大罪

 「Pride」に「Envy」。英語が苦手な僕でも分かる。傲慢と嫉妬。



「つまり、犯人は渚さんと愛さんの殺人現場に挑発の言葉を書いているんだ。七つの大罪を書き残して」結城さんが僕の心を読んだかのように言う。



「なるほど。こう言っては悪いが、たちばななぎささんは自身の家がお金持ちであることを自慢していた。そして愛さんは姉である玲さんに嫉妬していた。二人とも大罪通りの感情を持っていたわけだ」海野さんはため息をつく。



「次はどの大罪でくるのか、予想もつきませんね」結城さんもお手上げらしい。



 七つの大罪。もし、その通りに殺しを続けるなら、残り五人の犠牲者が出ることになる。僕は思わず身震いする。



「もう二十二時だ。そろそろ、玲を休ませてやりたいんだが……」とレオンさん。



「私には止める権利はありません。ただ、必ず鍵をかけて休むように。犯人は犯行を重ねる可能性が高いですから」



 玲は頷くと、レオンさんに付き添われて扉の向こうに姿を消した。





 こちらのやりとりが終わると同時に、幸さんと加賀美さんも口論をやめていた。加賀美さんが肩をすくめて、こっちに向かってくる。どうやら、話は平行線に終わったらしい。



「加賀美さんは、本当は玲が殺された、そう考えているんですね?」僕の問いかけに「ええ」と答えが返ってくる。



「あの双子は外見だけじゃ、見分けがつかないわ。もちろん、私の主張にも根拠はないわけだけど」頭にかけたサングラスをいじりつつ、加賀美さんが続ける。



「そういえば、最初に会った時、ライバルがどうとか言ってましたよね。あれってどういう意味ですか?」



「ああ、あれね。さっき、私が公正証書立会人だって話をしたわね。その時、違和感を持ったのよ。財産の相続をどうするか、記載がなかったから。それに、三日間のサバイバルの話も知ってたから、わざわざこの孤島に来たわけ。まあ、ここまで酷いことになるとは思ってもいなかったけれど」



 つまり、加賀美さんは内容を知っていたわけだ。そして、顧問弁護士である海野さんも。この二人なら、事前に殺人計画を立てることが可能だ。もしかしたら、二人のどちらかが、無線機器のケーブルを切った可能性もある。外部との連絡を断つために。



「さあ、私たちも今夜はこれでお開きにしましょう。各自、就寝中は鍵をかけるのを忘れないこと」海野さんがテキパキと指示を出す。





 僕はベッドに入ってから一時間ほど眠れずにいた。果たして、僕は明日を無事に迎えられるだろうか。そして、緊張感で溢れる残りの二日を耐えれるだろうか。心配事が尽きることはない。でも、今考えてもしょうがない。明日になれば、なんとかなるさ。僕は自分に言い聞かせて眠りについた。

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