第21話 第7部 紛争編 8


ここまでのあらすじ


はなちゃんが声を上げ、ヘリコプターは急激に低空飛行に移り、火の玉やアルミ片を撒き散らしながらジグザグ飛行を始め。彩斗達は冷や汗をかいたが、無事に集結場所である小学校の校庭に着陸した。


住民はとっくに周辺から避難をしており、小学校の周りは各都道府県警から派遣された警察部隊のバスが固めていた。

彩斗達は喫煙所での情報交換でやはり思念放射によって他のヘリコプターがエンジン不調に陥り不時着陸、彩斗達が乗ったヘリコプターも警戒してチャフ、フレアーを吐き出しながら低空飛行をした事を知った。


そして、謎の集団のアジトを監視していた米軍の低軌道監視衛星群の幾つかの衛星がお釈迦になった事も知った。


ますます油断ならない敵である事を感じる彩斗達。

そして、あの地下迷宮にはどれだけの敵がいるかも判らないのだ。


「俺達は全員生き残るよ。」


彩斗は自分に言い聞かせるように呟いた。

そして校内放送が流れ、体育館で出撃前のブリーフィングが始まった。



以下本文


校内放送が流れて俺達は体育館に集まった。

ぞろぞろと歩く人込みに紛れながら体育館に行くと椅子が並べられていた。

なんだかんだで200人くらいが集まっている。

スコルピオの戦闘メンバーと支援班員、第10騎兵ヴァナルガンドや第15騎兵スキュラなどの同盟チーム、処理班などがずらりと並んで座った。

ざわざわひそひそと隣り合う者達との会話が聞こえる中、スコルピオ指揮官のノリッピーが笑顔で手を振りながら、誰彼とも名前を呼び、元気かい!と声を掛けながら演壇に向かって行き、拍手と歓声を受けた。


「四郎、なんかノリが良いね。」

「うむ、作戦開始時などは緊張するからな、リリーから聞いたがあれはノリッピーのいつものスタイルらしいぞ。

 ノリッピーはアイン何とかと言う科学者より知能指数が高いとリリーが言っていたな。」


真鈴とジンコが息を呑んだ。


「え?それってアインシュタインの事?」

「うむ、誰か良く知らんがな、確かそう言う名前の者だがそいつよりも頭が良いらしい。

 そして、誰でも一度見て話すと名前も必ず覚えるようだな。

 少々軽い雰囲気があるが人気が高くメンバーたちの信頼も勝ち得ているとの事だ。

 勿論戦闘の腕も大した物らしい。

 人は見かけとは違うものだな。」


ノリッピーは人気があるらしく、盛大な歓声と拍手が起きた。

演壇に登った笑顔のノリッピーが良く通る声で話し始めた。


「さて諸君!元気そうで何よりだ!

 今回はわれらの組織の歴史に残る大作戦だ!

 孫やひ孫や玄孫に自慢できる戦いになるぞ!

 もっともガキどもは退屈して話の途中で寝てしまうかも知れないがな!」


笑い声が起きた。


「さて、皆も今までの経緯は知っていると思うが、俺達は今回地下に潜む凶悪な奴らを退治する事にしたぞ!」


演壇の大スクリーンに樹海の衛星写真が映し出された。

この前リリーが見せてくれた赤や青の丸付きの写真だった。

ノリッピーが長い指揮棒を持ち赤い丸に当てた。


「この上側の赤い丸は第1騎兵カスカベルが突入する!

 南側の赤い丸はわれら第3騎兵スコルピオと第5騎兵ワイバーンが突入する!

 北側の青い丸はカスカベル指揮下の同盟チームが、この南側にある3つの青い丸は  

 我らがスコルピオ指揮下の第10騎兵ヴァナルガンド、第15騎兵スキュラが固めるぞ!

 俺達にあぶりだされて敵が湧いてきたら容赦なく撃滅してくれ!

 もっともお客さんが沢山すぎてオーダーをこなしきれなくなりそうなら連絡をすぐにくれ!

 待機状態で腕がむずむずしている第2騎兵タランテラがすぐに駆け付けるからな!

 第1騎兵カスカベルと第8騎兵ヤクルスのメンバーが潜入した映像を皆見たと思うが、酸を吐く蜘蛛の化け物などびっくりしちゃう奴もいるから油断はしないようにな!

 そして、あの地下のアリの巣の様な映像、そして第8騎兵ヤクルスの蔵前君の証言と第5騎兵ワイバーンリーダー吉岡君のヒントを貰って戦い方も研究した!

 後ほど血まみれリリーから説明を聞くと思うが良く頭に叩き込んでくれ!

 そして、奴らを未だに謎の集団と呼んでいたが名前を付ける事にした!

 この中でロバート・A・ハインラインの『宇宙の戦士』を知っている者はいるかな?

 おちゃらけたおふざけ映画の方じゃなく小説の方だ!」


会場の半数以上の者が手を上げ、俺とジンコと真鈴、明石と喜朗おじも手を上げた。


「おお!インテリぞろいでノリッピー嬉しいな!

 そう!今回の敵はどうやら蜘蛛か蟻の様な体制を作り上げている集団なんだ!

 俺達は奴らをハインラインに敬意を表して『アレクニド』と呼称する事にした!」


アレクニドとはアメリカの小説家ハインラインが書いた『宇宙の戦士』に登場する人類の敵である蜘蛛の化け物の種族の名前だった。


「そう!

 普段、俺達は騎兵と名乗っているが、今回は地球連邦軍宇宙陸軍機動歩兵としてアレクニドの連中の地下に突入するぞ!

 奴らが待ち構えている危険極まりない穴倉に突入する!

 皆には小説の様に小型モビルスーツの様なパワードスーツを着せてやりたいがそんな予算も科学技術も俺達は持っていない!

 だが、俺達は長い戦闘経験と持ちうる限りの火力とたぐいまれない戦闘技術!

 そして!そして何よりも安心して後ろを任せられる信頼して命を預けられる仲間がいるんだ!

 今まで俺達が体験した事が無い重要な事が起きている!

 このまま放置すれば俺達の文明が崩壊しかねない事態だ!

 この戦いに負ける訳には行かないんだ!

 皆の未来は!平和な未来は!素晴らしい未来は!俺達に掛かってるぞ!

 存分に暴れろ!」


会場に拍手と歓声が沸いた。


「それではノリッピーの話はおしまいにして細かい作戦手順と戦術については、みんな大好き血まみれリリー、紅のリリー、ルージュリリーに任せるよ!

 最後にみんなでいつもの奴をいくぞ!」


ノリッピーが大きく息を吸った。


「皆!行くぞ!

 簡単に死ぬな!

 仲間を見捨てるな!

 敵を撃滅しろ!」


会場はノリッピーに合わせて大きな声で宣言し、拍手と歓声が沸いた。

ノリッピーが大きく手を振りながら笑顔で退場した。


「おお!士気が上がったな!

 これは負ける気がしないぜ!」


明石が拍手しながら言った。

俺達も同感だった。

 

ノリッピーに代わってリリーが登壇すると、会場内でまた歓声が沸いた。


「ふぅ、ノリッピー前座をありがとう。」


演壇の端からどういたしまして―!とノリッピーの声が聞こえ、笑い声が起きた。


「さて、戦士諸君、気分はほぐれたかな?

 リリー姉さんが作戦手順を伝えるよ。

 しっかり頭に入れてね。

 まず、突入口と3つの出入り口までは樹海の中を進むよ。

 敵は、アレクニドは既に我々が攻撃する意図を察していると判断します。

 先ほど米軍のキーホール衛星群、低軌道偵察衛星が攻撃を受けて2つが機能停止そのうちの1つは大気圏に突入して燃え尽きたわ。

 残りの衛星は軌道変更して探査を中止。

 そしてカスカベルの戦闘要員を運ぶ自衛隊のチヌークヘリのうち1機が外部からの干渉を受けてエンジン不調になり不時着した。

 幸い戦闘メンバーに犠牲者は無く戦列に参加しているわ。

 米軍は沖縄から戦略偵察機を、横田から滞空時間が長い無人偵察機を飛ばしたけれど撃墜される恐れもあるしリアルタイムで詳細に地上の状況を知る事は難しくなったわ。

 幸いな事に岩井テレサが要請した応援の部隊が先ほど日本に到着して、警備の第2騎兵タランテラも全部展開できるけど、まだ見つからない入り口がもっと離れた所にあるかも知れないから私達の外周の警察の線まで監視体制を広げる事にしたわ。

 もしも見落とした出入り口から出て来たアレクニドが警察を襲ったら、恐らく目も当てられない騒ぎになるかも知れないからね。

 私達は警察も守らなければならないのよ。

 そういう訳で私達の人員は変わらないけどがっかりしないでね。

 そして、衛星やヘリの件もあってアレクニドの中には強力な思念放射を使う者がいる様子だわ。

 突入した時に思念放射で私達を混乱させる場合があるかも知れないけど己を強く持って幻覚などに惑わされないように注意するように。」


リリーの言葉で会場は静まり返った。


「私達は本来奇襲が得意なんだけど今回だけは敵も充分用意して待ち構えている所に飛び込まざるを得ないの。

 その辺りの覚悟はしてね。

 樹海を通って突入口に向かう時も戦闘隊形を維持して援護人員を守りながら進むわよ。

 本当はアレクニドの連中が撃って出て来て遭遇戦になれば少しは敵の数を減らせると思うけど、そうそう簡単に出て来ないと思う。

 奴等もそこまでバカじゃないと思うわ。

 突入口に辿り着いたら入り口ドアは爆薬で吹き飛ばし、突破口にドローンを飛ばして偵察しながら私達も飛び込むわよ。

 支援班は突入口を爆破したと同時に付近の樹木を伐採してスペースを作り、第1便のヘリが運んできた鉄板を敷き詰めて応急のヘリポートを作るわ、負傷した兵員は速やかに後方の医療施設に運ぶわよ。

 今回あの地下にどれだけの敵がいるか想像もつかないけど特に人間メンバーは怪我をしてもまだ戦えるなんて…。」


リリーが耳に手を当てて会場を見回した。


「わがまま言わずに収容される事!」


会場の者達が唱和してリリーが微笑んだ。


「そういう事よ。

 戦う人数が減るとか余計な気を使わないでよ!

 私達には強力な火力が有るんだし後で説明するけど戦術も練ってあるからね!

 死ぬ事を急いじゃ駄目よ!

 私達は仲間を誰も見捨てないからね!」


明石が俺に耳打ちした。


「勝てるぞ彩斗。

 不思議に思うかも知れないが兵隊の命を大切にする軍は強いんだ。

 軍勢の多さ少なさよりも士気の高さやこういう事の方が戦いに影響を与えるんだよ。」


数々の戦に参加して何百年も戦ってきた明石が太鼓判を押した。

立場を変えてもしも四郎や明石や喜朗おじが俺や真鈴、ジンコ、加奈を使い捨ての兵隊として先鋒にしたら俺たちはどう思うだろうか?

奴らの先鋒の兵隊は操られているとはいえその呪縛が解けた時、変わらずに戦い続ける事など出来ないだろう。

全員が決死の思いで必死にお互いを守り合いながら戦う俺達とは雲泥の差だろう。


そしてリリーがスプレー缶を取り出した。


「私達もいくつか対策を練ったわよ。

 まずはこれ。

 あの厄介な酸を吐きだす蜘蛛の化け物を見たわよね?

 岩井テレサの化学班があの酸を中和する液を開発したわ。

 もっとも実験が出来ないからぶっつけ本番になるけど酸に掛かったらすぐに支援班がこれをスプレーするわよ。

 かなり強いアルカリ性の液体だから取り扱いに注意する事。

 そして次に…あれ持って来て!」


演壇の袖から戦闘メンバーがFALバトルライフルを持って来た。

ショートバレルで銃身の下には40ミリのグレネード発射機が付いていた。


「急な事だったからあまり沢山用意が出来なかったけどね。

 皆も知っているようにこれは7・62ミリNATO弾を発射するわ。

 ストッピングパワーもかなり期待できる。

 そしてこのグレネードランチャーは弾がミソでね。

 75本のフレシェット弾が詰まっているわ、小さな矢ね。

 この矢には毒が塗られていて体に刺されば人間ならほぼ即死、別物でも昏倒するか少なくともかなり動きが鈍くなるわ。

 ソウドオフのショットガンより弾が広がるからこれの前に出ないでね。

 急ぎだけど何丁かは調達できた。

 さて、何故これを用意したかと言うとね。」


リリーが合図をすると大スクリーンにカスカベルとヤクルスが襲撃された時の赤外線映像が流れた。


「これはね、襲撃を受けたヤクルスの蔵前君の証言とワイバーンリーダーの吉岡君の推理を聞いて奴らの戦い方を詳しく分析してみたの。」


映像では突然湧き出たアレクニドが一斉にカスカベルのメンバーに襲い掛かっていた。


「これを見ると判るかどうか…つまり奴らはね一匹の強い別物が人間や小物の別物を操っているのよ。

 被害を恐れずに、兵隊を使い捨てにして大軍で敵に襲い掛かり混乱させている間に後ろに控えている強い別物がこれと言ったメンバーを攻撃するのよ。

 こういう人海戦術は厄介だけどね。」


また別の映像が流れ、恐れしらずに大軍で襲い掛かる兵隊の少し後ろにいた悪鬼が倒れると途端に兵隊たちは戸惑い動きが鈍くなり反撃を食らいつぎつぎと倒されていた。


「何らかの思念か洗脳か何かで前衛の兵隊を操っているのよ。

 つまり、この兵隊たちを操っている別物を探し出して早いうちに殺す事が私達が勝利する鍵なの。

 後ろで操っている別物を倒せば奴らはもろいわよ。

 その為に破壊力があるライフルを用意したわ。

 そしてこのグレネードランチャーで前衛の兵隊をある程度突き崩して親玉を探し出して大口径弾を撃ち込む事ね。

 上手く行けば毒を塗ったフレシェット弾が親玉の別物にも当たるかもしれないわ。

 勿論このライフルだけで敵の前衛を崩せるとは思わないから必ず援護のメンバーも撃ちまくってよ。

 このバトルライフルを持つ者の最優先事項は後ろで操っている奴を見つけ出して倒す事よ。

 強力な武器を持った、あの蜘蛛の化け物を一撃で動きを止められるような武器を持った者を中心にフォーメーションを組んで進むわよ。

 このフォーメーションを突破されたら、戦闘班の私達の後ろには戦闘のプロとは言えない支援要員や処理班がいるの、奴らに大量虐殺させないように体を張ってね。

 あいにくと地下はどれくらい枝分かれしているか判らないけれど、なるべく分散せずに固まって進むわよ。

 こちらもどれほどいるか判らない敵に合わせて戦力を分散する戦法はとらないわよ。

 私達もドローンを先行させてリアルタイムで地下の地図を作成してなるべく固まって進む予定だけど、迷子と同士討ちには十分気を付けてよ。

 奴らは私達と似たような戦闘服を着ているのが多いわ。

 明らかに敵だと判らなければ必ず誰何して、そして誰何されたら自分が所属しているチームの名前を必ず2回言う事を徹底して。

 勿論返事をしないと弾が飛んで来るわよ。」


ここまで話してリリーがバトルライフルを置いた。


「そして研究の結果、あの地下には恐らく女王アリや女王バチの様な存在が居ると判断したの。

 私達が最優先に始末するべきはその女王アリよ。

 アレクニドの体制から考えるとそいつを倒せば残りの奴らが相当混乱すると思われるわ。

 何とか親玉のそいつを探し出して始末すれば、どんなに大勢の敵がいても勝つチャンスは充分にあるわよ!

 よい?、みんな!

 ノリッピーも言ってたけど、この戦いに負ける訳には行かないよ!

 絶対に負ける訳にはいかない!

 この星の、人類と私達の未来を決める大事な戦いなんだと肝に銘じて!

 皆に大きな幸運を!

 簡単に死ぬな!

 仲間を見捨てるな!

 敵を撃滅しろ!

 10分後に出撃!準備に掛かれ!」


会場に気合が入った掛け声が溢れ、全員が立ち上がり、走り、出撃準備に取り掛かった。



10分後。

午後8時20分、俺達ワイバーンはリリー、ナナツー達と埼玉県警のバスに乗り込んで他の警察バスと、資材を積んだトラックと共にパトカーの先導で校庭を出た。

いよいよ樹海に乗り込む。

雲の切れ目から上弦の月が見えた。



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