第18話 第7部 紛争編 5


ここまでのあらすじ


翌朝、彩斗達は朝のクロスカントリーを行う、今日は圭子さんも参加し、より実戦的でチームワークを必要とするコースになった。


彩斗は少し違和感を感じた。


何故か昨晩の女子会メンバーが彩斗と目を合わせようとしないのだ…。

それに真鈴が跳ね返ってきた木の枝が顔面を叩いたが、女子全員が『顔面』と言う言葉に異常な反応を示していた…。


クロスカントリーから戻るとリリーがスコルピオ隊員のあほ兄弟である小次郎小三郎を連れ、そして夥しい数のピストルを車に乗せてやって来た。


警察も彩斗達の行動を黙認すると言う事で今度の討伐には遠慮なく銃器を使えることになり、そのレクチャーをしに来たのだ。


彩斗達はガレージ地下の射撃場に集まった。




以下本文



射撃台のテーブルにはずらりと各種ピストルが並んでいた。


リリーとあほ兄弟がピストルの列の前に並んでいた。

そして対面して並んでいる俺達にリリーが順番にピストルの説明をしてあほ兄弟がそれぞれ手に取って実際の操作などを実演した。


「…と言う訳でスコルピオで使用するピストルは40口径か10ミリ、45口径、40マグナム以上のものを使っているの。

 今までの経験と研究データからだと、9ミリパラベラムはどうしても威力が足りないのよ、9ミリパラベラムを強化した9ミリプラスや9ミリプラスPプラスでもやはり威力が足りないのよ。

 サブマシンガンでもうちでは40口径の物を使っているわ。

 最近はより小口径のPDWを装備するようになったけど、あれはあくまでも別物の足止めや動きを封じるために使うためのものだと割り切っているわ。

 今日は、まず初歩の練習用に45口径のM1911A1を使って大口径のピストルの反動制御を学んでもらおうかな?

 四郎から聞いて小口径のピストルの練習はしていると聞いたけど。

 実戦用のピストルは反動が凄いわよ。

 2人一組でそれぞれあほ兄弟が後ろについて訓練してみようかしら?

 誰からやる?」


皆が耳の保護にイヤーマフを付けてシューティンググラスを掛けた。

圭子さんとジンコが真っ先に手を上げて前に出た。


「じゃあ始めようかな?

 45口径は重量弾頭でホローポイント、危険が高いから決して標的以外に銃口を向けないでよね。

 もし不発やジャムが起きた場合は銃をターゲットに向けたままで決して銃を持ったまま後ろを振り返ったり銃口をのぞき込んだり…あら、これは四郎と景行から習っているかしら?

 なら大丈夫ね。

 最初は10メートル前方のマンターゲットに向けて撃ちましょうか。

 体の中心線、心臓の辺りを狙って撃ってみましょう。

 あ、このM1911ピストルは空薬きょうが真上に上がって落ちてきた熱い薬きょうが顔面直撃する場合があるから気を付けて…あら?

 私何か変な事言ったかしら?」


リリーが戸惑った表情になった。

ジンコと圭子さんがピストルを射撃台に置いて俯いて笑いを堪えている。

嫌な予感がした。

俺が横を見ると真鈴と加奈も顔を真っ赤にしてプルプル震えているのだ。

昨日の夜の女子会の謎が解けた俺は何とか対策を取らねばと思った。


「はい!リリー!

 ちょっとワイバーン内部でピストルトレーニングにおいて重要な事故の懸念があるのでしばらく俺に時間をくれませんか!」

「え、まぁ、リーダーの彩斗が言うなら良いわよ。

 どうする?

 私達席を外す?」

「すいません、数分で済みますから少しの間、席を外してくれますか?

 四郎と景行と喜朗おじも少し席を外して欲しいんだけど。」

「…まぁ、彩斗警視正が言うのならば…俺達は外でタバコでも吸っている事にしよう。

 終わったら呼んでくれ。」


リリーや四郎達が階段を上っていくのにはなちゃんも後をついて行った。


「はなちゃん!

 はなちゃんはここにいろ!」


びくっと身を震わせたはなちゃんが階段の下で立ち止まって俺を見た。

白目剥きがちで顔が微かにかくかく震えている。

明らかに動揺しているのを見ておれの最悪の予想が的中した思いだった。

あとはこいつらからどうやって自白を引き出すか…。


「皆イヤーマフとシューティンググラスを外せ。」

「あの…彩斗…何?」


ジンコが恐る恐る俺に尋ねた。


「いいからそこに整列しろ!」


ジンコ、真鈴、加奈、圭子さんが一列に並んだ前を俺は行きつ戻りつしながら言った。


「俺は重大な秘密が有るんだけど、それを知ったはなちゃんと絶対に口外しないと約束したんだ。

 はなちゃんは絶対に絶対に誰にも話さないと約束した。

 もし話したら…いいか?

 そう言う秘密を守れないと言う事はワイバーン全体の秘密を漏らすと言う事と変わらないと俺は思う。

 一つの組織としては重大な欠陥だと俺は思うんだ。」


「彩斗!私達ははなちゃんから何も聞いてないわよ!」

「昨日の夜はブランデーと残ったお菓子で女子会をしただけよ!」

「彩斗君!信じて私達は何も!顔面なんて!」

「圭子さん!」

「彩斗!ワイバーンの名にかけて私達は何も聞いていないわよ!」


真鈴達が口々に叫び始めたが、どうも声が上ずって眼が泳いでいた。

俺は一番追及に弱そうに感じた加奈の前に立った。


「加奈…」

「ななななに?彩斗。」

「昨日じゃんけんの後で真鈴に俺が真鈴のブーツの臭いを嗅いだって…言ってたよな。」

「ええ!ブブブブーツの事なんか加奈は全然知らないですぅ!」

「本当か?」

「本当ですぅ!」

「絶対に本当か?」


俺は加奈の目を覗きこんで言った。

加奈の眼球はブラウン運動のように泳ぎまくってた。


「絶対に本当で…う…すみません!聞いてしまいましたぁ!

 彩斗警視正が真鈴のブーツに鼻を突っ込んで嗅いだと…聞いてしまいましたぁ!」

「加奈!」

「加奈!」

「加奈!」


一角が崩れた。


「ふん、若い男が誰にも知られない所で女子のブーツの臭いを嗅ぐなんて事は全日本スケベ学会が2022年の5月に自白剤とうそ発見器を使用した正式な調査で全体の79・8パーセントの若い男が臭いを嗅ぐと言う事が学術的にはっきり証明しているんだよ!

 俺は極めて正常な部類に入ってるんだよ!

 もっとも俺が嗅いだブーツは見も知らぬ足臭野郎の小汚いブーツだったがなぁ!

 ジンコ!メモを取るんじゃない!」

「ひどいわ…ぴょん吉のブーツを嗅いでおいて足臭いって…。」


ジンコはメモをポケットにねじ込みながら小声で囁き、ジンコの彼氏がぴょん吉と呼ばれている事を知った。


「なるほど、ジンコの彼氏はぴょん吉と言うのか…だが、そんな事はどうでも良いんだ!

 問題はそんな事じゃない!

 もう一つ俺の過去に関する事を!重大な秘密を!暗黒歴史を!はなちゃんが!はなの野郎がお前達に喋ったんじゃないのか?」


俺は緊張して並んでいる真鈴達の周りを飢えたサメのようにゆっくりと歩いた。

圭子さんの顔が一番赤く、思い切り両手を握りしめていた。

俺は圭子さんの近くに近寄り顔を寄せた。


「圭子さん…鯨…女…」

「圭子さん死守よ!」

「圭子さん頑張って!」

「圭子さん!踏ん張って!」

「うるさい!黙ってろ!」


俺は再び圭子さんの顔に囁いた。


「鯨女…顔面…鷲…掴み…。」


圭子さんは見開いた眼を虚空に向け涙を流しながら口を思い切り引き絞り痙攣していた。

プッ!と吹き出す息が聞こえて目を走らせた先にジンコが立っていた。

俺はジンコに近寄り、囁きを続けた。

ジンコも顔が歪むほど口を厳しくつむんで顔を左右に振っていた。

顔色は爆発寸前の様に真っ赤になっていた。


「鯨女…顔面鷲掴み…」

「ジンコしっかり!」

「ジンコ!頑張って!」

「ジンコちゃん負けないで!」


俺は真鈴達の声援に構わずジンコの耳に口を寄せた。


「鯨女顔面鷲掴み……キス………拒否られ野郎!」


ジンコが派手に爆発してウヒー!と笑いながら膝から崩れ落ち床にのたうち回り腹を抱えて笑っていた。

つぎつぎと連鎖反応で加奈も真鈴も圭子さんも崩れ落ちて笑い転げていた。


「あ~!笑った!みんな笑った!

 ちきしょう!リリーに頼んでみんなスコルピオの地獄特訓に送り込んでやるぞ!

 ちきしょう~!はなの野郎話しやがったな!

 はなちゃん!

 はなぁあああああ~!」


俺が振り返り階段の下を見るとはなちゃんの姿はなく、上から四郎やリリー達のヒステリックな笑い声が聞こえて来た。

そして鯨女とか顔面鷲掴みとかキス拒否られだとか聞こえて来た。

ワイバーンどころではなく、リリーのスコルピオにも、そして限りなく口が軽そうな小次郎小三郎のあほ兄弟にも秘密が知られてしまった。

俺ががっくりと膝をついて両手で顔を覆った。






オワタ…。


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