第11話
「90歳……」
「う、うん? そこまで驚くような年かな? 最近は平均寿命も延びてるし、まだ100にもなってないよ?」
「えっ、100にも、って?」
呆然とルカさんの年齢に驚いていたら、この国では90歳は高齢者じゃないことが分かった。
平均寿命、180歳だって。あっちの世界の2~3倍ある。
なんでも、魔力が影響しているとかで、アヴァロンを初めとした一部の都市国家の平均寿命は結構高いのだそうだ。しかも見た目もそこまで老け込んだりしないらしい。病気にも強くて、あんまり流行病とかもないんだって。
一部の都市国家以外は、平均寿命が100歳……それでも地球よりちょっと長めだった。
寿命ついでに、ファンタジーっぽいこの世界には他に種族はいるのかどうかも聞いてみた。エルフとかドワーフとか、そういう人達。
「人種は人種だけだよ。一応神話では、女神が自分たちの似姿をくださった、ということになっているね」
「めがみ、さま?」
「この世界は7柱の女神様によって生み出されたって神話があるんだ。まぁ、そういうのは追々ね」
神殿がある都市国家は、海沿いにあるんだそうだ。海鮮が美味しい国だと教えてくれた。それは……おいしそう! お刺身とかもあるんだろうか!
「行ってみたいなら、ちょうど良かった。すぐには無理だけど、1度は行っておきたいからね」
「えと、どうして、です?」
「神子様がいらっしゃるからだよ」
神子様? ……異世界から来たから、ご挨拶しよう的な?
どういう意味かを聞こうとしたちょうどその時、「ここだよ」と目的地に着いたことを知らされた。
目の前にあったのは、綺麗なたたずまいの美容院だった。
「こ、ここは……!?」
「髪、切ろう! せっかく服も新調したんだから、おしゃれしよう!」
言われて思わず自分の髪をわしづかんだ。う、うぇぇぇ、髪、切る……!?
「髪切るの、嫌だった?」
「あ、あの、だって、どんなに切っても、こんなん、じゃ……なにも、変わらない、し……」
「こんなって? ――ああ、くせっ毛、ひょっとして嫌だったりするの?」
「う、うん、はい、そうです……」
「なら、矯正しよう。今なら良い薬もあるから」
「え? きょ、きょうせい……? でも、そういうのって、おたかい、って」
「大丈夫大丈夫。薬であっという間につやつやサラサラだから」
そんなこと、あるわけないよ! とは思ったけど、でも魔法がある世界だから、ひょっとしたらひょっとするかも――
ひょっとした。本当に、ひょっとした。
美容師さんは優しかった。どうしたらいいのか、どうお願いしたらいいのか分からない私のとっちらかった話をきちんと拾い上げてくれて、根気強く付き合ってくれた。
可愛くしたいより、男の子っぽくして欲しい。短くしたい。くせっ毛じゃなくして欲しい。不器用だから、お手入れは不器用でも出来るように、楽に出来るようにして欲しい。
1つずつ希望を拾い上げて、でも結局最終的にどうしたいか分からなくて迷っていたら、こっちはどう? こっちは? と、いくつかの候補の中から絞って「どちらが良いか」を尋ねてくれた。終いには、この髪形のここらへんと、こっちの髪形のここら辺とかが良い感じってことかな? と、視線の流れでこっちの考えを読まれ出してちょっと焦った。
「遠慮しなくて良いのよぉ。せっかくのチャンスだもの、思いっきり好み、追求しちゃいましょぉよぉ!」
美容師さんはちょっとおねぇが入った男性だった。
「こんっなかわいい逸材がまるで新雪! 誰の手も入ってないみたいな新鮮で生まれたまんまの姿でオレの前に現れてくれたのよぉ!? 興奮しないわけないじゃなーい!」
……よくわからないな?
ヘアカットモデル? みたいなものとして、結構良さげな感じとか? もじゃもじゃすぎて、一からどうこうするのに良い感じとか、そういうんだろうか。
手際は、素晴らしく良かった。あと最初に髪を濡らすとき薬剤も塗ってしまうと言われて頷いたら、霧吹きでしゅこしゅこと水を撒かれて、その水が触れたところから、ふわもこだった髪があっという間にストレートヘアに変化した。
「さらさらだ……」
仕上がりは、すごかった。自分じゃないみたいだった。めちゃくちゃ可愛くて格好良く仕上げてくれた。後ろ頭は少しだけ刈り上げっぽくしたベリーショートだったから、頭が軽くて、気持ちまで一緒にものすごく、軽くなった。
「似合うよ」
「ほ、ほんとですか、ルカさん!」
「あら、ルカスったら、この子にルカって呼ばせてんの?」
「あ、ああまぁ、うん……ちょっと、色々事情があって」
へぇ~? とニヤニヤ笑う美容師さんは、最後に改めまして、とカードをくれた。……名詞文化、この世界にもあるんだ?
名刺にはすごく綺麗な筆記文字が描かれていて、端っこに美容師さんのデフォルメされた似顔絵が描かれていた。
「あ、ありがと、ございます」
「どーいたしまして! 久々に楽しかったわぁ! また来てね!」
綺麗に整えてくれた頭を、両手で掴んでわっしゃわしゃにされた。
不思議と、そうされることは嫌じゃなかった。
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