぞ。」


四郎に言われて、確かにその通りだと思った。

警察のおごりで『みーちゃん』に飲みに行こう。


帰りのヘリコプターがもうすぐ来るそうだ。

夜明け前に死霊屋敷に帰れるかも知れない。

今回の騒ぎを政府はマスコミやネットの情報網からどう隠しおおせるのかとても興味があった。

死霊屋敷に戻ったらまずテレビを付けてみようと思った。


やがて迎えのチヌーク大型ヘリが校庭に着陸して俺たちが乗り込み離陸した。

高い所が苦手な真鈴は気絶したように眠るはなちゃんを抱きしめて目を固くつぶりエロイムエッサイムと唱えていた。

俺達は眼下に広がる夜景を楽しんでいた。

流石に日本だ。

夜明け前が近いと言うのに街内は照明で明るく、美しかった。


「圭子も司も忍も起きて待っていると言っていたがな…流石に…もう寝てしまっただろうな。」


明石が父親の顔で苦笑いを浮かべている。

もうすぐ死霊屋敷に着くと言う時加奈が窓から死霊屋敷の方角を見て叫んだ。


「景行ちん!凄い明るいよ!

 きっと圭子さん達は起きて待ってるんだよ!」


どれどれと俺達は窓から死霊屋敷の方角を見た。

確かに敷地の街灯やライトや死霊屋敷の照明が全部ついていて明るかった…いや、明るすぎた。

俺は嫌な予感がした。

そしてヘリが近づき、入り口ゲートのパトカーを見つけた。

1台はひっくり返り、もう1台はペシャンコに潰れていて警備の警官の死体が散らばっていて入り口ゲートは大型トラックが突っ込んだように壊れて開いていた。

そして死霊屋敷に続く道に点々と白い跡が…歳古りた悪鬼が死んだ跡だ。


「くそ!なんだこれは!」

「おい!早くおろしてくれ!」

「旋回する暇など無いぞ!」

「すぐにおろしてよ!」


俺達は口々に叫んで武器を手に取って降り口の前に集まった。

ヘリの機長も死霊屋敷に異常を感じたらしく降下しながら後ろの乗降ゲートを開け始めた。

俺達はヘリが着陸する前に地面に飛び降りて武器を構えながら死霊屋敷に走った。


玄関のドアは見事にぶち破られてピストルを握りしめた人間の護衛の男の上半身が転がっていた。


「ジンコ!真鈴!加奈!喜朗おじは屋敷の外を廻ってくれ!」


四郎が叫び真鈴達が二手に分かれて屋敷の外周を廻るために走って行った。

俺と四郎と明石は玄関ホールに飛び込むと人間の女性の護衛が大きな槍で心臓を貫かれて壁に、昆虫標本の様に止められていた。


「四郎!彩斗!2階を見てくれ!

 俺は1階を!」


明石が叫び、俺と四郎は武器を構えて階段を駆け上がった。

俺は何かに躓いた。

それはリリーが持って来てくれたSR25の大きな弾倉だった。

弾倉は空で周りには7・62ミリの薬きょうが散らばっていた。

更に階段を駆け上がると廊下に大きな白い灰の山があった。周りに空薬きょうが沢山転がっている所を見ると恐らく圭子さんが撃ちまくって仕留めたのだろうか…。

四郎が灰の山をかき分けて廊下の先に出て足が止まった。


「四郎!どうしたの!」

「景行!景行!2階に来い!」


四郎が叫び廊下の奥の部屋に走った。

部屋の入り口に圭子さんが倒れていた。

腹と肩、そして胸から凄い出血があった。

そして圭子さんの身体の周りには夥しい空薬きょうと弾倉、そして弾を撃ち尽くしたSR25が落ちていた。


「圭子さん!大丈夫か!」

「四郎…司と忍は…武器庫に…気絶させて…武器庫に…。」


そこまで言って圭子さんは吐血した。


「圭子!圭子ぉ!」


明石が圭子さんを呼びながら階段を駆け上がって来た。


「景行!司と忍は武器庫に隠してあるそうだ!

 彩斗!来い!」


圭子さんの体を明石に預けた四郎がもどかし気に秘密扉を開けて武器庫に走った。

四郎の後を走って行くと、武器庫の木箱の後ろに司と忍が気絶して倒れていた。

俺と四郎はそれぞれを抱いて部屋に戻った。


圭子さんは辛うじて意識があるらしく明石に何か弱々しく呟いていた。


「景行…あんたの顔…怖いよ…。」

「圭子、すぐに人間の顔に戻すよ。」

「あの子達を…初めて…ぶっ…ちゃった。」

「きっと許してくれるよ…。」

「あの化け物…の体…死にそうな…所に沢山…撃ち込んだ…のにね…。」

「奴は死んでいる、圭子が始末したぞ。」

「そう…よか…った…。

 …景行…私が…最後…。」

「そうだ、圭子、お前が俺の最後の女だ。

 もう喋るな。」

「うれ…し…。」


圭子さんの声は力が無く、明石の声は涙で歪んでいた。

明石は俺達と司と忍を見た。


「たのむ…二人にさせてくれ。」


明石が言い、俺達は司と忍を抱いて1階暖炉の間に降りて行った。


「四郎、圭子さんは…。」

「あれはとても無理だ…もう助からん…。」

「…圭子さんはいざと言う時に…。」

「…圭子さんはな…人間のまま死にたいと…人間のまま…。」


そこまで言って四郎が黙った。

四郎の目から涙が溢れている。

こんな事って…俺達全員が生きて帰って来たのに…一番安全だと思っていた人達が…。

俺は忍の体を抱きしめながら涙で視界が歪む階段を降りた。









第5騎兵隊 ワイバーン


明石圭子   戦死





第7部 紛争編 終了

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