第6話 第5部 接触編 2
ここまでのあらすじ
彩斗達は岩井テレサと接触し、岩井テレサは実は大きな組織を持っていて、人間と悪鬼との平和共存を目指して、人間を支配下に置こうと考える悪鬼の組織と戦っている事を知る。
彩斗達は岩井テレサの考え方に共鳴し、フィフティフィフティの同盟を組む事となり、『第5騎兵隊ワイバーン』との符丁を付けられた。
悪鬼討伐の時などに支援をしてくれることになった彩斗達は新たに2人組の残虐な悪鬼を見つけ出すが、どうやら多数の仲間がいて会合をするとの事で、会合場所まで追跡をする。
手に負えないほど多数の悪鬼がいた場合、巻き添えを心配しないへき地であれば体が強化されたはなちゃんが一気に擂り潰す事が出来る事が判り、明石の仲間の喜朗おじ(悪鬼)と加奈(人間)をメンバーに加えた彩斗達はとりあえず偵察と場合によってははなちゃんに全滅させてもらう事にしたが…
以下本文
四郎と明石の先には平地が広がっていて、20台以上の車が停まっていた。
先ほどの小型バスもそこにあった。
道路に面した目隠し塀の所に2体の悪鬼が所在無げに立って缶コーヒーを飲んでタバコを吸っていた。
見張りと言うよりだらけたハングレが2人突っ立って雑談をしているようにしか見えなかった。
「何と言うか…お粗末な奴らだな。」
「そうだな四郎、彩斗と真鈴の教育にはもってこいじゃないか?」
四郎と明石はにやりとして俺達を見た。
「どうだ、お前達で戦闘デビューを飾ろうじゃないか。
加奈を同行させるからやってみるか?」
明石が言った。
俺と真鈴は一瞬顔を見合わせた。
そしてお互いに頷いた。
「よし、加奈が作戦を立てて君達3人で始末して見ろ。
もしもの時ははなちゃんが真鈴の背中にいるし、取り逃がしそうになったらわれが弓で仕留めるぞ。」
俺と真鈴は加奈が立てた作戦に従って駐車場に忍び込んで見張りの悪鬼に近づいて行った。
俺達は車の陰に潜んで加奈に配置についた事をインカムで知らせた。
作戦開始。
バラクラバを外した真鈴が車の陰から立ち上がり、ルージュの槍を背中に隠し、ニコニコしながら見張りに近づいて行った。
真鈴が危ない時に備えてはなちゃんが真鈴の肩から顔を出していた。
「あんた達~もうお仲間は来ないの~?」
悪鬼達は呆気にとられて顔を見合わせた。
「なんだこいつ人間だぜ。
もうとっくに全員集合だよ!」
「こいつ、なんだろうな?
俺達に気を利かせておすそ分けかな?」
「気にするな、二人で頂いちまおうぜ。
俺が仕留めるぜ、良いだろ?」
そう言った悪鬼の一人が真鈴に凶悪な笑いを浮かべて近づいて行った。
「お姉ちゃん旨そうだな~!
見張りの俺達におすそ分けなんだろ~?」
悪鬼が笑顔の真鈴に近づきながら片手を伸ばした。
その時、車の陰から加奈が飛び出し、大きくジャンプしながら悪鬼の伸びた腕にククリナイフを振り下ろした。
悪鬼の腕が肘から少し先で見事に切り落とされて落ちて行く。
加奈が落ちて行く悪鬼の腕を見事なボレーキックで真鈴の方角に蹴った。
「ほら、汚い腕を取りに行きな!」
加奈が叫ぶと同時に悲鳴も上げずに呆気にとられた悪鬼は呻き声をあげて真鈴の足もとに転がった自分の腕めがけて走り出した。
その足めがけて加奈はククリナイフの第2撃を叩き込み、悪鬼のふくらはぎを切り裂いた。
悪鬼は呻き声とも悲鳴ともつかない声を漏らしながら残った手を伸ばし片足を引きずって真鈴に向かって行った。
いきなりの事で反応できないもう一人の悪鬼に俺はルージュの槍を掴んで走り寄り、後ろから悪鬼の背中めがけて槍を突き刺した。
槍は刃が根元まで刺さり俺がボタンを押すと悪鬼の体内でスパイクが飛び出したらしく刃のすぐ横からスパイクの先が体の内側を突き破って顔を出し大出血を起こした。
そのまま体重を預けて悪鬼をうつ伏せに倒して俺はその上にのしかかった。
悪鬼が凶悪な表情を浮かべて昆虫標本のように地面にくぎ付けになって手足をじたばたさせた。
俺が止めを刺そうと小雀ナイフを抜いた時に悪鬼の左手が俺の太ももを掴んだ。
尖った爪が食い込み、俺は押し殺した苦痛の呻きを漏らした。
その瞬間、加奈がうつ伏せになった悪鬼の頭にククリナイフを振り下ろした。
ククリナイフが根元まで悪鬼の頭に食い込んだが、悪鬼はまだ牙を剥いて頭を動かし銀色のゾッとする目で俺を睨んだ。
加奈がククリナイフが抜けないように靴で悪鬼の頭を踏みつけた。
やがて悪鬼の目から色が抜けて見る見る瞳が青くなって動かなくなった。
加奈は悪鬼の頭を踏みながら腕から投げナイフを取り出して投げる構えをしたまま真鈴を見ていた。
真鈴は悪鬼の胸板にルージュの槍を深く突き刺しそのまま馬乗りになっていた。
悪鬼が残った腕で真鈴の腕を掴んでいたが、やがて力尽きて手を放して動かなくなった。
「彩斗、悪鬼ハンターの世界へようこそ。」
返り血を顔に浴びた加奈が笑顔で俺に手を伸ばした。
俺はその手を掴んで身を起こし、悪鬼の身体から苦労して槍を引き抜いた。
加奈は真鈴の所に行き、やはり少し放心状態の真鈴に手を貸して槍を引き抜き、真鈴の身体を抱きしめて祝福していた。
俺達が殺した悪鬼はやはり『若い奴』らしく灰にならずに、しかし耐え難い腐敗臭を放っていた。
「2人ともよくやったじゃの!」
はなちゃんがはしゃいだ声を上げた。
俺達は駐車場の外れの藪に待機していた四郎達の方へ向かった。
「2人ともよくやったぞ。
加奈も介添えをありがとう。」
四郎が俺と真鈴と加奈に声を掛け、喜朗おじが俺の脚と真鈴の腕の傷を見た。
「大丈夫、かすり傷だ。」
そう言いながら喜朗おじは手際よく俺達の傷を消毒をしてガーゼを張り付け、そして返り血を拭いて消毒スプレーを吹いてくれた。
「これで大丈夫、腕も足も動くか?」
明石の言葉に俺と真鈴は頷いた。
「どうだ、初の悪鬼退治は。」
四郎が尋ねたが、俺も真鈴もなかなか実感が湧かなかった。
「なんだろう…全然実感が湧かないわね。」
「そうそう、あっけないような凄い怖かったような…良く判らないよ。」
「まぁ、最初はそういう物だ。
さて、本丸を偵察に行こう。
手が出せ無さそうならここに戻って来て車の情報収集をして引き上げようか。
うまく行けば、はなちゃんがあの建物ごと悪鬼どもをぶっ潰して大仕事完了だな。」
明石の言葉に俺達は再び、やや距離を置いた一列縦隊で小道を避けて木々の間を進みながら奥にある大きな建物に忍び寄った。
「やれやれ、建物の入り口には見張りがいないぞ。」
四郎が小声で、しかし呆れた声を上げた。
俺達は廃墟となった建物を見た。
コンクリート作りのボーリング場のような建物だった。
「しかし、奴らを一網打尽に出来そうじゃないか。
はなちゃん、頑丈そうだな、どうだ、やれそうか?」
「景行、これなら一気に潰せそうじゃの。
もう少し後ろに下がればわらわ達も安全に…まて中止じゃの。
この建物は潰せないの。」
はなちゃんの意外な言葉に俺達は顔を見合わせた。
「どうしたはなちゃん。」
「この中の、恐らく地下と思うのじゃが人間が何人もいるじゃの。」
「はなちゃん、それは悪鬼に味方してる奴じゃないの?」
「いいや違うぞ加奈。皆怯え切っているぞ。
さっき一瞬全員の気配がしたが今は1人じゃの。
恐らく厚い扉で塞がれた場所に皆が閉じ困られておるの。
恐らく悪鬼にさらわれて来たのじゃろうの。
今1人引きずり出された時に扉が開いたからわらわには見えたの。
最低でも10人以上の人間が閉じ込められておるの。
そしてその厚い扉の中に人間達を監視しているのか更に悪鬼が5匹いたの。」
「全部で60匹以上もいるのか、どうする?」
「誰かが携帯が繋がる所まで行って応援を呼ぶしか無いよ。」
俺が言うと四郎達が頷いた。
「そうだな、ここに見張りを残して誰かが、うっ。」
そこまで言った四郎が顔色を変えて口ごもった。
明石と喜朗おじも顔を引き吊らせて建物を見た。
「おぬしらにも判ったろう。
今、引きずり出された人間が殺されたの。
何匹もの悪鬼が一斉に襲い掛かったの。」
「くそ、見張りの奴らが言ってたおすそ分けってこの事だよ。」
加奈が唇を噛んで呻いた。
「あのクーラーボックスは…お土産…人間の…」
真鈴も呻くように言って唇を噛んだ。
「どうする四郎、応援を呼びに行く時間の余裕は無いよ。」
「知れた事、一気に強襲を掛けるぞ。
われは目の前で胸糞悪い殺人ショーを見ている気は無いぞ。」
四郎がそう言うと58マグナムリボルバーを両手に抜いて撃鉄を起こした。
俺は全員の顔を見回した。
誰もが全員四郎の言葉に賛同している。
勿論俺もだ。
目の前で何の罪も無い人が悪鬼達に寄ってたかって殺されるなんて黙って許せるはずがない。
怖い。
正直言って怖い。
返り討ちに遭って殺されるかも知れない。
それでも黙っていられない。
見逃せない。
明石がニヤリとして手槍を握りしめた。
「やれやれ、ハードな展開になったな。
だが、嫌いじゃないぞ。」
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