第4話 第4部 人間編 3

ここまでのあらすじ。


彩斗達は明石と協力して子供殺しの外道を捕まえて警察に突き出す事に決め、犯行現場のログハウスに忍び込み、子供達の遺体を探し出そうとする…。


グロ描写につき注意!



以下本文


俺達は部屋の中を調べたが、さほど広くない小屋の中はこれと言った物は見つからなかった。


「どこにいるんだろう…はなちゃん、その外道の死体には外道の死霊とかついていないの?

 はなちゃんなら死霊から子供達の居場所を聞き出せるでしょ?」

「駄目だな真鈴、こいつは明石に殺された瞬間から体から抜け出て恐怖に駆られたのかどこかに逃げ去っている。

 何百年かはあちこち怯えながらうろつく事じゃろうな。

 今ここに座っているのはただの腐りかけた肉の塊だ。

 …おお!なんだ?何を言いたい?」


はなちゃんが窓に向かって尋ねた。


「何、はなちゃん、どうしたの?」


俺が尋ねるとはなちゃんは窓を指差した。


「あの首が伸びた女の死霊がロッカーを指差しているぞ!

 どうやら首を吊った時に声帯が潰れたのか声を出せないようだが、何かをわらわに伝えようとしているぞ!」


「皆、ロッカーを調べろ!」


俺達はロッカーに近づいて扉を開けた。

先ほども開けて中を見たが殺害現場をより上手く撮るための撮影機材、照明やレフ版、三脚などが置いてあるだけだった。


「ふむ、変わったところなど…」

「四郎、ロッカーの周りの床を見ろ!

 かすかだけど引きずった跡がついてるぞ!

 それも頻繁に動かしているような跡だぞ!」


なるほど、明石が指さしたロッカーの床にはよく見ないと判らないが何筋か微かな跡が伸びていた。

俺達はロッカーの中身を出して、ゆっくりとロッカーを持ち上げて横にずらした。

ロッカーの下の床には注意深く見ると不自然に感じる隙間があり、何かを差し込んでこじり回した様な跡がついていた。


「ここじゃ!

 子供達はこの下におるぞ!

 人間の子供以外にも様々な動物の魂がここに潜んでいるぞ!」


はなちゃんが床に手を伸ばして叫んだ。

俺はロッカーにあった大きなマイナスドライバーを取り出してこじった跡に差し込んだ。

ドライバーは深く床の中に入っていった。


「これをこじれば床が浮くと思うよ。」

「よし、彩斗やれ、俺達で床を持ち上げるぞ。」


四郎と明石が俺の両横にしゃがんで床に手を当てた。

真鈴がマグライトをつけて俺の手元を照らした。


「行くよ、せ~の!」

 

俺がドライバーに力を入れてこじ開けると床板が何枚か少し浮いた。

四郎と明石が隙間に手を入れて床板を持ち上げた。

ドライバーを差した反対側に隠された蝶番が付いていたのか、床板が幅1メートル、長さ1メートル程の跳ね上げ式の扉になっていた。

四郎と明石がゆっくりと床板を持ち上げて動かしてロッカーに立て掛けた。

真鈴が床に開いた空間を照らすと、床下に通じる梯子状の物を見つけた。


「床下があったのか…かなり広そうだな。

 降りてみよう。」


四郎が真鈴からマグライトを受け取り梯子を下りて行った。


「四郎、どうなってる?」


俺は床下に降りた四郎に尋ねたが返事が無かった。


「四郎、どうしたの?

 私達も降りるわよ?」

「待て真鈴、お前と彩斗は降りるのは止めておいた方が良いかも知れぬの。

 …子供達も他の殺された動物たちも全部…ここにいるの…」

「はなちゃん、それなら尚更降りて確かめないと駄目じゃないのよ。」

「…そうか…覚悟して降りろよ。

 何かを見ても気をしっかり持て、自分を見失うなよじゃの。」


はなちゃんはそこまで言って沈黙した。


「判った、気を引き締めて降りるよ。

 彩斗、行こう。」


俺はマグライトをもう3本リュックから出して真鈴と明石に渡して残りの一本を点灯した。

順に梯子を下りてゆくと、地下には辛うじて立てるほどの背が低い天井だがかなり広い空間があった。

四郎は地下室の奥をマグライトで照らしたまま立ち尽くしていた。

俺達からは何か複雑に絡み合った様な物が見えたがそれが何かはよく判らなかった。


「四郎、返事しなさいよ、子供達の遺体があったの?」


真鈴が四郎の横に立ち部屋の奥を照らした。


「…何よこれ…何なのよこれ…何!何!…嫌!嫌ぁああああ!嫌だぁあああああ~!」


真鈴が四郎の横で絶叫し、しゃがみこんで頭を抱えてうずくまった。



俺は抱いているはなちゃんを下ろして、真鈴に近寄った。

真鈴は髪の毛を両手で掴み、ぐしゃぐしゃにしながら震えて嗚咽を漏らしていた。

俺と明石は四郎と並んで立ち、地下の奥にある「何か」をマグライトで照らした。

何やら白い…複雑な…小さい手が見えた…足も…そして、針金を頬に刺して無理やり口角を引き上げて異様な笑顔を浮かべさせられている………子供の顔………


角材や針金で繋ぎ合わされた、子供の、そして犬や猫や鳥などをちりばめた異様な複合体が…マグライトに照らされて地下室の一角を占めていた。

白く見えたのは腐敗や悪臭を封じるためなのか石灰の粉が大量に振りかけられていた。

全裸、もしくは申し訳程度の服の残骸を纏った子供達が、異様に醜悪に体を折り曲げ、引き伸ばされて…或いは男女の営みの卑猥で醜悪なパロディの様に組み合わされて…何か判らない異様なオブジェが…そこに…あった。


真鈴の様に泣き叫ぶ事が出来たらどんなに幸運だろうか。

嘔吐が出来たら嘔吐しても構わない。

しかし、それを見てしまった俺の心はそんな反応さえも許さないほどの、ショックというには遥かに生ぬるい失神する事さえ、いつもの思考暴走さえ許されない何かが俺の心を覆った。


「くそ…なんて事を…」


絶句して立ち尽くす四郎の横に立った明石が噛み締めた歯の中から言葉を押し出した。

何故だか地下は異様に寒く、俺達の息が白く、マグライトの光に浮かび上がっていた。


そして俺には更に違う風景が見えた。

10歳くらいの華奢な体を持った2人の子供が、曇りない瞳でその異様なオブジェを組み立てていた。

時々2人で声を交わし、口をへの字に曲げて考え込んだり相手が曲げた腕の角度に難癖をつけて曲げなおしたり、お互いに笑顔を交わして腕を軽く叩きあったり、2、3歩後ろに下がって全体を見直したり。

狂気…純粋に煮詰められた狂気を見せつけられた。

2人の子供は俺の方を向いた。

純真そのものの笑顔を俺に向けた。

恐らくあの子供はあの2匹の外道なんだろうと俺はぼんやりと感じた。

あの2匹の外道の心の姿は10歳程度の子供だと言うのか…


「ねぇ、彩斗はこの頭、どっちに向けた方が良いと思う?」


男の子が目を見開いて舌を限界まで引き出された少女の頭を掴んで力を込めてボキボキと音を立てながら右に左にと捻り上げていた。


「特別に彩斗に決めさせてやるよ。」


もう1人の男の子が笑顔を向けた。


「俺は…俺は…」


その時にはなちゃんの鋭い声が聞こえた。


「彩斗!闇に引き込まれているぞ!

 しっかりせい!」 


四郎が俺の前に立ち塞がり、俺の両腕を掴んだ。

ああ、びんたが来るな、と思った瞬間、四郎が俺を抱きしめた。

四郎は俺をぎゅっと抱きしめた。

そして、俺の耳に口を寄せて囁いた。


「大丈夫だ、彩斗。

 お前は大丈夫だ、戻って来い。

 彩斗、俺達がいるぞ。」


四郎が俺の体を抱きしめて俺の後頭部に手を当てて何かから守るように俺を抱きしめてくれた。

初めて俺の目から涙が溢れた。

俺は号泣しながら四郎の体にしがみついた。

涙を流しながら、声を上げながら四郎の体に必死にしがみついた。


「よしよし、それで良い。

 それで良いんだ彩斗。

 お前は戻った。

 もう大丈夫だ。」


四郎は俺をしっかりと抱きしめながら、うずくまる真鈴に寄り添うはなちゃんを見た。


「はなちゃん、彩斗は大丈夫だ!

 真鈴は、真鈴はどうだ?」

「なんとか持ちこたえているぞ。

 真鈴も大丈夫だ。

 二人とも闇に沈まんで済んだな。

 この部屋には恐ろしいほどの念が籠っている、普通の人間が長くここにいるのははなはだ危ないの。

 あの外道の放った念が充満しておるの。

 下手をするとその毒気に心が侵食されてしまう。

 彩斗も真鈴もあまりここにいてはならんの。」

「やれやれ、人間の厄介な所だな。

 それにしても闇落ちしなくて何よりだった。」


明石が額の汗を手で拭きながら言った。

どうやら俺と真鈴を心配してくれているようだ。


「それにしても酷い事を…恐らくトイレか風呂で血抜きをしたんだろう。

 子供達の喉にはすべて深い切り傷が付いていたな、足首にもロープか何かで縛られた跡があったが、おそらく食肉工場の様に喉を切って逆さに吊り下げたんだろう…そして石灰を振りかけて腐敗と臭いを押さえようとしているな。

 遺体の数の割には臭いは少ないな…外道め。

 小賢しい真似をしやがる。」


「はなちゃん、この子達の魂は?

 魂は大丈夫なの?

 今どこにいるの?」

「真鈴…真鈴…言いにくいの…お前達は早くここから出ろ。」

「はなちゃん!しっかり教えてよ!

 この子達の魂は!

 どうなってるのよ!」

「…真鈴…まだ…ここにいる。

 殺されてなお、針金やら角材やらで縛り付けられた体同様にここに縛り付けられている。

 わらわが話しかけても、固く目を閉じ耳を塞ぎ、身じろぎせずにいる。

 動物達の魂も同様にな…もはや一部は混じり合い始めている…恐怖を触媒として溶け合い混じり始めている…このまま放っておくと皆が溶けあい一つになって手の付けられない怨霊になるだろう。」

「…そんな、はなちゃん!

 この子達には何の落ち度もないじゃないのよ!

 何とかできないの?

 この子達には、動物達にだって!

 何の罪も無いじゃないのよ!

 何とかできないの?

 …今直ぐ!この子達を何とかできないの!?」

「真鈴…気持ちは痛いほど判るが…今はこの事を明るみに出して警察に任せるしかないの。

 そして親が手を差し伸べれば、供養すれば或いは安心して天に昇れるかも知れぬの…」

「そんなの…待っていられないわよ!」


真鈴が立ち上がり、異様なオブジェに歩み寄った。


「いかん!誰か止めろ!

 真鈴が子供達の戒めを解こうとしているぞ!」


明石が飛び出して真鈴を抱きかかえると梯子の方に歩き始めた。


「やめて!

 離して!離してよ!

 あの子たちを少しでも!

 少しでも解放させてあげたいのよ!

 少しでも楽に!」

「真鈴駄目だ!

 俺達の存在のヒントになる事は極力隠さないといけないのだ!

 それにあの子達は…重要な証拠になるから俺達が一切触れてはいけないのだ!

 奴の証言と証拠の状態が食い違ったらどうするんだ!

 それだけで無罪になっちまう事だってあるんだぞ!

 俺達のミスで奴らを無罪に出来るのか!

 落ち着け真鈴!

 この地下から出ろ!」


明石の言葉も真鈴には届かないのか、真鈴は子供達のオブジェに手を伸ばし子供達を解放しようと抗った。

やむなく明石は真鈴に当て身を当てて失神させた。

俺は四郎に支えられながら、失神した真鈴とはなちゃんは明石に抱えられながら地下室から出た。

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