第5話 第5部 接触編 1

ここまでのあらすじ。


彩斗達はその存在を知られずにもう一人の子供殺しの外道を警察に捕まるようにする事に成功し、大量の子供殺し事件を世間に知らせた。

明石一家を仲間にした彩斗達は死霊屋敷の隣の敷地の所有者岩井テレサに面会に行く事になる。

ところで岩井テレサに会いに行く日の午前中、彩斗は賃貸物件経営の書類仕事、真鈴は大量の大学のレポートに追われ、はなちゃんが殺しかけたリビングのテーブルで作業に追われていた…。



以下本文


午前10時48分。


「うひ~!終わった~!」


真鈴が叫んで大きな伸びをした。


「やっとレポート終わったよ~!

 彩斗、今日の岩井テレサの面会が終わったら少し書類仕事手伝ってあげるよ!」

「ああ、羨ましいな…真鈴、ありがとう…」


うつろな返事をした俺を尻目に真鈴は分厚い本とパソコンと資料をいそいそと片付けてゲストルームに持って行った。


「四郎、今日のお昼は少し早めに取ろうよ。

 カップ麺で良い?」

「ああ、構わんぞ。

 はなちゃん少しアニメを止めてくれるか?

 われはどのカップ麺を食べるか決めねばならん。」

「ちっ、しょうがないの。

 四郎、辛い物は避けろよ。」

「ああ、判った。」


四郎とはなちゃんの平和なやり取りを聞きながら俺は眠くてぼやける視界を何とか胡麻化しながら書類仕事を続けた。


「彩斗、大丈夫?

 今日は私が運転しようか?」


真鈴がコーラをがぶがぶ飲みながら抹茶のポッキーを齧りながら言った。


「ああ、頼むよ。」


生返事で俺が書類仕事をしていると四郎がお湯を入れたカップ麺をひびをガムテープで応急補強したテーブルに、俺と真鈴と四郎の分、5個のカップ麺を並べて置いた。

やはり四郎は3つ食べる気でいるらしい。


「彩斗、適当に選んだぞ。

 物によっては3分では無くて5分掛かる物も有るから注意しろよ。」

「ああ、判った…」


俺が生返事をした。

そしてなかなか片付かない書類仕事に嫌気がさしてテーブルに両肘をついてため息をついた。


テーブルがめきめきと静かに鳴り始めた。


「なんだ?」


物音に気が付いた四郎が振り返った。

俺の目の前でテーブルに入っているひびが音を立てて広がって行き…テーブルの天板が真っ二つに割れはじめた。


中央から2つに割れた天板がお湯を入れたカップ麺と書類と資料と俺のメモ書きと…パソコンを巻き込みながら…


「きゃあああ!

 大変!」

「うむ!カップ麺がぁ!」


四郎が咄嗟に手を伸ばして何と、片手にカップ麺を2つづつ手に取って見事なバランスを保ちつつお湯を一滴もこぼさずにダイニングとリビングを仕切るカウンターに置いた。


「きゃああ!

 四郎凄い!

 中国雑技団かジャッキーみたいよ!」

「四郎!

 見事じゃ!

 よくぞお湯入りカップ麺を!」


四郎のとっさの妙技に真鈴とはなちゃんが賛美を浴びせるのを聴きながら、俺の目の前ではスローモーションで四郎が救いきれなかった残った一つのカップ麺が盛大に熱湯をパソコンにぶちまけながら書類と資料を巻き込んで奈落の底に落ちていった。

俺は叫んだ。


「ペペ、ペキンパー!、ペキンパーァアアアア!」


目の前の見事なスローモーション映像に俺は叫んでしまった。

パソコンはバチバチと火花を立てて、その画面が消える前に大笑いするサタンの顔が横切って、永遠に沈黙した。

俺は絶叫した。


「…あああ…ああああああ!

 女王様!こんなプレイは嫌です~!

 助けてください!女王様~!

 こんなこんなプレイはぁ!

 あああああ!ああああああ~!」

「真鈴!はなちゃん!彩斗が大変だぞ!ペキンパーとか女王様とかプレイとか訳の判らん事を叫んでいる!ああ!おしっこも漏らしているぞ!」

「なんと、この狂態はどうした事じゃ!

 彩斗はわらわも感知できぬ死霊に取り付かれたかもしれぬの!」

「彩斗!この中で私だけが彩斗の気持ちが判るわよ!

 気をしっかり持って!

 幾ら私でもおしっこは漏らさないけどね!

 おしっこなんて絶対に漏らさないけど!

 ところでペキンパーって誰!女王様って誰!

 凄い気になるわぁ!

 一体誰なのよぉ!」


俺は悲鳴を上げて奈落の底に、光一つ無い暗い所に落ちていった。

がすぐに戻って来た。

俺はパソコンを拾って服の袖で熱いお湯を拭きとりながら何とか再起動しないか確かめた。


「彩斗、パソコンは無事か?

 おお!時間だ!

 麺が伸びてしまうからわれ達は先に食べるぞ!

 今回はわれは2つで我慢するから彩斗は残ったカップ麺を一つだけ食べても良いぞ!

 ふー!ふー!、ずるずるずる!」

「彩斗、気を落とさないでね!

 ふー!ふー!ずるずるずる!

 四郎、ちょっと胡椒とってくれる?

 ずるずるずる!」

「出来上がりまで5分掛かる物が彩斗のパソコンをぶち殺してしまったのは不幸中の幸いと言えるかも知れん!

 ずるずるずる!」

「彩斗がショックでおしっこ漏らしたのは私達だけの秘密にするわね!

 だって加奈ちゃんや圭子さんや景行や喜朗おじや『みーちゃん』のママやゆきちゃんや、ましてや司や忍におもらし小僧とかちびりーのとかおもらしちゃんとか彩斗が言われたら…ブフッ!ゴホゴホ!

 うひー!おかしー!ずるずるずる!」


四郎と真鈴はカップ麺を食べながら心配そう?に俺を見た。

どうやらパソコンは地獄に旅立って行き二度とこの世に戻らないようだった。

真鈴にぶち殺されて先に地獄に旅立ったルンバや、今俺が止めを刺して天板が真っ二つに折れてしまったテーブルと再会を喜んでいるかも知れない。

みんな、地獄で仲良くしてね。




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