第14話 第7部 紛争編 1


ここまでのあらすじ


岩井テレサ直属部隊最強の第1騎兵隊カスカベルが正体不明の集団の襲撃を受けて半数が失われると言う大事件の一報が入った。


『ひだまり』で次の討伐の為の打ち合わせをしていた彩斗達に緊張が走った。


以下本文



第1報を受けた俺達は非常に動揺した。

『ひだまり』の個室には俺と真鈴と四郎とはなちゃん、そして明石夫婦と加奈がいた。

ジンコは今日『ひだまり』のアルバイトだ。


喜朗おじとジンコが沈鬱な顔で俺達が追加で頼んだデザートを持って来た。


「景行、後でもう少し詳しい事が判ったら教えてくれ。」


喜朗はそう言ってジンコと個室を出て行った。

第1騎兵カスカベルとは8月の初めに共同作戦をして14匹の手強い悪鬼を全滅させたばかりだった。

知り合いになった者も何人かいた。

誰が殺されて誰が生き残ったのか…


「カスカベルは岩井テレサの組織でも一番人数が多くて強力なチームだったはずだが…。」


四郎が呟き、俺は記憶を頼りに答えた。


「確か戦闘メンバーだけでも80人いたはずだよ、支援メンバーでも20人はいたはず…岩井テレサの戦闘チームで最強と言ってた。」

「あっさり半分がやられるチームじゃないはずだな…」


明石が煙草を取り出し、7月に作ったワイバーンのジッポーで火を点けた。

このジッポーは真鈴と加奈、ジンコがデザインしたもので空を飛ぶワイバーンは背景がブルー、そして黒いワイバーンと第5騎兵を現すローマ数字のVをあしらったしゃれた物だ。

俺達の戦闘服にも同士討ちを避けるために胸と袖に同じデザインのワッペンを、そして戦闘時にアメリカの警官のように背中にWYVERNと記された布が引き出せるようになっている。

ジッポーライターは好評でメンバー全員が持っていた。


「どこのどいつがどんな手段でカスカベルの連中を襲ったのかまだ判らんのだろう?」

「そうだよ四郎、まだ第1報の段階だよ。」

「そうか…ジョスホールと対立する組織…いや、今の段階では何も判らんな。」


明石は頭の後ろに手を組んで天井を見上げた。


「相手がどこまで俺達の組織を把握しているか判らないから気を付ける様にって言ってたよ。

 詳細がわかるまで身辺に警戒して悪鬼討伐やその他の行動を控える様にってさ。」


俺が言うと圭子さんが立ち上がった。


「あんた、念のために司と忍の迎えに行くわ。

 今のところあの子達に目を離せないわ。」


残り少ない夏休み、司と忍は近所のスイミングプールで友達と遊んでいた。


「そうだな圭ちゃん、いざとなった時に切り抜ける様に武装をしていってくれ。」

「私も圭子さんと行くわ。」

「加奈、頼む。

 俺のレガシーに乗ってけ。

 レガシーに隠してある武器の場所は覚えているよな。」

「うん、判ってるよ。

 圭子さん行こう。」

「あんた、司と忍を確保したらすぐにここに戻って来るわ。」


明石は車の鍵を投げ加奈がひょいと受け止めて圭子さんと出て行った。

明石は7月に車をアコードからレガシーに買い替えていた。

勿論、深海オートでチューンを施してある。


「さて、はなちゃん、今のところ周りに危険は無いか?」


四郎が尋ねた。


「今のところここに近づく脅威になりそうな奴はおらんじゃの。」


その時、俺のスマホに着信が来た。

俺は岩井テレサのコーディネータと連絡のやり取りをした。

俺がスマホの通話を切ると聞き耳を立てていた四郎達が尋ねた。


「彩斗、状況はどうなんだ?」

「電話やメールで詳細を知らせるのは危険と言う事で、岩井テレサの榊がバイクで最新状況の書類を持ってくるってさ。

 小一時間くらいでここに着くそうだね。

 他のチームなどと連絡は控える様にって言ってた。」

「随分厳重だな。

 しかしデジタルで伝えるよりも確実に秘密は守れるだろうな。

 岩井テレサの組織はかなり警戒しているのだろう。」

「カスカベルの半数がやられたなんて今まで無かっただろうからね。

 一応リリーの第3騎兵スコルピオが岩井テレサの周囲を固めているってさ。

 そして第2騎兵のタランテラはカスカベルの回収と現場の検証の護衛をしているそうだね。」

「リリーは無事か。

 何よりだ。」


四郎がため息をついた。

真鈴が個室から出て行き、喜朗おじとジンコに現在の状況を伝えて榊が情報を届けに来ることを伝えた。

俺達はこの騒ぎが漏れていないかテレビを付けてみた。

この日本で何十人も死者が出る騒ぎが、いや、戦闘が起きたなら世間に漏れている可能性もある。

だが、テレビでは夏休みが終わりに近づいた世間の様子を流しているだけだった。

そしてやっとあの子供殺しの外道の裁判の公判が開かれると伝えていた。

俺達は苦い顔をしてテレビを見ていた。

テレビでは人権弁護士が犯人の無罪の根拠を熱弁していた。


「だから、人間の命を簡単に奪う事はたとえ重大な事件を起こした人間でも人間の命には変わりなく…死んでしまった人間と今生きている人間と…」

「酷い殺され方をして死んだ後も弄ばれた子供達に言えよ、くそ野郎。」


俺はテレビに呟いてチャンネルを変えた。


「やだやだ、殺されると人権も無くなる社会だわ。

 悪い奴は死刑にしてぶっ殺して終わりと言うのも変だけど…なんか違う方向に進んでいる気がするわね。」


真鈴がぼやいて頭を掻いた。


「うむ、どうもいびつな思考の奴らがこの国を牛耳っているからな。

 頭が良すぎて法律もどんどん歪んだ解釈になって行くんだろう。

 まだわれが生きていた時代の方が良かったかも知れんな。」


四郎がテレビを見ながら言って俺達はその言葉に頷いてしまった。

明石が俺達を見回してため息を一つついた後、言った。


「あのな、今まで俺達が触れなかった、いや触れないで避けて来た問題を今決めておかないといかないと思うんだが…」


四郎が明石の顔を見て頷いた。

どうも明石と四郎の間で前に話していた事らしい。


「なあに景行?」

「真鈴、これは彩斗やジンコ、加奈達人間メンバーに関する事なんだが、加奈と圭子はもうずっと前に話して答えは出ているのだがな…司と忍の事もあの子達が自分で答えを決められる年齢までは俺達が判断する事にしている。

 君達は、今後死に瀕する大怪我をした時にどうするか決めておいて欲しいんだ。」

「…。」

「…。」

「俺達だってもしそうなった時に必死で君達が命を取り留める様に、生き残るように努力をするが…どうしようもなく手の打ちようが無くなった時…また、手足が吹き飛んで障害を持ったまま生きるのか、君達は人間として死ぬ事を選ぶのか障害と共に生きるのか、それとも俺達のように悪鬼として生きるのか…事前に決めておいて俺達に伝えて置いて欲しいんだ。

 もしも君らが意識不明で意思のやり取りが出来なくなる場合も有るからな。」

「…。」

「…。」

「今は第1騎兵カスカベルの半数がやられると言う非常事態なんだ。

 もう決めておかないとな。」

「…。」

「…。」


頭をガツンと思い切り殴られた気分だった。

今までそんな事は考えていなかった。

いや、そんな事は無い。

俺も真鈴も、ジンコだって一度は、いや、何度も頭をよぎったはずだ。

そして、無理やり考えずに済ましてきた事だった。

そして、非常に重要な事でもあった。


「君らがどんな答えを出そうと俺達の態度は変わらないから安心しろ。

 今、この時点で答えが出なくともしょうがないがな、現在の状況を考えると早く答えを出して俺達に伝えておいて欲しいんだ。

 ジンコにも俺が後から話しておくが、よく考えて決めてくれ。」


俺と真鈴は顔を見合わせて黙り込んだ。



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