第12話 第6部 狩猟シーズン編 5


ここまでのあらすじ


新たにワイバーンメンバーに加わったジンコの訓練と並行して彩斗達は3人組の悪鬼の存在を感知する。

どうやら歳古りたつがいの悪鬼が人間から悪鬼に変えた者を仲間に引き込み、悪鬼にされた女性を餌として釣り針としてバカな男を捕まえて餌食にしているらしい。

郊外のさびれた団地に住む悪鬼の一味が全員家にいる状況を作り出し、深夜に急襲する事にした。

そして、ジンコの悪鬼討伐の初陣だ。

あいにくと土砂降りの雨が降り出したなか、彩斗達は悪鬼一味の部屋に突入する。


以下本文



俺達が玄関を突っ切り居間に飛び込んだ。

雑魚の女悪鬼は悲鳴を上げて居間の隅にちじこまった。

ちゃぶ台にいる女悪鬼は既に悪鬼顔で明石達を睨みつけている。

物凄い轟音が鳴り、四郎の58マグナムと明石のショットガンが同時に発砲した。

女悪鬼の頭の右半分と胸が吹き飛ばされた。

俺のすぐ横にいるジンコが息を呑んだ。

しかし、これで少なくとも1匹の悪鬼を退治したと俺が思った瞬間、撃たれた女悪鬼の肩口から凄い勢いで触手が伸びて来て、触手の先端が鉄のように硬質化しているのか、四郎の58マグナムと明石のショットガンに当たって火花が散った。

それと同時に女の悪鬼の頭と吹き飛ばされた胸の穴が見る見る修復してゆくのが見えた。

今までの悪鬼とは段違いの回復力だ。

明石のショットガンが触手によって真っ二つに切断された。

四郎の58マグナムは派手な火花を上げたがまだ撃てるようでもう1発女の悪鬼の腹に撃ち込んだ。

女悪鬼は苦しげな顔を浮かべたが、肩口から伸びる触手はダメージに関係なく四郎達に攻撃をしている。

明石はショットガンを捨て江雪左文字を抜き、触手と切り結んだ。

四郎は58マグナムをホルスターに納めると同時にサーベルを抜き、触手の1本を切り落とした、が、切り落とされた触手は素早く女悪鬼の体に這い戻り、体に吸収されると同時に新たな触手が四郎に襲い掛かった。

激しく女悪鬼と戦う四郎と明石。

俺とジンコはその光景に目を奪われた。

視界の隅で雑魚の女悪鬼もその光景を恐怖のまなざしで見つめていた。


「くそ!なんだこいつは!

 回復が早い!」

「それどころかダメージを受けたのにあの触手の動きが全然変わらんぞ!」

「みんな気を付けろ!

 もう1匹がどこかにいるぞ!」


女悪鬼の攻撃を防ぎながら叫ぶ四郎の声に俺達は部屋の中を見回したが全然もう1匹の悪鬼は見当たらなかった。

雑魚の女悪鬼の始末をする暇もなく俺達は周囲を警戒しながら四郎、明石と激しい戦いを続ける女悪鬼を見つめていた。

喜朗おじが俺とジンコを触手の攻撃から守る為に俺達の前に立ちはだかった。


「いる!

 いるのよ!

 あの中にもう一人!」

「なん…だと?」


雑魚の女悪鬼が悲鳴のような声を上げて俺達は再び激しく暴れる女悪鬼を見た。

触手の数が増えて1本の触手の攻撃を切り払った明石の頭すれすれに突き抜けて明石のインカムを弾き飛ばした。

触手の攻撃はより激しくなり、女悪鬼は居間から隣の寝室にじりじりと下がりながら明石と四郎の致命部分、頭と心臓に集中してきた。


「見えた!

 もう1匹は女の後ろに張り付いているぞ!」


明石がこめかみから血を流しながら叫んだ。

確かに触手を振り回して攻撃してくる女悪鬼の頭のすぐ後ろにちらりと男の悪鬼の顔が見えた。


「くそ!

 後ろの奴が女悪鬼に張り付いているんだ!

 ダメージを女悪鬼が受け止めて後ろの奴がダメージの回復に力を貸しながら俺達を攻撃してる!

 今こいつらは一心同体だ!

 喜朗おじ!前に来て触手を少し受け持ってくれ!

 四郎!そのマグナムは何発残っている?」

「4発だ!」

「よし!四郎は少し後ろに下がれ!

 俺と喜朗おじで触手を受け持つから奴の胸に集中して全弾撃ち込め!

 大きな穴をあけてくれ!」

「判った!」

「触手は任せろ!」


明石は夥しい触手の攻撃を受け止めながら矢継ぎ早に指示を出し、四郎と喜朗おじが何の質問もせずに明石の指示に従って動いた。

喜朗おじが四郎に代わって触手の攻撃を受け持ち、四郎は58マグナムを抜いて女悪鬼の胸に照準を合わせた。

四郎が女悪鬼の胸に58マグナムを続けざまに撃ち込み、大きな穴が開いた。

同時に明石は左手で懐からあの死霊屋敷の武器庫にあった手榴弾を引き出して口でピンを抜き、柱に信管を叩きつけた。

触手の1本が明石の肩を貫き、貫通した触手が喜朗おじの胸板に突き刺さった。

喜朗おじはハルク状態になりながら触手を掴んで女悪鬼の動きを止めた。

その瞬間に明石は肩を触手に貫かれたまま女悪鬼に突進して四郎が開けた閉じかけた胸の大きな穴に手榴弾を掴んだ手を突っ込んだ。

明石は胸の穴から手を引き抜きながら触手で肩を引き裂かれるのも構わずに伏せた。


「伏せろ!

 みんな伏せろ!」


俺は咄嗟に床に伏せ、破片から守る為に隣に伏せたジンコに覆いかぶさった。


轟音。


女悪鬼の体が、後ろに張り付いている男の悪鬼ともども派手に吹き飛んだ。

悪鬼の血と肉が部屋中にそして俺達に派手に飛び散り降り注ぎ、女悪鬼がぐったりと頭を垂れた。

呆れたことに女悪鬼の後ろに張り付いている男の悪鬼がまだ生きていて、残り1本の触手が明石の止めを刺すべく伸びて来た。

喜朗おじがその触手を掴み、のたうつ触手を四郎がサーベルで切り落とし、返す刀で男の悪鬼の頭を斬り飛ばした。


雑魚の女悪鬼が悲鳴を上げて駐車場に向いた窓を突き破り、外に飛び出した。


「加奈!真鈴!そっちに1匹逃げたぞ!」

「コピー!」


加奈の返事が聞こえ、俺とジンコも素早く立ち上がり、雑魚の女悪鬼の後を追った。

ジンコが素早くナイフを投げて雑魚女悪鬼の左足に突き刺さった。

悪鬼に似合わないかぼそい悲鳴を上げ、女悪鬼は網状のフェンスを掻き毟って突き破り、駐車場に出た。


四郎達はまだ弱々しく暴れるつがいの悪鬼に止めを刺していた。

俺とジンコは雑魚の女悪鬼の後を追って土砂降りの雨が降る駐車場に飛び出した。

駐車場に倒れた雑魚の女悪鬼は悲鳴を上げて足に刺さったナイフを引き抜いたが、その目の前に加奈と真鈴がナイフを構えて立ち塞がった。


「覚悟しろこの悪鬼がぁ!」


加奈は普段と違う闘志溢れる声で一喝した。

雑魚の女悪鬼は立ち上がろうとして、また駐車場に転がり雨に打たれた。

そして、意外な言葉を発した。


「殺して!

 私を殺してよ!

 こんな生活は終わりにしてよぉ!」


真鈴、加奈、後を追って飛び出た俺とジンコの動きが止まった。


「真鈴!

 罠だよ!

 油断しないで!」


加奈がククリナイフを構えたまま叫んだ。


「罠なんかじゃない!

 殺して!

 私を殺して終わりにして!」


雑魚の女悪鬼が震える体を起こして駐車場にひざまずいて頭を垂れ、両手の指を組み合わせた。


「私の家族はみんなあいつらに殺された!

 私は無理やりあいつらと同じにされて人殺しを…もうこんな生活は嫌だよ!

 人殺しは嫌だよ!終わりにしたいよ!

 お願い!

 私を殺してよぉ!」


可奈がククリナイフを構えたまま一歩前に進んだ。

雑魚の女悪鬼は雨に打たれて頭を垂れている。

生まれたばかりの小鹿のように無防備に見えた。


「お前、人殺しに力を貸していたんだろ?

 助けると思うかい?

 無駄だよ。」


加奈が押し殺した声で呟きさらに雑魚女悪鬼に近づいた。


「アイツは嘘は言っておらんじゃの。」


はなちゃんがジンコの肩で呟いた。

つがいの悪鬼の止めを刺した四郎達も家から駐車場に出て来た。

明石の肩は腕が千切れそうに裂けているが、徐々に傷が塞がりかけていた。


「加奈!」


ジンコが声を上げて前に出ようとしたのを四郎が止めた。


「ジンコ、止せ。

 あれは加奈の獲物だ。

 加奈が決める事だ。」


俺達は土砂降りの雨に打たれて加奈と雑魚女悪鬼をじっと見つめていた。


「…殺して…殺して…もう人殺しは嫌…嫌だよ…殺して…」


土砂降りの雨にかき消されながら、雑魚女悪鬼が祈りの言葉のように呟いていた。


「すぐ楽にしてやるよ。この人殺しの悪鬼が…。」


加奈がククリナイフを雑魚女悪鬼の首に当て、そして静かに上にあげて首を撥ねる態勢に入った。

雑魚女悪鬼は微動だにせず、頭を垂れて加奈の一撃を待っていた。

加奈のククリナイフが震えていた。

ねばつく様に時間が流れた。


「うわぁああああ!

 この野郎!」


加奈のククリナイフが振り下ろされたが、雑魚女悪鬼の首では無く、雨に打たれた駐車場に叩きつけられた。


「チキショウ!

 抵抗しろよ!

 はむかって見せろよ!

 この悪鬼!」


加奈が何度もククリナイフを駐車場に叩きつけた。


「殺せないよ!

 こんなんじゃ始末できないよ!

 チキショウ~!」


俺達はどこかホッとしながら泣き叫ぶ加奈を見た。


「くそ~!

 他の悪鬼は!

 他の奴はどこにいる!

 他の悪鬼はぁ!」


手にククリナイフを持ち、左右に目を走らせながら叫ぶ加奈に喜朗が一喝した。


「加奈!

 他の悪鬼はもうおらん!

 俺達が始末した!

 もう…始末する悪鬼はおらん!」


加奈がククリナイフを落とし、膝から崩れ落ちて絶叫して泣いた。


「…うわぁあああああああ~!」

「加奈!」


ジンコが駆け寄り、泣きながら加奈を抱きしめた。


「ジンコ~!」


加奈もジンコの体に縋り付き、共に泣いていた。

雑魚の女悪鬼もひざまづいて頭を下げたまま雨に打たれていた。

深夜の土砂降りの雨が俺達の体を打ち続けていた。



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