第19話 第7部 紛争編 6


ここまでのあらすじ


はなちゃんによって過去の黒歴史をばらされて落ち込んだ彩斗だが、ワイバーンメンバーやリリーの励ましもあって何とか立ち直れた。

気を取り直したワイバーンは悪鬼討伐用の大口径ピストルの基本的な射撃練習をし、小次郎小三郎による、実戦的な射撃練習のデモンストレーションを見た。


ピストルとマチェットによるターゲットの完全破壊を素早く行うその妙技に彩斗達は感心しきりだった。


屋敷に戻る途中、はなちゃんから秘密をばらしてしまって済まなかったと謝られ、そして彩斗がまだ秘密にしているとてもとても恥ずかしい過去は今度は絶対にばらさないと約束され、彩斗の背筋が寒くなった。


その後、加奈はリリーから免許皆伝の印に特別に加奈の為に作られたエレファントガン『加奈・アゼネトレシュ』を貰い、加奈は感涙にむせび、ワイバーンメンバーは加奈が試射する『加奈・アゼネトレシュ』の狂暴極まる破壊力に驚嘆するとともに頼もしく思った。


そして数日後、岩井テレサの組織は謎の集団の幾つかのアジトの場所を突き止めた。

大々的に人員を投入して討伐を行うため、支援を行う警察や自衛隊、在日米軍などとの調整の為に作戦開始まではまだ時間が掛かるようだ。


そして彩斗達には岩井テレサ達との共同作戦を行うためのスコルピオなど直属チームが使う自動火器などの装備を供与されることになり、その訓練に明け暮れ、さらに喜朗おじが襲い掛かる敵を一掃できるように屋敷にある手榴弾や擲弾筒弾を使い、クレイモア地雷を参考に遠隔爆破できる地雷を作り、メンバーによってヲタ地雷と名付けられた。


そしてある日、リリー達が死霊屋敷にやって来て謎の集団の本丸だと思われる富士樹海地下の地下迷宮のようなアジトに潜入したカスカベルとヤクルスの生き残りから選抜された5人の人間メンバーが持ち帰った貴重なデータを見た。


地下には謎の集団と共に強力な酸を吐く蜘蛛の化け物のような怪物もいて一筋縄では行かない相手だと痛感して緊張した。


そして5人の潜入メンバーで唯一生き残ったヤクルスのメンバーである蔵前信二くらまえしんじを作戦開始まで預かって欲しいと言われ、承諾した。


猛烈な訓練を重ねる中、彩斗達人間メンバーは明石達から家族に遺書を書いておくようにと言われた。


彩斗は訓練を続ける日々の中で、もうユキと会えなくなるかもしれないと、最後に一度でも会って置こうと決めた。




以下本文


「四郎、どうなんだろう?

 作戦はいつごろ始まると思う?」


四郎はリリーから供与されたサブマシンガンを分解して銃身を覗き込みながら答えた。


「さあなぁ。

 リリー達だけではなく警察の方でも準備が掛かるだろうしな。

 後1日2日は掛かるんじゃないか?」

「そうか。」

「まぁ、明日も明後日も曇りで雨とか言ってたからな。

 じたばたしても始まらんだろうに。

 落ち着いてトレーニングをする事だな。」

「そうか…遺書は…圭子さんが預かってるんだっけ?」

「なんだ彩斗、書き直しをしたいのか?」

「いや…ちょっと読み返そうと思って…。」


四郎が組み上がったマシンガンに耳を当ててスライドを動かし、音を聞きながら言った。


「圭子さんがな、遺書を預かる時にな、これを出す羽目になる奴は絶対許さないと言ってたぞ。」

 

 蔵前君は俺と四郎のやり取りを黙って聞きながらピストルの手入れをしていた。


「そうだね…。

 四郎、俺、あとでちょっと行きたいところが有るんだけど。」

「作戦発動の連絡が来たらここが集合場所だ。

 彩斗に連絡が来たらすぐに戻ってこないとな…ユキちゃんだろう?

 行っても良いが、酒は一滴も飲むなよ。

 連絡が来たらすぐに戻って来いよ。」

「うん、絶対飲まないよ。

 連絡が来たらすぐ戻る。」

「約束だぞ。

 人間が酒が入った状態であそこに突っ込むのは自殺行為からな。

 いくらお前がリーダーでも酒を飲んで来たらここに置いて行くからな。」

「うん、絶対だよ。

 約束する。」


俺達は地下通路を通ってガレージの地下に行き、マシンガンとピストルのトレーニングをみっちりとした。

夕方、食事の準備をしている四郎と蔵前君に出かける旨を伝えた。


「彩斗、絶対に酒は飲むなよ。

 今日はどんなに夜遅くとも帰って来い。

 煮込み料理は多めに作って置くから腹が減ったら温めて食え。」


四郎が煮込み料理の具材を切りながら言った。


「彩斗リーダー、行ってらっしゃい。」


物凄い速さでキャベツの千切りをしながら蔵前君が言った。

そう言えば彼は一家で経営する中華料理店の手伝いをしていたんだっけと思いだした。


「蔵前君、うちはあまり呼び名とか厳しくないんだよ。

 呼び捨てで良いよ。

 皆そうしてるから。」

「はい…うん、これからそうする。

 俺の事は『クラ』って呼んでください。」

「判った、クラ。

 じゃ、行って来ます。」


そう言って俺は曇り空の下、ランドクルーザーでマンションに向かった。

マンションの地下ではやはりあのくらい青年の死霊が隅で膝を抱えて座っていて、俺を見つけると土下座をした。

俺は軽く頷いて部屋に行き、シャワーを浴びて着替えると『みーちゃん』に向かった。

午後7時になろうとしていた。


『みーちゃん』では客は誰も居なかった。

ママとユキが暇そうにテレビを見ていた。


「吉岡ちゃん、いらっしゃい!」

「彩斗…吉岡ちゃんいらっしゃい!」

「今日は暇なんだね。

 水曜日だったっけ?」


俺は座りながら言うとママがしかめ面をした。


「そうなのよね~水曜日だけど月末だから混むかと思ったけど誰も来ないのよ~!

 もしかしたらお茶っぴきになるかもと心配してたのよ。

 吉岡ちゃんが来てくれて助かったわ~!」


ママが壁から俺のボトルを出した。


「ママ、今日は酒を飲むわけにいかないんだ。

 ちょっと大事な用事があってね。

 ボトルのお酒はママとユキちゃんで飲んでよ。

 俺にはウーロン茶を頂戴よ。」

「あら珍しい。」

「今日は夜遅くに購入する予定の物件の家主と会うんだよ。

 なんか夜遅くじゃないと時間が無いとか言って深夜に会うんだ。

「へぇ~、吉岡ちゃんも忙しいんだね。」

「その代わり夕食はここで食べるかな?

 ママ、サラダの大盛りと何か料理をじゃんじゃん作ってくれる?」

「あいよ~!

 じゃあ、ボトルのお酒少し頂いちゃうけど良いの?」

「どうぞどうぞ!沢山飲んでよ!

 近いうちにまたみんなで飲みに来るからボトルを空けてよ、新しいの入れるからさ。」

「うひ~!

 吉岡ちゃん太っ腹~!

 商売上手く行ってるみたいね!

 有難く頂きます~!」


ユキが横に座って俺にウーロン茶を置いてママとユキの分の水割りを作り始めた。


「今日は用事があるんだ…。」


ユキが俺の耳に囁いた。


「うん、ちょっと大事な用事でね。」

「そうか、残念。

 その後どうするの?

 うちに泊まりに来る?

 夜遅くても良いよ。」


またユキが囁いた。

俺はユキの言葉に幸せを感じた。

あ~リア充リア充、俺はリア充になったんだなと幸せを噛み締めながらユキとママとグラスを合わせて乾杯した。

ママが料理を作るのでキッチンに行ったのを見て俺は小声でユキに言った。


「ごめんねユキ、今大きいプロジェクトが始まるから、このままあの屋敷に行くんだよ。

 四郎とかが待ってるからね。」

「う~ん、そうか、残念ね。

 あの素敵な屋敷、また私も行きたいな。」


ユキが可愛く微笑んだ。


「今度プールを作るんだよ。

 冬でも入れるように温室みたいな作りにしてさ。」

「ええ!きゃ~素敵!

 私もプール入りたいなぁ!」

「もちろんさ!」


その後、客は来なかったが俺とママとユキで話が盛り上がって愉快で楽しい時間を過ごした。


「あ~楽しい!

 だけど吉岡ちゃんは今日は思い出話ばかりするね。

 大丈夫~?

 なんか心配ね~車の運転とか気を付けなさいよ~!」


ママが言った。

女の鋭さってこれなのかな?


「ママ、縁起悪い事言わないの!

 カラオケ歌おうか!」


ユキが立ち上がりデンモクとマイクを持って来た。

『みーちゃん』はまるで俺の為に誰かが結界を張ってくれたようでその後も客は来なかった。


カラオケを歌い、話を沢山して俺は四郎の言い付け通りウーロン茶を飲みながら楽しい時間を過ごした。

10時を過ぎた頃俺はボトルを2本入れて死霊屋敷に帰る事にした。

本当は永遠にここに居たかった。

涙が出そうになって慌てて目を拭った。

俺はリア充になれたことを少しだけ後悔した。


「まだ雨が降るかも知れないから傘を持って行ってよ。

 ユキちゃん、吉岡ちゃんに傘をあげてね。

 じゃあね!吉岡ちゃ~ん、ありがとう~!」


普段より飲んだのかママのろれつが少し乱れていた。

ユキが傘を持って俺と店を出た。

ユキが店の扉を閉めてじっと俺を見つめた。


「ねえ、彩斗、本当に大丈夫?

 なんかこれっ切りみたいで怖いよ…。」

「ねえ、ユキ…。」

「なあに彩斗?」

「……あのさ…俺達…俺達……100万回…キスをしよう。」

「…何それ…おかし~!

 彩斗って気障だ~!」


ユキがケラケラと笑った。

やっぱり四郎みたいに気障なセリフで女をメロメロなんて俺には無理だなと思った。


「あ、彩斗、雨が降って来たよ」


ユキがそう言って傘を広げて俺に差しかけた。

ん?雨?と思いながら俺はユキから傘を受け取ろうとした時、ユキは俺の手を引き寄せて開いた傘で俺達を通りの人通りから隠した。

そして、傘の陰で、ユキは俺にキスをした。

情熱的なキス。優しいキス。愛情がこもったキス。

俺もキスを返しながらユキの体を抱きしめた。


「ねぇ、私達、100万回のキスをしようね…もっと気持ち良い事も沢山しようね。

 彩斗…また来てね。

 絶対だよ。

 絶対…それで、皆全員で飲みに来るんだよ。

 誰も欠けちゃ駄目だよ、約束だよ。

 彩斗…愛してる。」


ユキが俺の耳元で囁いた。

身体を離したユキが少し涙ぐんだ目で俺を見つめていた。


「ああ、絶対…絶対にまた飲みに来るよ。

 全員一人も欠けないで飲みに来るよ。

 俺もユキを愛してる。」


俺はマンションに戻った。

ユキはずっと店の前で俺を見送っていた。

ユキから貰った紅い傘を差したまま曇り空の下をマンションに帰った。

やはり女は鋭いのか、俺が嘘が下手下手なのか…俺はダイニングでしばらく泣いた。


そして地下駐車場に行き、やはり隅で土下座をしている若い死霊の男に初めて話しかけた。


「ねえ、君、もう土下座しなくて良いよ。

 君がここにずっといても俺達はなんにも言わないけど、君が早く上に昇れるように俺達は祈ってるよ。

 君が魂の平安を見つけられるように…祈ってるよ。」


土下座している死霊は戸惑った顔をしながら座り直した。


「…ありがとう…。」


死霊が小声で答えた。

俺はランドクルーザーで死霊屋敷に戻った。

まだ12時前。

四郎と蔵前君は一足先に帰って来ていた真鈴、ジンコとガレージ地下の射撃場でマシンガンのトレーニングをしていて、俺もそれに加わった。

 











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