嫉妬
「さすが如月家の別荘だ。ご飯も豪華だな」
湊は玲に話を振る。玲もまんざらでもないらしい。顔には微笑みが浮かんでいた。
「そういえば、クルーザーに乗る時に愛さんと話したんだけど、玲とは真反対の性格だったなぁ。それに、玲に対してあまりいい感情を持ってないようだったけど……」と僕。
「それは……」玲は言いづらそうだった。どこから話していいか、困っているようにも見える。
「簡単に言うと、文武両道の才女である玲さんへの嫉妬よ」加賀美さんが助け舟をだす。「姉へのコンプレックスとも言えるわね」そう言いながら、ワイングラスに口をつける。
なるほど。玲のような優秀で他の見本になるような姉を持てば、そうなるのも分かる気がする。
「それにしても、二人は瓜二つだよな。誠なんて、愛さんのことを玲だと勘違いしてたからな」と湊。
それは言わないで欲しかった。案の定、玲が僕を睨んでいる。
「まあ、俺にはすぐに分かったよ。玲はあんなにツンとした感じはしないからな」
湊はどうやら自分の株を上げたいらしい。玲に惚れているのだから、分からないでもないけれど。それならそれで、僕の話を持ち出さなくてもいいのに。
「無理もないわ。私も見分けがつかないもの。違うのは性格と口調くらいよ。黙ってたら、判別は無理ね」加賀美さんがフォローしてくれた。
「そうなの。私、たまに愛の友人から声をかけられるから。加賀美さんの言う通りよ」玲の口調はしょんぼりとしていた。
僕にも双子の兄弟がいれば、そうなるに違いない。もし、友人から間違われたら、ショックを受けるだろう。
「この話はここでおしまい。ワインのおかわりをもらおうかしら」
僕は加賀美さんのグラスにワインを注ぐ。加賀美さんから「あなたもどう?」と聞かれたが、「二十才じゃないですから」と断る。
それに、もしお酒を飲める年齢であっても、とても飲める気にはなれない。なにせ、友人である渚を殺されたのだから。
そんな風に晩御飯を食べ終わると、掛け時計は八時を示していた。
「私、ちよっと自分の部屋に行くわ」そう言って玲は立ち上がるが、湊が制止する。
「まさか、一人で行くつもりか!? 殺人鬼がいるんだ、正気の沙汰じゃないぜ」
「ほんの少しよ。お父様から呼び出しがあったの。……渚が殺されたあとに。きっと『殺人犯がうろうろしているから、友人たちとは一緒にいるな』って内容に違いないわ。はあ、誠や湊と一緒の方が安全だと思うけれど」玲の声には父親であるレオンさんへの不満が込められていた。
「それなら、せめて送り迎えだけでもさせてくれ! 玲に何かあったら、俺は……」
「湊はどうなるのかしら?」と玲。
「俺は……つまり、えーと」不意をつかれたらしく、湊はしどろもどろになる。
「心配無用よ。唯一怪しいリッカルドって人の部屋は、お父様と同じ二階よ。何かあったら、お父様が助けてくれるわ」玲は無邪気に笑っている。
そうなるかは怪しい。玲の父であるレオンさんは少し頼りない。玲を助けようとして、返り討ちにあいかねない。
「ついでに、愛の部屋にも寄っていくわ。私と同じで呼び出しがあったらしいから」
玲がそう言い残して去ってから、十数分後だった。館に二度目の悲鳴が響き渡ったのは。
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