第20話 第7部 紛争編 7
ここまでのあらすじ
作戦開始の時が近づいている気配に満ちて来た。
夏休みが終わり学校が始まる司と忍には岩井テレサから万が一の為に
男女2人ずつ、悪鬼のコンビと人間のコンビの護衛が付く事になった。
作戦開始時に雨の事も想定して、彩斗達は雨の中でもマシンガンなどの装備を付けてクロスカントリー、フル装備でのナイフトレーニングなども取り入れた。
その間、蔵前が襲撃を受けた時の敵の印象を思い出し、戦いのヒントを思いついた彩斗は岩井テレサに情報を送った。
戦術的に役立つ情報だと彩斗と蔵前は感謝された。
そんな中、作戦に何らかの形で参加したい警視総監が彩斗達の死霊屋敷に警官の警護を付ける事になったが、彩斗達はパトカー2台に警官4名、そして、警官達の貧弱な武装に苦笑いを浮かべた。
やっと雨がやみ、午前中の訓練が終わり、彩斗はシャワーを浴びていた。
以下本文
翌朝、相変わらず空は曇っていたが、土曜日だが何か行事があり、明石一家は学校に行き、俺達は『ひだまり』が休みの加奈も含めて朝のクロスカントリートレーニングを始めた。
喜朗おじは夜までかかってヲタ地雷を作り、今は4つのヲタ地雷があった。
そして喜朗おじは新しい『ひだまり』の店舗に行き、内装工事を監督していた。
空は時々晴れ間が見え、俺達は作戦開始の予感がした。
そして朝食後も様々なトレーニングをこなした俺達は段々とお互いの呼吸を読めるようになってスムーズにフォーメーションを組んで戦える自信がついてきた。
自分のすぐ後ろで装弾してセフティを外した銃を構える人間が立つなどとはお互いに絶対の信頼が無いとできない芸当だ。
早めの昼食。
工事が休憩になり喜朗おじが屋敷に戻って来た。
「おい、今度の『ひだまり』は結構いけそうだぞ。」
喜朗おじはご機嫌で昼食を平らげてまた屋敷を出て行った。
昼食後、俺達はまた軽くクロスカントリーをしながらより実戦的な射撃訓練を行った。
汗と泥にまみれて屋敷に帰って来てシャワーを浴びていたら加奈がいきなりお風呂場に顔を突っ込んだ。
「彩斗!早く上がんなよ!
テレビテレビ!」
それだけ言うと加奈は皆!テレビ!と叫びながら屋敷の廊下を走って行った。
俺は予感がしてそそくさと体を拭いて暖炉の間に走った。
四郎達が集まって大型テレビに見入っている。
テレビではヘリからの映像で都内のビルが映し出され、その周りに普通の事件よりもずっと広く規制線が敷かれていて機動隊が周りを厳重に固めていた。
女性アナウンサーが緊張した声でニュースを読み上げていた。
「え~!速報を続けます!
現在都内数か所と富士の樹海、山梨県富士河口湖町近辺でテロ集団と思われる者達の大規模なアジトを突き止めたと警察の発表がありました。
ガスです!テロ集団は有毒ガスを保有しているとの情報があり、何人かが立てこもっている模様です。
付近では住民の避難命令が出ています!
富士の樹海、青木ヶ原近辺、並びに東京都江東区木場駅、東陽町駅近辺の住民に避難命令が出されました!付近の方は絶対に近づかないように警察の指示に従って避難してください!そして北区赤羽、赤羽西6丁目付近でも新たに避難命令が出ています!そのほか杉並区…」
「始まったようだな。」
四郎が言うとスマホに着信があった。
リリーからだ。
「彩斗、いよいよ始まるよ。
死霊屋敷にワイバーン集合をお願いするわ。
午後3時までに迎えが来るから装備の準備をしておいてね。」
通話が切れた。
「彩斗、始まるの?」
真鈴が尋ね、皆が俺を見た。
「うん、作戦開始だ。
みんな装備を持って玄関ホールに集合。
迎えが午後3時に来るそうだ。」
俺の言葉が終わらないうちに皆が走り準備を始めた。
俺も装備を手に取って玄関ホールに走った。
連絡を受けた喜朗おじも帰って来て色々と装備のチェックを始めた。
今、午後1時50分。
皆忙しく動きながらもはしゃぐ声も叫ぶ声も聞こえずに黙々と準備をしていた。
やがて遠くからパトカーのサイレンが聞こえて段々と近づいてきた。
迎えにしては早いなと思って入り口ゲートのモニターを見ると回転灯を点けた護衛の車に挟まれた明石のレガシーが映っていた。
あの護衛の車は覆面パトカー仕様だったのだ。
「始まるか!」
明石がレガシーから飛び出して玄関ホールに飛び込んだ。
その後を圭子さんと司と忍も駈け込んで来た。
「彩斗凄いんだよ!
あれってパトカーだったんだよ!」
「みんなどいちゃうんだよ!
信号も無視して走ってるんだよ!」
司と忍が興奮して叫んでいた。
俺達は彼女たちの無邪気な興奮を微笑ましく感じながらも準備と装備のチェックに余念が無かった。
準備とチェックが終わり、俺達は玄関ホールから外に出てタバコを吸った。
圭子さんが気を利かせてコーヒーを淹れておいてくれた。
「いよいよだな。」
「いよいよね。」
「忘れ物は無いか?」
「もう一度チェックしよう!」
「ヲタ地雷は幾つあるんだ?」
「4つだな。」
「2つづつポウチに入れておこう。」
喜朗おじと俺のポウチにヲタ地雷を2つづつ入れた。
装備のチェックを終わらせた俺達それぞれに圭子さんがお茶が入った保温水筒とお握りを差し出した。
「腹が減っては何とかだからね。」
俺達は圭子さんが握った握り飯をいとおしそうに捧げ持ってお辞儀をして、圭子さんを慌てさせた。
「もう、何やってんのよ!
そんな事しないで皆ちゃんと帰って来なさいよ!
おいたが過ぎて怪我をしてもダメなんだからね!」
圭子さんが顔を赤くしながら叫んだ。
明石が圭子さんの手を取って暖炉の間に連れて行きドアを閉めた。
何が起きたか大体見当は付いたが俺達は野暮な事は言わなかった。
やがてドアが開き、明石と圭子さんが指を絡めて出て来た。
圭子さんの顔が赤く、しかし少し涙目だった。
俺達は暖かい視線を送りながらも明石達を見ない振りをした。
「彩斗、そろそろじゃないか?」
四郎が時間を合わせた腕時計を見た。
「はなちゃん、迎えが来てない?」
ジンコは俺が背負ったリュックのはなちゃんに尋ねた。
「今の所は…まだ…おお!
あほ兄弟が迎えに来ておるじゃの!
しかし早いの!
真っ直ぐこっちに来てるじゃの!
もうすぐじゃの!」
やがてヘリコプターの爆音が聞こえて来た。
西の空から航空自衛隊の大型ヘリが飛んできた。
俺達は声にならない声を上げて迷彩色に塗られた2つの大きなローターを回転させる大型ヘリがゆっくりと屋敷の周りを旋回して着陸するのを見た。
後部にある扉が下がってあほ兄弟が顔を出して俺達に手を振っていた。
「何と大げさだな…。」
「あれはチヌークとか言うヘリコプターか…。」
「成る程あれなら渋滞など関係無いが…。」
四郎と明石と喜朗おじが呆れた声で言った。
「私…高所恐怖症って診断書も持っているんだけど…。」
真鈴がヘリコプターを見つめて顔をこわばらせて呟いた。
「ワイバーン!
早く搭乗してくださ~い!」
「スコルピオ航空にようこそ~!」
ヘリの爆音に負けまいとあほ兄弟が大声で叫んでいた。
俺達は装備を抱えてヘリに乗り込んだ。
明石が圭子さんと司と忍を抱きしめてから彼女たちに手を振りながらヘリに走って来た。
明石が乗り込むとヘリの後部ドアが閉まり、エンジン音が少し小さくなり席に着いた俺達は会話が出来るようになった。
やがてヘリが離陸した。
俺達はヘリの窓から屋敷の前で俺達を見上げて敬礼をする圭子さんと司と忍を見た。
彼女たちは横に並んでビシッと敬礼した後で遠ざかるヘリに向かって走りながら手を振って何か叫んでいた。
窓から覗いていた明石は複雑な顔をしていた。
「やれやれ特攻隊でもあるまいし…あんな若いのに、兵隊でもないのに、敬礼なんぞしなくて良いのにな。」
喜朗おじが苦笑いを浮かべながら明石の肩を叩いた。
「景行、しょうがないぞ、司や忍は、ましてや圭子さんでもあの戦争の真の姿は知らんのだからな。」
「そうだな、喜朗おじ、あの戦争で負け始めて絶望的なのに勝っている勝っていると騙されて踊らされて焼かれて飢えて溺れて殺された国民の事など…圭子や娘達は知らんだろうな。」
2人は恐らく太平洋戦争の事を言っているのだろう。
明石も喜朗おじも従軍していたのだ。
ヘリは青木ヶ原に向けて飛んでいた。
西日を浴びた富士山が大きく見えた。
ジンコと加奈が富士山を見て歓声を上げた。
「うわぁ!こんな所から富士山を見たの初めてだよ~!」
「真鈴!見てみて!凄いよ!」
真鈴は目をつぶってサブマシンガンを握りしめていた。
「何よあんた達!
私、高いところ苦手なんだってばぁ!
それに私達戦いに行くんだからね!
う~高い高い、エロイムエッサイムエロイムエッサイム…」
そう、真鈴が言う通り俺達はこれから戦いに、俺達は『戦争』に行くのだ。
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