第9話 第6部 狩猟シーズン編 2

ここまでのあらすじ


真鈴の足がとんでもなく臭いと言う疑惑は晴れ、彩斗は土下座して真鈴の足の臭さは普通の臭さだと謝罪をし、四郎とはなちゃんからも真鈴の足は普通の臭さだからもうその事は言わない様にと、くぎを刺された。


そして、秘密を守るためとはいえ真鈴の親友を消してしまう事は絶対に受け入れられないと彩斗達は決め、真鈴の親友ジンコを招いてすべて洗いざらい話し、理解してもらう事になった。


有名検事を父に持つジンコは美しい美貌と共に父親譲りの鋭い洞察力を持っていて、中々疑いを捨てきれないが、冷静に真剣に彩斗達の話を聞くのだった。


ジンコは彩斗や真鈴の動きの速さや柔軟性が常人離れしている事に驚いたり、ジンコの寝顔と寝言があまりにも恐ろしく一夜を共にした彼氏が全部恐怖のあまり逃げ去っている事などを知った。


彩斗達は明石達の協力を貰ってジンコに自分達の活動を説明するためにジンコを死霊屋敷に招いた。


そこで、普段はとても可愛らしいアイドルのようでいながら、廃ボーリング場ではとてつもない無い強さを発揮した加奈の過去を知る事になる…。



以下本文



「うん、恐らく加奈にとってはリリーから同じ境遇にいる者達が他にもいて、悪鬼と戦っている事を知ってな。

 少し孤独を紛らわせることが出来るかも知れない。」


明石が加奈の後ろ姿を見ながら呟き、喜朗おじもうんうんと頷いた。


「景行、加奈に壮絶な過去がある事はわれでも薄々は判るな。」

「うん、そうだな四郎、俺達悪鬼はある程度人間の心情を読めるからな。」

「わらわもじゃの。

 加奈のあの底抜けの明るさの裏には泣きそうな辛い出来事が潜んでいるじゃの。」

「景行…私達、もう少し加奈の事を知りたいの。

 いいえ。決して興味本位じゃないのよ。

 何か加奈に寄り添えるヒントになればと…」


真鈴の言葉に明石と喜朗おじが顔を見合わせてため息をついた。


「はぁ、話しても良いが、だが、これは決して加奈に話さないでくれ。

 俺達から聞いた事も内緒だぞ。

 君ら約束できるか?

 約束を破ると…」

「…判った、絶対に約束は守るわ。

 私の命に掛けて。」

「俺もだよ、絶対に秘密だ。」

「よし。」


明石は圭子さんに目配せした。

圭子さんは司と忍を連れてダイニングに向かった。

その時に圭子さんはジンコをちらりと見た。


「圭ちゃん、ジンコは良いだろう。

 俺達の事を包み隠さずに言うと決めたからな。

 ジンコも約束は守ってくれるよな、絶対に。」

「はい、絶対に他言無用で。」


ジンコは顔を引き締めて頷いた。


「よし、何から話すか…真鈴は加奈の身体を見ただろう?」

「ええ、あの背中にあるとても大きな傷と、それと尋常じゃない、病院でずっと入院しそうな傷が沢山ありました。」

「うん、あの背中の大きな傷は真鈴が想像している通り。悪鬼によって付けられた傷なんだ。

 だが、その他の傷の大多数はな…加奈が志願した訓練でできた傷なんだ。」

「え…」

「え…」

「うむ…」

「加奈はな、6歳になる直前にな、悪鬼の襲撃を受けたんだ。

 その時に加奈の家族は皆殺しになったんだ。

加奈の父親、母親、祖母、そして加奈の姉、全部殺されてしまったんだ。

 加奈の背中の大きな傷だが、本当はあの時に加奈も死んでいたはずだった。

 加奈の姉がな、悪鬼が振るう刃物で切り付けて来た時に加奈に覆いかぶさった。

 姉の身体は無残に真っ二つにされたが、加奈は庇った姉の体のおかげで何とか命を取り留めた。

 喜朗おじが必死の治療をして何日も昏睡状態だったがな。

 何とか命を取り留め懸命のリハビリをして体は運動機能を損なわずに済んだ。

 俺達はたまたま加奈を襲った悪鬼の集団に気が付いて討伐の機会をうかがっていたのだが、加奈の父親も元勇猛なグルカ兵でな、あのククリナイフは見ただろう?」

「うん。」

「かなり重いし、破壊力がありそうだよね。」

「そうなんだ、実物の加奈の父のククリナイフは喜朗おじが大切に保管している。

 今加奈が持っているククリナイフは喜朗おじが加奈にどうしてもとせがまれて作った、やや小振りで加奈も扱えるものだ。


 実は加奈の父親も何匹かの悪鬼を倒していてな、俺達とも多少の接触があったんだが、あの晩襲ってきた悪鬼の集団は加奈の父親でもとても対抗できないほどだった。

 加奈の父も人間ながら何匹かの悪鬼を仕留めたんだが、集団の中に強い奴がいてな

、やられてしまったんだ。」

「…」

「…」

「…」

「俺達が異変に気が付いて駆けつけた時には加奈の家族は全滅していた。

 瀕死、と言うより仮死状態に近い加奈を残して、全部殺された。

 俺達はその悪鬼どもと戦ったんだが、中々手強くてな。

 その内の1匹は図体がでかくて、真鈴は見ただろう喜朗おじの変化した姿を。」

「ええ、ハルクみたいな大男…物凄い力だった。

 それにグリフォンの姿に。」

「あの晩、大きな奴は真鈴が言うようなハルク状態の喜朗おじと戦っても。危うく喜朗おじが力負けしそうな奴だった。

 そしてもう1匹、見た目はきゃしゃな感じなんだが、物凄い剣さばきの奴がいてな。

 当時の俺でも気を抜いたら真っ二つにされそうな奴だった。

 俺達は…今でも悔いが残るんだが…その2匹の悪鬼を取り逃がしてしまった。」

「喜朗おじが力負け…」

「景行が真っ二つにされそうな…」

「うむ、強い奴らだな。」

「…」

「加奈は意識がもうろうながら、その2匹の事はしっかり覚えていたようだった。

 人間の時の顔も、悪鬼となった姿も鮮明に覚えていると言っていたな。

 それ以来、加奈は家族皆殺しにした悪鬼に復讐を誓ったんだ。

 その後一応喜朗おじの養子扱いと言う事で加奈は育ったのだが…加奈は背中の傷が癒えると同時に物凄い鍛錬を始めたんだ。

 俺達が見てもとても無茶だと言う程の訓練をな、ある時など…喜朗おじ。」

「ああ、加奈が9歳の誕生日を過ぎた頃だが、あいつはよく俺の目を盗んで訓練をしていて何度か縫わなきゃいけない傷をこしらえて俺が傷を縫ったものさ。

 恐らくそれを見て加奈は傷の縫い方を覚えたんだろうな。


 ある日、仕事から帰って来た俺は救急箱の蓋が開いていた事に気が付いた。

 そして、庭でナイフの練習している加奈の太ももに新しい包帯が巻いてあることもな。

 俺は加奈を呼んで太ももの包帯の事を問いただしたんだ。

 何と、加奈は学校から帰って来てナイフの練習をしている時に自分の太ももを深く切り裂いてしまった。

 そして、救急箱を取り出し、俺がした縫合を見よう見まねで自分で傷を縫合したんだ…麻酔無しでな。」

「…」

「…」

「…」

「俺はひとしきり加奈を叱った後で縫合跡を確認したんだ。

 まぁ、へたくそながらちゃんと9針縫合されて消毒もしていたからほっとしたよ。

 奥の方の動脈も切れていなかったから安心した。

 俺はこんな危ない事をしてと、思わず加奈をひっぱたきそうになった。

 今まで加奈を叩いた事など一度も無かったけどな。

 加奈はじっと歯を食いしばって俺の手を待っていた。

 俺の手は止まったよ。

 

 君達、考えられるか?

 9歳の子供が映画のランボーじゃあるまいし麻酔無しで自分の傷を縫って、そしてナイフの練習を続けたんだぞ。

 俺と景行があの2匹を始末出来なかったばかりに…。

 俺は思わず加奈を抱きしめて泣いてしまった、声を上げてな。

 加奈が不憫不憫で…泣いてしまった。


 そんな俺の涙を加奈は袖で拭ってくれたんだよ。

 …加奈は…優しい子供なんだ…とても…そんな優しい子が今も家族を殺した悪鬼に復讐するために人間離れした訓練を続けているんだ。

 朝に2時間、仕事を終えたら3時間かそれ以上、休みの日には山に行って登山やナイフの練習をしているんだ。」

「喜朗おじの言う通り、今も加奈は家族を殺した悪鬼を追っている。

 俺達が取り逃がしたあの2匹の悪鬼をな。

 1人であの悪鬼を探すと言う加奈を何度か止めた事も有る。

 まだその時期じゃない返り討ちに遭うだけだとな。

 あの廃ボーリング場で、もしも親玉の悪鬼が加奈の家族を殺した片割れだったら加奈は前後の見境無しに向かって行っただろうな。

 勝てるかどうかなんて考えもしなかっただろう。

 俺は、俺達が戦っていたでかい親玉が、加奈が追っている奴と違って、戦いながらも少しほっとしたよ。」


明石はそこまで話すと黙った。

そして加奈の育ての親の喜朗おじが話し出した。


「そして加奈はあの体にきつい人間離れした練習の毎日で当然と言えるかもしれないが友達が一人も出来なかったんだ。

 あの傷をあまり人に見られたくなくて、水泳や体育の授業も見学が殆どでな、修学旅行もついに一度も行かなかった。

 幸い子供でも加奈の強さが判るようでいじめには合わなかったが、仲間外れにはなっていただろうな。

 加奈は家に友達を連れて来たり、友達の家に遊びに行くなんて事が一回も無かったんだ。

 加奈に友達は一人もいなかった。

 もっとも、加奈と話があう子供なんて一人もいないだろうしな。

 そして加奈は中学卒業と同時に俺と『ひだまり』を始めたんだよ。

 高校くらいは行けと言ったんだがな

 だから、真鈴と知り合った時に加奈は凄く嬉しそうだったよ。

 店を閉める時に加奈が後片付けしながらずっと真鈴やはなちゃんの事を話していたな。

 ピカピカの笑顔で話していたよ。

 加奈のちょっとテンションが高すぎる日頃の態度は加奈の孤独の裏返しだと思う。

 悪鬼の存在を知り、俺達の事も知ったうえで戦う事を選んだ真鈴は、加奈が初めて友達と言える存在になったと思う。

 どうか仲良くしてやってくれ。

 もう少し加奈の休みを増やしてやりたいんだがな、中々、アルバイトを普通に雇うと言うのも難しくてな…判るだろ?」


俺達は加奈の壮絶な過去を聞いて絶句してしまった。

人に歴史あり…。

俺は涙が出て来た。

真鈴もジンコも互いの手を握りしめてボロボロ涙を流していた。


「この事は加奈に内緒に頼むよ。

 いつか加奈が話せるようになるまではな。

 聞かなかったことにしてくれ。」


明石が言い、俺達は深く頷いた。

加奈とリリーがはしゃぎながら暖炉の間に戻って来た。


「ふわぁ~!いいお湯でした~!

 あれ?彩斗達、何泣いてるの?

 こんなに楽しいのに涙は駄目駄目ですよ~!」

「うふふ、加奈と色々話したわ。

 とても参考になった、四郎達ありがとう。」

「今度スコルピオのメンバーと合わせてくれるってリリーが約束してくれたんですよ~!

 加奈は幸せですぅ~!」


ソファに座ったリリーが何かを思い出して外のスカイラインに行き。色紙を何枚か持って来た。


「そうそう、お話が楽しくて忘れていたわ。

 加奈、うちの人間メンバーにサインを頼まれているのよ。

 お願いできるかしら?」

「ふわぁ!

 サインですか!

 私サインなんか一度もした事無いし!」

「お願いよ加奈。

 何か加奈のいう事聞くから。

 あのスカイラインに乗ってみたい?」

「ええ~!

 それも素敵ですけど~あ!私もう一つ、スカイラインと別にお願いしたい事が有るんですよ~!」

「なあに?」

「あの~、廃ボーリング場ででかい奴を撃ち殺したライフルの撃ち方を教えて欲しいのですが~!」

「え?

 ああ、エレファントガンの事?

 でもあれは並の人間じゃとてもとても…」

「お願いします~!

 加奈は絶対あれの撃ち方を習得したいのです~!」


リリーが困った表情で俺達を見た。

加奈は家族を殺したでかい悪鬼を倒すために頼んでいるであろう事が判り俺は胸が締め付けられるような思いがした。

真鈴も同じ思いだろう。


明石と喜朗おじがリリーに頷いた。


「判ったわ、教えてあげる。

 約束ね、ただあれは普通のエレファントガンより破壊力がある特製品だから反動も普通では…」


加奈がリリーの言葉を最後まで聞かずに嬉しそうに叫びながらダイニングに走って行った。


「やった~!

 圭ちゃん!

 リリーが凄いライフルの撃ち方を教えてくれるってさ~!」


俺達は加奈の後ろ姿を見ながら顔を見合わせて苦笑いを浮かべた。

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