第11話 第6部 狩猟シーズン編 4
ここまでのあらすじ
ジンコはリリーなどの説明も聞き、2泊3日の死霊屋敷でのジンコへの彩斗達の活動の説明も終わろうとしていた。
真鈴がジンコに納得してもらえたかと尋ねるが…考え込んだジンコがとんでもない事を言い出すのであった。
以下本文
「ジンコ、そろそろ今日撤収するけど、あなたの私達に対する疑問は解けたかしら?」
真鈴がジンコに尋ねた。
ジンコは暫く黙っていた、が、顔を上げて俺達を見た。
「ええ、私はあなた達の事をかなり理解しました。
あなた達が善意を持つ人達…人と悪鬼達と言う事で世界の平和を陰で守っているんだとも思えます。
決して私利私欲で動いている訳じゃない事も、罪の無い人達を守る為に動いている事も。
厳密に言った場合あなた達が法律を破っている事も、私は容認できます。
私の父は検事です。
そして、不完全な法律を利用して悪事を働きながら法を悪用して逃げおおせる者達に無力感を抱いて悶々として働いています。
そんな悪人を守るのも法なんです。
今の法はあまりにも不完全で公平性に欠けているんです。
私はそんな父を見て何とかできないかと考えていました。
今この時も法を悪用する人間達や法を無視する人間達によって罪も無い人間達が理不尽に酷い目に遭っています。
あなた達のように法の一歩前で悪を止める存在は必要なのかも知れません。
そもそも現代の法や警察力では質の悪い悪鬼の悪行を止められるわけ無いですから。」
「おお!ジンコさん判ってくれたか!」
四郎が声を上げ、どうやらジンコは俺達の事を理解してくれたと皆が胸を撫で下ろした。
「ええ、四郎さん、後確認する事は悪鬼討伐の現場を見る事だけです。」
「え…」
「え…」
「え…」
「え…」
「私はあなた達に同行して実際の悪鬼討伐の様子を見届けなければなりません。
ここまであなた達の世界に踏み込んだ私にはその責任があります。
真鈴が初めに言った事と同じです。
私も知ってしまった以上責任が有ります。
見殺しは出来ません。
必要なら私自身を守る為の訓練も…悪鬼と戦う訓練もします。
万が一私の命を失っても構いません。
私は見なければ、あなた達の悪鬼討伐を実際に見なければ…いけないんです!」
俺達はジンコの申し出を聞いて固まってしまった。
ジンコは俺達の顔を見回して深く息を吸い込んだ。
「私は見なければいけないんです。
いや、私も参加したいんです!
あなた達ワイバーンに参加させてください!」
真鈴の口が丸く開き、目を見開いてジンコを見た。
「ちょっとジンコ!
あなた何を言ってるのか判っているの!」
真鈴が悲鳴に近い声を出した。
「ジンコ!
あなたは悪鬼が本気で殺そうとして向かってくるのなんか見た事無いのよ!
あなたが想像しているよりもはるかに怖くて血みどろで!
いつ死ぬか!いいえ!いつ殺されてもおかしくない事なのよ!」
「真鈴、あなたもそんな環境で戦う事を決めて今も頑張っているわ。」
「え、それは…私はたまたま知ってしまって…」
「真鈴、私も知ってしまった。
あなたは私の一番の親友よ。
あなただけ危険な事に放り込む訳に行かないわ。」
「ジンコ…でも!
でもね!
私は…」
「それにね、正直に言うと好奇心もあるわ。
私は世界を知りたい、岩井テレサと言う人にも会ってお話がしたい。
世界の裏の、いや真の姿を知りたい。
とても危険な事はこの数日で嫌なほど判ったわ。
そして私もこの世界を守りたい!
今までの人生でこんな事を深く思った事はない!
とても危険で!決して表に出る事無く世界を裏から支える!
その、その、その思いはもう自分を止められないのよ!
判って真鈴!」
「ジンコ…」
「…ジンコさん、あのね…真鈴がとても心配してるし、実際に凄く危険で悪鬼だけじゃなくて人間の仕業でも見なければ良かったと思うような…酷い事を…」
「彩斗さん、私も知ってるわ。
あの子供殺しの事。
父の資料を盗み見してしまった。
父は初めて現場の写真を見て吐いてしまった。
現場を捜査した鑑識課の人の何人かがおかしくなって1人は自殺してしまった事も…
その道のプロの人でも耐えられないような…あなた達がどんな酷い事を見て来たか、私にも判るわ。
そしてあなた達が解決しなければあの醜悪なモニュメントに更に罪無い子供達の体で出来たパーツが加わっていたかも知れない事も。」
「でも、それならば…みんな何か言ってくれよ!」
四郎達はずっと黙ってジンコを見ていた。
「彩斗、俺達悪鬼はな、人の心情が多少判ると言っただろう。
ジンコさん、ジンコの覚悟は極めて固いぞ。」
「そんな…加奈!加奈も何か言ってよ!
あなたは悪鬼の怖さを知り尽くしているでしょ!」
真鈴が訊くと加奈は難しい顔をした。
「加奈はぁ~、ジンコ様が…ジンコが一緒に戦ってくれるなら一所懸命に守りますぅ~。
ジンコが死なないように守るだけですぅ~。
私達はぁ、守って守られて奴らと戦う。
それしか言えないな~。」
「ジンコ、もしもワイバーンで断られたらうちのスコルピオに来なさい。
選抜試験に受かったら戦闘メンバーに入れてあげる。
もし落ちても支援要員として働けるわよ。
ただ、どんなに私達が気を付けていても、響みたいに殺される可能性は有るけどね。
四郎が言ったように私達別物…悪鬼はね。
ジンコの心が判っているの。
あなたの覚悟が揺らがなそうなのもね。
あなたの真剣さは充分判るわ。
だから四郎達は、景行も喜朗おじも黙ってしまっているの。」
リリーさえもジンコに助け舟を出していた。
真鈴は圭子さんに顔を向けた。
「じゃあ!圭子さん!
圭子さんなら判るでしょ!
もしも司や忍が将来悪鬼討伐をするとか言い出したら!」
「真鈴…その事は景行と何度も話し合ったの、何度もね。
そして私達はもしも司や忍が将来悪鬼の討伐に加わると言った時、その覚悟が本物だと判った時…私は必ず生き残りなさいと言って送り出すと決めたのよ。
ジンコさんが、景行達が黙ってしまう程の覚悟を持っていれば…私には何も言えないわ。」
「ジンコほど冷静沈着な人が熟慮の末に決めたことに俺達は口を出せんよ。」
景行が呟き、喜朗おじが頷いた。
「俺達はジンコ様…いやジンコが共に戦うなら何とか生き残る確率を上げる方法を教える事しか出来んね。
それがどんなに危険な事なのか、彼女は充分に理解しているよ。」
四郎が煙草を取り出してルージュスコルピオのジッポーで火を点けた。
「押しかけ志願をされたのは初めてだがな、ジンコの覚悟は彩斗や真鈴の時よりもはるかに硬いぞ。」
真鈴ははなちゃんに声を掛けた。
「はなちゃんは?
はなちゃんはどう思うの?」
「真鈴、聞くまでも無いの。
わらわは四郎達より人の心が判るじゃの。」
真鈴は沈黙した。
俺は戸惑っていた。
凄く戸惑っていた。
俺や真鈴は、誤解を恐れずに言えば、一種の勢いで悪鬼討伐を始めたのかも知れない。
始めてしまってからそのとんでもない事に今も驚いている。
ある意味で恐怖と驚きの連続、ジェットコースターのような人生だ。
だが、その恐怖の先に大きな意義があると自分に言い聞かせて大きな意義にしがみついているような人生だ。
悪鬼の四郎達はともかく、人間の加奈の様な重い経験もない。
いま、目の前の清楚で沈着冷静極まりないジンコがワイバーンに参加したいと言って。
目の前に座っている。
「ワイバーンのリーダーは彩斗だぞ。
お前が決めるしか無いな。
われ達はお前の決定に従うよ。」
四郎が言った。
皆が黙って俺を見つめていた。
成り行きとはいえ、今、俺はワイバーンのリーダーだ。
決めなければならない。
ある意味でジンコのこれからの人生を、大袈裟に言うと生死の形まで決めることになる。
俺も俯いて考え込んだ…が…決めた。
「俺は…俺はジンコの…ワイバーン加入を…認める。
賛成の者は手を上げて、反対する者は異議を唱えて欲しい。」
四郎が、景行が、喜朗おじが、そしてリリーも手を上げた。
加奈も笑顔で手を上げた。
そして圭子さんもはなちゃんも。
途中から俺達の話を聞いていた司と忍も手を上げている。
真鈴は俯いて手を握りしめて黙ったままだった。
やがて握りしめた手が開き、俯いたままそっと手を上げた。
「全員賛成。
ジンコをワイバーンのメンバーと認めます。」
「真鈴!」
ジンコが真鈴の手を握りしめた。
「ジンコ、私はあなたをとんでもない世界に引き込んでしまったかも知れない…」
「ううん!真鈴!
あなたが私を新しい世界に招いてくれたのよ!
ありがとう!」
「ジンコ!約束して!
絶対に私より先に死なないと!
手や足が千切れてもとんでもない姿になっても絶対に生き残ると!」
「真鈴!約束するわ!
私達は守り守られて悪鬼と戦う!」
「ジンコ…ワイバーンへようこそ…あなたはバディよ。」
真鈴がジンコの手を固く握り返した。
俺達はジンコと真鈴を見て笑顔になった。
「ようこそワイバーンへ!バディジンコですぅ~!」
「ワイバーンへようこそバディジンコ!」
「バディジンコ!よろしくな!『ひだまり』でもあのスケベども…あ!いやいや!よろしく頼むよ!」
「ああ~スコルピオでスカウトしようと思ったんだけどね!
バディジンコ!ワイバーンへようこそ!」
「バディジンコ!血反吐を吐くまでしごくから覚悟しろ!
ワイバーンへようこそ!」
「ジンコは仲間じゃの!
バディジンコじゃの!」
「バディジンコ!
頑張ってね!
死んじゃ駄目よ!」
「わ~い!ジンコはバディ!
…バディって何?」
「忍、バディって相棒って事よ。
テレビで聞いたことあるでしょ?
大事な仲間っていう事よ。
バディジンコ!」
皆が口々にジンコのワイバーン加入を祝福した。
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